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1章 原点
3話 連れていかれる
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暗闇に染まっていた視界は徐々に色を取り戻していく。
「ん、玉座……?」
ぼやけた視界が整えられると、一番最初に視認できたのは玉座だった。
玉座……玉座かぁ。嫌な予感しかしないな。
「ここが私の城、魔王城!」
ほら、嫌な予感が的中しちゃったよ。
ツアーガイドのように軽々と魔王城を紹介するのは止めてほしい。
威力が桁違い過ぎて、落ち着きが吹き飛んでしまいそうになる。
「ここが……」
人類が何十年、何百年かけても辿りつくことが許されなかった地。それが魔王城だ。
造りは人間界の王城とさほど変わりはないが、対照的に黒色を基調としており、どこか恐ろしさを感じさせる。
そんな場所に俺は今、堂々と立っていた。
本来ならこれが最後の戦いだ、とか叫んで、俺と彼女が殺し合う戦場。なのに今、行われていることは……
「さて、エル、式場はどこにする?」
どうやら勝手に結婚の話が進められていた。
鈍感なのか、それとも天然なのか、はたまた、作為的なのか。
だが、今まで話し合ってきた相手で一番やりにくい相手なのは確かだ。さすがは魔王。恐るべし。
「やっぱり魔王城にする? でも、私の家で結婚式をするのもどうかと思って……あ、人間風に協会とかでやっちゃう?」
それは畏怖の象徴として飾られている魔王とは思えないほど無邪気な笑みで。
自分が置かれている状況をつい忘れそうになってしまう。
「ん? 足音?」
ドタバタとものすごい勢いでこちらに向かってきている足音が魔王城に響く。
その正体はすぐに分かった。
「ま、魔王様ああああああぁぁぁぁぁ!」
一人の魔族が血相を変えて扉を勢いよく開いた。
その女性は身長は魔王よりも断然高く、印象的には年上のお姉さん、いや、あの元気っぷり。お姉ちゃんのほうが近いかもしれない。
「なに? 私と勇者の至福の時間を邪魔するならエリーナだろうと許さ――」
魔王は彼女を見て怪訝そうな表情を浮かべる。
もしかして魔王は二重人格とかかな? 俺の時の態度とめっちゃ違うんですけど。
そんな魔王の表情に彼女は怯んで……ってあれ、エリーナと呼ばれた、彼女、めっちゃ怒ってるように見えるのは気のせいかな。
彼女は大股で近寄ってきて俺と魔王の間に割って入る。
その喧騒は本物の魔王も恐れるほどで。
彼女は大きく右手を振りかぶり……
「許さない!? それはこっちのセリフなんですよ! ポンコツ魔王がぁ!」
「あうっ!?」
見事に彼女の拳骨が魔王に直撃した。
可愛らしい声をあげた魔王は、頭を両手で押さえ、屈みながら唸る。
「痛っあああぁぁ~! 何するの!」
「はああぁぁ!? 魔王様、反省してないんですか!?」
「私は何も悪いことなんてしてない!」
「勇者様が危ないって報告した瞬間、勝手に魔王城からいなくなるし! 普通、配下の私に行かせますよね!? 何で魔王様自身がいくんですか!」
「だってエルが一人になってて、チャンスだったから――」
「チャンスじゃありません! 勝手に勇者様をお持ち帰りするし、もうちょっと節度をわきまえてください!」
途中で怪しげなフレーズが混じっていた気がすることもないが、それを除けば俺の気持ちそのものを代弁しているようなものだった。いいぞ、もっと言ってやれ。
「誠に申し訳ございません、勇者様。私はエリーナ。魔王軍幹部をしております」
エリーナはスカートの裾を持ち、完璧なカーテシーを見せる。
最近は、とんでもない肩書を平然と話すのがブームなのだろうか。
まぁ魔王に一撃与える者だ。王族か、そのあたりだろうなとは思っていたけども。
「俺はエルです。一応、勇者をしてました。エルと呼んでください」
すみません。俺も同類でした。
勇者パーティーから追放された今、俺は【勇者】という称号を剥奪されるだろう。
今頃、次の勇者が選定されているはずだ。こういう状況のために替えとなる器は山ほど育成されている。
「承知しました。では、エル様と呼ばせていただきますね。私の方も敬語は止めてエリーナとお呼びください」
出来れば様を外してほしかったのだが、言ったところで無駄だろう。
立場的にそうしないといけないんだろうけど……様付けは何となく距離感を感じてしまう。
そんな会話を横目に魔王は自慢するように胸を張る。
「エリーナ。私はエルに最初から敬語を外してもらってた。だから私の方がエルと親しい関係ということになる」
魔王、それは親しいからというわけではない。
エリーナは魔王に同情するように言った。
「魔王様。多分それ、近所の子供、とでも思われてるんじゃないですか?」
「ふっふっふ! 魔族を統べるこの私が? そんなことあるわけ……え? エル? 何でそんな表情してるの!?」
だって、その通りだから。
もちろん最初は緊張もした。相手は魔王、命を救ってくれた恩人とはいえ、何をされるか分からない。
でも、こんな様子を見ていたらただの魔族の少女にしか見えなくなってきた。まぁそれは俺にだけの対応なのかもしれないが。
エリーナは話を切り替えるようにわざとらしい咳をする。
「ごほんっ。それでエル様はどこまで魔王様からお話を伺っていますか?」
「話? えっと……」
話とは何のことだろうか。特に魔王から聞いた覚えもない。
知りたくても分からないことだらけで、どこから聞けばいいか分からないし、流れに身を任せていた。
すると、にこやかだったエリーナの表情が急変する。
「は? まさか何も聞かされないまま連れてこられました?」
「そ、そうだな、あんまり状況を理解できてないって言うか………」
俺はたじろぎながらもゆっくりと首を振る。
その表情は人類に広まっている畏怖の象徴である魔王の表情と酷似していて。
「こ、この……」
エリーナはぷるぷると拳を震わせる。
ふつふつと湧き上がる憤怒の感情を見て、命の危機を感じたのか。
魔王はこそこそと部屋を脱出しようとする。
「や、やばいかも、私、急にお腹が痛くなってきた。ってことでトイレに――」
「このデカ乳バカ魔王があああああああぁぁぁぁぁ!」
「い、嫌ああああああぁぁぁぁぁ!?」
俺はこの瞬間、エリーナだけは怒らしてはいけない、そう心に誓った。
「ん、玉座……?」
ぼやけた視界が整えられると、一番最初に視認できたのは玉座だった。
玉座……玉座かぁ。嫌な予感しかしないな。
「ここが私の城、魔王城!」
ほら、嫌な予感が的中しちゃったよ。
ツアーガイドのように軽々と魔王城を紹介するのは止めてほしい。
威力が桁違い過ぎて、落ち着きが吹き飛んでしまいそうになる。
「ここが……」
人類が何十年、何百年かけても辿りつくことが許されなかった地。それが魔王城だ。
造りは人間界の王城とさほど変わりはないが、対照的に黒色を基調としており、どこか恐ろしさを感じさせる。
そんな場所に俺は今、堂々と立っていた。
本来ならこれが最後の戦いだ、とか叫んで、俺と彼女が殺し合う戦場。なのに今、行われていることは……
「さて、エル、式場はどこにする?」
どうやら勝手に結婚の話が進められていた。
鈍感なのか、それとも天然なのか、はたまた、作為的なのか。
だが、今まで話し合ってきた相手で一番やりにくい相手なのは確かだ。さすがは魔王。恐るべし。
「やっぱり魔王城にする? でも、私の家で結婚式をするのもどうかと思って……あ、人間風に協会とかでやっちゃう?」
それは畏怖の象徴として飾られている魔王とは思えないほど無邪気な笑みで。
自分が置かれている状況をつい忘れそうになってしまう。
「ん? 足音?」
ドタバタとものすごい勢いでこちらに向かってきている足音が魔王城に響く。
その正体はすぐに分かった。
「ま、魔王様ああああああぁぁぁぁぁ!」
一人の魔族が血相を変えて扉を勢いよく開いた。
その女性は身長は魔王よりも断然高く、印象的には年上のお姉さん、いや、あの元気っぷり。お姉ちゃんのほうが近いかもしれない。
「なに? 私と勇者の至福の時間を邪魔するならエリーナだろうと許さ――」
魔王は彼女を見て怪訝そうな表情を浮かべる。
もしかして魔王は二重人格とかかな? 俺の時の態度とめっちゃ違うんですけど。
そんな魔王の表情に彼女は怯んで……ってあれ、エリーナと呼ばれた、彼女、めっちゃ怒ってるように見えるのは気のせいかな。
彼女は大股で近寄ってきて俺と魔王の間に割って入る。
その喧騒は本物の魔王も恐れるほどで。
彼女は大きく右手を振りかぶり……
「許さない!? それはこっちのセリフなんですよ! ポンコツ魔王がぁ!」
「あうっ!?」
見事に彼女の拳骨が魔王に直撃した。
可愛らしい声をあげた魔王は、頭を両手で押さえ、屈みながら唸る。
「痛っあああぁぁ~! 何するの!」
「はああぁぁ!? 魔王様、反省してないんですか!?」
「私は何も悪いことなんてしてない!」
「勇者様が危ないって報告した瞬間、勝手に魔王城からいなくなるし! 普通、配下の私に行かせますよね!? 何で魔王様自身がいくんですか!」
「だってエルが一人になってて、チャンスだったから――」
「チャンスじゃありません! 勝手に勇者様をお持ち帰りするし、もうちょっと節度をわきまえてください!」
途中で怪しげなフレーズが混じっていた気がすることもないが、それを除けば俺の気持ちそのものを代弁しているようなものだった。いいぞ、もっと言ってやれ。
「誠に申し訳ございません、勇者様。私はエリーナ。魔王軍幹部をしております」
エリーナはスカートの裾を持ち、完璧なカーテシーを見せる。
最近は、とんでもない肩書を平然と話すのがブームなのだろうか。
まぁ魔王に一撃与える者だ。王族か、そのあたりだろうなとは思っていたけども。
「俺はエルです。一応、勇者をしてました。エルと呼んでください」
すみません。俺も同類でした。
勇者パーティーから追放された今、俺は【勇者】という称号を剥奪されるだろう。
今頃、次の勇者が選定されているはずだ。こういう状況のために替えとなる器は山ほど育成されている。
「承知しました。では、エル様と呼ばせていただきますね。私の方も敬語は止めてエリーナとお呼びください」
出来れば様を外してほしかったのだが、言ったところで無駄だろう。
立場的にそうしないといけないんだろうけど……様付けは何となく距離感を感じてしまう。
そんな会話を横目に魔王は自慢するように胸を張る。
「エリーナ。私はエルに最初から敬語を外してもらってた。だから私の方がエルと親しい関係ということになる」
魔王、それは親しいからというわけではない。
エリーナは魔王に同情するように言った。
「魔王様。多分それ、近所の子供、とでも思われてるんじゃないですか?」
「ふっふっふ! 魔族を統べるこの私が? そんなことあるわけ……え? エル? 何でそんな表情してるの!?」
だって、その通りだから。
もちろん最初は緊張もした。相手は魔王、命を救ってくれた恩人とはいえ、何をされるか分からない。
でも、こんな様子を見ていたらただの魔族の少女にしか見えなくなってきた。まぁそれは俺にだけの対応なのかもしれないが。
エリーナは話を切り替えるようにわざとらしい咳をする。
「ごほんっ。それでエル様はどこまで魔王様からお話を伺っていますか?」
「話? えっと……」
話とは何のことだろうか。特に魔王から聞いた覚えもない。
知りたくても分からないことだらけで、どこから聞けばいいか分からないし、流れに身を任せていた。
すると、にこやかだったエリーナの表情が急変する。
「は? まさか何も聞かされないまま連れてこられました?」
「そ、そうだな、あんまり状況を理解できてないって言うか………」
俺はたじろぎながらもゆっくりと首を振る。
その表情は人類に広まっている畏怖の象徴である魔王の表情と酷似していて。
「こ、この……」
エリーナはぷるぷると拳を震わせる。
ふつふつと湧き上がる憤怒の感情を見て、命の危機を感じたのか。
魔王はこそこそと部屋を脱出しようとする。
「や、やばいかも、私、急にお腹が痛くなってきた。ってことでトイレに――」
「このデカ乳バカ魔王があああああああぁぁぁぁぁ!」
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