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それを聞いた律は、違う意味で更に驚かされてしまう。
「べ、別に嫌とかそういうわけじゃないですよ! ただ、ちょっと驚いただけで……」
紫藤がどういった意味でその言葉を口にしたかはわからない。もしかすると、純粋に蘇芳に対しての対抗心の可能性もある。その言葉にそれ以上の深い意味は、紫藤の性格上ないに等しいはずだ。
(わかってるのに! それでも少しドキッとしちゃうのは不可抗力だ!)
律の返答を聞いた紫藤は、そのまま律の頭をゆるゆると撫で続けている。時折指を髪に絡ませ遊ばせたり髪を梳いたりと、自由な紫藤に律は落ち着かずにそわそわとしてしまう。
「あの……」
「ん?」
「僕の頭撫でて、楽しいですか?」
「そうだね、思ってたより楽しいよ。律くんの反応がね」
どうやら落ち着かない様子は紫藤に筒抜けだったようで、律は思わず顔を隠すように俯いた。
「髪、少し傷んでいるかな……栄養不足もあるだろうけど、睡眠不足もあるね」
そんな律にはお構いなしに、紫藤はさらに律の髪をひと房手に取る。まるで確認するように、その髪を口元へ寄せた。
「ひぇ」
「うん……やっぱり匂いはしないね」
「僕の匂いって、紫藤さんはどう感じてたんですか?」
紫藤の挙動に翻弄されつつも、律は純粋に気になっていたことを尋ねる。その問に、紫藤は少し考えたあと口を開いた。
「……そうだね。とかく甘い、かな? 普段は……そうだな、例えるなら咲いたばかりの香りの強い花」
この家に花など飾っていない。だからこそ、早い段階でこの匂いは律のものだと気づいたらしい。
「発情期中は、その香りが強くなるんだよ。それこそ、噎せ返るような……理性すら持っていかれるほどにね」
自分から聞いておきながら、改めてかなり恥ずかしいことを聞いてしまったと内心慌てる。
「律くんの匂いは嫌いじゃないよ」
それを知ってか知らずか、とどめと言わんばかりにそう告げた紫藤。その言葉に、律の顔にぶわっと熱が集まった。
紫藤の顔を見れば、相変わらず涼しい顔をしている。これは確信犯だと、理解するのは早かった。
「だから、これはもう必要ないかな」
「……は? え、ちょっ、いつの間に!」
ひらひらと目の前で揺れるのは、黒川から処方された薬だった。どうして保管してある場所がわかったのか、おそらく聞いたところでその答えは返ってこないのだろう。
「しばらくは家にいるから、律くんの調子が悪くなっても診てあげられるよ」
だから安心してと綺麗に微笑んだ紫藤。その笑みに律の口元が引きつった。
そもそもが紫藤と離れたことによって起きた分離性不安症候群だ。紫藤が側にいるのならば根本的なことが解決するので、確かに服薬する必要はなくなる。
(紫藤さん、本当は知ってるんじゃないの! 知らなかったとしても、気付いてる気がする!)
黒川がどこまで紫藤に話したのかはわからない。明確に伝えていなかったとしても、紫藤のことだ……彼も大学の医務員であることに変わりはないし、医師免許も所持している。症状や処方された薬で察するところはあるのだろう。しかし、ここは察してほしくはなかったと、律は心の中で盛大に溜息を吐き出した。
「律くんからも聞きたいな」
「な、なにをですか?」
少し考え込んでいたところを、急に現実に引き戻される。相変わらず笑みを浮かべている紫藤に、なにやら嫌な予感がしたのは恐らく気のせいではない。
「律くんは、俺の匂いをどう感じていたか教えてくれるかい?」
そういう予感ほどよく当たるものだ。紫藤を見れば、言うまで離さないと言わんばかりに良い笑顔を浮かべていた。
「俺だけ言うのも不公平だろう?」
「うぅ……は、い」
そこからはもはや羞恥プレイのようだった。普段の香り、発情期に当てられているときの香り、それをどう感じたのか……洗いざらい吐かされたことは忘れてしまいたい記憶のひとつになった。
「べ、別に嫌とかそういうわけじゃないですよ! ただ、ちょっと驚いただけで……」
紫藤がどういった意味でその言葉を口にしたかはわからない。もしかすると、純粋に蘇芳に対しての対抗心の可能性もある。その言葉にそれ以上の深い意味は、紫藤の性格上ないに等しいはずだ。
(わかってるのに! それでも少しドキッとしちゃうのは不可抗力だ!)
