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8話 知り合いの大工

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「やっと着いたわ。ここがその大工の事務所よ」
「なんか思ってたより大きい建物ですね」

 私とシアンは一時間ほどかけて私の伝手がある事務所までやって来た。
 国の中心部にあるが、原初の剣がもともと離れにあったため、時間がかかってしまうのである。
 交通に関しても何か対策しなければいけないだろう。

「ここってもしかして有名な事務所だったりするんですかね?」
「有名なのかしらね? でもまぁまぁ大きかったりすると思うわ」

 おおよそ彼と出会ったのは三年前ぐらいだろうか。ちょうど私が学園を卒業したころである。
 白金の刃に所属したのが二年前。その空白の一年は経験を積むために個人で教育者プロフェッサーをしていた。
 二年という月日は短く思えて長い。忘れられてなければいいが。

 私とシアンは一応、身なりを整えてから事務所へと入った。

「「おぉ……!」」

 中に入ると木の香りが鼻腔を通り抜ける。
 木で作られており、一瞬で大工の事務所と分かるほど美しい構造だった。

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」

 整った制服を着こなした受付嬢は礼儀よく私たちに尋ねてくる。
 これほどまで感じが良い受付嬢となるとかなりの教育を受けているのだろう。
 私は単刀直入の要件を告げた。

「ルーカスと話がしたいのですが、呼び出してもらえます?」

 私の知り合いの名はルーカス。確か今年で三十歳になるはずだ。
 彼はあまり人と自ら交流しようとはしないため、下っ端のままである可能性が高い。
 しかし、彼は私の教育を全て受け入れてくれた・・・・・・・・。そのため私は彼の技術を絶対的に信頼している。

「営業妨害でしたらお帰りください」
「え?」

 先ほどまで客を相手する表情だった受付嬢は、ルーカスという言葉を聞くと一瞬で表情が冷めた。
 そのかわり様に私はただ唖然とすることしか出来ない。

「いや、ルーカスをただ呼んでほしいだけなんですが」
「ルーカス様は忙しいのです。個人に構っている暇はありません」
「る、ルーカス様!? あの男に様付けってどういうこと?」
「あの男? ルーカス様とどんな関係か知りませんが、あの方を気安く呼ぶのはお止め下さい」

 最近の受付嬢には大工一人一人を尊敬させるように教育させているのだろうか。
 でなければあの不愛想な彼がここまで慕われる理由が分からない。

 私たちは先ほどからこの事務所の職員たちから多くの視線を集めている。
 シアンも視線に耐えられなくなったのだろう。もじもじしながら提案してきた。

「アリアさん。これは一度帰った方がいいんじゃ……」

 受付嬢からは絶対に話を聞いてくれないオーラが漂っている。
 私たちがここでどれだけ粘ったところで話は進まないだろう。

「まぁそうね。また来るわ」
「その時は是非しっかりと常識を学んでからお越しください」

 受付嬢は皮肉の籠った言葉とともに頭を下げる。
 よくもまぁここまで感情と行動を分けれるものだ。

 私とシアンは渋々、事務所をあとにしたのだった。









「ん? 何の騒ぎ?」

 少し空気の違和感を感じていたのだろう。
 二階から一人だけ異様な存在感を放つ男が下りてきた。
 そう。この男こそルーカスである。

「る、ルーカス様!? 別に大した問題では……」
「そうなの? 誰か来てたみたいだけど」
「はい。ルーカス様のことをまるで友達のように呼ぶような方が来てまして」

 受付嬢は頬を膨らませて怒りをあらわにするように言う。
 そんな彼女をなだめながらもルーカスは笑った。

「まぁまぁ。でもこの俺の友達? あっはっは面白いやつがいたもんだ!」
「冗談ではないですよ。この『世界一の大工』であるルーカス様を友達呼ばわりなんて……!」

 そう。彼はこの国、いや世界一まで上り詰めた若き天才。
 冒険者で例えるなら至極の三剣グラディウスと同等の地位を持つ職人だ。
 そして、彼が作り上げた事務所『木の恵』は各国に支部を持つほどまで勢力を拡大させている。

「ちなみにそいつ名乗ってた? 少し興味湧いたんだけど」

 世界に名をとどろかせる職人を呼び捨てなどあってはいけないのだ。
 ルーカスが興味を持つの道理である。

 受付嬢は頭をひねらせながら会話の内容を思い出す。

「二人で来たんですけど、確か少年がアリア・・・さんと呼んでいた気が……」
「へぇ。アリアさんねぇ。アリアさんかぁ……え? アリアさん?」
「はい。多分アリアだったと思いま――」

 受付嬢は頑張って思い出そうとしていた。
 ルーカスはそんな彼女の肩をがっしりと掴み、眼に血を走らせながら尋ねる。

「本当にアリアさん!? その女性は黒髪だった!?」
「えぇ。珍しいなと思ったのを覚えてますが……どうかなされましたか!?」

 急に余裕のなくなかったルーカスを見て受付嬢は首を傾げた。
 ルーカスは多少のことでは驚かず、いつも落ちついているような人間だ。そんな人間がここまで慌てるのは数年ここで働いてきた彼女でも見るのは初めてである。

「も、も、もしかして追い返した?」
「えぇ。また来ると言ってつい先ほど帰られましたが……」

 ルーカスは彼女の言葉を聞いた瞬間、叫びながらギルドを飛び出したのだった。

「アリアさぁん! すみませんでしたあぁぁぁぁぁぁ!」
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