愛 need you ーあなたに愛されなければ呼吸すらできないー

橋本しら子

文字の大きさ
上 下
2 / 41

01

しおりを挟む
「それにしても、怠い……」
 
 アルバイト探しと慣れない生活環境からなのか、大学に入ってから律は体調不良が続いている。
 風邪の初期症状のような倦怠感と微熱感。
 数日はその体調不良も見て見ぬふりを出来るレベルだったのだが、今朝は目が覚めた時点でこれは駄目だと悟った。

「医務室って、何処なんだ」

 本当ならば病院に行った方が良いことくらい、律も理解している。
 引っ越してきたばかりで周辺の施設を把握していないことと、まだアルバイトが見つからなくて金銭的に余裕がないのが現状。医務室で休ませてもらってどうにかなるなら、出来る限りそれで済ませたい。
 そんな思いから、広いキャンバスの中で朝から医務室を探して彷徨っている。
 入学したてで把握しきれていない建物は、ゲームのダンジョンみたいに難解極まりない。体調不良に加えて頭痛まで追加されそうな気分だった。

(鎮痛剤くらいは持ち歩いてないとダメだな)

 まだ早朝で授業まで時間があるためか、大学内に人が少ないので場所を聞くこともままならない。途方に暮れそうなそのときに、どこからか誘われるような良い香りが律の鼻先を擽る。

「香水……?」

 その香りは花とも香水とも表現が難しいが、ふわふわと、ざわざわと、律の胸の内を掻き乱す香りだった。
 熱に浮かされたようにうっとりとその香りを吸い込めば、何かが満たされていく高揚感を得ることが出来た。

「力、抜ける……」

 その反面、体の倦怠感は増すばかり。気を抜いてしまえば今にも膝から崩れ落ちそうで、律は思わず壁にもたれ掛かる。
 ヤバイ、倒れそうだ。と思ったときには既に遅く、視界がぐらりと歪む。

「……っ」

 ほどなくして訪れるであろう衝撃に備えてギュッと目を瞑るも、予想に反していつまで経っても痛みは襲って来ない。恐る恐る目を開けてみれば、ボヤけた視界で相手は確認できないが、誰かに抱き止められていることに気付いた。

「キミ……抑制剤は?」
「よく、せいざい?」

 先程よりも濃い香りに包まれて思考が上手く纏まってくれない。
 この人は何を言っているのだろう? 律は朦朧とする意識の中でぼんやりと考える。
 だってベータの自分に抑制剤なんて必要ない。オメガと違い発情期なんてものは起きないのだから。

「うわっ⁉︎」

 ふわりと身体が宙に浮かぶ。急な浮遊感に驚き、反射的に男の服にギュッとしがみ付いてしまう。
 律を抱えながら、男は足で乱暴にドアを空けて部屋に入った。

「っ……」

 どさりと下ろされた先は真新しく白いシーツの上。
 上手く回らない頭で唯一分かったことは、どうやらここが探していた医務室だったと言うことだけだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

処理中です...