中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子

文字の大きさ
上 下
11 / 22

11

しおりを挟む
 鼬瓏の言葉通り、あれから毎日のように何かしら買い与えられるようになった。彼なりの甘やかし方がそういった手法なのか、お世辞にも広いとは言えない朱兎の部屋は鼬瓏から与えられたモノで溢れかえっていた。

「お前、何をしたらここまで鼬瓏に気に入られるんだ」
「そんなの、オレが一番知りてぇよ」

 衣類や装飾品、バッグや日用品。果てはいつの間にやらグレードの上がっている家具たち。どうりでここ数日ベッドの寝心地が良いはずだ。家主の許可なく勝手に買い換えていくのはどうかとも思ったが、そんなことを言える権限はないのだと思い出した朱兎はチベットスナギツネのような顔をしながら、ぐっと言葉を飲み込んだのは記憶に新しい。
 日に日に増えていくそれらは、やはりどれもこれもがブランド品ばかりで頭が痛くなりそうだった。
 人生でこんなにも貢がれたのは始めてで、とても不思議な感覚を覚えた。

「確かに、気に入られろとは言ったが……」

 眉間に寄せた皺へ手を当ててため息を吐いたのは、いつぞやのオークションの際に朱兎を軽々と肩に担ぎ上げた男……名はリィだと言う。
 いつも大学やバイトへ付いてきていたのは紫釉だったが、どうにも外せない仕事が入ったらしい。あの日以来の顔合わせに、といっても麗の顔をちゃんと見るのは今日が初めてなのでついつい緊張してしまう。
 しかしそんな心配を他所に、麗は大学でも程よい距離を保ってくれていたので、いつの間にか緊張は解けていた。

(ただなぁ……紫釉と違って、こいつ口数少ないし喋り方冷たいんだよな)

 他者と比較するのは良くないとわかっていても、どうしても比較をしてしまう。見た目は十中八九誰に聞いてもイケメンだと返ってきそうなのに、口調や態度が冷たい。クールなのだと言ってしまえばそうなんだろうが。
 それに、気のせいか……麗からの視線がチクチクと刺さって痛い。

「今日はこの後の予定がない日だと聞いているが」
「あ、あぁ。今日はバイト入ってねぇし、課題も終わってるから特にやることはないな」
「なら良い。俺は鼬瓏が来るまでここにいるが、お前はお前の好きなようにしていろ」

 そう言うと、麗は朱兎の視界から遠ざかるように玄関の方へと移動し、壁へもたれ掛かるようにして腕を組み目を閉じた。

(いや、沈黙が重い!)

 いくら玄関までにはいくらか距離があるとしても、狭いこの部屋に仕切りなどないのでお互いの気配はダイレクトに感じ取れる。
 当たり前のように我が家に入り浸る鼬瓏が、今日はこんなにも待ち遠しい。本人に伝えればまたなにか物が増えそうなので、絶対に口にはしないと朱兎はキュッと口を噤んだ。
 麗を見れば変わらず同じ体勢を保っており、これは鼬瓏が来るまで本当にただここにいるだけを貫く態度だった。

(考えるのも面倒になったきた。風呂入ろ)

 小さく溜息を吐き出した朱兎は、いつの間にかクローゼットの中に増えていた不思議とサイズがピッタリの下着を引っ張り出して風呂場へと向かった。
 風呂場は玄関横なので、必然的に麗の側を通るわけだが……当の本人は目を閉じたまま微動だにしない。今日一日で麗について知り得た情報は、朱兎に対して警戒心を持っているということだけだ。

「上司が急に人間買ったら……そりゃ警戒するわ」

 麗の言動はある意味普通なんだろう。最近普通からかけ離れてしまっていた朱兎は、改めて己も普通の感覚を無くし始めていたことに気が付かされた。
 この短期間で随分と毒されてしまったものだと軽くショックを受けながらも、狭い脱衣所でポイポイと脱ぎ捨てた服を適当に洗濯機に放り込む。
 湯船に湯を張るのも面倒なので適当にシャワーで済ませてしまおうと、蛇口を捻ってお湯が出てくるのを待った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

オメガの騎士は愛される

マメ
BL
隣国、レガラド国との長年に渡る戦に決着が着き、リノのいるリオス国は敗れてしまった。 騎士団に所属しているリノは、何度も剣を交えたことのあるレガラドの騎士団長・ユアンの希望で「彼の花嫁」となる事を要求される。 国のためになるならばと鎧を脱ぎ、ユアンに嫁いだリノだが、夫になったはずのユアンは婚礼の日を境に、数ヶ月経ってもリノの元に姿を現すことはなかった……。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

処理中です...