中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子

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「桃瀬ぇー」
「どうしたー、桜井」

 小学校からの友人であり、朱兎のよき理解者である桜井碧。昼時の賑わう学食で昼食を取っていた朱兎の向かいに座り、へにょへにょと力なく机に突っ伏した。

「聞いて、朱兎ちゃん!」
「なんだい碧ちゃんよ。オレ、飯食ってるから手短にな」
「親友が冷たい! でもそんなところも好き!」
「ふざけてんなら先行くぞ?」
「うそうそ! 聞いてからにして~!」

 軽いノリで話せる桜井とはそれなりに長い付き合いだ。かれこれ小学校から今まで、なんだかんだで一緒につるんでいる。
 だからこそこのパターンはあれだなと。過去の経験上察してしまい、朱兎は昼食のヒレカツ定食を頬張りながら遠い目をした。

「……フラレた」
「ご愁傷さま。今度はなんだって?」
「なんと今回は二股でした~」

 親友である桜井は顔がいい。性格も悪くない。人付き合いもよく、勉強や運動だってそれなりにできる男だ。親友の欲目を抜きにしても良い男だと太鼓判を押せる。
 ただ、女運は壊滅的に悪かった。女難の相でも出ているのではないかと思わざるを得ないほどに。悪いといっても桜井本人の問題ではなく、相手の問題がほぼ10割なのだが。

「お前さ、しばらく女と付き合うの止めとけば?」
「俺としてはさ、それでも良いんだよ……ただ、向こうが告白してくるからOKしてるんだけどね!」

 それで承諾してしまうのもどうかとは思う。
 以前それで良いのかと聞いてみたことがあるが、付き合っているうちに相手を好きになる可能性もあるでしょと返された記憶があった。お人好しすぎるのも程がある。

「桃瀬はいいな。その指輪……教えてくれないけど、彼女できたんだろ?」
「あー……」

 彼女ではなく男で、ましてや恋人ではなく自分を買ったマフィアだとは口が避けても言えるはずもなく、言葉が詰まってしまう。

「彼女年下? それとも年上?」
「……年上」
「可愛い系? 綺麗系?」
「どっちかと言えば……きれい、か?」
「なんで疑問形なのよ」

 断じて可愛いとは言えない見た目だ。背丈は朱兎より高いし筋肉もがっつりついているので、どちらかと言えば厳つい。顔立ちは綺麗だ。性格だって、朱兎が知る限り可愛いとは言い難い。
 今までお付き合いした女性などいない朱兎にとって、正直この手の質問は苦手で仕方がない。どうにか逃げられないかと逃げ道を探す。

(相手が相手だから、答え辛い!)

 これが本当に女性の恋人であったのならば、素直に惚気て自慢をしてやれたのに。そんなことを考えながらも、桜井の質問攻めは続いた。

「お前、自分の話はどうした?」
「え~、それより桃瀬の恋人の方が気になるお年頃かな」

 どんなお年頃だと突っ込みたいのをぐっと堪え、それを押し流すようにグラスの水を煽る。

「ていうか、これ以上聞かれても答えねぇからな」
「ケチかよ! もっと惚気て? 桃瀬の恋愛話なんて貴重なんだから!」

 食い気味な桜井に、押され気味になってしまう。もう自分の振られた話など、どうでも良いようだった。

「俺も教えてほしいなぁ~。アヤトの恋愛話!」
「は? なんでそこにアンタが入ってくるんだよ」

 いつの間に現れたのか……声がする方を向けば、紫釉が気配もなく隣の席に座っていた。流石に桜井も驚いたようだったが、目的が同じと判断したのか紫釉に同調を始める。
 普段は距離を保って友人の間に入ってくることのない紫釉だが、今日に限ってはそうじゃないらしい。助け舟は全くと言って良い程期待できそうにない。

「あんまり見かけたことないけど、桃瀬の友達?」
「そうそう。俺、紫釉って言うの。よろしく~」
「俺は桜井。よろしく~」

 にこーっと効果音がつきそうな程の笑顔を浮かべた2人は、そのまま朱兎に向き直った。
 あぁ、昼休みが終わったな。朱兎はそんな気配を悟り、食い気味に詰め寄る2人を相手にどうしたものかと思考を巡らせた。逃げ道は完全に塞がれてしまったようだ。
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