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20話 英雄
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「は? 孫娘? 爺さんボケてんのか? 俺たちは関係ないだろ」
カイザーは老人に向かってダルそうに言った。
急に現れて急に攻撃を仕掛けてくる。さらには訳の分からない孫娘というワード。
ボケているのではないかと思ってもしょうがないだろう。
しかし、老人はそんな彼の言葉に聞く耳を持たない。
老人はパチンと指を鳴らして魔法を行使した。
「【衝撃波】」
それは魔術師が最初に習う魔法である。
軽い衝撃を直線状に放ち、相手を押し飛ばす簡単な魔法だ。
簡単な魔法である分、威力は小さい。主にダメージを与えるのではなく、軽く吹き飛ばすような、そんな魔法である。
「はっ! 礼儀の知らねぇ爺さんだな!」
カイザーは盾を構えることなく、堂々と仁王立ちの状態を保った。
彼は世界最強の防御者である『守護者』だ。彼には初級魔法など食らったところでびくともしない自負がある。
ここで老人の魔法などに盾を使うなど彼にとって恥でしかなかったのだ。
しかし、アレンは目の色を変えて彼に叫ぶ。
「おい、カイザー! 今すぐ盾を構えろ!」
「は? 何言って――」
もうその時には遅かった。
彼の言葉は最後まで言い切られることなく終わる。
「おぉ。きれいに吹っ飛んだのぉ」
「「……え?」」
老人はまるでボールのように飛んでいくカイザーを見てそんな言葉を漏らした。
盾を使ってないにしろ、あの最強の防御者が吹っ飛ばされたのだ。ましてやそれも誰もが使えるような魔法で。
数秒もすれば、まるで流れ星のように飛んでいったカイザーの姿は見えなくなっていた。
「アレン君……これヤバい気がする」
「あぁ、次元が違う。なんだこの化け物は……」
二人はただ唖然とすることしか出来ない。
今まで最強だと謳われてきた自分たちが怯えるほどの強者が目の前にいるのだ。
それも見た目は老人。特に自分を強者だとおごる様子もない。
アレンは自分の背中に隠れているマリィに命令する
「マリィ。君はすぐに周りの住民を避難させてくれ」
「ん? おぬしらはわしを何だと思っとるのじゃ。別に住民に手を出そうとは思うとらん。それに見てみよ」
「見てみろって……は?」
「な、なんで……?」
周りの風景を見たアレンとマリィはあまりの衝撃に固まってしまった。
このままでは被害が拡大する。そう思いアレンはマリィに住民の避難を頼んだ。
しかし、今見たらおかしい。自分たち以外、一ミリたりとも動いていないのだ。
「流石に目立つからの。時間を止めておいたぞ」
「時間を停止させる!? どこかでそれを聞いた気が……」
アレンはそんな異次元な言葉を聞いたことがあった。
しかし思い出せない。どこか幼さない頃に聞いた覚えがある、とまでしか分からない。
そんな彼の疑問に答えるようにマリィが口を開いた。
「あ、あ、アレン君。これは本当にやばいよ」
いつも陽気なマリィとは思えないほど唇は震え、何かに怯えているような表情をしていた。
それに対してアレンはどこか落ち着きを取り戻し始めている。
それはこの老人に絶対的な殺気がないからだろう。
飛んでいったカイザーも本来なら一撃で殺せていた。
それを殺さずに戦線を離脱させたのは何か理由があるはず。そうアレンは推測したのだ。
「どうしたんだ? マリィ」
「このお爺さん、いや……この方は…………」
マリィは信じられないとでも言うように小さく呟いた。
「この方は四百年前にこの世界を救った『英雄』よ」
「その呼び名は懐かしいのぉ。まさかまだ覚えている者がいるとは思ってもおらなんだ」
老人は懐かしむように微笑む。
だが、アレンの疑問はさらに増えてしまったようだ。
「何言ってるんだよマリィ。四百年前? おかしくなったのか?」
「時を止めれるぐらいの化け物よ? 四百年生きれてもおかしくないの」
「ま、まぁそう言われたらそうか……」
普通なら信じられない事実だが、目の前で時を止められているのだ。
もう大抵のことは頷いてしまうだろう。
アレンはもう驚きを通り越しているのか、表情を変えることなく英雄に向かって尋ねる。
「それで英雄様は僕たちに何の用でしょうか?」
「お、そうじゃ。出待ちをしたおぬしらには少し痛い目を味わってもらわんとの」
「「……うぐっ!?」」
思い出したように言った老人は、一瞬で二人のもとに肉薄した。
そして一撃で仕留めるようにクビに一撃ずつ入れる。
一撃で意識を刈り取られた二人はぐったりとその場に膝から倒れ込んだ。
「地上の奴らにしてはなかなかじゃったの。わしを目で追えるとは才能があるわい。【時空の掌握《ラームツァイト》】」
老人は倒れ込んだアレンとマリィを道の端に寄せ、止めていた時を再開させた。
先ほどまで固まっていた通行人たちは何事もなかったかのように通行人は歩き始める。
彼らが目の前で戦闘が起きていたなどと理解することは不可能だ。
