27 / 41
26
しおりを挟む
暫くすると、玄関のドアが開いた音が聞こえ、それを聞いた律は、そのままポスンっと後ろへ倒れこむようにベッドに横になる。
「別に、付き合ってるわけでもないから……いいんだけどさ」
事後の余韻が欲しいわけではないし、ピロートークをして欲しいなんて思ってもいない。紫藤だってそんなことを進んでするような人間ではないのはわかっている。律も頭ではちゃんと理解していた。
「必要以上は馴れ合わないというか……淡泊?」
淡泊と言うよりは、そういったことに興味がないのかもしれない。確かに、紫藤が事後に相手を気遣って甘い睦言を囁いているところなど、想像することすら難しかった。もしかすると、以前付き合っていた恋人がいたのなら、していたのかもしれないが……
理由はどうあれ、水を持ってきてくれただけでも奇跡なのではないかとすら感じてしまう。
ぼーっと天井を見つめながら、それでも少し残念だと感じている自分に、律は小さくため息を吐き出した。
(運命の番だから、こうやって紫藤さんのことが気になるのかな)
行為中に避妊具も付けずに好き勝手され挙げ句、事後にこちらの許可もなくアフターピルを飲ませてくるような男を好きになる。普通に考えれば、そんな酷い男を好きになるはずもない。ましてや同性なのだから尚更。
「あの人を好きになっても、幸せになる未来が全く見えないや……」
関心を持たれず、振り回されて傷付いて捨てられそうな予感しかしない。律は最悪の未来を想像して、先程より深い溜息を吐き出した。紫藤のことを一から十まで知っているわけではないので、最悪の未来は律の勝手な妄想に過ぎないのだが。
(子供ができたら? 少しは僕の方に関心を持ってくれる?)
メンタルが重たい女のような考えになってしまい、バツが悪くなった律は両腕で顔を隠すように覆った。
「これはオメガだから! きっと発情期収まってないんだこれ!」
誰もいない部屋で言い訳を並べながら独りごちる。
紫藤が気になるのは運命の番のせいで、少しでも関心を持たれたいと感じるのは、発情期が収まっていないから。そう言うことにしておかなければ、自分の中の何かが崩れていきそうな気がして、心のどこかで少し恐怖心を覚えた。
(望は――)
従兄弟の彼は、こんな風に悩んだりするのだろうか。そう考えたところで、それはないと即座に答えが出てしまった。
彼は番にとても愛されている。以前会ったときに、望から弱音や愚痴などなかったのだから。
「羨ましい、って思っちゃうのがダメなんだよね!」
他所は他所、うちはうち。隣の芝が青く見えてしまうのは仕方のないことだが、こればっかりはどうにもならないのだから諦める他ない。
腕の隙間からちらりと見えた時計の針は、無慈悲にも講義が始まる時刻を指していた。それを見ぬ振りをして、律は再び布団を被って二度寝を決め込む。
この状態で大学へ行くのは気が引けてしまうし、何より本当に発情期が収まったのかどうかもわからない。そんな状態で外に出て、昨日のようなことがあったら……
「様子見で二、三日休んでもバチは当たらないよね」
思い出すだけでゾッとしてしまい、思わず紫藤のシャツをギュッと抱きしめた。
(紫藤さんの匂い、納得いかないけど落ち着く)
もやもやとするのは紫藤のせいなのに、その紫藤の匂いで安心してしまう矛盾に苛まれる。
「あー……もう、ダメだ。頭が働かない。寝よう」
色々と考えることに疲れた律は、そのままシャツを抱え込んだまま固く目を閉じた。そうすると紫藤の匂いを強く感じ、まるで横に居るようにすら感じ取れた。
そのせいか昨晩の情事を思い出してしまい、結局は眠ることができずに悶々としながら時間だけが過ぎていった。
「別に、付き合ってるわけでもないから……いいんだけどさ」
事後の余韻が欲しいわけではないし、ピロートークをして欲しいなんて思ってもいない。紫藤だってそんなことを進んでするような人間ではないのはわかっている。律も頭ではちゃんと理解していた。
「必要以上は馴れ合わないというか……淡泊?」
淡泊と言うよりは、そういったことに興味がないのかもしれない。確かに、紫藤が事後に相手を気遣って甘い睦言を囁いているところなど、想像することすら難しかった。もしかすると、以前付き合っていた恋人がいたのなら、していたのかもしれないが……
理由はどうあれ、水を持ってきてくれただけでも奇跡なのではないかとすら感じてしまう。
ぼーっと天井を見つめながら、それでも少し残念だと感じている自分に、律は小さくため息を吐き出した。
(運命の番だから、こうやって紫藤さんのことが気になるのかな)
行為中に避妊具も付けずに好き勝手され挙げ句、事後にこちらの許可もなくアフターピルを飲ませてくるような男を好きになる。普通に考えれば、そんな酷い男を好きになるはずもない。ましてや同性なのだから尚更。
「あの人を好きになっても、幸せになる未来が全く見えないや……」
関心を持たれず、振り回されて傷付いて捨てられそうな予感しかしない。律は最悪の未来を想像して、先程より深い溜息を吐き出した。紫藤のことを一から十まで知っているわけではないので、最悪の未来は律の勝手な妄想に過ぎないのだが。
(子供ができたら? 少しは僕の方に関心を持ってくれる?)
メンタルが重たい女のような考えになってしまい、バツが悪くなった律は両腕で顔を隠すように覆った。
「これはオメガだから! きっと発情期収まってないんだこれ!」
誰もいない部屋で言い訳を並べながら独りごちる。
紫藤が気になるのは運命の番のせいで、少しでも関心を持たれたいと感じるのは、発情期が収まっていないから。そう言うことにしておかなければ、自分の中の何かが崩れていきそうな気がして、心のどこかで少し恐怖心を覚えた。
(望は――)
従兄弟の彼は、こんな風に悩んだりするのだろうか。そう考えたところで、それはないと即座に答えが出てしまった。
彼は番にとても愛されている。以前会ったときに、望から弱音や愚痴などなかったのだから。
「羨ましい、って思っちゃうのがダメなんだよね!」
他所は他所、うちはうち。隣の芝が青く見えてしまうのは仕方のないことだが、こればっかりはどうにもならないのだから諦める他ない。
腕の隙間からちらりと見えた時計の針は、無慈悲にも講義が始まる時刻を指していた。それを見ぬ振りをして、律は再び布団を被って二度寝を決め込む。
この状態で大学へ行くのは気が引けてしまうし、何より本当に発情期が収まったのかどうかもわからない。そんな状態で外に出て、昨日のようなことがあったら……
「様子見で二、三日休んでもバチは当たらないよね」
思い出すだけでゾッとしてしまい、思わず紫藤のシャツをギュッと抱きしめた。
(紫藤さんの匂い、納得いかないけど落ち着く)
もやもやとするのは紫藤のせいなのに、その紫藤の匂いで安心してしまう矛盾に苛まれる。
「あー……もう、ダメだ。頭が働かない。寝よう」
色々と考えることに疲れた律は、そのままシャツを抱え込んだまま固く目を閉じた。そうすると紫藤の匂いを強く感じ、まるで横に居るようにすら感じ取れた。
そのせいか昨晩の情事を思い出してしまい、結局は眠ることができずに悶々としながら時間だけが過ぎていった。
12
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
あなたが愛してくれたから
水無瀬 蒼
BL
溺愛α×β(→Ω)
独自設定あり
◇◇◇◇◇◇
Ωの名門・加賀美に産まれたβの優斗。
Ωに産まれなかったため、出来損ない、役立たずと言われて育ってきた。
そんな優斗に告白してきたのは、Kコーポレーションの御曹司・αの如月樹。
Ωに産まれなかった優斗は、幼い頃から母にΩになるようにホルモン剤を投与されてきた。
しかし、優斗はΩになることはなかったし、出来損ないでもβで良いと思っていた。
だが、樹と付き合うようになり、愛情を注がれるようになってからΩになりたいと思うようになった。
そしてダメ元で試した結果、βから後天性Ωに。
これで、樹と幸せに暮らせると思っていたが……
◇◇◇◇◇◇
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる