17 / 21
17
しおりを挟む
「じゃあ、出会いは?」
「バイト帰りの裏路地」
「お付き合いの切っ掛けは~?」
「……それは、ちょっと言えない」
「言えないですって、紫釉さん」
「きっとやらしいことですね~、桜井サン」
やらしいもなにもない。そもそもお付き合いなどしていないのだから。それを知っているはずの紫釉は完全に悪ノリだ。あとで絶対に文句を言ってやろうと、朱兎は密かに心の中で握り拳を作って誓う。
「……なあ、昼休み終わるって」
「俺、午後のコマないから気にしないで続けて?」
「お前にはなくても、オレにはあるんだよな!」
「ん~、じゃあ……あと1個! 彼女のどこが好き?」
最後にとんでもない質問が飛んできて、朱兎は食べていた米を吹き出しかけた。
「あ、それ俺も気になる~。どこが好きなの?」
「紫釉、アンタ絶対それ言うんだろ」
「そりゃあ、勿論!」
この会話が鼬瓏の耳に入れば、確実に面倒なことになることは明白だ。例え、どう返事を返しても。
「なになに? 紫釉さん桃瀬の恋人とお知り合い?」
「そうそう、お知り合いなんだよ~」
彼女じゃないと言ってしまえばいいのだが、そうするとこの指輪の説明が難しい。桜井は完全に朱兎に彼女ができたと思い込んでいるし、紫釉はこの状況を面白おかしく鼬瓏に伝える気満々でいる。
(なんだこの地獄)
こんなに騒がしくしていても、周りは気にもしていないことだけが唯一の救いである。昼時に賑わっている食堂様々だった。
「で? どうなのよ、桃瀬」
「……とこ」
「え?」
「ちゃんと仕事してるとこ」
「アヤト、もうちょっとなんかなかったの」
と言いながらも呆れ顔で笑っている紫釉。これでも精一杯絞り出した答えなのだ。これを果たしてどう鼬瓏に伝えるのか、気になるところではある。どうか余計に話を盛らないでいて欲しいと願うのは、きっと神様には届いてくれないのだろう。
「ってことは、彼女キャリアウーマン? じゃあ、その指輪は桃瀬があげたんじゃなくて彼女からか」
「キミ、推理能力あるね~」
勉強だけができる男ではないようだった。そんな能力を、こんなくだらないところで発揮はして欲しくなかったのが朱兎の本音ではあるが。
「その指輪、すっげえ有名なブランドのだろ? 元カノがそういうの好きでさ、雑誌で見たことあるんだわ」
桜井がそう言うのなら、恐らくそうなのだろう。ブランドに疎い朱兎には全くわからないが、紫釉の方を見れば否定もせずニコニコとしているので間違いない。
(いやいや、なに? あのオークション会場から俺ん家帰って、俺が目を覚ますまでにこれ用意したってこと?)
またしても、真面目に考えたら頭が痛くなる事実を知ってしまい、頭どころか胃痛までしてきそうな勢いだ。それを誤魔化すように、朱兎は残っていたヒレカツとご飯を一気にかき込んだ。
「すげぇなぁ、桃瀬。お前逆玉じゃん」
「……全く嬉しくはねぇんだけどな」
「贅沢か」
事情を知らないからそんなことが言えるのだが、如何せんそれを桜井に教えることができない。それがなんとも言えず朱兎を悶々とさせた。
「俺も次は年上の彼女作ろう」
「ばっか、お前少しは懲りろ」
振られたことをいつまでも引き摺って落ち込むよりは良い。この切り替えの早さは桜井の一種の才能なのだろう……見習うべきかは、悩ましいところではある。
しかし年上の彼女なんて作ればどうなるのか、歴代の桜井の彼女たちを思い返してみてもロクなことになりはしないはずだ。
「もういいな? オレは行くからな」
「はーい。色々とご馳走さま~」
「じゃあ、俺はアヤトと行くね~。バイバイ」
「じゃあね、紫釉さん」
休むべき時間のはずが、精神疲労でへとへとだった。その疲労は午後の講義にしっかりと響き、内容が全く入ってこず困却してしまう。
着いて行くと言っていた紫釉は、講堂内に姿は見当たらなかった。きっと鼬瓏に先程の会話を報告しに行ったに違いない。今日家に帰ったあとも精神疲労が蓄積されるのかと……それを考えただけで更に疲労が上乗せされた気がした。
「バイト帰りの裏路地」
「お付き合いの切っ掛けは~?」
「……それは、ちょっと言えない」
「言えないですって、紫釉さん」
「きっとやらしいことですね~、桜井サン」
やらしいもなにもない。そもそもお付き合いなどしていないのだから。それを知っているはずの紫釉は完全に悪ノリだ。あとで絶対に文句を言ってやろうと、朱兎は密かに心の中で握り拳を作って誓う。
「……なあ、昼休み終わるって」
「俺、午後のコマないから気にしないで続けて?」
「お前にはなくても、オレにはあるんだよな!」
「ん~、じゃあ……あと1個! 彼女のどこが好き?」
最後にとんでもない質問が飛んできて、朱兎は食べていた米を吹き出しかけた。
「あ、それ俺も気になる~。どこが好きなの?」
「紫釉、アンタ絶対それ言うんだろ」
「そりゃあ、勿論!」
この会話が鼬瓏の耳に入れば、確実に面倒なことになることは明白だ。例え、どう返事を返しても。
「なになに? 紫釉さん桃瀬の恋人とお知り合い?」
「そうそう、お知り合いなんだよ~」
彼女じゃないと言ってしまえばいいのだが、そうするとこの指輪の説明が難しい。桜井は完全に朱兎に彼女ができたと思い込んでいるし、紫釉はこの状況を面白おかしく鼬瓏に伝える気満々でいる。
(なんだこの地獄)
こんなに騒がしくしていても、周りは気にもしていないことだけが唯一の救いである。昼時に賑わっている食堂様々だった。
「で? どうなのよ、桃瀬」
「……とこ」
「え?」
「ちゃんと仕事してるとこ」
「アヤト、もうちょっとなんかなかったの」
と言いながらも呆れ顔で笑っている紫釉。これでも精一杯絞り出した答えなのだ。これを果たしてどう鼬瓏に伝えるのか、気になるところではある。どうか余計に話を盛らないでいて欲しいと願うのは、きっと神様には届いてくれないのだろう。
「ってことは、彼女キャリアウーマン? じゃあ、その指輪は桃瀬があげたんじゃなくて彼女からか」
「キミ、推理能力あるね~」
勉強だけができる男ではないようだった。そんな能力を、こんなくだらないところで発揮はして欲しくなかったのが朱兎の本音ではあるが。
「その指輪、すっげえ有名なブランドのだろ? 元カノがそういうの好きでさ、雑誌で見たことあるんだわ」
桜井がそう言うのなら、恐らくそうなのだろう。ブランドに疎い朱兎には全くわからないが、紫釉の方を見れば否定もせずニコニコとしているので間違いない。
(いやいや、なに? あのオークション会場から俺ん家帰って、俺が目を覚ますまでにこれ用意したってこと?)
またしても、真面目に考えたら頭が痛くなる事実を知ってしまい、頭どころか胃痛までしてきそうな勢いだ。それを誤魔化すように、朱兎は残っていたヒレカツとご飯を一気にかき込んだ。
「すげぇなぁ、桃瀬。お前逆玉じゃん」
「……全く嬉しくはねぇんだけどな」
「贅沢か」
事情を知らないからそんなことが言えるのだが、如何せんそれを桜井に教えることができない。それがなんとも言えず朱兎を悶々とさせた。
「俺も次は年上の彼女作ろう」
「ばっか、お前少しは懲りろ」
振られたことをいつまでも引き摺って落ち込むよりは良い。この切り替えの早さは桜井の一種の才能なのだろう……見習うべきかは、悩ましいところではある。
しかし年上の彼女なんて作ればどうなるのか、歴代の桜井の彼女たちを思い返してみてもロクなことになりはしないはずだ。
「もういいな? オレは行くからな」
「はーい。色々とご馳走さま~」
「じゃあ、俺はアヤトと行くね~。バイバイ」
「じゃあね、紫釉さん」
休むべき時間のはずが、精神疲労でへとへとだった。その疲労は午後の講義にしっかりと響き、内容が全く入ってこず困却してしまう。
着いて行くと言っていた紫釉は、講堂内に姿は見当たらなかった。きっと鼬瓏に先程の会話を報告しに行ったに違いない。今日家に帰ったあとも精神疲労が蓄積されるのかと……それを考えただけで更に疲労が上乗せされた気がした。
80
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
目覚めたらヤバそうな男にキスされてたんですが!?
キトー
BL
傭兵として働いていたはずの青年サク。
目覚めるとなぜか廃墟のような城にいた。
そしてかたわらには、伸びっぱなしの黒髪と真っ赤な瞳をもつ男が自分の手を握りしめている。
どうして僕はこんな所に居るんだろう。
それに、どうして僕は、この男にキスをされているんだろうか……
コメディ、ほのぼの、時々シリアスのファンタジーBLです。
【執着が激しい魔王と呼ばれる男×気が弱い巻き込まれた一般人?】
反応いただけるととても喜びます!
匿名希望の方はX(元Twitter)のWaveboxやマシュマロからどうぞ(^^)
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
婚約者は俺にだけ冷たい
円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。
そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。
それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。
しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。
ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。
前半は受け君がだいぶ不憫です。
他との絡みが少しだけあります。
あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。
ただの素人の小説です。
ご容赦ください。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる