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テレビからは夕時のニュースが流れ出し、アナウンサーが次々にニュースを読み上げていく。内容は毎日流れているソレと変わりのないものばかりだったが、とあるニュースが流れた時に嫌でもその言葉に反応してしまった。
『非人道的なオメガの人身売買に関与していたとみられる男が――』
夕時に流れるニュースとしては随分とディープな内容。しかし、話題性としてはこれ以上ないものなのだろう。アナウンサーが言葉を選びながら、淡々と原稿を読み上げている。
「随分と物騒なニュースだね」
飲み終えたマグカップをテーブルに置きながら、紫藤はさして興味もなさそうな声のトーンで律にそう言った。
「人身売買……本当にそんなことがあるんですね」
自分の身に起きたことではないとはいえ、その言葉だけでゾクリと背筋が冷える。今のこの国のご時世で、そんな漫画や映画の中でしか起こりえないような出来事が行われているなど誰が想像できるだろうか?
「普通に暮らしている人間には、こんな出来事は無縁なことだろうね」
「こんなこと無縁じゃないと困りますよ」
他の国ではまだこれが行われていることは知っているが、少なくともこの国は安全だと思って今まで生きてきた。ベータであった時ならば、このニュースを見ても紫藤のような感想だけでさして興味も抱かずに終わったのかもしれない。
「……怖いのかい?」
「そりゃ、怖いですよ! 僕今オメガなんですから」
「あぁ、でもほら」
テレビから聞こえるアナウンサーの声は、主犯格の男はすでに逮捕されたと報道していた。それにホッとした表情を浮かべた律を見て、紫藤はくすくすと笑っている。
「紫藤さんはアルファだから平気でいられるんですよ!」
一度オメガになってみれば、この気持ちを理解してくれるのではないかと思うのだが……紫藤がオメガになるという想像すら付かなくて、この男は生粋のアルファなのだと実感して少しやるせない気分になった。
「オメガと言えば……律くん」
「なん、ですか?」
「帰ってきてからずっと不思議だったんだけど、発情期は完全に落ち着いたのかい?」
「えぇ、多分ですけど。それがどうしたんですか?」
ソファーから立ち上がり、律の方へ近付いて来る紫藤。なにか考えているのか、腕を組みながら律を見下ろしている。
「あの、紫藤さん? 本当にどうしたんですか?」
「いや、俺の気のせいかもしれないけど……律くんの匂いが全く感じ取れなくてね」
そう言いながら口元はいつも通りに笑っていたが、視線は説明を求めるように律を上から見つめていた。
『非人道的なオメガの人身売買に関与していたとみられる男が――』
夕時に流れるニュースとしては随分とディープな内容。しかし、話題性としてはこれ以上ないものなのだろう。アナウンサーが言葉を選びながら、淡々と原稿を読み上げている。
「随分と物騒なニュースだね」
飲み終えたマグカップをテーブルに置きながら、紫藤はさして興味もなさそうな声のトーンで律にそう言った。
「人身売買……本当にそんなことがあるんですね」
自分の身に起きたことではないとはいえ、その言葉だけでゾクリと背筋が冷える。今のこの国のご時世で、そんな漫画や映画の中でしか起こりえないような出来事が行われているなど誰が想像できるだろうか?
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「……怖いのかい?」
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「あぁ、でもほら」
テレビから聞こえるアナウンサーの声は、主犯格の男はすでに逮捕されたと報道していた。それにホッとした表情を浮かべた律を見て、紫藤はくすくすと笑っている。
「紫藤さんはアルファだから平気でいられるんですよ!」
一度オメガになってみれば、この気持ちを理解してくれるのではないかと思うのだが……紫藤がオメガになるという想像すら付かなくて、この男は生粋のアルファなのだと実感して少しやるせない気分になった。
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「帰ってきてからずっと不思議だったんだけど、発情期は完全に落ち着いたのかい?」
「えぇ、多分ですけど。それがどうしたんですか?」
ソファーから立ち上がり、律の方へ近付いて来る紫藤。なにか考えているのか、腕を組みながら律を見下ろしている。
「あの、紫藤さん? 本当にどうしたんですか?」
「いや、俺の気のせいかもしれないけど……律くんの匂いが全く感じ取れなくてね」
そう言いながら口元はいつも通りに笑っていたが、視線は説明を求めるように律を上から見つめていた。
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