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 想像していた通りの返事に、律はキュッと小さく拳を握る。

「と言いたいのは山々なんだけどね……つい最近、その手の話を聞いたばかりなんだ」
「え、それじゃあ」
「俺自身、正直身を持って体感したわけじゃないから……信じているかと言われたら信じていない」

 それでも、実在することは認めざるを得ない。紫藤のその返事で、律の緊張が解れていく。

「律くんも興味があるのかい?」
「え、ええ。どんなものなんだろうっていう程度には」

 あなたが僕の運命の番かもしれないです。なんて言うことは口が裂けても言えるわけがなかった。
 先ほどの口ぶりからして、紫藤は律に対して特に特別なものを感じているわけではない。律の方が一方的にそうだと認識をしているだけだ。

「アルファもオメガも個体数自体が少ないから、お互いが出会う確率だってほんの少しの可能性に過ぎない」

 その中で更に運命の番となる相手に出会える確率なんて、きっと宝くじに当選するより難しいことなんだろう。

「そんな天文学的な数字の運命より、と番った方が幸せになれるんじゃないかな」

 冗談なのか本気なのか。恐らく冗談なのだろうけれど。手近なアルファ……つまり、遠回しに紫藤は自分と番になった方が良いと言っているのだろう。

「紫藤さん、それ本気で言ってるんですか?」
「本気には聞こえなかったかな?」

 結構優良物件だと思うよ、と言いながら紫藤はニコニコとしている。
 確かに、一般的に見ればアルファでルックスも良く医者の資格も持っているとなれば、かなりの好物件だとは思う。
 ただし、それは紫藤の表面上だけの話であり、中身は優良どころか正反対だと言える。決しておすすめ物件としては紹介されたくない。

(事故物件よりタチが悪そう)

 紫藤と番になったとして、はたして幸せになれるのかと疑問符が浮かんでしまう。

「キミのその変異体質にだって理解もある……俺もキミを理由に他の交際を断れる」

 お互い好都合だろう? と言うが、大方の理由は後者のほうが圧倒的に大きい気がする。要は律を理由に、縁談や寄ってくる女性をかわす理由が欲しいにすぎない。

「僕は紫藤さんの虫除けじゃないんですけどね!」
「残念、フラれちゃったかな」

 虫除けを否定しない辺りが、本当にそう言うところだぞと言ってやりたかった。
 この後も他愛ない会話をしたが、半分以上紫藤にいいように遇らわれてしまい、部屋を出る頃にはどっと疲労感が律を包んだ。

(でもまあ、聞きたいことは聞けたから良しとしよう)

 当初の目的は果たせたと割り切った律は、割り当てられた自室へと戻り明日からの家事をどうしていこうか考えを巡らせた。
 後日、生活費として紫藤から渡された通帳の金額を見て目を回したのは余談だ。
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