上 下
16 / 21

16

しおりを挟む
「桃瀬ぇー」
「どうしたー、桜井」

 小学校からの友人であり、朱兎のよき理解者である桜井碧。昼時の賑わう学食で昼食を取っていた朱兎の向かいに座り、へにょへにょと力なく机に突っ伏した。

「聞いて、朱兎ちゃん!」
「なんだい碧ちゃんよ。オレ、飯食ってるから手短にな」
「親友が冷たい! でもそんなところも好き!」
「ふざけてんなら先行くぞ?」
「うそうそ! 聞いてからにして~!」

 軽いノリで話せる桜井とはそれなりに長い付き合いだ。かれこれ小学校から今まで、なんだかんだで一緒につるんでいる。
 だからこそこのパターンはあれだなと。過去の経験上察してしまい、朱兎は昼食のヒレカツ定食を頬張りながら遠い目をした。

「……フラレた」
「ご愁傷さま。今度はなんだって?」
「なんと今回は二股でした~」

 親友である桜井は顔がいい。性格も悪くない。人付き合いもよく、勉強や運動だってそれなりにできる男だ。親友の欲目を抜きにしても良い男だと太鼓判を押せる。
 ただ、女運は壊滅的に悪かった。女難の相でも出ているのではないかと思わざるを得ないほどに。悪いといっても桜井本人の問題ではなく、相手の問題がほぼ10割なのだが。

「お前さ、しばらく女と付き合うの止めとけば?」
「俺としてはさ、それでも良いんだよ……ただ、向こうが告白してくるからOKしてるんだけどね!」

 それで承諾してしまうのもどうかとは思う。
 以前それで良いのかと聞いてみたことがあるが、付き合っているうちに相手を好きになる可能性もあるでしょと返された記憶があった。お人好しすぎるのも程がある。

「桃瀬はいいな。その指輪……教えてくれないけど、彼女できたんだろ?」
「あー……」

 彼女ではなく男で、ましてや恋人ではなく自分を買ったマフィアだとは口が避けても言えるはずもなく、言葉が詰まってしまう。

「彼女年下? それとも年上?」
「……年上」
「可愛い系? 綺麗系?」
「どっちかと言えば……きれい、か?」
「なんで疑問形なのよ」

 断じて可愛いとは言えない見た目だ。背丈は朱兎より高いし筋肉もがっつりついているので、どちらかと言えば厳つい。顔立ちは綺麗だ。性格だって、朱兎が知る限り可愛いとは言い難い。
 今までお付き合いした女性などいない朱兎にとって、正直この手の質問は苦手で仕方がない。どうにか逃げられないかと逃げ道を探す。

(相手が相手だから、答え辛い!)

 これが本当に女性の恋人であったのならば、素直に惚気て自慢をしてやれたのに。そんなことを考えながらも、桜井の質問攻めは続いた。

「お前、自分の話はどうした?」
「え~、それより桃瀬の恋人の方が気になるお年頃かな」

 どんなお年頃だと突っ込みたいのをぐっと堪え、それを押し流すようにグラスの水を煽る。

「ていうか、これ以上聞かれても答えねぇからな」
「ケチかよ! もっと惚気て? 桃瀬の恋愛話なんて貴重なんだから!」

 食い気味な桜井に、押され気味になってしまう。もう自分の振られた話など、どうでも良いようだった。

「俺も教えてほしいなぁ~。アヤトの恋愛話!」
「は? なんでそこにアンタが入ってくるんだよ」

 いつの間に現れたのか……声がする方を向けば、紫釉が気配もなく隣の席に座っていた。流石に桜井も驚いたようだったが、目的が同じと判断したのか紫釉に同調を始める。
 普段は距離を保って友人の間に入ってくることのない紫釉だが、今日に限ってはそうじゃないらしい。助け舟は全くと言って良い程期待できそうにない。

「あんまり見かけたことないけど、桃瀬の友達?」
「そうそう。俺、紫釉って言うの。よろしく~」
「俺は桜井。よろしく~」

 にこーっと効果音がつきそうな程の笑顔を浮かべた2人は、そのまま朱兎に向き直った。
 あぁ、昼休みが終わったな。朱兎はそんな気配を悟り、食い気味に詰め寄る2人を相手にどうしたものかと思考を巡らせた。逃げ道は完全に塞がれてしまったようだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ
BL
主人公の陽向(ひなた)には現在、アイドルとして活躍している二つ年上の幼馴染みがいる。 生まれた時から一緒にいる彼―真那(まな)はまるで王子様のような見た目をしているが、その実無気力無表情で陽向以外のほとんどの人は彼の笑顔を見た事がない。 デビューして一気に人気が出た真那といきなり疎遠になり、寂しさを感じた陽向は思わずその気持ちを吐露してしまったのだが、優しい真那は陽向の為に時間さえあれば会いに来てくれるようになった。 そんなある日、いつものように家に来てくれた真那からキスをされ「俺だけのヒナでいてよ」と言われてしまい───。 ダウナー系美形アイドル幼馴染み(攻)×しっかり者の一般人(受) 基本受視点でたまに攻や他キャラ視点あり。 ※印は性的描写ありです。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話

こぶじ
BL
聡明な魔女だった祖母を亡くした後も、孤独な少年ハバトはひとり森の中で慎ましく暮らしていた。ある日、魔女を探し訪ねてきた美貌の青年セブの治療を、祖母に代わってハバトが引き受ける。優しさにあふれたセブにハバトは次第に心惹かれていくが、ハバトは“自分が男”だということをいつまでもセブに言えないままでいた。このままでも、セブのそばにいられるならばそれでいいと思っていたからだ。しかし、功を立て英雄と呼ばれるようになったセブに求婚され、ハバトは喜びからついその求婚を受け入れてしまう。冷静になったハバトは絶望した。 “きっと、求婚した相手が醜い男だとわかれば、自分はセブに酷く嫌われてしまうだろう” そう考えた臆病で世間知らずなハバトは、愛おしくて堪らない英雄から逃げることを決めた。 【堅物な美貌の英雄セブ×不憫で世間知らずな少年ハバト】 ※セブは普段堅物で実直攻めですが、本質は執着ヤンデレ攻めです。 ※受け攻め共に、徹頭徹尾一途です。 ※主要人物が死ぬことはありませんが、流血表現があります。 ※本番行為までは至りませんが、受けがモブに襲われる表現があります。

処理中です...