18 / 41
17
しおりを挟む
想像していた通りの返事に、律はキュッと小さく拳を握る。
「と言いたいのは山々なんだけどね……つい最近、その手の話を聞いたばかりなんだ」
「え、それじゃあ」
「俺自身、正直身を持って体感したわけじゃないから……信じているかと言われたら信じていない」
それでも、実在することは認めざるを得ない。紫藤のその返事で、律の緊張が解れていく。
「律くんも興味があるのかい?」
「え、ええ。どんなものなんだろうっていう程度には」
あなたが僕の運命の番かもしれないです。なんて言うことは口が裂けても言えるわけがなかった。
先ほどの口ぶりからして、紫藤は律に対して特に特別なものを感じているわけではない。律の方が一方的にそうだと認識をしているだけだ。
「アルファもオメガも個体数自体が少ないから、お互いが出会う確率だってほんの少しの可能性に過ぎない」
その中で更に運命の番となる相手に出会える確率なんて、きっと宝くじに当選するより難しいことなんだろう。
「そんな天文学的な数字の運命より、偶然にも出会えた手近なアルファと番った方が幸せになれるんじゃないかな」
冗談なのか本気なのか。恐らく冗談なのだろうけれど。手近なアルファ……つまり、遠回しに紫藤は自分と番になった方が良いと言っているのだろう。
「紫藤さん、それ本気で言ってるんですか?」
「本気には聞こえなかったかな?」
結構優良物件だと思うよ、と言いながら紫藤はニコニコとしている。
確かに、一般的に見ればアルファでルックスも良く医者の資格も持っているとなれば、かなりの好物件だとは思う。
ただし、それは紫藤の表面上だけの話であり、中身は優良どころか正反対だと言える。決しておすすめ物件としては紹介されたくない。
(事故物件よりタチが悪そう)
紫藤と番になったとして、はたして幸せになれるのかと疑問符が浮かんでしまう。
「キミのその変異体質にだって理解もある……俺もキミを理由に他の交際を断れる」
お互い好都合だろう? と言うが、大方の理由は後者のほうが圧倒的に大きい気がする。要は律を理由に、縁談や寄ってくる女性をかわす理由が欲しいにすぎない。
「僕は紫藤さんの虫除けじゃないんですけどね!」
「残念、フラれちゃったかな」
虫除けを否定しない辺りが、本当にそう言うところだぞと言ってやりたかった。
この後も他愛ない会話をしたが、半分以上紫藤にいいように遇らわれてしまい、部屋を出る頃にはどっと疲労感が律を包んだ。
(でもまあ、聞きたいことは聞けたから良しとしよう)
当初の目的は果たせたと割り切った律は、割り当てられた自室へと戻り明日からの家事をどうしていこうか考えを巡らせた。
後日、生活費として紫藤から渡された通帳の金額を見て目を回したのは余談だ。
「と言いたいのは山々なんだけどね……つい最近、その手の話を聞いたばかりなんだ」
「え、それじゃあ」
「俺自身、正直身を持って体感したわけじゃないから……信じているかと言われたら信じていない」
それでも、実在することは認めざるを得ない。紫藤のその返事で、律の緊張が解れていく。
「律くんも興味があるのかい?」
「え、ええ。どんなものなんだろうっていう程度には」
あなたが僕の運命の番かもしれないです。なんて言うことは口が裂けても言えるわけがなかった。
先ほどの口ぶりからして、紫藤は律に対して特に特別なものを感じているわけではない。律の方が一方的にそうだと認識をしているだけだ。
「アルファもオメガも個体数自体が少ないから、お互いが出会う確率だってほんの少しの可能性に過ぎない」
その中で更に運命の番となる相手に出会える確率なんて、きっと宝くじに当選するより難しいことなんだろう。
「そんな天文学的な数字の運命より、偶然にも出会えた手近なアルファと番った方が幸せになれるんじゃないかな」
冗談なのか本気なのか。恐らく冗談なのだろうけれど。手近なアルファ……つまり、遠回しに紫藤は自分と番になった方が良いと言っているのだろう。
「紫藤さん、それ本気で言ってるんですか?」
「本気には聞こえなかったかな?」
結構優良物件だと思うよ、と言いながら紫藤はニコニコとしている。
確かに、一般的に見ればアルファでルックスも良く医者の資格も持っているとなれば、かなりの好物件だとは思う。
ただし、それは紫藤の表面上だけの話であり、中身は優良どころか正反対だと言える。決しておすすめ物件としては紹介されたくない。
(事故物件よりタチが悪そう)
紫藤と番になったとして、はたして幸せになれるのかと疑問符が浮かんでしまう。
「キミのその変異体質にだって理解もある……俺もキミを理由に他の交際を断れる」
お互い好都合だろう? と言うが、大方の理由は後者のほうが圧倒的に大きい気がする。要は律を理由に、縁談や寄ってくる女性をかわす理由が欲しいにすぎない。
「僕は紫藤さんの虫除けじゃないんですけどね!」
「残念、フラれちゃったかな」
虫除けを否定しない辺りが、本当にそう言うところだぞと言ってやりたかった。
この後も他愛ない会話をしたが、半分以上紫藤にいいように遇らわれてしまい、部屋を出る頃にはどっと疲労感が律を包んだ。
(でもまあ、聞きたいことは聞けたから良しとしよう)
当初の目的は果たせたと割り切った律は、割り当てられた自室へと戻り明日からの家事をどうしていこうか考えを巡らせた。
後日、生活費として紫藤から渡された通帳の金額を見て目を回したのは余談だ。
13
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる