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「結果から言って良いかな?」
「はい」
診察室で医師と向き合いながら、律は緊張した面持ちで返事をする。
返答が返ってくるほんの数秒の間ですら、罪状を言い渡されるのを待つ囚人にでもなった気分だった。
「君は、オメガだね」
ピシャーンっと、雷が落ちたような衝撃が律を襲う。
「データベース上では確かにベータだったけど、検査の結果はオメガになっている。突然変異の後天性オメガっていうやつだね」
「そんな……」
突然変異なんて初めて見たよと、紹介してもらった医者は律のカルテを興味深そうに見入っている。
「伊織先輩がこんな時間に急に呼びつけるから、余程のことだとは思ってたけど」
紫藤の後輩に当たるらしいまだ年の若そうな医者は、カルテと検査結果を見比べながらあーでもない、こーでもないと何やら考え込んでいた。
改めて面と向かってオメガだと断言されてしまった律も、何故こんな事態になってしまったのかと頭を悩ませる。
いくら頭を悩ませたところで辿り着くのは、専門知識も持たない一般人が考えても何も分からない――それが答えだった。
「続いていたっていう体調不良は、君の身体がベータからオメガに変異を始めていたからだったんだろうね」
大変だったねと労ってくれた言葉が優しくて身に染みる。久しぶりに人の優しさに触れたせいか、鼻の奥がツーンとして目頭が熱くなってしまった。
「落ち着くまでゆっくりすると良いよ。診療時間外だし、誰も来ないからさ」
「ありがとう、ございます」
時計の針はもう九時を過ぎている。
ここに連れてこられて早々に色々な検査に回されて、慌ただしく時間が過ぎた筈なのに……今日はやたらと時間の流れが遅く感じてしまう。
「音無くん、君のご家族の中にオメガって居たりする?」
「はい、従兄弟に一人」
「そっか……じゃあ、その可能性もあるのか」
親族にオメガがいる家系は、オメガが生まれやすい血筋の可能性があるらしい。
とは言うものの、律の家系にオメガは従兄弟一人だけだ。父の双子の弟の息子で、同い年。背格好も顔立ちも良く似ていたため、二人で並んでいると双子みたいだと言われたことはある。
最近連絡を取っていないが、元気にしているだろうか気になるところだ。落ち着いたら、たまには連絡でも取ってみよう。
「いきなりで不安なことだらけだと思うけどさ。こちらも出来る限りサポートに回るから安心してよ」
にこりと笑って律を落ち着かせようとしてくれる。この先生は、何処かの保健医とは違って信頼に足る人物だと思う。
「結果は出たのか、黒川?」
「先輩、音もなく急に入って来ないでくださいよ」
噂をすれば何とやら。口にこそ出してはいなかったが、いつの間に入って来たのか、医者――黒川の背後には紫藤が立っていた。
「しかもそっちから……」
「別に誰も居ないんだから構わないだろう?」
「本当に、変わらないですね伊織先輩」
どうやら医療関係者が出入りする通用路から入って来たらしい。黒川が咎めないところを見ると、医者という肩書は本物なのだろう。
こんな胡散臭い笑顔を貼り付けた医者、絶対に掛かりたくないと律は内心毒づく。
「それで?」
そんなことは良いからと急かすように、紫藤は黒川に検査結果の報告を促した。
「彼は突然変異のオメガで間違い無いですよ」
「……そうか」
自分で聞いた割に、結果を聞いた後の紫藤は素っ気ない返事を返すだけだった。
黒川からカルテと検査結果を奪い取ると、珍しく真面目な表情でその紙の文字に目を走らせていた。
「あ、の」
「何だい?」
「僕は、これからどうすれば良いんでしょう?」
突然変異だオメガだ言われても、この先どうして良いのか分からない。
普通に生活は出来るのか? 大学には通えるのか? そう言った不安が一気に押し寄せて来てしまう。
「そうだね……これか色々と書類や手続きが必要にはなると思うけど、大丈夫。少し生活の様式が変わるだで、普通に生活出来るさ!」
