中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子

文字の大きさ
上 下
10 / 22

10

しおりを挟む
「おかえり、朱兎。待ってたヨー」
「うわっ! ちょっ、危ねぇって!」
 
些か予想外の出来事があったりしたが、それでもいつも通りの授業とバイトを終え帰宅した朱兎を待っていたのは、まさかの熱い抱擁。その相手は鼬瓏で、日常から非日常へと一気に引き戻された気がしてしまった。
 ドアを開け一歩踏み入れた途端の抱擁など予想もしていなかった朱兎は、危うく外に向かって倒れるところだったのを寸前で耐える。

「鼬瓏……本当だったんだー……麗の言うこと間違ってなかった」

 その様子を後ろから見ていた紫釉が、まるで信じられないものを見たと言った表情を浮かべていた。

「紫釉……見てないで助けてくれ」
「え、やだよ。機嫌の良い鼬瓏の邪魔するなんて」

 呆気なく見捨てられた朱兎は、そのまま鼬瓏の重さを支えきれずに尻餅をつく。コンクリートのひんやりとした質感がズボン越しに侵食してくることと、尻餅をついたことでひりつく臀部が温度差で忙しい。

「おもっ……」
「朱兎への愛の重さだから受け止めてね」
「え、重っ」

 嘘なのか本当なのかわからない鼬瓏の言葉に若干の戸惑いを覚えながら、朱兎は鼬瓏から差し伸べられた手を取り立ち上がる。
 そもそもが出会って数日だ。愛の重さなど知る由もない。鼬瓏という男のことすら、まだ知らないことだらけだと言うのに。

「ほら、疲れてるでしょ。早く中に入りなヨ」
「おう……って、オレん家なんだけどな」

 我が物顔で朱兎の部屋へ入っていく鼬瓏。彼のことに関して現時点でわかるのは、自由だということだろうか。
 紫釉はこれから別の仕事があると、この場を去っていった。

「な、んだこれ!」

 狭いワンルームに所狭しと置かれた紙袋や箱たちに、思わず目を剥いてしまう。

「プレゼントだヨ」

 にこにこと笑顔を浮かべながら悪びれもなくそう告げた鼬瓏に、朱兎は軽く頭痛を覚えた。
 流行りやブランドに疎い朱兎ですら名前を聞いたことのある高級ブランドたち。そのロゴが書かれている荷物の山に、頭を抱えてしまいたくなる。

「朱兎の衣装棚、中身少なすぎるヨ……」
「服なんて最小限あれば生きていけるだろ」
「俺が朱兎を着飾りたいから……受け取ってね」

 そう言われてしまえば断ることはできなかった。そう、朱兎は鼬瓏のものなのだ。鼬瓏からすれば、きっと所有する着せ替え人形に新しい服を買っただけ。ただ、その服の値段は庶民からすれば目玉が飛び出そうな金額だと推測できるが。

「因みに拒否権は」
「今のところないかな」

 予想通りの答えが返ってきたことで、朱兎はガクリと肩を落とした。
 そもそもだ。なぜこんなにも鼬瓏は朱兎に大金を注ぎ込むのかがわからない。
 出会ったのはつい最近。したことといえば、路地裏で倒れていた鼬瓏を家に連れ帰り怪我の手当をしただけだ。たったそれだけのことで、なぜ億単位の金が動くのか理解に苦しむ。

「なぁ、鼬瓏」
「ん? なに?」

 一度気にしてしまえば気になるもので、それを有耶無耶なまま放置するなどできない性分の朱兎は、鼬瓏へと疑問を投げつけた。

「どうしてあのとき、オレを買ったんだよ」
「朱兎だから買ったんだヨ」
「冗談は……」
「俺は冗談で人を買う趣味はないヨ」

 そう言った鼬瓏の表情は真剣で、出会ってから初めて見る表情だった。だが、それも一瞬のことで、鼬瓏の表情はまた笑顔に戻っていた。

「前にも言ったでしょ? 俺は朱兎のことが気に入ったって」

 確かに、そんなことを言われた記憶がある。それにしたって、あのときどこに気に入られる要素があったのかはわからないままだが。

「気に入ったものは手元に置いて大事にしたい性分なんだ」

 スッと腰を抱き寄せられ、耳元でそう囁かれる。そういったことに耐性のない朱兎は、それだけで顔が赤らんでしまう。

「だから、大人しく俺に甘やかされてね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ
BL
主人公の陽向(ひなた)には現在、アイドルとして活躍している二つ年上の幼馴染みがいる。 生まれた時から一緒にいる彼―真那(まな)はまるで王子様のような見た目をしているが、その実無気力無表情で陽向以外のほとんどの人は彼の笑顔を見た事がない。 デビューして一気に人気が出た真那といきなり疎遠になり、寂しさを感じた陽向は思わずその気持ちを吐露してしまったのだが、優しい真那は陽向の為に時間さえあれば会いに来てくれるようになった。 そんなある日、いつものように家に来てくれた真那からキスをされ「俺だけのヒナでいてよ」と言われてしまい───。 ダウナー系美形アイドル幼馴染み(攻)×しっかり者の一般人(受) 基本受視点でたまに攻や他キャラ視点あり。 ※印は性的描写ありです。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

処理中です...