中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子

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 あぁ、終わったなと……朱兎は口元を引きつらせた。想像力が豊かなのか、頭の中でぐるぐるとこれからどうなってしまうのか考え込んでしまう。
 嫌悪感しか抱かない男に買われてしまったことが運の尽き。そもそも、なにがどうしてこんな場所に己がいるのかすらわからないというのに、事態は悪化していく一方だ。

「――! ――――!」

 司会進行の男が何かを言っているが、朱兎の耳には入ってこない。会場のざわめきも、今の朱兎にとってはただのノイズにしか聞こえなかった。
 手枷を外してみようと試みるも、重みや厚さからどうにかできるものではないと瞬時に悟る。

(どうする……いや、どうにかしないと! 考えろ……ここから逃げないと)

 手足を鎖に繋がれた状態、構造のわからない建物、周りは恐らく全部敵。人身売買のオークション会場にいる人間が、そもそも味方なわけがない。

(詰んでるにもほどがある!)

 八方塞がりの状況が改めて突きつけられ、ぎりっと奥歯を噛み締める。

「えっ……と、聞き間違えではなければ10億、10億が出ました!」
「――は?」

 突如聞こえた金額に、朱兎の思考が現実へと引き戻された。終わったと思っていたオークションは、どうやらまだ続いているようだった。司会進行役の男と同じ反応になってしまうが、聞き間違いでなければ10億と聞こえた。

(10億? いやいや、確かに500はないって言ったけど……10億?)

 朱兎の頭は先ほどとは違った意味で混乱していた。10億なんて、有名画家の絵画レベルの金額だ。まさか自分にそんな大金を出すスキモノがいるなんて思いもしなかった。
 自分にとんでもない値が付いたことが信じられず、朱兎は自分自身をどこか遠いところから客観的に眺めているような気分だった。

「ほ、他にいらっしゃらないようでしたら、ハンマープライスとさせていただきますが……」

 しんと静まり返った場内に、ハンマーが鳴り響く。

「では、あちらのお客様で落札とさせていただきます!」

 その一声のあとに、ワアッと歓声が上がる。

「さて……それでは、次の商品に移らせていただきます――」

 暗転した場内。その直後に、朱兎の入れられていた檻が動かされた。そのままどこかへ移動させられたかと思えば、人が離れていく気配を感じ一人その場に残されてしまう。

「……理解が追いつかん」

 ポツンと檻の中に放置された朱兎は、天を仰ぎながら大きく溜息を吐き出す。一人になったことで張り詰めていた緊張の糸が解れたのか、身体の力が一気に抜け落ちた気がした。
 あまりにも現実離れした出来事が続き、思考も考えることをやめてしまっている。

「逃げ出すにしても動けないしここがどこだかもわかんねぇし……詰んだ、もー無理」

 どうにか気持ちを落ち着けようと、いささか投げやりに言葉を吐き出していく。

「今何時なんだよ……大学あったのに……バイトは休みだったからいーけどさー」

 欠席で音信不通。もしかしたら、大学の友人がこの事態に気付いてくれるかもしれない。それに気づいた朱兎は、淡い期待を抱く。これでバイトが入っていたら、バイト先の方からも何かしらのリアクションがあった可能性もあるが……一人暮らしをしていると、こういう時に頼れる相手がいないのは辛いところだ。

「音信不通が続けばさすがに誰かが捜索願出してくれるだろ……多分」

 天に向かって独り言を続けていると、段々と気持ちが落ち着いてきた。そうすると、今までの出来事に対して苛立ちが募り始める。それをぶつけるように、朱兎はガチャガチャと金属音を立てながら、可能な限り手足をバタつかせてみた。

「くっそ、やっぱり簡単には外れなかった!」

 あわよくば枷が外れないかとは思ったが、やはりそう簡単にはいかなかった。
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