40 / 41
39
しおりを挟む
それを聞いた律は、違う意味で更に驚かされてしまう。
「べ、別に嫌とかそういうわけじゃないですよ! ただ、ちょっと驚いただけで……」
紫藤がどういった意味でその言葉を口にしたかはわからない。もしかすると、純粋に蘇芳に対しての対抗心の可能性もある。その言葉にそれ以上の深い意味は、紫藤の性格上ないに等しいはずだ。
(わかってるのに! それでも少しドキッとしちゃうのは不可抗力だ!)
律の返答を聞いた紫藤は、そのまま律の頭をゆるゆると撫で続けている。時折指を髪に絡ませ遊ばせたり髪を梳いたりと、自由な紫藤に律は落ち着かずにそわそわとしてしまう。
「あの……」
「ん?」
「僕の頭撫でて、楽しいですか?」
「そうだね、思ってたより楽しいよ。律くんの反応がね」
どうやら落ち着かない様子は紫藤に筒抜けだったようで、律は思わず顔を隠すように俯いた。
「髪、少し傷んでいるかな……栄養不足もあるだろうけど、睡眠不足もあるね」
そんな律にはお構いなしに、紫藤はさらに律の髪をひと房手に取る。まるで確認するように、その髪を口元へ寄せた。
「ひぇ」
「うん……やっぱり匂いはしないね」
「僕の匂いって、紫藤さんはどう感じてたんですか?」
紫藤の挙動に翻弄されつつも、律は純粋に気になっていたことを尋ねる。その問に、紫藤は少し考えたあと口を開いた。
「……そうだね。とかく甘い、かな? 普段は……そうだな、例えるなら咲いたばかりの香りの強い花」
この家に花など飾っていない。だからこそ、早い段階でこの匂いは律のものだと気づいたらしい。
「発情期中は、その香りが強くなるんだよ。それこそ、噎せ返るような……理性すら持っていかれるほどにね」
自分から聞いておきながら、改めてかなり恥ずかしいことを聞いてしまったと内心慌てる。
「律くんの匂いは嫌いじゃないよ」
それを知ってか知らずか、とどめと言わんばかりにそう告げた紫藤。その言葉に、律の顔にぶわっと熱が集まった。
紫藤の顔を見れば、相変わらず涼しい顔をしている。これは確信犯だと、理解するのは早かった。
「だから、これはもう必要ないかな」
「……は? え、ちょっ、いつの間に!」
ひらひらと目の前で揺れるのは、黒川から処方された薬だった。どうして保管してある場所がわかったのか、おそらく聞いたところでその答えは返ってこないのだろう。
「しばらくは家にいるから、律くんの調子が悪くなっても診てあげられるよ」
だから安心してと綺麗に微笑んだ紫藤。その笑みに律の口元が引きつった。
そもそもが紫藤と離れたことによって起きた分離性不安症候群だ。紫藤が側にいるのならば根本的なことが解決するので、確かに服薬する必要はなくなる。
(紫藤さん、本当は知ってるんじゃないの! 知らなかったとしても、気付いてる気がする!)
黒川がどこまで紫藤に話したのかはわからない。明確に伝えていなかったとしても、紫藤のことだ……彼も大学の医務員であることに変わりはないし、医師免許も所持している。症状や処方された薬で察するところはあるのだろう。しかし、ここは察してほしくはなかったと、律は心の中で盛大に溜息を吐き出した。
「律くんからも聞きたいな」
「な、なにをですか?」
少し考え込んでいたところを、急に現実に引き戻される。相変わらず笑みを浮かべている紫藤に、なにやら嫌な予感がしたのは恐らく気のせいではない。
「律くんは、俺の匂いをどう感じていたか教えてくれるかい?」
そういう予感ほどよく当たるものだ。紫藤を見れば、言うまで離さないと言わんばかりに良い笑顔を浮かべていた。
「俺だけ言うのも不公平だろう?」
「うぅ……は、い」
そこからはもはや羞恥プレイのようだった。普段の香り、発情期に当てられているときの香り、それをどう感じたのか……洗いざらい吐かされたことは忘れてしまいたい記憶のひとつになった。
「べ、別に嫌とかそういうわけじゃないですよ! ただ、ちょっと驚いただけで……」
紫藤がどういった意味でその言葉を口にしたかはわからない。もしかすると、純粋に蘇芳に対しての対抗心の可能性もある。その言葉にそれ以上の深い意味は、紫藤の性格上ないに等しいはずだ。
(わかってるのに! それでも少しドキッとしちゃうのは不可抗力だ!)
律の返答を聞いた紫藤は、そのまま律の頭をゆるゆると撫で続けている。時折指を髪に絡ませ遊ばせたり髪を梳いたりと、自由な紫藤に律は落ち着かずにそわそわとしてしまう。
「あの……」
「ん?」
「僕の頭撫でて、楽しいですか?」
「そうだね、思ってたより楽しいよ。律くんの反応がね」
どうやら落ち着かない様子は紫藤に筒抜けだったようで、律は思わず顔を隠すように俯いた。
「髪、少し傷んでいるかな……栄養不足もあるだろうけど、睡眠不足もあるね」
そんな律にはお構いなしに、紫藤はさらに律の髪をひと房手に取る。まるで確認するように、その髪を口元へ寄せた。
「ひぇ」
「うん……やっぱり匂いはしないね」
「僕の匂いって、紫藤さんはどう感じてたんですか?」
紫藤の挙動に翻弄されつつも、律は純粋に気になっていたことを尋ねる。その問に、紫藤は少し考えたあと口を開いた。
「……そうだね。とかく甘い、かな? 普段は……そうだな、例えるなら咲いたばかりの香りの強い花」
この家に花など飾っていない。だからこそ、早い段階でこの匂いは律のものだと気づいたらしい。
「発情期中は、その香りが強くなるんだよ。それこそ、噎せ返るような……理性すら持っていかれるほどにね」
自分から聞いておきながら、改めてかなり恥ずかしいことを聞いてしまったと内心慌てる。
「律くんの匂いは嫌いじゃないよ」
それを知ってか知らずか、とどめと言わんばかりにそう告げた紫藤。その言葉に、律の顔にぶわっと熱が集まった。
紫藤の顔を見れば、相変わらず涼しい顔をしている。これは確信犯だと、理解するのは早かった。
「だから、これはもう必要ないかな」
「……は? え、ちょっ、いつの間に!」
ひらひらと目の前で揺れるのは、黒川から処方された薬だった。どうして保管してある場所がわかったのか、おそらく聞いたところでその答えは返ってこないのだろう。
「しばらくは家にいるから、律くんの調子が悪くなっても診てあげられるよ」
だから安心してと綺麗に微笑んだ紫藤。その笑みに律の口元が引きつった。
そもそもが紫藤と離れたことによって起きた分離性不安症候群だ。紫藤が側にいるのならば根本的なことが解決するので、確かに服薬する必要はなくなる。
(紫藤さん、本当は知ってるんじゃないの! 知らなかったとしても、気付いてる気がする!)
黒川がどこまで紫藤に話したのかはわからない。明確に伝えていなかったとしても、紫藤のことだ……彼も大学の医務員であることに変わりはないし、医師免許も所持している。症状や処方された薬で察するところはあるのだろう。しかし、ここは察してほしくはなかったと、律は心の中で盛大に溜息を吐き出した。
「律くんからも聞きたいな」
「な、なにをですか?」
少し考え込んでいたところを、急に現実に引き戻される。相変わらず笑みを浮かべている紫藤に、なにやら嫌な予感がしたのは恐らく気のせいではない。
「律くんは、俺の匂いをどう感じていたか教えてくれるかい?」
そういう予感ほどよく当たるものだ。紫藤を見れば、言うまで離さないと言わんばかりに良い笑顔を浮かべていた。
「俺だけ言うのも不公平だろう?」
「うぅ……は、い」
そこからはもはや羞恥プレイのようだった。普段の香り、発情期に当てられているときの香り、それをどう感じたのか……洗いざらい吐かされたことは忘れてしまいたい記憶のひとつになった。
47
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
ひとりのはつじょうき
綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。
学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。
2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる