7 / 36
1章 原点
6話 これから
しおりを挟む
ひとしきり笑い合った後、俺たちはどうでもいい話をした。
世間話だったり、愚痴だったり。そんな友達のような会話を。
他愛ない話のはずなのに、俺の心は妙に癒され、温まった。
「アル。この国はどういう方針なんだ?」
「なっ! 名前呼び、いい……めちゃいい……!」
アルは悶えるようにもじもじとする。
俺が何かやばいことをしてしまっている気分になるので真面目に止めてほしい。
「はぁ……では、私が再び説明しましょう」
エリーナはため息をはきながら説明を始めてくれた。
今なら落ち着きのあるエリーナが、あれほどまで豹変してしまう理由が分かる。
本当にお疲れ様です。
「私たちの目標。それはフェルナンドの【魔王】を殺すことです」
「……殺さないといけないのか?」
「えぇ、先ほども言ったように思想が異なります。戦って負けることも彼らにとっては本望。なので生かすより殺す方が彼らのためにもなるのです」
分かってはいる。異文化があるなら異なる思想があってもおかしくないことを。
実際、今まで戦ってきた魔族たちは大抵、好戦的だった。死ぬ間際でさえ、生に縋ることなく、戦いに縋るほどには。
それでも死んだら元も子もないだろうに。
「アルはどうなんだ? フェルナンドの魔王はアルの父親なんだろ?」
アルがフェルナンドの魔王の娘であるのなら、魔王は父親ということになる。
たとえ信念があろうと、父親を殺すというのはかなり酷ではないだろうか。
そう思っていたのだが、アルはゆっくりと首を振った。
「それは違う。今は別の魔族が即位しているはず。私の父は二年前に突然死してるから」
「……突然死? 何か病気を患ってたのか?」
「うんん。父はこれでも人間に対して温厚派だった。今即位してるのは過激派の魔族」
「殺された可能性が高いってことか……」
「そう。だから私個人としても、アルヴァ―ナの王としても賛成なの」
アルは目を伏せ、表情を苦悶に染めながら言う。
父親を亡くす悲しみは、両親のいない俺には味わうことのできない感覚だ。それでも仲間から裏切られることより何十倍も辛いことは理解出来る。
「ってことは俺はフェルナンドの魔王を倒すための戦力ってことか?」
一応元勇者、勇者という肩書がなくなろうとも、力が衰えるわけではない。
アルほど強くはないけど、十分な戦力にはなる。そう思っていたんだけど、
「いいえ? そんなことはないですよ」
エリーナはあっさりと首を左右に振った。
「え……?」
「実際、魔王様がエル様をお持ち帰りした理由は、ただ恩返ししたいだけですし。そんな恩人に戦えなんて言えませんよ」
エリーナ曰く、俺はもともとアルたちに目をつけられていたそうだ。
しかし周りには賢者や武神がいたため、接触しようにもできなかったという。
アルが言っていたチャンスとは俺が一人になったタイミングの話だったみたいだ。
その後、エリーナは「うーん」と悩んだあげく、アルに話を振る。
「魔王様、どうします?」
「そんなの決まってる。エルには私の夫をしてもらう!」
そういえば結婚するとか、最初にそんな話をしていたな。
さすがに冗談だと思っていたんだけど、どうやらアルは本気だったらしい。
「……へ?」
そんな彼女の言葉にエリーナは素っ頓狂な声をあげた。
勝手に魔王城を出て行ったとか怒ってたから、エリーナはアルに聞かされていなかったのだろう。
アルはドヤ顔でどこか誇らしげに口を開く。
「さすがに何の理由もなく勇者を迎え入れるって言ったら国が騒がしくなるから」
魔王が急に結婚したと言っても十分国は騒がしくなるのでは?
「私の夫になったって言ったら誰も文句は言わない。それにエルを王族レベルで養える」
それはあまりにも支離滅裂答えで。なのに養うという言葉を除けば筋はしっかりと通っていた。
この国にもどれだけ魔王が説明しようが、人間を憎む者は少なからずいるはずだ。
憎むまでとはいかなくとも不安を抱くものは一定数いる。
しかし魔王と結婚してしまったと言えば、俺を侮辱する言葉はアルを含むことになる。
アルには迷惑をかけてしまうが、もしかしたら最適解かもしれない。
ずっと脳筋だとばかり思ってました。すみません。
「……メです」
「ん? どうしたの? エリーナ」
そんな中、エリーナはうつむき、体をぷるぷるとさせていた。
アルの考えの素晴らしさに打ち震えているのか、それとも急に結婚するなどと言ったので怒っているのか。
どちらもありえるので対応しづらい。
すると、エリーナはバッと頭をあげ、顔を真っ赤に紅潮させながら叫ぶ。
「ダメです! それなら私がエル様を養います!」
ん? 何を言ってんだ彼女は?
「魔王様が結婚なんてすれば、それこそ国民が混乱します! なのでここは魔王軍幹部の私が!」
「ダメ。私が養うの」
「いいえ、これだけはたとえ魔王様だろうと譲るつもりはありません! 私が養います!」
アルとエリーナは互いに距離を詰めていがみ合う。
嘘だろ、エリーナはこちら側だと思ってたのに。
そもそもなんで俺は養われることが決定しているのだろうか。
「なら勝負です! どちらがエル様を幸せにできるか!」
エリーナはビシッとアルを指して挑発的に言う。
まて、そんな言い方をしたら……
「ふっふっふ。魔王の恐ろしさを味合わせてやる!」
アルはどんと胸を張ってエリーナの提案を受け入れた。
ほら、絶対にそうなると思った。
アルは見た目からも分かるが、子供のようにプライドが高い。
彼女の扱いが慣れているエリーナが話を振ってきた時点で、この勝負が行われることは確定していた。
「負けるからって逃げないでくださいね」
「それはこっちのセリフ。配下だからって容赦しないから」
二人は視線をバチバチと交差させる。
それはまるで火花が本当に出ているのではないか、そう思うほど。
こうして急遽、新たな戦いが勃発したのだった。
あれ? 俺の意見は?
世間話だったり、愚痴だったり。そんな友達のような会話を。
他愛ない話のはずなのに、俺の心は妙に癒され、温まった。
「アル。この国はどういう方針なんだ?」
「なっ! 名前呼び、いい……めちゃいい……!」
アルは悶えるようにもじもじとする。
俺が何かやばいことをしてしまっている気分になるので真面目に止めてほしい。
「はぁ……では、私が再び説明しましょう」
エリーナはため息をはきながら説明を始めてくれた。
今なら落ち着きのあるエリーナが、あれほどまで豹変してしまう理由が分かる。
本当にお疲れ様です。
「私たちの目標。それはフェルナンドの【魔王】を殺すことです」
「……殺さないといけないのか?」
「えぇ、先ほども言ったように思想が異なります。戦って負けることも彼らにとっては本望。なので生かすより殺す方が彼らのためにもなるのです」
分かってはいる。異文化があるなら異なる思想があってもおかしくないことを。
実際、今まで戦ってきた魔族たちは大抵、好戦的だった。死ぬ間際でさえ、生に縋ることなく、戦いに縋るほどには。
それでも死んだら元も子もないだろうに。
「アルはどうなんだ? フェルナンドの魔王はアルの父親なんだろ?」
アルがフェルナンドの魔王の娘であるのなら、魔王は父親ということになる。
たとえ信念があろうと、父親を殺すというのはかなり酷ではないだろうか。
そう思っていたのだが、アルはゆっくりと首を振った。
「それは違う。今は別の魔族が即位しているはず。私の父は二年前に突然死してるから」
「……突然死? 何か病気を患ってたのか?」
「うんん。父はこれでも人間に対して温厚派だった。今即位してるのは過激派の魔族」
「殺された可能性が高いってことか……」
「そう。だから私個人としても、アルヴァ―ナの王としても賛成なの」
