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1章 原点

6話 これから

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 ひとしきり笑い合った後、俺たちはどうでもいい話をした。
 世間話だったり、愚痴だったり。そんな友達のような会話を。
 他愛ない話のはずなのに、俺の心は妙に癒され、温まった。

「アル。この国はどういう方針なんだ?」
「なっ! 名前呼び、いい……めちゃいい……!」

 アルは悶えるようにもじもじとする。
 俺が何かやばいことをしてしまっている気分になるので真面目に止めてほしい。

「はぁ……では、私が再び説明しましょう」

 エリーナはため息をはきながら説明を始めてくれた。
 今なら落ち着きのあるエリーナが、あれほどまで豹変してしまう理由が分かる。
 本当にお疲れ様です。

「私たちの目標。それはフェルナンドの【魔王】を殺すことです」
「……殺さないといけないのか?」
「えぇ、先ほども言ったように思想が異なります。戦って負けることも彼らにとっては本望。なので生かすより殺す方が彼らのためにもなるのです」

 分かってはいる。異文化があるなら異なる思想があってもおかしくないことを。
 実際、今まで戦ってきた魔族たちは大抵、好戦的だった。死ぬ間際でさえ、生に縋ることなく、戦いに縋るほどには。
 それでも死んだら元も子もないだろうに。

「アルはどうなんだ? フェルナンドの魔王はアルの父親なんだろ?」

 アルがフェルナンドの魔王の娘であるのなら、魔王は父親ということになる。
 たとえ信念があろうと、父親を殺すというのはかなり酷ではないだろうか。
 そう思っていたのだが、アルはゆっくりと首を振った。

「それは違う。今は別の魔族が即位しているはず。私の父は二年前に突然死してるから」
「……突然死? 何か病気を患ってたのか?」
「うんん。父はこれでも人間に対して温厚派だった。今即位してるのは過激派の魔族」
「殺された可能性が高いってことか……」
「そう。だから私個人としても、アルヴァ―ナの王としても賛成なの」

 アルは目を伏せ、表情を苦悶に染めながら言う。
 父親を亡くす悲しみは、両親のいない俺には味わうことのできない感覚だ。それでも仲間から裏切られることより何十倍も辛いことは理解出来る。

「ってことは俺はフェルナンドの魔王を倒すための戦力ってことか?」

 一応元勇者、勇者という肩書がなくなろうとも、力が衰えるわけではない。
 アルほど強くはないけど、十分な戦力にはなる。そう思っていたんだけど、

「いいえ? そんなことはないですよ」

 エリーナはあっさりと首を左右に振った。

「え……?」
「実際、魔王様がエル様をお持ち帰りした理由は、ただ恩返ししたいだけですし。そんな恩人に戦えなんて言えませんよ」

 エリーナ曰く、俺はもともとアルたちに目をつけられていたそうだ。
 しかし周りには賢者や武神がいたため、接触しようにもできなかったという。
 アルが言っていたチャンスとは俺が一人になったタイミングの話だったみたいだ。
 その後、エリーナは「うーん」と悩んだあげく、アルに話を振る。

「魔王様、どうします?」
「そんなの決まってる。エルには私の夫をしてもらう!」

 そういえば結婚するとか、最初にそんな話をしていたな。
 さすがに冗談だと思っていたんだけど、どうやらアルは本気だったらしい。

「……へ?」

 そんな彼女の言葉にエリーナは素っ頓狂な声をあげた。
 勝手に魔王城を出て行ったとか怒ってたから、エリーナはアルに聞かされていなかったのだろう。
 アルはドヤ顔でどこか誇らしげに口を開く。

「さすがに何の理由もなく勇者を迎え入れるって言ったら国が騒がしくなるから」

 魔王が急に結婚したと言っても十分国は騒がしくなるのでは?

「私の夫になったって言ったら誰も文句は言わない。それにエルを王族レベルで養える」

 それはあまりにも支離滅裂答えで。なのに養うという言葉を除けば筋はしっかりと通っていた。
 この国にもどれだけ魔王が説明しようが、人間を憎む者は少なからずいるはずだ。
 憎むまでとはいかなくとも不安を抱くものは一定数いる。
 しかし魔王と結婚してしまったと言えば、俺を侮辱する言葉はアルを含むことになる。
 アルには迷惑をかけてしまうが、もしかしたら最適解かもしれない。
 ずっと脳筋だとばかり思ってました。すみません。

「……メです」
「ん? どうしたの? エリーナ」

 そんな中、エリーナはうつむき、体をぷるぷるとさせていた。
 アルの考えの素晴らしさに打ち震えているのか、それとも急に結婚するなどと言ったので怒っているのか。
 どちらもありえるので対応しづらい。
 すると、エリーナはバッと頭をあげ、顔を真っ赤に紅潮させながら叫ぶ。

「ダメです! それなら私がエル様を養います!」

 ん? 何を言ってんだ彼女は?

「魔王様が結婚なんてすれば、それこそ国民が混乱します! なのでここは魔王軍幹部の私が!」
「ダメ。私が養うの」
「いいえ、これだけはたとえ魔王様だろうと譲るつもりはありません! 私が養います!」

 アルとエリーナは互いに距離を詰めていがみ合う。
 嘘だろ、エリーナはこちら側だと思ってたのに。
 そもそもなんで俺は養われることが決定しているのだろうか。

「なら勝負です! どちらがエル様を幸せにできるか!」

 エリーナはビシッとアルを指して挑発的に言う。
 まて、そんな言い方をしたら……

「ふっふっふ。魔王の恐ろしさを味合わせてやる!」

 アルはどんと胸を張ってエリーナの提案を受け入れた。
 ほら、絶対にそうなると思った。
 アルは見た目からも分かるが、子供のようにプライドが高い。
 彼女の扱いが慣れているエリーナが話を振ってきた時点で、この勝負が行われることは確定していた。

「負けるからって逃げないでくださいね」
「それはこっちのセリフ。配下だからって容赦しないから」

 二人は視線をバチバチと交差させる。
 それはまるで火花が本当に出ているのではないか、そう思うほど。
 こうして急遽、新たな戦いが勃発したのだった。

 あれ? 俺の意見は?
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