25 / 41
24
しおりを挟む
今までに感じたことがない疲労と倦怠感が全身を襲う。瞼も身体も鉛のように重たく、指一本動かすことすら億劫なほどだ。しかし、身体と精神的な部分が満たされて、どこか満足感が広がっていた。
(身体、痛い)
できればこのまま惰眠を貪りたいところではあったが、すぐ近くから聞こえる話し声が律の意識を覚醒へと誘う。
声の主は抑揚のない声で淡々と喋っている。まだぼうっとした頭の為か、何を話しているのか会話の内容までは聞き取ることができなかった。
「厄介ごとは御免なんだけれどね……いいよ、今回は――」
やっとのことで重たい瞼を持ち上げれば、律に気付いた紫藤と視線がかち合った。
一言二言なにかを相手に伝えた後、電話を終えた紫藤は端末をズボンの後ろポケットへしまい込む。
「具合はどう、かな?」
穏やかな声が耳に心地よく響く。ベッドサイドへ腰掛けた紫藤は、律の顔に張り付いている髪をそっと払い、その動作に律はうっとりと目を瞑る。
「だいじょ……ゲホゲホッ!」
大丈夫だと言いたかったのだが、喉がカラカラして声を上手く出すことができずに、代わりに咳き込んで返事を返す羽目になった。
「あれだけ良い声で啼いていたからね、声も枯れるよ」
「っ!」
くすくすと笑われながら伊織に背を撫でられる。律は己の痴態を思い出し、羞恥に耐えきれずに枕に顔を埋めてた。
「そんなに隠れることはないだろう? 夜はあんなに積極的に俺を求めてくれていたのに」
「い、言わないでください!」
大声を上げた律は、げほげほと再び咳き込んでしまう。昨晩はいくら発情期が起きていたとはいえ、自分でも信じられないほど淫猥で別人にでもなったようだった。
「うぅ……忘れてほしい」
「あの色欲を唆る姿は、中々に忘れられないかな」
「そこは素直に忘れてほしかったです!」
「ほら、そんなに大声を出すと……今度は声が出なくなるよ? 少し待っていてくれるかい?」
未だ枕に顔を埋めている律の頭をひと撫ですると、紫藤は部屋を出ていった。
部屋に一人取り残された律の頭の中は、昨晩の出来事でいっぱいだった。
(発情期になるだけで、あんなに自制が効かなくなるものなの?)
前回の初めての発情期より更に強くオメガの性質が現れた気がするのは、恐らく気のせいではないのだろう。
本来ならば、発情期は一週間ほど続くはずだと聞いている。律はまだオメガとして安定していないからなのか、前回に引き続き軽い発情期で済んでいる。
(一週間もあんな風になるの? 無理だって!)
思い返すだけでも顔が沸騰してしまいそうなくらいに熱くなってしまう。たった一日でこうなのに、それが一週間も続いたらどうなってしまうのか。
世のオメガ達は本当に大変な思いをしているのだと、改めて痛感した。
(身体、痛い)
できればこのまま惰眠を貪りたいところではあったが、すぐ近くから聞こえる話し声が律の意識を覚醒へと誘う。
声の主は抑揚のない声で淡々と喋っている。まだぼうっとした頭の為か、何を話しているのか会話の内容までは聞き取ることができなかった。
「厄介ごとは御免なんだけれどね……いいよ、今回は――」
やっとのことで重たい瞼を持ち上げれば、律に気付いた紫藤と視線がかち合った。
一言二言なにかを相手に伝えた後、電話を終えた紫藤は端末をズボンの後ろポケットへしまい込む。
「具合はどう、かな?」
穏やかな声が耳に心地よく響く。ベッドサイドへ腰掛けた紫藤は、律の顔に張り付いている髪をそっと払い、その動作に律はうっとりと目を瞑る。
「だいじょ……ゲホゲホッ!」
大丈夫だと言いたかったのだが、喉がカラカラして声を上手く出すことができずに、代わりに咳き込んで返事を返す羽目になった。
「あれだけ良い声で啼いていたからね、声も枯れるよ」
「っ!」
くすくすと笑われながら伊織に背を撫でられる。律は己の痴態を思い出し、羞恥に耐えきれずに枕に顔を埋めてた。
「そんなに隠れることはないだろう? 夜はあんなに積極的に俺を求めてくれていたのに」
「い、言わないでください!」
大声を上げた律は、げほげほと再び咳き込んでしまう。昨晩はいくら発情期が起きていたとはいえ、自分でも信じられないほど淫猥で別人にでもなったようだった。
「うぅ……忘れてほしい」
「あの色欲を唆る姿は、中々に忘れられないかな」
「そこは素直に忘れてほしかったです!」
「ほら、そんなに大声を出すと……今度は声が出なくなるよ? 少し待っていてくれるかい?」
未だ枕に顔を埋めている律の頭をひと撫ですると、紫藤は部屋を出ていった。
部屋に一人取り残された律の頭の中は、昨晩の出来事でいっぱいだった。
(発情期になるだけで、あんなに自制が効かなくなるものなの?)
前回の初めての発情期より更に強くオメガの性質が現れた気がするのは、恐らく気のせいではないのだろう。
本来ならば、発情期は一週間ほど続くはずだと聞いている。律はまだオメガとして安定していないからなのか、前回に引き続き軽い発情期で済んでいる。
(一週間もあんな風になるの? 無理だって!)
思い返すだけでも顔が沸騰してしまいそうなくらいに熱くなってしまう。たった一日でこうなのに、それが一週間も続いたらどうなってしまうのか。
世のオメガ達は本当に大変な思いをしているのだと、改めて痛感した。
12
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる