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(あー……もう、恥ずかしい)

 羞恥に耐えきれずにジタバタと身悶えていると、律は自分の身体の下に何かを抱え込んでいたことに気付く。引っ張り上げて見れば皺が付いた黒い布で、その匂いの濃さから昨夜紫藤が着ていたシャツだと理解する。

「……すごい匂いが濃いや」

 そっとシャツに顔を寄せれば、自分の運命の番のものだからなのか、とても安心できる香りがした。行為中は理性を奪われるような香りなのに、今は逆に精神を安定させてくれる不思議な匂いだと律は思った。

「ひっ、ぁ!」
「随分可愛らしいことをしてるじゃないか?」

 紫藤のシャツに顔を埋めていた律の首筋を、持ち主である紫藤の指がつぅっと撫でる。それに驚いた律の肩は大きく跳ね上がった。

「し、紫藤さん!?」
「まだ発情期が治まっていないのかな? それとも、物足りなかったかい?」
「ち、違います! もう治まってますし十分すぎるくらい足りてます!」

 見られていた気恥ずかしさから、バッと起き上がってあわあわと手を振りながら慌てて否定をする。
 腰が痛いとか声が掠れるとか、それすら瑣末事になってしまうくらい羞恥心が上回っている。事後だからなのか、紫藤のシャツの匂いを嗅いでいたところをみられたからなのかはわからないが、兎にも角にも穴があったら入ってしまいたい。もしくは、布団を被って隠れてしまいたい衝動に駆られていた。

「それだけ元気なら大丈夫そうだね。ちょっとこっちを向いてくれるかい?」
「うぅ、恥ずかしい」

 羞恥に耐えながら紫藤の方へ視線を向ければ、彼の手には水の入ったコップが握られていた。
 ゆっくりとベッドサイドへ近付き、そのコップを律に手渡すのかと思いきや、紫藤はその水を自分の口に含んでそのまま律へ口付けた。

「んっ……、んぅ!」

 律の顎をクイっと持ち上げると、そのまま口移しで水を流し込む。ゴクリと律の喉が鳴るのを確認してから、紫藤はそっと律から離れていく。

「上手に飲めたね」
「い、いきなり何するんですか!」

 紫藤の突然の行動に律は慌てふためく。当の本人は悪びれるでもなく、いつも通りの笑みを浮かべて律を見ている。

「もっといるかい?」
「欲しいですけど、自分で……っん!」

 自分で飲むと言いかけたところで、再び紫藤の唇に塞がれてしまう。水と一緒に何かが口内に入ってきたが、それが何かを確認することも出来ずにそのまま飲み込んでしまう。離れる際には、紫藤の舌が悪戯をするように舌を絡めていったために、意図せず声が上がってしまった。

「ちょっ、紫藤さん!」
「ごめんごめん、ちょっと意地悪しすぎたかな」

 そう言って反省なんて微塵もしていないのは、とうに学習済みだ。そんなことよりも気になるのが、水と一緒に流し込まれたもの。

「それより、今何を……」
「そんな顔をしなくても、前にも飲んだことがあるものだよ」

 コップを持っている反対側の指の間に挟まっていたのは、錠剤の入っていたであろうアルミのシートだった。
 記憶の糸を手繰り、いつそんな薬を飲んだかを思い出してみる律だが、答えに行き当たると再び顔を赤くさせた。

「理解できたのなら何よりかな。さて、と……悪いけど、急用が入っていてね。しばらくはここには帰らないから、食事はいらないよ」
「え……」

 突然のことに思考が付いていかないが、そんな律にはお構いなしに紫藤は律から離れていく。

「大学には顔を出しているから、何かあったらおいで。」

 それだけ言い残し、紫藤は呆然としている律を置いて部屋を出て行った。
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