魔王に養われる【ヒモ勇者】ですが何か?~仲間に裏切られたけど、魔王に拾われたので、全力で魔界ライフを満喫しようと思います~

柊彼方

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1章 原点

4話 聞かされる

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 エリーナによる鉄拳制裁が終わると、エリーナは先ほどの完璧な表情に戻して俺の方へと視線を戻す。

「エル様もエル様です。怪しい人についていってはいけないと教わらなかったんですか?」
「ご、ごめん……」

 母親の説教を受けているみたいだ。
 まぁ俺には母なんていないのであくまで比喩的な表現だが。

「まぁ今回に関しては完全に魔王様が悪いですからね。私から後でしっかり説教しておきます」
「もう十分にも見えるけど……」

 しっかりお仕置きを受けた魔王は今、床でピクピクとしている。まるで死んだ魚みたいだな。
 それでも数十分もしたら忘れたように元気になるらしい。途轍もない生命力だ。

「では、まず私たちのことから説明します」

 そこからエリーナは丁寧で分かりやすい説明を始めた。

 この世界は二つの種族が存在する。
 人間と魔族。
 人間はこの世界の大陸の西側を領土とし、魔族は東側を領土としていた。
 双方が新たな領地を求め、他国に侵略しようとしている……と、いうのが今まで人類に伝えられてきた虚実。

「ここは、【魔王】、『アル・ヴァ―デン』様が統治する国『アルヴァ―ナ』の中心都市、『魔都ヴァーナル』です」

 魔族は魔族でも二つの国に分かれていた。
 東の大陸でも北国と南国。その両国は人類と魔族のように敵対しているらしい。
 これは魔族は全て同じであると考えていた人類にとっては知らなかった事実。それこそ想像もしていなかったような。

「今までエル様が戦ってきた魔族は南の国、『フェルナンド』の者たちです」
「人間はアルヴァ―ナの魔族とは戦ってないのか?」
「はい、人類に認識されないように【隠匿結界】を張っていますからね。実際、魔大陸の北部のイメージはどうでした?」
「無法地帯ってイメージだったな。そっか……結界を張ってたのか。道理で南ばかり警戒してたわけだ」
「えぇ、こちら側から手を出さない限り、傍から見れば完全に何もない荒野です」

 今こうして思い返すと違和感でしかない。
 まるで俺たちは誰かの手のひらで踊らされていたかのように南ばかり侵攻していた。
 まぁフェルナンドの魔族たちが侵攻して来ていたというのもあるのだろうけど。

「簡潔に説明するとフェルナンドの魔族たちは世界征服、人類の滅亡を掲げています。ですが……」

 エリーナは安心してください、と付け加える。

「ヴァーナルの者たちは『人魔共栄圏』を掲げています」
「人魔共栄圏?」

 俺は聞きなれない単語に首を傾げてしまった。

「人類と魔族が、共に手を取り合える世界を作る。それが魔王様の目標です」
「――ッ!?」

 何の冗談を言ってるんだ、それが俺の一番最初の感想だった。
 今まで殺し合い、憎みあい……そんな相手と手を取り合う。
 もちろん、そんな未来が訪れたら、何度そう思ったことか。
 でも最前線で戦ってきた俺だから分かる。そんなこと……

「……んなの……不可能だ」

 俺は情けない表情とともに弱弱しくそんな言葉を漏らす。
 そんな俺とは対照的にエリーナは力強く、自信ありげな視線で俺を射抜いた。

「いいえ、不可能なんてことはありません」
「俺は今まで何百人、何千人もの魔族を殺してきた……」
「フェルナンドの魔族は人間でいう反乱軍……いや、戦士の方が近いでしょうか。あまり理解できない感情でしょうが、戦うことこそが生きがいなのです。なので殺されたとしてもそれは本望だったはず」
「それでも俺を憎む魔族はたくさんいた。今日だって……」

 今まで見てきた魔族たち憎悪で歪められた表情が今でも忘れられない。
 忘れようとしても逃してはくれない。それは呪縛のように、枷のように。

「そんな俺が魔族の手なんて握れるはずが――」
「握れます。だってこの国には誰もエル様を非難する魔族なんていないんですから」
「……え?」

 そんな呪縛を引き剥がすようにエリーナは俺の震える手を両手で包み込む。
 そこには先ほどの陽気で面倒見のいい彼女はいなかった。
 いるのは魔族として、魔王軍幹部としてのエリーナである。

「魔王様は一度たりと、あなたに負の感情を見せましたか?」
「……見せなかった」
「それは私たちも同じです。あなたを憎む者も嫌う者もこの国にはいない」

 その言葉はあまりにも間違っていて、矛盾していて。
 なのに重みがあった。だから余計に分からなくなる。

「なんでだよ。たとえ思想が違えど、俺はエリーナたちの同種族を殺したんだぞ?」
「私たちだって魔界に侵入した盗賊や奴隷商人などは容赦なく殺しています」
「それとこれとは話が別だろ……」

 俺はどうしても納得ができなかった。
 だって、ここで納得してしまえば、自分の罪から逃げてしまうのと同じだと思ったから。

「そうですか……なら直接本人に聞いた方がいいですね」

 エリ―ナはそう言うと、真剣な眼差しを向けてきていた魔王へと、視線を移したのだった、
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