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「時間外なのに、本当にすみません」
「気にしなくていいって。それに、頼ってもらえるのは医者冥利に尽きるよ」
陽が落ちるのが大分遅くなったこの時期だが、診療時間外の診察室から見える窓の景色は闇に包まれている。
この診察室の他の医療スタッフは先に帰らせたのか、迎えてくれたのは黒川のみだった。
検査結果の書かれたカルテを見ていた黒川は、ふぅっと一息吐き出すとカルテから目を離して律の方へ向き直った。
「どう、でした?」
「色々と言いたいことはあるけれど……結論から言ってしまうと、軽度の分離性不安症候群ってやつかな」
「分離性、不安症候群?」
黒川の説明によれば、幼い子などが母親から離れると不安を感じるそれと同じようなものだと言うことらしい。
「君の場合はオメガ性のものだから、少し違うけどね」
オメガ性の分離性不安症候群は、番と離れたオメガに起こりやすい。希にではあるが、重症なものだと衰弱死した例もあるそうだ。
「僕、紫藤さんとは番になってないですよ?」
「それは音無くんが、伊織先輩を運命の番と認識してしまっているからじゃないかな」
普通のオメガであれば、番わなければこんなことにはならなかったのかもしれない。運命の番と言うだけで、好かれているかもわからない相手にここまで振り回されなければならないなんて。運命の番というものは本当に厄介極まりないシステムだと改めて再認識した。
「で、伊織先輩はまだ家には帰ってこない?」
「そうですね。構内に紫藤さんの匂いがするから、医務室にいるって言うのはわかってるんですけど」
「そっか……」
困ったように笑う黒川に、律も釣られて苦笑する。
「伊織先輩には困ったものだけど、このままだと音無くんも辛いよね」
再びカルテに目を移した黒川は暫く考えんでいたが、なにか思い付いたのかパソコンに文字を打ち込み始めた。
「音無くん、大分オメガとして安定してきてるみたいだから大丈夫かな」
静かな診察室にカチカチとキーボードの音が響く。医療方面には疎いので、パソコン画面に打ち込まれたカタカナの羅列が何なのかは、律にはわからない。
「それに、その顔色の悪さ……これ以上症状が続くようなら入院も考えないと」
「僕、そんなに体調悪そうに見えます?」
「見えるから言ってるんだよ」
間髪入れずにピシャリと言われてしまった。友人にすらそう言われるのだから、医者である黒川の目にもやはりそう映っているのだろう。
「分離性不安症候群の他にも、軽いけど栄養失調も起こしてるし……」
「栄養……」
栄養面に関しては思い当たることしかないのでぐうの音も出ない。
「目の下に隈もできてるから、ちゃんと眠れてないんだろう? それのせいもあって症状が悪化してるところもあるんだよ」
まだ大丈夫だと思っていた律だったが、医者の診断では全然大丈夫ではないという結果が出てしまった。
あの時に黒川に連絡を取っていなければ、最悪倒れていたのかもしれない。体調の悪さに気付いてくれた友人には感謝しかなかった。
「気にしなくていいって。それに、頼ってもらえるのは医者冥利に尽きるよ」
陽が落ちるのが大分遅くなったこの時期だが、診療時間外の診察室から見える窓の景色は闇に包まれている。
この診察室の他の医療スタッフは先に帰らせたのか、迎えてくれたのは黒川のみだった。
検査結果の書かれたカルテを見ていた黒川は、ふぅっと一息吐き出すとカルテから目を離して律の方へ向き直った。
「どう、でした?」
「色々と言いたいことはあるけれど……結論から言ってしまうと、軽度の分離性不安症候群ってやつかな」
「分離性、不安症候群?」
黒川の説明によれば、幼い子などが母親から離れると不安を感じるそれと同じようなものだと言うことらしい。
「君の場合はオメガ性のものだから、少し違うけどね」
オメガ性の分離性不安症候群は、番と離れたオメガに起こりやすい。希にではあるが、重症なものだと衰弱死した例もあるそうだ。
「僕、紫藤さんとは番になってないですよ?」
「それは音無くんが、伊織先輩を運命の番と認識してしまっているからじゃないかな」
普通のオメガであれば、番わなければこんなことにはならなかったのかもしれない。運命の番と言うだけで、好かれているかもわからない相手にここまで振り回されなければならないなんて。運命の番というものは本当に厄介極まりないシステムだと改めて再認識した。
「で、伊織先輩はまだ家には帰ってこない?」
「そうですね。構内に紫藤さんの匂いがするから、医務室にいるって言うのはわかってるんですけど」
「そっか……」
困ったように笑う黒川に、律も釣られて苦笑する。
「伊織先輩には困ったものだけど、このままだと音無くんも辛いよね」
再びカルテに目を移した黒川は暫く考えんでいたが、なにか思い付いたのかパソコンに文字を打ち込み始めた。
「音無くん、大分オメガとして安定してきてるみたいだから大丈夫かな」
静かな診察室にカチカチとキーボードの音が響く。医療方面には疎いので、パソコン画面に打ち込まれたカタカナの羅列が何なのかは、律にはわからない。
「それに、その顔色の悪さ……これ以上症状が続くようなら入院も考えないと」
「僕、そんなに体調悪そうに見えます?」
「見えるから言ってるんだよ」
間髪入れずにピシャリと言われてしまった。友人にすらそう言われるのだから、医者である黒川の目にもやはりそう映っているのだろう。
「分離性不安症候群の他にも、軽いけど栄養失調も起こしてるし……」
「栄養……」
栄養面に関しては思い当たることしかないのでぐうの音も出ない。
「目の下に隈もできてるから、ちゃんと眠れてないんだろう? それのせいもあって症状が悪化してるところもあるんだよ」
まだ大丈夫だと思っていた律だったが、医者の診断では全然大丈夫ではないという結果が出てしまった。
あの時に黒川に連絡を取っていなければ、最悪倒れていたのかもしれない。体調の悪さに気付いてくれた友人には感謝しかなかった。
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