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暫くすると、玄関のドアが開いた音が聞こえ、それを聞いた律は、そのままポスンっと後ろへ倒れこむようにベッドに横になる。
「別に、付き合ってるわけでもないから……いいんだけどさ」
事後の余韻が欲しいわけではないし、ピロートークをして欲しいなんて思ってもいない。紫藤だってそんなことを進んでするような人間ではないのはわかっている。律も頭ではちゃんと理解していた。
「必要以上は馴れ合わないというか……淡泊?」
淡泊と言うよりは、そういったことに興味がないのかもしれない。確かに、紫藤が事後に相手を気遣って甘い睦言を囁いているところなど、想像することすら難しかった。もしかすると、以前付き合っていた恋人がいたのなら、していたのかもしれないが……
理由はどうあれ、水を持ってきてくれただけでも奇跡なのではないかとすら感じてしまう。
ぼーっと天井を見つめながら、それでも少し残念だと感じている自分に、律は小さくため息を吐き出した。
(運命の番だから、こうやって紫藤さんのことが気になるのかな)
行為中に避妊具も付けずに好き勝手され挙げ句、事後にこちらの許可もなくアフターピルを飲ませてくるような男を好きになる。普通に考えれば、そんな酷い男を好きになるはずもない。ましてや同性なのだから尚更。
「あの人を好きになっても、幸せになる未来が全く見えないや……」
関心を持たれず、振り回されて傷付いて捨てられそうな予感しかしない。律は最悪の未来を想像して、先程より深い溜息を吐き出した。紫藤のことを一から十まで知っているわけではないので、最悪の未来は律の勝手な妄想に過ぎないのだが。
(子供ができたら? 少しは僕の方に関心を持ってくれる?)
メンタルが重たい女のような考えになってしまい、バツが悪くなった律は両腕で顔を隠すように覆った。
「これはオメガだから! きっと発情期収まってないんだこれ!」
誰もいない部屋で言い訳を並べながら独りごちる。
紫藤が気になるのは運命の番のせいで、少しでも関心を持たれたいと感じるのは、発情期が収まっていないから。そう言うことにしておかなければ、自分の中の何かが崩れていきそうな気がして、心のどこかで少し恐怖心を覚えた。
(望は――)
従兄弟の彼は、こんな風に悩んだりするのだろうか。そう考えたところで、それはないと即座に答えが出てしまった。
彼は番にとても愛されている。以前会ったときに、望から弱音や愚痴などなかったのだから。
「羨ましい、って思っちゃうのがダメなんだよね!」
他所は他所、うちはうち。隣の芝が青く見えてしまうのは仕方のないことだが、こればっかりはどうにもならないのだから諦める他ない。
腕の隙間からちらりと見えた時計の針は、無慈悲にも講義が始まる時刻を指していた。それを見ぬ振りをして、律は再び布団を被って二度寝を決め込む。
この状態で大学へ行くのは気が引けてしまうし、何より本当に発情期が収まったのかどうかもわからない。そんな状態で外に出て、昨日のようなことがあったら……
「様子見で二、三日休んでもバチは当たらないよね」
思い出すだけでゾッとしてしまい、思わず紫藤のシャツをギュッと抱きしめた。
(紫藤さんの匂い、納得いかないけど落ち着く)
もやもやとするのは紫藤のせいなのに、その紫藤の匂いで安心してしまう矛盾に苛まれる。
「あー……もう、ダメだ。頭が働かない。寝よう」
色々と考えることに疲れた律は、そのままシャツを抱え込んだまま固く目を閉じた。そうすると紫藤の匂いを強く感じ、まるで横に居るようにすら感じ取れた。
そのせいか昨晩の情事を思い出してしまい、結局は眠ることができずに悶々としながら時間だけが過ぎていった。
「別に、付き合ってるわけでもないから……いいんだけどさ」
事後の余韻が欲しいわけではないし、ピロートークをして欲しいなんて思ってもいない。紫藤だってそんなことを進んでするような人間ではないのはわかっている。律も頭ではちゃんと理解していた。
「必要以上は馴れ合わないというか……淡泊?」
淡泊と言うよりは、そういったことに興味がないのかもしれない。確かに、紫藤が事後に相手を気遣って甘い睦言を囁いているところなど、想像することすら難しかった。もしかすると、以前付き合っていた恋人がいたのなら、していたのかもしれないが……
理由はどうあれ、水を持ってきてくれただけでも奇跡なのではないかとすら感じてしまう。
ぼーっと天井を見つめながら、それでも少し残念だと感じている自分に、律は小さくため息を吐き出した。
(運命の番だから、こうやって紫藤さんのことが気になるのかな)
行為中に避妊具も付けずに好き勝手され挙げ句、事後にこちらの許可もなくアフターピルを飲ませてくるような男を好きになる。普通に考えれば、そんな酷い男を好きになるはずもない。ましてや同性なのだから尚更。
「あの人を好きになっても、幸せになる未来が全く見えないや……」
関心を持たれず、振り回されて傷付いて捨てられそうな予感しかしない。律は最悪の未来を想像して、先程より深い溜息を吐き出した。紫藤のことを一から十まで知っているわけではないので、最悪の未来は律の勝手な妄想に過ぎないのだが。
(子供ができたら? 少しは僕の方に関心を持ってくれる?)
メンタルが重たい女のような考えになってしまい、バツが悪くなった律は両腕で顔を隠すように覆った。
「これはオメガだから! きっと発情期収まってないんだこれ!」
誰もいない部屋で言い訳を並べながら独りごちる。
紫藤が気になるのは運命の番のせいで、少しでも関心を持たれたいと感じるのは、発情期が収まっていないから。そう言うことにしておかなければ、自分の中の何かが崩れていきそうな気がして、心のどこかで少し恐怖心を覚えた。
(望は――)
従兄弟の彼は、こんな風に悩んだりするのだろうか。そう考えたところで、それはないと即座に答えが出てしまった。
彼は番にとても愛されている。以前会ったときに、望から弱音や愚痴などなかったのだから。
「羨ましい、って思っちゃうのがダメなんだよね!」
他所は他所、うちはうち。隣の芝が青く見えてしまうのは仕方のないことだが、こればっかりはどうにもならないのだから諦める他ない。
腕の隙間からちらりと見えた時計の針は、無慈悲にも講義が始まる時刻を指していた。それを見ぬ振りをして、律は再び布団を被って二度寝を決め込む。
この状態で大学へ行くのは気が引けてしまうし、何より本当に発情期が収まったのかどうかもわからない。そんな状態で外に出て、昨日のようなことがあったら……
「様子見で二、三日休んでもバチは当たらないよね」
思い出すだけでゾッとしてしまい、思わず紫藤のシャツをギュッと抱きしめた。
(紫藤さんの匂い、納得いかないけど落ち着く)
もやもやとするのは紫藤のせいなのに、その紫藤の匂いで安心してしまう矛盾に苛まれる。
「あー……もう、ダメだ。頭が働かない。寝よう」
色々と考えることに疲れた律は、そのままシャツを抱え込んだまま固く目を閉じた。そうすると紫藤の匂いを強く感じ、まるで横に居るようにすら感じ取れた。
そのせいか昨晩の情事を思い出してしまい、結局は眠ることができずに悶々としながら時間だけが過ぎていった。
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