「じゃあさっそく、わしの可愛い可愛い孫娘に会いに行くかのぉ!」
老人はにんまりと笑みを浮かべながら協会へと入ったのだった。
カイザーは老人に向かってダルそうに言った。
急に現れて急に攻撃を仕掛けてくる。さらには訳の分からない孫娘というワード。
ボケているのではないかと思ってもしょうがないだろう。
しかし、老人はそんな彼の言葉に聞く耳を持たない。
老人はパチンと指を鳴らして魔法を行使した。
「【衝撃波】」
それは魔術師が最初に習う魔法である。
軽い衝撃を直線状に放ち、相手を押し飛ばす簡単な魔法だ。
簡単な魔法である分、威力は小さい。主にダメージを与えるのではなく、軽く吹き飛ばすような、そんな魔法である。
「はっ! 礼儀の知らねぇ爺さんだな!」
カイザーは盾を構えることなく、堂々と仁王立ちの状態を保った。
彼は世界最強の防御者である『守護者』だ。彼には初級魔法など食らったところでびくともしない自負がある。
ここで老人の魔法などに盾を使うなど彼にとって恥でしかなかったのだ。
しかし、アレンは目の色を変えて彼に叫ぶ。
「おい、カイザー! 今すぐ盾を構えろ!」
「は? 何言って――」
もうその時には遅かった。
彼の言葉は最後まで言い切られることなく終わる。
「おぉ。きれいに吹っ飛んだのぉ」
「「……え?」」
老人はまるでボールのように飛んでいくカイザーを見てそんな言葉を漏らした。
盾を使ってないにしろ、あの最強の防御者が吹っ飛ばされたのだ。ましてやそれも誰もが使えるような魔法で。
数秒もすれば、まるで流れ星のように飛んでいったカイザーの姿は見えなくなっていた。
「アレン君……これヤバい気がする」
「あぁ、次元が違う。なんだこの化け物は……」
二人はただ唖然とすることしか出来ない。
今まで最強だと謳われてきた自分たちが怯えるほどの強者が目の前にいるのだ。
それも見た目は老人。特に自分を強者だとおごる様子もない。
アレンは自分の背中に隠れているマリィに命令する
「マリィ。君はすぐに周りの住民を避難させてくれ」
「ん? おぬしらはわしを何だと思っとるのじゃ。別に住民に手を出そうとは思うとらん。それに見てみよ」
「見てみろって……は?」
「な、なんで……?」
周りの風景を見たアレンとマリィはあまりの衝撃に固まってしまった。
このままでは被害が拡大する。そう思いアレンはマリィに住民の避難を頼んだ。
しかし、今見たらおかしい。自分たち以外、一ミリたりとも動いていないのだ。
「流石に目立つからの。時間を止めておいたぞ」
「時間を停止させる!? どこかでそれを聞いた気が……」
アレンはそんな異次元な言葉を聞いたことがあった。
しかし思い出せない。どこか幼さない頃に聞いた覚えがある、とまでしか分からない。
そんな彼の疑問に答えるようにマリィが口を開いた。
「あ、あ、アレン君。これは本当にやばいよ」
いつも陽気なマリィとは思えないほど唇は震え、何かに怯えているような表情をしていた。
それに対してアレンはどこか落ち着きを取り戻し始めている。
それはこの老人に絶対的な殺気がないからだろう。
飛んでいったカイザーも本来なら一撃で殺せていた。
それを殺さずに戦線を離脱させたのは何か理由があるはず。そうアレンは推測したのだ。
「どうしたんだ? マリィ」
「このお爺さん、いや……この方は…………」
マリィは信じられないとでも言うように小さく呟いた。
「この方は四百年前にこの世界を救った『英雄』よ」
「その呼び名は懐かしいのぉ。まさかまだ覚えている者がいるとは思ってもおらなんだ」
老人は懐かしむように微笑む。
だが、アレンの疑問はさらに増えてしまったようだ。
「何言ってるんだよマリィ。四百年前? おかしくなったのか?」
「時を止めれるぐらいの化け物よ? 四百年生きれてもおかしくないの」
「ま、まぁそう言われたらそうか……」
普通なら信じられない事実だが、目の前で時を止められているのだ。
もう大抵のことは頷いてしまうだろう。
アレンはもう驚きを通り越しているのか、表情を変えることなく英雄に向かって尋ねる。
「それで英雄様は僕たちに何の用でしょうか?」
「お、そうじゃ。出待ちをしたおぬしらには少し痛い目を味わってもらわんとの」
「「……うぐっ!?」」
思い出したように言った老人は、一瞬で二人のもとに肉薄した。
そして一撃で仕留めるようにクビに一撃ずつ入れる。
一撃で意識を刈り取られた二人はぐったりとその場に膝から倒れ込んだ。
「地上の奴らにしてはなかなかじゃったの。わしを目で追えるとは才能があるわい。【時空の掌握《ラームツァイト》】」
老人は倒れ込んだアレンとマリィを道の端に寄せ、止めていた時を再開させた。
先ほどまで固まっていた通行人たちは何事もなかったかのように通行人は歩き始める。
彼らが目の前で戦闘が起きていたなどと理解することは不可能だ。
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