律の返答を聞いた紫藤は、そのまま律の頭をゆるゆると撫で続けている。時折指を髪に絡ませ遊ばせたり髪を梳いたりと、自由な紫藤に律は落ち着かずにそわそわとしてしまう。
「あの……」
「ん?」
「僕の頭撫でて、楽しいですか?」
「そうだね、思ってたより楽しいよ。律くんの反応がね」
どうやら落ち着かない様子は紫藤に筒抜けだったようで、律は思わず顔を隠すように俯いた。
「髪、少し傷んでいるかな……栄養不足もあるだろうけど、睡眠不足もあるね」
そんな律にはお構いなしに、紫藤はさらに律の髪をひと房手に取る。まるで確認するように、その髪を口元へ寄せた。
「ひぇ」
「うん……やっぱり匂いはしないね」
「僕の匂いって、紫藤さんはどう感じてたんですか?」
紫藤の挙動に翻弄されつつも、律は純粋に気になっていたことを尋ねる。その問に、紫藤は少し考えたあと口を開いた。
「……そうだね。とかく甘い、かな? 普段は……そうだな、例えるなら咲いたばかりの香りの強い花」
この家に花など飾っていない。だからこそ、早い段階でこの匂いは律のものだと気づいたらしい。
「発情期中は、その香りが強くなるんだよ。それこそ、噎せ返るような……理性すら持っていかれるほどにね」
自分から聞いておきながら、改めてかなり恥ずかしいことを聞いてしまったと内心慌てる。
「律くんの匂いは嫌いじゃないよ」
それを知ってか知らずか、とどめと言わんばかりにそう告げた紫藤。その言葉に、律の顔にぶわっと熱が集まった。
紫藤の顔を見れば、相変わらず涼しい顔をしている。これは確信犯だと、理解するのは早かった。
「だから、これはもう必要ないかな」
「……は? え、ちょっ、いつの間に!」
ひらひらと目の前で揺れるのは、黒川から処方された薬だった。どうして保管してある場所がわかったのか、おそらく聞いたところでその答えは返ってこないのだろう。
「しばらくは家にいるから、律くんの調子が悪くなっても診てあげられるよ」
だから安心してと綺麗に微笑んだ紫藤。その笑みに律の口元が引きつった。
そもそもが紫藤と離れたことによって起きた分離性不安症候群だ。紫藤が側にいるのならば根本的なことが解決するので、確かに服薬する必要はなくなる。
(紫藤さん、本当は知ってるんじゃないの! 知らなかったとしても、気付いてる気がする!)
黒川がどこまで紫藤に話したのかはわからない。明確に伝えていなかったとしても、紫藤のことだ……彼も大学の医務員であることに変わりはないし、医師免許も所持している。症状や処方された薬で察するところはあるのだろう。しかし、ここは察してほしくはなかったと、律は心の中で盛大に溜息を吐き出した。
「律くんからも聞きたいな」
「な、なにをですか?」
少し考え込んでいたところを、急に現実に引き戻される。相変わらず笑みを浮かべている紫藤に、なにやら嫌な予感がしたのは恐らく気のせいではない。
「律くんは、俺の匂いをどう感じていたか教えてくれるかい?」
そういう予感ほどよく当たるものだ。紫藤を見れば、言うまで離さないと言わんばかりに良い笑顔を浮かべていた。
「俺だけ言うのも不公平だろう?」
「うぅ……は、い」
そこからはもはや羞恥プレイのようだった。普段の香り、発情期に当てられているときの香り、それをどう感じたのか……洗いざらい吐かされたことは忘れてしまいたい記憶のひとつになった。
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とても好きです…!関係性も気になりますし続きが楽しみでしかないです!応援しております!
いつも更新楽しみにしてます。
更新ありがとうございます✨
番話なければ になってましたが
番わなければ では?