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24話 破棄
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クラウスは木の恵に向かう道中、感情を無理に殺していた。
勝手に契約を破棄するなど相手がルーカスでなければ法的処置を取ってもいい状況だ。
しかし、ルーカスだからこそ、それが認められる。彼の事務所には彼の腕を見込んで世界各国の王属やら貴族からも依頼が来ているそうだ。
そちらを優先しなければいけない。そう言ってしまえばたとえ白金の刃でも文句を言うことなど出来なくなる。
「絶対にルーカスの腕は私のギルドに必要なんだ……」
ルーカスは悔しい思いを吐き出しながらも呟いた。
クラウスはルーカスの技術ではなく、世界一という肩書を欲している。
世界一の大工が建てたギルド支部。そうなれば宣伝効果も大いにあるだろう。
冒険者ギルドの中で絶対的な頂点に君臨できる日も近いというわけだ。
木の恵の事務所に着くと、クラウスはいつものギルド長の表情に戻して尋ねる。
「すみません。私は白金の刃のギルド長。クラウスと申します。ルーカス様と少し契約について相談したいのですが」
「クラウス様ですね。ルーカス様は奥の部屋でお待ちになっております」
「分かりました。ありがとうございます」
受付の職員はまるでクラウスが来ることを知っていたかのように手際よく彼を案内した。
クラウスは職員に言われた通り、奥の部屋へと向かう。
そして、扉を開けるとソファに豪快に座っているルーカスがすぐに視界に入った。
「よぉ、おっさん。来ると思ってたぜ」
ルーカスは微笑を浮かべながら口にする。
クラウスがギルド長であろうと、立場的には圧倒的にルーカスの方が上。
大きな衝撃に立ち眩みしそうになりながらも名乗った。
「お、おっさん? おっほん。私の名はクラウスと申します」
「あっそ。それでおっさんが来たのは契約についてだろ?」
「えぇ。何故急に破棄されたのか教えていただきたく……」
「は? そんなこと言わねぇといけないのか?」
クラウスはルーカスに嫌悪感を持たれていると気付くと、すぐに持っていた鞄を机の上に置く。
そして、嫌らしい笑みを漏らしながら中身をルーカスに見せた。
「ま、まずは! どうかこれを受け取ってはいただけないでしょうか? いわば私とルーカス様の友情の証のようなものです」
「へぇ……いくら?」
「ご、五百万メルほどです。これからも仲良くしていただけるのであればもっと増額するかもしれません」
少し食いついたルーカスを見てクラウスはにんまりと口角を上げる。
今まで彼はこのような手段で多くの機関と手を組んできた。断られたことなど一度もない。
(世界一と言っても所詮は金なんだ。これで私も世界とのパイプ持てる……!)
先ほどまで焦っていたクラウスだが、こうもあっさり再契約できそうな状況になり、余裕を持ち始めた。
しかし、そんな彼の余裕は一瞬で砕け散る。
「おっさん……俺のこと舐めてんの?」
「……は、はい!?」
想像もしていなかったルーカスの反応にクラウスは目を見開いて驚いた。
ルーカスの表情からは憤怒が垣間見える。
「俺が金に困ってるように見えるか? 俺は大切に使ってくれる奴に手を貸してやりてぇ。だが、おっさんお前は違うだろ?」
「そ、そんなことありません! ルーカス様がお作りになるのであれば一生かけて大切に使うつもりで――」
「お前が欲しいのは俺の肩書だけだ。そんな奴の契約なんか破棄するに決まってんだろ」
「だとしても何故急に! 前は首を縦に振ってくれたではありませんか!」
クラウスはこのままでは終われないという風に退こうとはしない。
「あぁおっさん知らなかったのか? 俺たちは今、原初の剣ってギルドを改築してんだよ」
「そんな名前も知られていないようなギルドに何故! 私と組む方が得じゃないですか!」
「おっさんよぉ……先を見据えるって言葉知ってるか?」
「だから私と組む方が――」
ルーカスは焦っているクラウスを哀れむように視線を向ける。
その視線を受け、クラウスの表情は一瞬で真っ青に染まった。
そんなクラウスを拒絶するようにルーカスは告げる。
「お前はアリアさんをクビにした。あの人の実力も見抜けねぇ時点で大成する器じゃねぇってことだ」
勝手に契約を破棄するなど相手がルーカスでなければ法的処置を取ってもいい状況だ。
しかし、ルーカスだからこそ、それが認められる。彼の事務所には彼の腕を見込んで世界各国の王属やら貴族からも依頼が来ているそうだ。
そちらを優先しなければいけない。そう言ってしまえばたとえ白金の刃でも文句を言うことなど出来なくなる。
「絶対にルーカスの腕は私のギルドに必要なんだ……」
ルーカスは悔しい思いを吐き出しながらも呟いた。
クラウスはルーカスの技術ではなく、世界一という肩書を欲している。
世界一の大工が建てたギルド支部。そうなれば宣伝効果も大いにあるだろう。
冒険者ギルドの中で絶対的な頂点に君臨できる日も近いというわけだ。
木の恵の事務所に着くと、クラウスはいつものギルド長の表情に戻して尋ねる。
「すみません。私は白金の刃のギルド長。クラウスと申します。ルーカス様と少し契約について相談したいのですが」
「クラウス様ですね。ルーカス様は奥の部屋でお待ちになっております」
「分かりました。ありがとうございます」
受付の職員はまるでクラウスが来ることを知っていたかのように手際よく彼を案内した。
クラウスは職員に言われた通り、奥の部屋へと向かう。
そして、扉を開けるとソファに豪快に座っているルーカスがすぐに視界に入った。
「よぉ、おっさん。来ると思ってたぜ」
ルーカスは微笑を浮かべながら口にする。
クラウスがギルド長であろうと、立場的には圧倒的にルーカスの方が上。
大きな衝撃に立ち眩みしそうになりながらも名乗った。
「お、おっさん? おっほん。私の名はクラウスと申します」
「あっそ。それでおっさんが来たのは契約についてだろ?」
「えぇ。何故急に破棄されたのか教えていただきたく……」
「は? そんなこと言わねぇといけないのか?」
クラウスはルーカスに嫌悪感を持たれていると気付くと、すぐに持っていた鞄を机の上に置く。
そして、嫌らしい笑みを漏らしながら中身をルーカスに見せた。
「ま、まずは! どうかこれを受け取ってはいただけないでしょうか? いわば私とルーカス様の友情の証のようなものです」
「へぇ……いくら?」
「ご、五百万メルほどです。これからも仲良くしていただけるのであればもっと増額するかもしれません」
少し食いついたルーカスを見てクラウスはにんまりと口角を上げる。
今まで彼はこのような手段で多くの機関と手を組んできた。断られたことなど一度もない。
(世界一と言っても所詮は金なんだ。これで私も世界とのパイプ持てる……!)
先ほどまで焦っていたクラウスだが、こうもあっさり再契約できそうな状況になり、余裕を持ち始めた。
しかし、そんな彼の余裕は一瞬で砕け散る。
「おっさん……俺のこと舐めてんの?」
「……は、はい!?」
想像もしていなかったルーカスの反応にクラウスは目を見開いて驚いた。
ルーカスの表情からは憤怒が垣間見える。
「俺が金に困ってるように見えるか? 俺は大切に使ってくれる奴に手を貸してやりてぇ。だが、おっさんお前は違うだろ?」
「そ、そんなことありません! ルーカス様がお作りになるのであれば一生かけて大切に使うつもりで――」
「お前が欲しいのは俺の肩書だけだ。そんな奴の契約なんか破棄するに決まってんだろ」
「だとしても何故急に! 前は首を縦に振ってくれたではありませんか!」
クラウスはこのままでは終われないという風に退こうとはしない。
「あぁおっさん知らなかったのか? 俺たちは今、原初の剣ってギルドを改築してんだよ」
「そんな名前も知られていないようなギルドに何故! 私と組む方が得じゃないですか!」
「おっさんよぉ……先を見据えるって言葉知ってるか?」
「だから私と組む方が――」
ルーカスは焦っているクラウスを哀れむように視線を向ける。
その視線を受け、クラウスの表情は一瞬で真っ青に染まった。
そんなクラウスを拒絶するようにルーカスは告げる。
「お前はアリアさんをクビにした。あの人の実力も見抜けねぇ時点で大成する器じゃねぇってことだ」
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