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「……はっ!」
目を覚ませば、そこにはいつも通りの見慣れた天井がある。部屋が暗いのは、まだ夜が明けていないということだろうか。
心臓はバクバクと音が聞こえそうなほど煩く鼓動をしており、額にはじわりと汗が噴き出している。とても恐ろしい夢を見ていた気がした。
朱兎は早鐘を打っている心臓を落ち着かせるために、目を閉じて大きく呼吸を繰り返す。慣れ親しんだ自宅の匂いに、段々と身体から力が抜けていくのがわかった。
(とんでもない悪夢だった)
我ながらなんという夢を見たのだろう。余りにも非現実的だったと、朱兎は最後に大きく息を吐き出した。
いや、夢だからこその内容だ。あんなことが現実にあるわけがない。そう、あるわけがなかったのだが――。
「目が覚めた? 怖い夢でも見てたのかな?」
どうやら悪夢は延長戦に突入したようだった。
「おはヨ、朱兎」
「……おはよ、う」
すっと伸びてきた手は朱兎の額に張り付いた髪を払う。そのまま流れるように抱き寄せられ、寝起きで頭の働いていない朱兎はすっぽりとその腕の中に収まってしまう。
「は……」
「うーん、朱兎は丁度イイサイズだね」
胸板に押し付けられるような形で抱え込まれ、頭上では頭に顔を埋められているような気配がした。ついでに言うと、頭部を吸われているような気がする。
「まだ夜は明けてないけど、起きる? それとも、今日はゆっくり休む?」
しまいには頭を撫で始められてしまう。大きな手は、まるで愛玩動物を撫でるような手つきで朱兎の髪を撫でている。
(どういうことだ? これは夢か? 現実?)
夢ならば相手が誰であれ、夢だからどうとでもなる。しかし、現実ならば、目の前にいる人物は誰だ?
「っ!」
「狭いベッドだから、そんなに勢いよく起きたら落ちちゃうヨ」
「あ、あんた……」
文字通り飛び起きれば、朱兎の横にいたのは見覚えのある男だった。
「覚えてないって顔をしてるね……俺のこと忘れちゃった?」
くすくすと笑う男、鼬瓏は目を細めながら楽しそうに朱兎に問いかける。
「ユウ、ロン……」
「名前、覚えていてくれて嬉しいヨ」
鼬瓏は起き上がると、再度朱兎を抱きしめた。よく見れば鼬瓏が服を着ていないことに気付いて、朱兎は鼬瓏の腕の中で慌てて離れようとする。が、どこからそんな力が出るのかビクともしなかった。
「ちょっ、あんたなんで服着てないんだよ!」
「俺、寝るときは服着ないんだヨね」
そんな情報は欲しくなかった。せめてもの救いは、下着だけは履いていたということだろうか。
「いや、それより……なんであんたがここに……」
「本当に忘れちゃった? 昨日なにがあったか覚えてない?」
「昨日……」
思い出せないわけじゃない。ただ、あの現実離れした出来事が本当に現実だったということを信じたくないだけだ。
「人身売買の、オークション」
「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃないか」
「う、そだろ」
思い出せてエライエライと、鼬瓏が朱兎の頭をあやすように撫でる。
「麗……キミを担いで来た男がちょっと乱暴だったのかな。部屋に入って俺を見るなり気絶しちゃうから心配したヨ」
「リィ……気絶……」
段々とあのときの記憶が蘇ってくる。そうだ、昨日は気がついたらオークションにかけられて、生理的に受け付けない男に買われそうなところまでいったはずだ。その途中で誰かが高額な金額で横入りして、確か10億なんていうとんでもない高額で落札されたところまでは覚えている。そのあとの記憶は少し曖昧だ。
「檻開けられて、椅子と枷をぶっ壊されたところまでは記憶にある」
「本当に麗は紫釉以外には優しくないなぁ」
よしよし怖かったねと、鼬瓏の朱兎を撫でる手が止まらない。
「これからは朱兎にも優しくするように言っておくヨ」
「これから……?」
「そうだヨ。だって、朱兎は俺のものだからね」
目を覚ませば、そこにはいつも通りの見慣れた天井がある。部屋が暗いのは、まだ夜が明けていないということだろうか。
心臓はバクバクと音が聞こえそうなほど煩く鼓動をしており、額にはじわりと汗が噴き出している。とても恐ろしい夢を見ていた気がした。
朱兎は早鐘を打っている心臓を落ち着かせるために、目を閉じて大きく呼吸を繰り返す。慣れ親しんだ自宅の匂いに、段々と身体から力が抜けていくのがわかった。
(とんでもない悪夢だった)
我ながらなんという夢を見たのだろう。余りにも非現実的だったと、朱兎は最後に大きく息を吐き出した。
いや、夢だからこその内容だ。あんなことが現実にあるわけがない。そう、あるわけがなかったのだが――。
「目が覚めた? 怖い夢でも見てたのかな?」
どうやら悪夢は延長戦に突入したようだった。
「おはヨ、朱兎」
「……おはよ、う」
すっと伸びてきた手は朱兎の額に張り付いた髪を払う。そのまま流れるように抱き寄せられ、寝起きで頭の働いていない朱兎はすっぽりとその腕の中に収まってしまう。
「は……」
「うーん、朱兎は丁度イイサイズだね」
胸板に押し付けられるような形で抱え込まれ、頭上では頭に顔を埋められているような気配がした。ついでに言うと、頭部を吸われているような気がする。
「まだ夜は明けてないけど、起きる? それとも、今日はゆっくり休む?」
しまいには頭を撫で始められてしまう。大きな手は、まるで愛玩動物を撫でるような手つきで朱兎の髪を撫でている。
(どういうことだ? これは夢か? 現実?)
夢ならば相手が誰であれ、夢だからどうとでもなる。しかし、現実ならば、目の前にいる人物は誰だ?
「っ!」
「狭いベッドだから、そんなに勢いよく起きたら落ちちゃうヨ」
「あ、あんた……」
文字通り飛び起きれば、朱兎の横にいたのは見覚えのある男だった。
「覚えてないって顔をしてるね……俺のこと忘れちゃった?」
くすくすと笑う男、鼬瓏は目を細めながら楽しそうに朱兎に問いかける。
「ユウ、ロン……」
「名前、覚えていてくれて嬉しいヨ」
鼬瓏は起き上がると、再度朱兎を抱きしめた。よく見れば鼬瓏が服を着ていないことに気付いて、朱兎は鼬瓏の腕の中で慌てて離れようとする。が、どこからそんな力が出るのかビクともしなかった。
「ちょっ、あんたなんで服着てないんだよ!」
「俺、寝るときは服着ないんだヨね」
そんな情報は欲しくなかった。せめてもの救いは、下着だけは履いていたということだろうか。
「いや、それより……なんであんたがここに……」
「本当に忘れちゃった? 昨日なにがあったか覚えてない?」
「昨日……」
思い出せないわけじゃない。ただ、あの現実離れした出来事が本当に現実だったということを信じたくないだけだ。
「人身売買の、オークション」
「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃないか」
「う、そだろ」
思い出せてエライエライと、鼬瓏が朱兎の頭をあやすように撫でる。
「麗……キミを担いで来た男がちょっと乱暴だったのかな。部屋に入って俺を見るなり気絶しちゃうから心配したヨ」
「リィ……気絶……」
段々とあのときの記憶が蘇ってくる。そうだ、昨日は気がついたらオークションにかけられて、生理的に受け付けない男に買われそうなところまでいったはずだ。その途中で誰かが高額な金額で横入りして、確か10億なんていうとんでもない高額で落札されたところまでは覚えている。そのあとの記憶は少し曖昧だ。
「檻開けられて、椅子と枷をぶっ壊されたところまでは記憶にある」
「本当に麗は紫釉以外には優しくないなぁ」
よしよし怖かったねと、鼬瓏の朱兎を撫でる手が止まらない。
「これからは朱兎にも優しくするように言っておくヨ」
「これから……?」
「そうだヨ。だって、朱兎は俺のものだからね」
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