「はい」
診察室で医師と向き合いながら、律は緊張した面持ちで返事をする。
返答が返ってくるほんの数秒の間ですら、罪状を言い渡されるのを待つ囚人にでもなった気分だった。
「君は、オメガだね」
ピシャーンっと、雷が落ちたような衝撃が律を襲う。
「データベース上では確かにベータだったけど、検査の結果はオメガになっている。突然変異の後天性オメガっていうやつだね」
「そんな……」
突然変異なんて初めて見たよと、紹介してもらった医者は律のカルテを興味深そうに見入っている。
「伊織先輩がこんな時間に急に呼びつけるから、余程のことだとは思ってたけど」
紫藤の後輩に当たるらしいまだ年の若そうな医者は、カルテと検査結果を見比べながらあーでもない、こーでもないと何やら考え込んでいた。
改めて面と向かってオメガだと断言されてしまった律も、何故こんな事態になってしまったのかと頭を悩ませる。
いくら頭を悩ませたところで辿り着くのは、専門知識も持たない一般人が考えても何も分からない――それが答えだった。
「続いていたっていう体調不良は、君の身体がベータからオメガに変異を始めていたからだったんだろうね」
大変だったねと労ってくれた言葉が優しくて身に染みる。久しぶりに人の優しさに触れたせいか、鼻の奥がツーンとして目頭が熱くなってしまった。
「落ち着くまでゆっくりすると良いよ。診療時間外だし、誰も来ないからさ」
「ありがとう、ございます」
時計の針はもう九時を過ぎている。
ここに連れてこられて早々に色々な検査に回されて、慌ただしく時間が過ぎた筈なのに……今日はやたらと時間の流れが遅く感じてしまう。
「音無くん、君のご家族の中にオメガって居たりする?」
「はい、従兄弟に一人」
「そっか……じゃあ、その可能性もあるのか」
親族にオメガがいる家系は、オメガが生まれやすい血筋の可能性があるらしい。
とは言うものの、律の家系にオメガは従兄弟一人だけだ。父の双子の弟の息子で、同い年。背格好も顔立ちも良く似ていたため、二人で並んでいると双子みたいだと言われたことはある。
最近連絡を取っていないが、元気にしているだろうか気になるところだ。落ち着いたら、たまには連絡でも取ってみよう。
「いきなりで不安なことだらけだと思うけどさ。こちらも出来る限りサポートに回るから安心してよ」
にこりと笑って律を落ち着かせようとしてくれる。この先生は、何処かの保健医とは違って信頼に足る人物だと思う。
「結果は出たのか、黒川?」
「先輩、音もなく急に入って来ないでくださいよ」
噂をすれば何とやら。口にこそ出してはいなかったが、いつの間に入って来たのか、医者――黒川の背後には紫藤が立っていた。
「しかもそっちから……」
「別に誰も居ないんだから構わないだろう?」
「本当に、変わらないですね伊織先輩」
どうやら医療関係者が出入りする通用路から入って来たらしい。黒川が咎めないところを見ると、医者という肩書は本物なのだろう。
こんな胡散臭い笑顔を貼り付けた医者、絶対に掛かりたくないと律は内心毒づく。
「それで?」
そんなことは良いからと急かすように、紫藤は黒川に検査結果の報告を促した。
「彼は突然変異のオメガで間違い無いですよ」
「……そうか」
自分で聞いた割に、結果を聞いた後の紫藤は素っ気ない返事を返すだけだった。
黒川からカルテと検査結果を奪い取ると、珍しく真面目な表情でその紙の文字に目を走らせていた。
「あ、の」
「何だい?」
「僕は、これからどうすれば良いんでしょう?」
突然変異だオメガだ言われても、この先どうして良いのか分からない。
普通に生活は出来るのか? 大学には通えるのか? そう言った不安が一気に押し寄せて来てしまう。
「そうだね……これか色々と書類や手続きが必要にはなると思うけど、大丈夫。少し生活の様式が変わるだで、普通に生活出来るさ!」
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