【3章完結】隠れ主人公にざまぁされた勇者は辺境でスローライフを送ります～今頃お前の、勇者の力が必要だと言われても、魔王になったのでもう遅い～

二章 学園生活

魔王覇気

「お、お、俺が魔王!?」

　俺は目がこぼれるのではないか。そう自分でも思うほど目を見開いて校長に聞く。
　校長は見た目から厳格そうなおじさま。そんなイメージがすぐに伝わってくる。
　そのため、俺も冗談を言うような人ではないとすぐに理解した。
　さらに追い打ちをかけるように脳裏に先ほどの校長の涙も浮かぶ。

「はい。正確には魔王の後継者に選ばれたお方。そういえばいいでしょうか」
「…………は？　後継者？」

　校長はゆっくりと立ち上がりながら言った。
　俺は流れのつかめない展開に固まってしまう。

　俺は一度も魔王になど会ったこともない。
　更に言うと俺は人間だ。そして元勇者。一番魔王という立場からかけ離れている存在だと言っていい。

　一瞬、元勇者の俺をはめるための校長の噓かとも考えた。

　元勇者。しかも勇者パーティーから追放された偽の主人公。
　普通なら付け入る隙がありありの状態だ。
　よくあるではないか。元勇者が隠れ主人公に復讐するために悪の手を借りるという展開が。

　しかし、俺はこの一週間ほどで理解した。
　魔族が悪という考えは根本から間違っているのだと。

　大げさに言うかもしれないが、人間のほうが心が汚れているのではないかそう思える三日だった。
　魔族は弱肉強食だ。よく言うと実力主義である。
　人間と違って姑息な手も汚い方法も使わない。

「詠唱破棄。【防音波サイレントウェーブ】」

　校長は指をパチンと鳴らして屋上に防音の膜を張る。
　これで俺と校長の会話は誰にも漏れることのない。いわば密室ということだ。
　
　しかし、やはり幹部クラスだ。
　詠唱破棄など俺も初めて見た。魔法の至高の域といっていいだろう。
　勇者パーティーの魔術師でも使えない。

「話は少しそれますが、レイ様は覇気についてどれほど知っていますか？」

　校長は俺の正面で対面して聞いてくる。

「勇者だった俺しか使えない。まぁスキルでも魔力でもない潜在能力みたいなものですかね？」　
「敬語はお止めください。まぁそのような考え方で間違いありません」

　校長は俺の答えに満足そうに頷いた。
　敬語は止めてくれ？　俺は生徒で相手は校長だ。易々と矯正できるはずもない。
　全く理解できない間に魔王の後継者にされている？　頭がパンクしそうだ。

「覇気とは自分に敵対する者に与える威圧。レイ様が覇気を使った時はお仲間は無事だったでしょう？」
「うん。仲間だけは気を保っていた」

　ちなみに覇気は意識を刈り取るだけではない。
　正直意識を刈り取れればラッキー。普通は行動速度の減少、相手にプレッシャーを与えるために使う。

「それは勇者パーティーという庇護下に入っていたためです。勇者パーティーを抜けた瞬間、その元お仲間に覇気を使えば一瞬で気絶するでしょう」
「で、でもそいつらは俺より断然強かったんだ」
「それはそうでしょう」
「…………え？」

　その校長の当たり前のような物言いに俺は驚いてしまう。

「それがレイ様のやり方なのでしょう？」
「…………俺のやり方？」

　曖昧な言い方に俺は首をかしげるも意味は心が理解していた。
　今までずれていたような感覚、考え方。

「それがスキルという加護なのですから」
「…………そうだよな」

　今まで俺が予想していた線が今の言葉で確実なものになる。
　俺の【統率之王アレス】の効果。その効力が少しずつ脳内で鮮明になっていく。

　校長はゴホンとわざとらしい席をして話を戻す。

「話が逸れたので戻しましょう。先ほどレイ様が放ったあの覇気。本当なら魔族である私は致命傷を負うほどの威力でした」
「でも、校長は無傷で…………」
「ええ。だから私は確証したのです」

　校長は優美な笑みを浮かべて言った。

「レイ様が放った覇気は魔王覇気であると。だから魔王の庇護下にある私が無傷であるのだと」

　そして今まで言った言葉をまとめるようにたった一言、校長は口を開いていったのだった。

「レイ様…………貴方は魔王の素質をお持ちなのです」