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35話 王子
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アレクサンダーは……俺は落ちこぼれだった。
幼少期の記憶など毎日誰かに叱責されることしかない。
『なんでこんなことも出来ないの!? 第一王子ならもっとしっかりしてちょうだい!』
『まだ弟の第二王子の方が優秀だぞ! 生まれる順が逆だったらよかったのに……』
『何故王族にこのような失敗作が生まれてしまったのだろうか』
国王である父からも見捨てられ、俺は見事に王位継承権を手放した。
現在の俺の王位継承権は二位。弟である第二王子が一位である。
弟の周りにはいつも多くの者がいた。父も弟には期待しているらしく、人を見る目が違っていたのだ。俺のようにゴミを見るような目で弟を見たことは一度もなかった。
いつしか俺は王宮内で孤立していた。
誰も助けてくれない。誰も手を差し伸べてくれない。誰も俺を人間だと捉えてくれない。
そんな中、母だけは俺の味方であった。
表で厳しく当たるものの、裏ではそんな壊れかけた俺の心を癒してくれるようにいつも慰めてくれていたのだ。
あの時は自分だけが辛い思いをしていると思っていたが、違っていた。
誰もが弟を味方する中、母だけは俺の味方であってくれていたのだ。
表では厳しく当たってきた? それは弟の前だからでも国王の前だからでもない。
俺に一人前の大人になって欲しいというどこの母も思うごく普通の理由なのだ。
甘やかされて生きてきた王族には厳しく感じたかもしれないが、それは普通であった。
普通であり貴重であり、何もない空っぽな僕にとっては唯一の救いだった。
しかし、そんな日はいつまでも続かない。
『兄さん。ゴミならゴミらしくさっさと王宮から出ていってくれよ。目が腐りそうでたまらない』
弟も弟で母を取られていることが気に入らなかったのだろう。
俺を王宮から追放した。弟が口にすれば弟に甘い国王が頷かないはずもない。
母は最後まで弟に泣きながら縋ってくれていたが、弟は聞く耳すら持たなかった。
もちろん正式に追放したとなると国が揺らぐ大問題である。
形式上は外の知識を深めるため、そんな理由が跡付けられた。
こうして俺は王族から追放されたのだった。
外の知識もろくにない俺がまともに生きていけるはずなどない。
そのため、住む場所と生活費は支給されていた。何もしなくとも生きてはいける環境だった。
だが、そんな俺を母の最後の言葉が突き動かす。
『立派になってみんなを見返してやりなさい!』
俺はこの状況を好機ととらえることにした。弟を見返してやるための好機だと。
そこで俺はダンジョンに潜ることにした。冒険者として力を得て、自分を成長させようと思ったのだ。
そんな俺は特に知識もなく、ダンジョンに潜り、そして……
死にかけた。
あの時は本当に死んだと思った。
『ガアアアアア!』
五層だっただろうか。今まで使っていた剣が折れたのだ。
逃げる術など考えていなかった俺は地面を這いずり、弱者のように逃げ回った。
魔物たちに噛まれ、切り刻まれる。冷たい死という感覚を何度も味わった。
そんな時だ。ある女性が瀕死の俺を見てたった一言告げる。
『何してるの? バカなの? 戦う気がないならダンジョンに潜らない方がいいわよ』
その一言を言い終えた瞬間、目の前にいた魔物たちは一瞬で爆ぜていた。
四肢が爆散し、魔石だけがその場に残る。
女性は瀕死の俺にポーションをぶちまけて、生きていることを確認すると、すぐにこの場を去ろうとした。
『あの……俺を弟子にしてください』
あの時の俺はとっさの判断で動いた。多分、無意識だったと思う。
あの精神が擦り切れた状態でよく動いたものだ。
俺は女性の服の裾を掴んで離さなかった。泣きじゃくり、血で汚れた顔で俺は弱者なりに縋った。
そんな弱者に彼女はにっこりと笑みを漏らしながら手を差し伸べてくれた。
『いいわよ。私はスパルタだけれど文句言わないでね』
これが俺と先生の出会いである。
幼少期の記憶など毎日誰かに叱責されることしかない。
『なんでこんなことも出来ないの!? 第一王子ならもっとしっかりしてちょうだい!』
『まだ弟の第二王子の方が優秀だぞ! 生まれる順が逆だったらよかったのに……』
『何故王族にこのような失敗作が生まれてしまったのだろうか』
国王である父からも見捨てられ、俺は見事に王位継承権を手放した。
現在の俺の王位継承権は二位。弟である第二王子が一位である。
弟の周りにはいつも多くの者がいた。父も弟には期待しているらしく、人を見る目が違っていたのだ。俺のようにゴミを見るような目で弟を見たことは一度もなかった。
いつしか俺は王宮内で孤立していた。
誰も助けてくれない。誰も手を差し伸べてくれない。誰も俺を人間だと捉えてくれない。
そんな中、母だけは俺の味方であった。
表で厳しく当たるものの、裏ではそんな壊れかけた俺の心を癒してくれるようにいつも慰めてくれていたのだ。
あの時は自分だけが辛い思いをしていると思っていたが、違っていた。
誰もが弟を味方する中、母だけは俺の味方であってくれていたのだ。
表では厳しく当たってきた? それは弟の前だからでも国王の前だからでもない。
俺に一人前の大人になって欲しいというどこの母も思うごく普通の理由なのだ。
甘やかされて生きてきた王族には厳しく感じたかもしれないが、それは普通であった。
普通であり貴重であり、何もない空っぽな僕にとっては唯一の救いだった。
しかし、そんな日はいつまでも続かない。
『兄さん。ゴミならゴミらしくさっさと王宮から出ていってくれよ。目が腐りそうでたまらない』
弟も弟で母を取られていることが気に入らなかったのだろう。
俺を王宮から追放した。弟が口にすれば弟に甘い国王が頷かないはずもない。
母は最後まで弟に泣きながら縋ってくれていたが、弟は聞く耳すら持たなかった。
もちろん正式に追放したとなると国が揺らぐ大問題である。
形式上は外の知識を深めるため、そんな理由が跡付けられた。
こうして俺は王族から追放されたのだった。
外の知識もろくにない俺がまともに生きていけるはずなどない。
そのため、住む場所と生活費は支給されていた。何もしなくとも生きてはいける環境だった。
だが、そんな俺を母の最後の言葉が突き動かす。
『立派になってみんなを見返してやりなさい!』
俺はこの状況を好機ととらえることにした。弟を見返してやるための好機だと。
そこで俺はダンジョンに潜ることにした。冒険者として力を得て、自分を成長させようと思ったのだ。
そんな俺は特に知識もなく、ダンジョンに潜り、そして……
死にかけた。
あの時は本当に死んだと思った。
『ガアアアアア!』
五層だっただろうか。今まで使っていた剣が折れたのだ。
逃げる術など考えていなかった俺は地面を這いずり、弱者のように逃げ回った。
魔物たちに噛まれ、切り刻まれる。冷たい死という感覚を何度も味わった。
そんな時だ。ある女性が瀕死の俺を見てたった一言告げる。
『何してるの? バカなの? 戦う気がないならダンジョンに潜らない方がいいわよ』
その一言を言い終えた瞬間、目の前にいた魔物たちは一瞬で爆ぜていた。
四肢が爆散し、魔石だけがその場に残る。
女性は瀕死の俺にポーションをぶちまけて、生きていることを確認すると、すぐにこの場を去ろうとした。
『あの……俺を弟子にしてください』
あの時の俺はとっさの判断で動いた。多分、無意識だったと思う。
あの精神が擦り切れた状態でよく動いたものだ。
俺は女性の服の裾を掴んで離さなかった。泣きじゃくり、血で汚れた顔で俺は弱者なりに縋った。
そんな弱者に彼女はにっこりと笑みを漏らしながら手を差し伸べてくれた。
『いいわよ。私はスパルタだけれど文句言わないでね』
これが俺と先生の出会いである。
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