中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子

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 大きな窓から眼下に広がるのは、港街の明かりと繁華街のネオン、そして地平線に浮かぶ船の小さな明かり。それらは漆黒の中で一層キラキラと輝いて、そこで営まれている人々の生活を主張する。
 しかし、朱兎は今そんな美しい景色を見ている余裕もない。

「ネェ、オーナー! この子、お肌スベスベヨ!」
「ちょっ……ちかっ」
「こんな若いコとどこで知り合ったノヨ、オーナー?」
「うわ、当たる……!」

 朱兎は今、高級クラブのVIPルームでチャイナ服姿の女性たちに囲まれていた。女性たちは目のやり場に困るほど丈の短い服で、足を組んで朱兎にしな垂れ掛かる。女性に慣れていないことと、こういった場所が初めての朱兎は完全に雰囲気に呑まれてしまっていた。
 その様子をウイスキー片手に鼬瓏が横で見ている。足を組みながら高そうなソファーに背を預けて座るその様子からして、朱兎を助けてくれる気はないようだ。しかし、その表情はとても楽しそうだった。

「イイデショ? 俺のお気に入りだから、手は出しちゃヤだヨ」
「ワタシのタイプはオーナーだから、安心シテ!」

 社交辞令なのか本気なのかはわからないが、女性たちは慣れたような口ぶりでそう言い笑いあう。
 場の空気に馴染めない朱兎は、居心地が悪そうにしながらも出された酒をチビチビと飲んでいる。おそらくは高い酒なのだろうが、味なんて全くわからない。

(せめて紫釉でも側にいてくれれば、どうにかなりそうなのに)

 コミュニケーションを取ることに長けている紫釉ならば、こういった場でも上手く会話を続けられるのだろう。逆に麗は苦手そうだなと、朱兎は軽く現実逃避を始める。

「朱兎、これも社会勉強だヨ」
「もう少しマイルドな社会勉強から始めてほしかった」

 ホテルに入ったときから従業員総出の出迎えを受け、すでに疲労が蓄積されている。そこからこのクラブへ連れてこられた朱兎は、改めて鼬瓏とは住む世界が違いすぎると素直に感じた。

「その服もよく似合ってる」
「……どーも」

 クラブの前にどこかの部屋に連れ込まれ、あれよあれよと脱がされ着替えさせられた記憶は頭の隅っこに追いやっていたというのに。朱兎が着ているのは白地に金色の龍が刺繍されている長袍。鼬瓏も同じ柄の黒地の長袍を身にまとっている。
 お揃いだネと実に嬉しそうに言われてしまったうえに、ここに来る前まで着ていた服はどこかへと持って行かれてしまった。そのため、朱兎にはこれを着ている他道は残されていない。

「男のヒトが服を送る意味、アヤトちゃん知ってるノ?」
「いや、知らない。そんなことに意味があったのか?」

 そう問いかけられ、正直に知らないと答えれば女性の1人がそっと朱兎に耳打ちをする。

「その服を脱がせたいッテ意味ナノヨ。気をつけてネ、アヤトちゃん」
「……は?」

 服を送られたのは今回が初めてではない。朱兎の家にある服や、今日着ていた服……なんなら下着だって鼬瓏から送られたものだ。
 一度聞いたときには着飾りたいと言っていたが、もしその意味を知っていて服を送っていたのだとすれば、最初からそういう意味が込められていた可能性もある。鼬瓏の方を見ればにこにこと笑みを浮かべながら朱兎を見ていたので、この件は確定で黒だ。

「マジか」
「男からの贈り物には気をつけた方がイイヨ、朱兎」
「あんたがそれを言うな」

 初日から遠まわしな下心を知ってしまったため、このホテルに滞在している間は本当に気が抜けなくなってしまった。
 好きになってくれてから手を出すという鼬瓏の言葉を信じて良いのか、もはや妖しいところだった。

「そんなジト目で可愛く見つめなくても、まだなにもしないヨ……まだ、ネ?」
「可愛くない」
「そうやってむくれてる表情も唆るヨ」

 否定しても通じない相手に、朱兎は諦めて残っていた酒を煽ることで逃げる。やはり味などわからなかった。そのやり取りを見ていた女性たちは「惚気ネ」「お腹イッパイヨ」とケラケラ笑っていた。
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