上 下
69 / 73
四章 魔術大会

主人公

しおりを挟む
「ドラコ! お前はランテに集中しろ!」
「でも…………いや、分かったす!」

 ドラコは俺を見て、一瞬悩んだものの首を縦に振った。
 ちなみに今の俺は血だらけで死にかけの状態である。

 あと一撃でも食らえば動けなくなるだろう。

 ここまで俺に深手を負わせたゲータだが正直に言うと化け物だった。
 今まで戦ってきた相手で一位番強かった。

 他の族長候補たちの生徒と比べれば魔力量は少ない。
 そのためゲータは魔法攻撃などはしてこなかった。
 全て拳である。

 矢が効かない俺にとって拳など意味を持たない。
 そう思っていたのだが何度も深手を負わされた。

 どうやらゲータは魔力を全身に纏わせていたようだ。
 そのため魔力で殴られている状態になる。

 そして、一番厄介だったのがゲータの根性だ。
 どれだけ気絶させても、どれだけ叩きのめしても何度でも立ち上がる。

 残りの二人は魔王覇気で一瞬で沈めた。
 しかし、ゲータは魔王覇気すら我慢で乗り越えるのだ。
 魔王覇気は幹部でも耐えることが出きなかったのにもかかわらずである。

『…………おい、レイと言ったな? また戦おうぜ』

 正直、今回は無詠唱魔法の連発でどうにか乗り切ったものの、次は危うい。

 そして、一番の問題点は俺が回復魔法を行使できないということだ。
 実際、今の俺は血だらけである。

 今まで回復ポーションかパーティーメンバーであった聖女の回復魔法で乗り切ってきたため、鍛えてこなかったのだ。
 そして、今でもエルフリアが行使できるため鍛えていない。
 今回の魔術大会はアイテム、魔道具の持ち込みが禁止されているため回復ポーションも行使できない。

「あれ? 死にかけじゃない~。そんな状態に私たちに勝てるとでも?」
「そうです。無駄な抵抗は貴方自身を苦しめるだけですよ」

 二人はそんな瀕死状態の俺を見て口角を上げる。
 そして、すぐに俺を仕留めにかかろうと再び突進してきた。

「「はああああああぁぁぁぁ!」」
「…………うっ!」

 何度も左右から放たれる斬撃を短剣で防ぐ。
 だが、二人も族長候補だ。

 俺に隙が出来ないように何度も乱舞し、俺は防戦一方のまま後方へと下がらされる。
 そして、瀕死状態の俺だ。このまま押されていては負けは確定しているような…………

「…………なっ!」

 背中に当たる住宅街の壁に俺は驚きを隠せない。
 左右にも住宅街。どうやら一本道に追い込まれたようだ。

「これでもう逃げられないわよ~」
「さっさと諦めていれば苦しい思いもしなくてよかったのに」

 二人はゆっくりと俺のもとへと近づいてい来る。

 魔法で空に逃げる? 
 いや、対策していないはずがない。【テレポート】を行使されて墜とされるのがおちだ。

「…………アハハ。本当に何て俺は馬鹿なんだろ」

 俺は負け惜しみのように自虐的に言った。

 俺はこの一週間ドラコを育成してきた。
 別にその行為を俺は後悔していない。

 実際、今だってドラコは殻を破り新たな段階へと進もうとしている。
 因果であったランテを踏み台に新たな自分になろうとしているのだ。

 しかし、俺はどうだ?
 ハデスの力を少し借りて強欲になって、自分の力を見誤って。

 俺は最強? 何を馬鹿なことを言っている。
 幹部以上の魔族は何人もいる。ましてや今の俺には族長たちに勝てることも出来ないだろう。

 そう。俺には足りなかったのだ。
 注がれ始めた俺の器は完成していない。
 力が出ない。力が出せない。繋がりが全然足りない。

 俺はまだ…………未完成なのだ。
 
 二人はゆっくりと俺に向かって長剣を突き刺そうとしてくる。
 これで俺は終わり。ドラコがランテに勝とうが二人がドラコを始末するだろう。

 完璧に俺の実力不足だ。これで俺たちのパーティーが優勝できることはない。俺はそう思っていた。
 しかし、

「【パーフェクトヒール!】」

 そんな俺に全てを治癒する魔法が行使された。
 そして、俺の前に頼りがいのある一人の女性が現れる。

「お待たせしました! レイ様!」

 返り血で所々真っ赤に染まったエルフリアがにっこりと笑ったのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

元魔王おじさん

うどんり
ファンタジー
激務から解放されようやく魔王を引退したコーラル。 人間の住む地にて隠居生活を送ろうとお引越しを敢行した。 本人は静かに生活を送りたいようだが……さてどうなることやら。 戦いあり。ごはんあり。 細かいことは気にせずに、元魔王のおじさんが自由奔放に日常を送ります。

異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~

ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した 創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる 冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる 7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す 若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける そこからさらに10年の月日が流れた ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく 少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ その少女の名前はエーリカ=スミス とある刀鍛冶の一人娘である エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた エーリカの野望は『1国の主』となることであった 誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた エーリカは救国の士となるのか? それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか? はたまた大帝国の祖となるのか? エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

異能力と妖と

彩茸
ファンタジー
妖、そして異能力と呼ばれるものが存在する世界。多くの妖は悪事を働き、異能力を持つ一部の人間・・・異能力者は妖を退治する。 そんな異能力者の集う学園に、一人の少年が入学した。少年の名は・・・山霧 静也。 ※スマホの方は文字サイズ小の縦書き、PCの方は文字サイズ中の横書きでの閲覧をお勧め致します

見習い料理人はテキトー料理で今日も人々を魅了する

葉柚
ファンタジー
見習い料理人リューニャは、王宮料理人を目指して修行中。 ただ、普通に料理するのは面倒。 高レベルの魔物の素材を使えば普通の食材で料理するよりも格別に美味しくなるのに。 でも、いつまで経っても王宮料理人になれなくて、魔物から素材を採取する能力ばかりがメキメキと上がっていく。そうして、いつしかS級冒険者と同等の力を得ることになった。 高レベルの魔物から取れた素材でリューニャにしか作れない料理で人々を魅了していく……かもしんない。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...