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ノワール帝国編
洗礼
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「ユウとパルファ、お前らこの街でなにしたんだ?」
サリムとの打ち合わせから数日後、ユウたち4人は以前滞在していた城塞都市ルーグへとたどり着いた。
そして住民たちがユウとパルファを遠巻きに見つめることに対して、シルバが質問をした。
「実は以前、パルファと共にこの街に滞在してSランクダンジョンを攻略したんです・・・そのとき色々ありまして」
「あー、なんかそんな話聞いたな。ここだったのか」
事情を説明すると、シルバはすぐに興味を無くした。
数日行動を共にして分かったが、「世捨て人」の異名をもつシルバは、その名のとおり俗世間に関心がない。
自分が関わる人に対してはある程度の興味を示すが、必要以上は掘り下げずに終わる。
だがそれは決して相手が嫌いなどではなく、シルバの素であるようだ。
「♪~♪~」
そんなやりとりの中、鼻歌まじりの飄々とした態度でいるのが、第3騎士団団長のベルベットだ。
ベルベットについても、ここ数日である程度知ることができた。
結論から言うと、このベルベットという男は異質だ。
騎士団の団長とは思えないほどの粗暴な戦い方。生きた魔物に食らいつくなどの異常行動。
サリムがいたあの場所以来、騎士団の鎧すらまともに着ていない。
寝巻きに着るようなダボッとした布を着て、防具すら着けずにここまで来た。
「パルファ殿、ユウ殿。ようこそおいでなすった」
そのまま国境側の門まで歩くと、以前も世話になった兵長のガイが待っていた。
「ベルベット殿、シルバ殿もようこそ。国境までワシが案内いたします」
~~~~~
もうすぐ日が落ちる頃、ガイを含めた5人は地面に線が引かれた場所へと来ていた。
「この国境を越え、真っ直ぐ進めばユリウスという都市に着きます。そこで正式に入国手続きをしてくだされ」
「ありがとうございます、ガイさん」
ユウはお礼を言って、がっしりと握手をした。
「ユウ殿・・・十分注意してくだされ」
「・・・はい」
別れ際、ガイが心配そうに忠告をした。
ネグザリウス王国とノワール帝国は仲が悪い。
そして国家間の関係性は、そのまま国民同士の関係性につながる。
『あちらでは、王国民の人権が保証されていないと考えてくだされ』
サリムから注意されたことのひとつがそれだ。
今後を思い悩みながら歩いていると、ルーグのような城壁に囲まれた都市が見えてきた。
一行は国境を超え初めての街、ユリウスに到着したのだった。
ユウたち一行が門へと近づくと、それに気づいた門兵が慌てて笛を吹いた。
するとワラワラと兵士たちが現れて、一行を取り囲む。
遠くからは弓を構えているものもいるようだ。
「・・・ははっ」
その光景を見て、ベルベットが笑いながら取り囲む兵のひとりに近づこうとしたとき、シルバが止めた。
「俺そっくりの指名手配犯でもいるのか?」
ベルベットを抑えながら、シルバが大きめの声で兵士たちに問いかけた。
「申し訳ございませんねぇ、王国の勇者様方。まだ本物かどうか分かりませんので」
兵士たちの向こうから、そんな言葉が聞こえた。
直後、兵士の群れを割って現れたのは偉そうな口髭を生やしたサラサラ髪の男。
制服を見るに、その男がこの都市の軍事責任者だろう。
「んん~?ふんふん・・・」
品定めをするように、こちらの全身を舐めるように見回す男。
「・・・これを。国王ネグザリウスと宰相サリムの書状です」
パルファが視線への嫌悪感を露わにしながら、その男へと丸まった紙を差し出す。
「・・・おお、これはこれは本物の勇者様方でございましたか。いやはや失敬・・・」
大仰な言い方で、その男は兵士たちの武器を下げさせた。
この男も兵士たちもニヤニヤしているのを見ると、この茶番はあらかじめ決まっていたのだろう。
「・・・ただ勇者様を襲って奪ったのかもしれませんなぁ。確認が取れるまで、拘置所にいてもらいましょう」
男のその言葉とともに、ユウたち一人ひとりの両脇に兵士たちが来た。
4人はそのまま促されるように歩き、大部屋の牢屋に収監されたのだった。
~~~~~
冷たい床に寝そべりながら、ユウはサリムに言われたことを思い出す。
『おそらく入国した瞬間、洗礼を受けることでしょう。ですがこれは帝国の常套手段です。決して刃向かってはいけません』
「いやぁ・・・サリムさんに言われてなかったら暴れだしてたかもなぁ」
「言われてたけど、ここまでだと思わなかったわ。こんなに無下にされるなんて・・・」
ユウの独り言へ、パルファが悔しそうに返す。
「まぁまぁ落ち着いてよパルファ。ほら、あの二人を見てごらん」
ユウが指した方向には、スースーと寝息をたてるシルバと、片手で逆立ちをしながらバランスをとって遊ぶベルベットがいた。
「・・・・・」
「ね?パルファもゆっくりしよう?」
そうしてなだめると、それまで落ち着かない様子で牢屋内を行ったり来たりしていたパルファが、ユウの隣に腰掛けた。
「さて、これからどうなるかなあ?」
ノワール帝国で過ごす第一夜は、冷たい床での雑魚寝となった。
サリムとの打ち合わせから数日後、ユウたち4人は以前滞在していた城塞都市ルーグへとたどり着いた。
そして住民たちがユウとパルファを遠巻きに見つめることに対して、シルバが質問をした。
「実は以前、パルファと共にこの街に滞在してSランクダンジョンを攻略したんです・・・そのとき色々ありまして」
「あー、なんかそんな話聞いたな。ここだったのか」
事情を説明すると、シルバはすぐに興味を無くした。
数日行動を共にして分かったが、「世捨て人」の異名をもつシルバは、その名のとおり俗世間に関心がない。
自分が関わる人に対してはある程度の興味を示すが、必要以上は掘り下げずに終わる。
だがそれは決して相手が嫌いなどではなく、シルバの素であるようだ。
「♪~♪~」
そんなやりとりの中、鼻歌まじりの飄々とした態度でいるのが、第3騎士団団長のベルベットだ。
ベルベットについても、ここ数日である程度知ることができた。
結論から言うと、このベルベットという男は異質だ。
騎士団の団長とは思えないほどの粗暴な戦い方。生きた魔物に食らいつくなどの異常行動。
サリムがいたあの場所以来、騎士団の鎧すらまともに着ていない。
寝巻きに着るようなダボッとした布を着て、防具すら着けずにここまで来た。
「パルファ殿、ユウ殿。ようこそおいでなすった」
そのまま国境側の門まで歩くと、以前も世話になった兵長のガイが待っていた。
「ベルベット殿、シルバ殿もようこそ。国境までワシが案内いたします」
~~~~~
もうすぐ日が落ちる頃、ガイを含めた5人は地面に線が引かれた場所へと来ていた。
「この国境を越え、真っ直ぐ進めばユリウスという都市に着きます。そこで正式に入国手続きをしてくだされ」
「ありがとうございます、ガイさん」
ユウはお礼を言って、がっしりと握手をした。
「ユウ殿・・・十分注意してくだされ」
「・・・はい」
別れ際、ガイが心配そうに忠告をした。
ネグザリウス王国とノワール帝国は仲が悪い。
そして国家間の関係性は、そのまま国民同士の関係性につながる。
『あちらでは、王国民の人権が保証されていないと考えてくだされ』
サリムから注意されたことのひとつがそれだ。
今後を思い悩みながら歩いていると、ルーグのような城壁に囲まれた都市が見えてきた。
一行は国境を超え初めての街、ユリウスに到着したのだった。
ユウたち一行が門へと近づくと、それに気づいた門兵が慌てて笛を吹いた。
するとワラワラと兵士たちが現れて、一行を取り囲む。
遠くからは弓を構えているものもいるようだ。
「・・・ははっ」
その光景を見て、ベルベットが笑いながら取り囲む兵のひとりに近づこうとしたとき、シルバが止めた。
「俺そっくりの指名手配犯でもいるのか?」
ベルベットを抑えながら、シルバが大きめの声で兵士たちに問いかけた。
「申し訳ございませんねぇ、王国の勇者様方。まだ本物かどうか分かりませんので」
兵士たちの向こうから、そんな言葉が聞こえた。
直後、兵士の群れを割って現れたのは偉そうな口髭を生やしたサラサラ髪の男。
制服を見るに、その男がこの都市の軍事責任者だろう。
「んん~?ふんふん・・・」
品定めをするように、こちらの全身を舐めるように見回す男。
「・・・これを。国王ネグザリウスと宰相サリムの書状です」
パルファが視線への嫌悪感を露わにしながら、その男へと丸まった紙を差し出す。
「・・・おお、これはこれは本物の勇者様方でございましたか。いやはや失敬・・・」
大仰な言い方で、その男は兵士たちの武器を下げさせた。
この男も兵士たちもニヤニヤしているのを見ると、この茶番はあらかじめ決まっていたのだろう。
「・・・ただ勇者様を襲って奪ったのかもしれませんなぁ。確認が取れるまで、拘置所にいてもらいましょう」
男のその言葉とともに、ユウたち一人ひとりの両脇に兵士たちが来た。
4人はそのまま促されるように歩き、大部屋の牢屋に収監されたのだった。
~~~~~
冷たい床に寝そべりながら、ユウはサリムに言われたことを思い出す。
『おそらく入国した瞬間、洗礼を受けることでしょう。ですがこれは帝国の常套手段です。決して刃向かってはいけません』
「いやぁ・・・サリムさんに言われてなかったら暴れだしてたかもなぁ」
「言われてたけど、ここまでだと思わなかったわ。こんなに無下にされるなんて・・・」
ユウの独り言へ、パルファが悔しそうに返す。
「まぁまぁ落ち着いてよパルファ。ほら、あの二人を見てごらん」
ユウが指した方向には、スースーと寝息をたてるシルバと、片手で逆立ちをしながらバランスをとって遊ぶベルベットがいた。
「・・・・・」
「ね?パルファもゆっくりしよう?」
そうしてなだめると、それまで落ち着かない様子で牢屋内を行ったり来たりしていたパルファが、ユウの隣に腰掛けた。
「さて、これからどうなるかなあ?」
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