アルは目を伏せ、表情を苦悶に染めながら言う。
父親を亡くす悲しみは、両親のいない俺には味わうことのできない感覚だ。それでも仲間から裏切られることより何十倍も辛いことは理解出来る。
「ってことは俺はフェルナンドの魔王を倒すための戦力ってことか?」
一応元勇者、勇者という肩書がなくなろうとも、力が衰えるわけではない。
アルほど強くはないけど、十分な戦力にはなる。そう思っていたんだけど、
「いいえ? そんなことはないですよ」
エリーナはあっさりと首を左右に振った。
「え……?」
「実際、魔王様がエル様をお持ち帰りした理由は、ただ恩返ししたいだけですし。そんな恩人に戦えなんて言えませんよ」
エリーナ曰く、俺はもともとアルたちに目をつけられていたそうだ。
しかし周りには賢者や武神がいたため、接触しようにもできなかったという。
アルが言っていたチャンスとは俺が一人になったタイミングの話だったみたいだ。
その後、エリーナは「うーん」と悩んだあげく、アルに話を振る。
「魔王様、どうします?」
「そんなの決まってる。エルには私の夫をしてもらう!」
そういえば結婚するとか、最初にそんな話をしていたな。
さすがに冗談だと思っていたんだけど、どうやらアルは本気だったらしい。
「……へ?」
そんな彼女の言葉にエリーナは素っ頓狂な声をあげた。
勝手に魔王城を出て行ったとか怒ってたから、エリーナはアルに聞かされていなかったのだろう。
アルはドヤ顔でどこか誇らしげに口を開く。
「さすがに何の理由もなく勇者を迎え入れるって言ったら国が騒がしくなるから」
魔王が急に結婚したと言っても十分国は騒がしくなるのでは?
「私の夫になったって言ったら誰も文句は言わない。それにエルを王族レベルで養える」
それはあまりにも支離滅裂答えで。なのに養うという言葉を除けば筋はしっかりと通っていた。
この国にもどれだけ魔王が説明しようが、人間を憎む者は少なからずいるはずだ。
憎むまでとはいかなくとも不安を抱くものは一定数いる。
しかし魔王と結婚してしまったと言えば、俺を侮辱する言葉はアルを含むことになる。
アルには迷惑をかけてしまうが、もしかしたら最適解かもしれない。
ずっと脳筋だとばかり思ってました。すみません。
「……メです」
「ん? どうしたの? エリーナ」
そんな中、エリーナはうつむき、体をぷるぷるとさせていた。
アルの考えの素晴らしさに打ち震えているのか、それとも急に結婚するなどと言ったので怒っているのか。
どちらもありえるので対応しづらい。
すると、エリーナはバッと頭をあげ、顔を真っ赤に紅潮させながら叫ぶ。
「ダメです! それなら私がエル様を養います!」
ん? 何を言ってんだ彼女は?
「魔王様が結婚なんてすれば、それこそ国民が混乱します! なのでここは魔王軍幹部の私が!」
「ダメ。私が養うの」
「いいえ、これだけはたとえ魔王様だろうと譲るつもりはありません! 私が養います!」
アルとエリーナは互いに距離を詰めていがみ合う。
嘘だろ、エリーナはこちら側だと思ってたのに。
そもそもなんで俺は養われることが決定しているのだろうか。
「なら勝負です! どちらがエル様を幸せにできるか!」
エリーナはビシッとアルを指して挑発的に言う。
まて、そんな言い方をしたら……
「ふっふっふ。魔王の恐ろしさを味合わせてやる!」
アルはどんと胸を張ってエリーナの提案を受け入れた。
ほら、絶対にそうなると思った。
アルは見た目からも分かるが、子供のようにプライドが高い。
彼女の扱いが慣れているエリーナが話を振ってきた時点で、この勝負が行われることは確定していた。
「負けるからって逃げないでくださいね」
「それはこっちのセリフ。配下だからって容赦しないから」
二人は視線をバチバチと交差させる。
それはまるで火花が本当に出ているのではないか、そう思うほど。
こうして急遽、新たな戦いが勃発したのだった。
あれ? 俺の意見は?
0
お気に入りに追加
324
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる