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それでも諦めきれず、朱兎は動かせる部位を再度動かして全身で暴れてみる。身体を大きく左右リズミカルに揺らせば、座っていた椅子が微かに動いた。
(これ、上手くやれば椅子が前に進んだりするんじゃないか?)
運が良ければそのまま檻のドアまで辿り着ける可能性がある。辿り着いたところでどうにかなるアテはないが、それでもここから脱出することに繋がる可能性を信じて朱兎は更に身体を動かす。
「うっ、わ!」
勢いをつけすぎた。そう思ったときにはすでに遅く、椅子が大きく音を立てて倒れてしまった。朱兎も受け身を取れずにそのまま椅子とともに倒れ込む。
「いってぇ……!」
誰もいない空間に自分の声が虚しく響く。そう、ここには誰もいないはずだった。
「お前、なにを一人で暴れている?」
「え、誰」
突如響いた低音の声。倒れている体勢と暗がりということもあり、突然現れた人物の顔はよくわからない。ただ、朱兎をここまで運んできたオークション関係者ではないことだけは理解することができた。
(功夫服?)
判別できるのは声からして男、服装は功夫服だということだけ。
『はぁ……、こんなのに大金を積んだボスの気が知れん』
溜息と共に呟かれた言葉は日本語ではなかったため聞き取ることはできなかったが、なんとなく馬鹿にされたような気がした朱兎はムッと顔をしかめた。
「あんたがオレを買った人?」
「違う」
しかめっ面をしたまま相手に問う。その声音にも不服がにじみ出たのか、ピシャリと冷たく言い放たれた否定の言葉。
「じゃあ、あんた何者なんだよ」
「答える必要はない」
ガチャリと音がしたあと、ギィッと扉が開く鈍い金属音が辺りに響いた。
「え、ちょっ、なに」
男が近付いてくる気配を感じ、朱兎は思わず身構える。
「動くな」
「っ!」
威圧的な声が頭上から降ってきたと思えば、次の瞬間には木材が壊れる鈍い音をダイレクトに肌で感じた。
どうやったのかまでは目視できないため朱兎にはわからなかったが、この男は足なり手なりを使って椅子を破壊したらしい。朱兎があれだけ暴れてもビクともしなかった椅子を、ほんの一瞬で破壊した怪力男。朱兎は己の非力さを痛感した。
「舌を噛みたくなければ、黙って大人しくしていろ」
「わっ!」
冷ややかにそう言われた次の瞬間に、急な浮遊感に襲われ朱兎は身体を強張らせた。俵担ぎにされていると頭が認識できたのは、檻を出てしばらく経ってからのことだった。
(大の男を軽々と担ぎ上げるとかどんな筋肉野郎なんだ……)
生憎と担がれている向きから男顔は未だ見ることができていないが、大層屈強で強面の男なのだろうと朱兎は想像を膨らませていた。
(いやいや! それより、オレはどこへ連れて行かれるんだ!)
真っ暗な通路から、段々と薄明かりで照らされている通路へと視界が切り替わる。
(絶対にオレのこと買った奴のところじゃん! どうすんだよさっきのおっさんみたいな奴だったら……)
思い出してゾッとしてしまう。オークションの最後の方は色々と考えていたため、正直誰に大金を積まれて落札されたのかなんてわからない。男なのか、女なのか。どちらにせよ人間を買う人間なんて、まともじゃないことだけは確かだ。
「お前は“買われた商品”だ。ここから先、少しでも長生きしたいのならば勝手に喋るなよ」
「……」
急に立ち止まったかと思えば、物騒なことを告げられる。自分を買った相手はそんなにも恐ろしい人間なのかと、想像しただけでも絶望しかなかった。
「……連れてきました」
男は控えめにドアをノックすると、中の人物に向かって声を掛ける。少ししてから内側からドアが開かれ、男は部屋の中へと歩き出した。
「精々、気に入られることだな」
小さく呟かれた男の言葉は、ただいたずらに朱兎の緊張感を増幅させるだけだった。
(これ、上手くやれば椅子が前に進んだりするんじゃないか?)
運が良ければそのまま檻のドアまで辿り着ける可能性がある。辿り着いたところでどうにかなるアテはないが、それでもここから脱出することに繋がる可能性を信じて朱兎は更に身体を動かす。
「うっ、わ!」
勢いをつけすぎた。そう思ったときにはすでに遅く、椅子が大きく音を立てて倒れてしまった。朱兎も受け身を取れずにそのまま椅子とともに倒れ込む。
「いってぇ……!」
誰もいない空間に自分の声が虚しく響く。そう、ここには誰もいないはずだった。
「お前、なにを一人で暴れている?」
「え、誰」
突如響いた低音の声。倒れている体勢と暗がりということもあり、突然現れた人物の顔はよくわからない。ただ、朱兎をここまで運んできたオークション関係者ではないことだけは理解することができた。
(功夫服?)
判別できるのは声からして男、服装は功夫服だということだけ。
『はぁ……、こんなのに大金を積んだボスの気が知れん』
溜息と共に呟かれた言葉は日本語ではなかったため聞き取ることはできなかったが、なんとなく馬鹿にされたような気がした朱兎はムッと顔をしかめた。
「あんたがオレを買った人?」
「違う」
しかめっ面をしたまま相手に問う。その声音にも不服がにじみ出たのか、ピシャリと冷たく言い放たれた否定の言葉。
「じゃあ、あんた何者なんだよ」
「答える必要はない」
ガチャリと音がしたあと、ギィッと扉が開く鈍い金属音が辺りに響いた。
「え、ちょっ、なに」
男が近付いてくる気配を感じ、朱兎は思わず身構える。
「動くな」
「っ!」
威圧的な声が頭上から降ってきたと思えば、次の瞬間には木材が壊れる鈍い音をダイレクトに肌で感じた。
どうやったのかまでは目視できないため朱兎にはわからなかったが、この男は足なり手なりを使って椅子を破壊したらしい。朱兎があれだけ暴れてもビクともしなかった椅子を、ほんの一瞬で破壊した怪力男。朱兎は己の非力さを痛感した。
「舌を噛みたくなければ、黙って大人しくしていろ」
「わっ!」
冷ややかにそう言われた次の瞬間に、急な浮遊感に襲われ朱兎は身体を強張らせた。俵担ぎにされていると頭が認識できたのは、檻を出てしばらく経ってからのことだった。
(大の男を軽々と担ぎ上げるとかどんな筋肉野郎なんだ……)
生憎と担がれている向きから男顔は未だ見ることができていないが、大層屈強で強面の男なのだろうと朱兎は想像を膨らませていた。
(いやいや! それより、オレはどこへ連れて行かれるんだ!)
真っ暗な通路から、段々と薄明かりで照らされている通路へと視界が切り替わる。
(絶対にオレのこと買った奴のところじゃん! どうすんだよさっきのおっさんみたいな奴だったら……)
思い出してゾッとしてしまう。オークションの最後の方は色々と考えていたため、正直誰に大金を積まれて落札されたのかなんてわからない。男なのか、女なのか。どちらにせよ人間を買う人間なんて、まともじゃないことだけは確かだ。
「お前は“買われた商品”だ。ここから先、少しでも長生きしたいのならば勝手に喋るなよ」
「……」
急に立ち止まったかと思えば、物騒なことを告げられる。自分を買った相手はそんなにも恐ろしい人間なのかと、想像しただけでも絶望しかなかった。
「……連れてきました」
男は控えめにドアをノックすると、中の人物に向かって声を掛ける。少ししてから内側からドアが開かれ、男は部屋の中へと歩き出した。
「精々、気に入られることだな」
小さく呟かれた男の言葉は、ただいたずらに朱兎の緊張感を増幅させるだけだった。
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