17 / 74
17話 エギン
しおりを挟む
「誠に申し訳ございませんでした。うちの職員が無礼を」
部屋に着き、お互い椅子に座ると真っ先にエギンは頭を下げた。
この部屋は今まで見た中でかなり豪勢なつくりになっていた。かなり高貴な客をもてなす用の部屋なのだろう。
ソファの座り心地など、このまま座っていれば堕落しそうなほどであった。
「いいわよ。それよりまさかエギンが会長になってるなんてね」
「えぇ、先生と別れてから色々ありまして……」
エギンと私の出会いは三年前にまで遡る。
私が個人で教育者として働いていた時だ。
大工のルーカスと同様に彼も私が教育していた。
「ですが、今こうして俺が会長になれてるのは先生のおかげなんです」
「私? 別に協会の職員として普通のことを教えただけだけれど」
二年前のエギンは完全に職員として落ちこぼれていた。
四十を過ぎているにもかかわらず、年下の職員にこき使われる日々。
向上心はあるものの、その感情をどこで発散すればいいか分からない、そんな状態だった。
そんな彼に私は声をかけ、彼は私の教え子となったのだ。
「アハハ……あれを普通とは言わないんですけどね」
私の言葉にエギンは苦笑を漏らす。
「まさか勉強として動物園で一か月も働かされるとは思ってもいませんでした」
「でもいい勉強になったでしょ?」
「はい。それはそれは。先生の教育がなければ今も俺はこき使われていたでしょう」
冒険者協会で働いていたエギンだが、私が彼を一か月間だけ臨時の職員として動物園で働かせた。
もちろん最初はエギンも私の教育法について疑心暗鬼になっていたようだ。
しかし、彼は私を信じてくれた。私の教育法通り、彼は一か月間動物園で働き続けた。
「人を観察する力は職員に必須。それを身につけるには動物と接するのが一番手っ取り早いのよ」
冒険者協会の職員は毎日多くの人と接する職業である。
そんな職員に必要なスキルは人を見抜く力。
その練習として動物園にいるカピパラを利用させてもらったのだ。
目標は二十頭近くいるカピパラの名前を全て覚えること。
最初は全く一緒の顔をしたカピパラに苦戦していたが、最終的には全て正確に当てることが出来た。
その結果、エギンは行動や表情の違いなど人間を相手する時に必要な技術を身につけている。
「本当に先生には感謝しきれません。改めてありがとうございました」
「顔を上げて。私もあの時、エギンがいなければ今こうして教育者をやってるか分からないし」
「そういえば白金の刃は辞めたのですか? 先ほど資料を見たら別のギルドに変わってたのですが」
「辞めさせられたのよ。戦力外通告よ」
「……は?」
私が真実を打ち明けると先ほどまでの笑みは一瞬で消え失せる。
ふつふつと怒りの感情を湧き上がらせているのが垣間見えた。
今ここで爆発させてはいけまいと私は話題を変えた。
「そ、それで今回、新しく入ったギルドで実績を作るためにこのクエストを受理したのよ」
私は【空間収納】から全ての幻想花を取り出す。
その花々を見てエギンは苦笑を漏らしながら頭を抱えた。
「アハハ……いつかこういう日が来ると思ってました」
「こういう日?」
「クラウスについてはさておき、誰も先生の教育を聞いてくれなかったんじゃないですか?」
流石はエギンだ。人間の観察力に関してはかなり化け物じみている。
私と会うのも二年ぶりであるはずなのによくもまぁ言い当てられるものだ。
「先生はあんなギルドの教育者で収まるような人ではありませんから」
「え?」
今やダンジョン攻略に一番精を出しているギルドは白金の刃である。来年には最強のギルドとして名をとどろかせることになるだろう。
そんな白金の刃をあんな呼ばわりしたのは意外だった。
彼は他の優秀なギルドがあることを知っているのか。あるいは白金の刃には何かあるのかもしれない。
「先生。この花は全部買い取らせていただきます」
「ありがと。報酬は二割ぐらいでいいわよ。そんな大金に払えば協会も苦しくなるだろうし、それに私からしたら雑草だから」
「そう言っていただけると助かります。雑草ですか……本当に九十九層に住んでいたと聞いた時は驚きましたよ。今も信じがたいですが」
私が九十九層出身ということは教え子にしか伝えてない。
たとえ伝えたところで、確かめるために彼らがその階層まで登る手段がないからだ。
私はそこで生まれたため、行き来できるが、皆は違う。みんなはそこまで強靭な魔物を倒して登らなければならない。
「先生は確か、原初の剣というギルドに入ったのですよね?」
「えぇ。それがどうしたの?」
「冒険者協会は一つのギルドを支援するシステムがあります」
「確か、ダンジョンの攻略を進めるためだった? まぁ率先してくれるギルドがあるのは嬉しいことね」
私が答えると、エギンは私に向かって手を差し出した。
そして、にんまりと笑みを浮かべて告げたのだった。
「冒険者協会は原初の剣を支援することを、会長の名のもとにここで誓いましょう」
「……え?」
部屋に着き、お互い椅子に座ると真っ先にエギンは頭を下げた。
この部屋は今まで見た中でかなり豪勢なつくりになっていた。かなり高貴な客をもてなす用の部屋なのだろう。
ソファの座り心地など、このまま座っていれば堕落しそうなほどであった。
「いいわよ。それよりまさかエギンが会長になってるなんてね」
「えぇ、先生と別れてから色々ありまして……」
エギンと私の出会いは三年前にまで遡る。
私が個人で教育者として働いていた時だ。
大工のルーカスと同様に彼も私が教育していた。
「ですが、今こうして俺が会長になれてるのは先生のおかげなんです」
「私? 別に協会の職員として普通のことを教えただけだけれど」
二年前のエギンは完全に職員として落ちこぼれていた。
四十を過ぎているにもかかわらず、年下の職員にこき使われる日々。
向上心はあるものの、その感情をどこで発散すればいいか分からない、そんな状態だった。
そんな彼に私は声をかけ、彼は私の教え子となったのだ。
「アハハ……あれを普通とは言わないんですけどね」
私の言葉にエギンは苦笑を漏らす。
「まさか勉強として動物園で一か月も働かされるとは思ってもいませんでした」
「でもいい勉強になったでしょ?」
「はい。それはそれは。先生の教育がなければ今も俺はこき使われていたでしょう」
冒険者協会で働いていたエギンだが、私が彼を一か月間だけ臨時の職員として動物園で働かせた。
もちろん最初はエギンも私の教育法について疑心暗鬼になっていたようだ。
しかし、彼は私を信じてくれた。私の教育法通り、彼は一か月間動物園で働き続けた。
「人を観察する力は職員に必須。それを身につけるには動物と接するのが一番手っ取り早いのよ」
冒険者協会の職員は毎日多くの人と接する職業である。
そんな職員に必要なスキルは人を見抜く力。
その練習として動物園にいるカピパラを利用させてもらったのだ。
目標は二十頭近くいるカピパラの名前を全て覚えること。
最初は全く一緒の顔をしたカピパラに苦戦していたが、最終的には全て正確に当てることが出来た。
その結果、エギンは行動や表情の違いなど人間を相手する時に必要な技術を身につけている。
「本当に先生には感謝しきれません。改めてありがとうございました」
「顔を上げて。私もあの時、エギンがいなければ今こうして教育者をやってるか分からないし」
「そういえば白金の刃は辞めたのですか? 先ほど資料を見たら別のギルドに変わってたのですが」
「辞めさせられたのよ。戦力外通告よ」
「……は?」
私が真実を打ち明けると先ほどまでの笑みは一瞬で消え失せる。
ふつふつと怒りの感情を湧き上がらせているのが垣間見えた。
今ここで爆発させてはいけまいと私は話題を変えた。
「そ、それで今回、新しく入ったギルドで実績を作るためにこのクエストを受理したのよ」
私は【空間収納】から全ての幻想花を取り出す。
その花々を見てエギンは苦笑を漏らしながら頭を抱えた。
「アハハ……いつかこういう日が来ると思ってました」
「こういう日?」
「クラウスについてはさておき、誰も先生の教育を聞いてくれなかったんじゃないですか?」
流石はエギンだ。人間の観察力に関してはかなり化け物じみている。
私と会うのも二年ぶりであるはずなのによくもまぁ言い当てられるものだ。
「先生はあんなギルドの教育者で収まるような人ではありませんから」
「え?」
今やダンジョン攻略に一番精を出しているギルドは白金の刃である。来年には最強のギルドとして名をとどろかせることになるだろう。
そんな白金の刃をあんな呼ばわりしたのは意外だった。
彼は他の優秀なギルドがあることを知っているのか。あるいは白金の刃には何かあるのかもしれない。
「先生。この花は全部買い取らせていただきます」
「ありがと。報酬は二割ぐらいでいいわよ。そんな大金に払えば協会も苦しくなるだろうし、それに私からしたら雑草だから」
「そう言っていただけると助かります。雑草ですか……本当に九十九層に住んでいたと聞いた時は驚きましたよ。今も信じがたいですが」
私が九十九層出身ということは教え子にしか伝えてない。
たとえ伝えたところで、確かめるために彼らがその階層まで登る手段がないからだ。
私はそこで生まれたため、行き来できるが、皆は違う。みんなはそこまで強靭な魔物を倒して登らなければならない。
「先生は確か、原初の剣というギルドに入ったのですよね?」
「えぇ。それがどうしたの?」
「冒険者協会は一つのギルドを支援するシステムがあります」
「確か、ダンジョンの攻略を進めるためだった? まぁ率先してくれるギルドがあるのは嬉しいことね」
私が答えると、エギンは私に向かって手を差し出した。
そして、にんまりと笑みを浮かべて告げたのだった。
「冒険者協会は原初の剣を支援することを、会長の名のもとにここで誓いましょう」
「……え?」
15
お気に入りに追加
2,873
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる