上 下
58 / 108
勇者の子供編

壁しかない

しおりを挟む
「釈然としないけど、とりあえず破壊しましょうか」
最終的にパルファもそう判断して、先ほどのユウと同じく剣を振りかぶる。

(本当にいいのか?これを破壊してしまって)
さまざまな感情を失っているユウだが、予感や第六感といった不明瞭ながらもアテになる感覚は残っている。
それらが妙にざわつくのだ。本当にこのダンジョンコアを、壊して大丈夫なのかと・・・

「待ってパルファ。まだ壊さないで」
そのざわつきが勝り、ユウは本来止める必要のない行為を止める。
「うん?・・・わかったわ」
パルファもなにか思うところがあったのか、あっさりと剣をおろす。

「まだ時間はある。ダンジョンはここまでだと分かったし、今まで来た道をもう一度調べなおしてみましょう」
パルファの案にユウも賛同し、2人はダンジョンボス部屋を後にした。

~~~~~

部屋から出た後、2人は今まで通った道を入念に調べた。
壁や絨毯の下に隠された空間が無いか、絵画の裏など隅々まで調べたあげくに、一階層のホールにまで帰ってきた。

「ここで最後・・・調べる場所は多そうね」
「そうだね。ここを調べてなにも無かったら、ダンジョンコアを破壊しよう」
そういって2人は手分けして部屋を調べ始めた。

(思えば、ここが結局一番の難関だったな・・・)
椅子の影や壁を調べながら、ユウはそんなことを考える。実際にここ以降の階層では、Aランクの魔物は一切出なかった。

「そういえばパルファ、建物の外はどんな感じだったの?」
ユウは調査をしつつ、以前パルファが建物の周囲を調べたときのことを聞く。あのときユウは建物を眺めており、パルファだけがぐるっと見回ったのだ。
「う~ん、何も変な所は無かったわよ。ここには窓も無いから・・・壁しか・・・無か・・・った」

突然パルファの言葉が途切れ途切れになる。パルファの方を見ると、何かに驚いているように祭壇の方を見つめていた。その視線の先には、十字架が描かれたステンドグラスがあった。



―――ステンドグラスがあるのに壁しかなかった?

―――そもそもなぜ外は明るいのにステンドグラスから光が入らない?

―――あのステンドグラスに描かれていた十字架に、





―――縛られていた男はどこに行った?





そう思ったのと同時に、ステンドグラスにヒビが入り盛大に砕け散った。
ステンドグラスがあった向こう側には建物の周りと同じ暗い闇が広がり、そこからタキシードを着た細身の男がふわりと降り立った。

~~~王都~~~

「これで5件目か・・・」
呟くジィファの目の前には、無残に切り殺された身なりの良い男が横たわっていた。

パルファとユウがダンジョンにて奇怪な現象に苛まれている頃、王都では恐ろしい事件が続いていた。
――貴族を狙った連続殺人事件
犯人の目星もつかないまま、すでに5人が手にかけられていた。

貴族の屋敷にはその家族だけでなく、使用人や護衛なども多くいる。それなのにどの事件も目撃者はいない。当主の部屋の中でひっそりと、惨劇が起こっているのだ。
そしておそらくだが、この事件は先の脅迫状と関係があるはずだ。脅迫状が届いてから最初の犠牲者が出たことからも、かなり確実は高いだろう。

現場を検証している騎士団の中の一人が近づいてきて耳元で告げる。
「ジィファ様・・・実は今回も・・・」
「やはり、か」
そして今回の事件の被害者には共通している点があった。

「今回も後ろ暗い者だったようだな」
「おいアラン!遺族が聞いていたら・・・!」
そう。アランが言ったとおり、この事件の被害者である貴族たちは、地方からの強引な徴税や禁止されている奴隷売買など、権力を利用して陰で悪事を働いている者たちだった。

悲しきかな、どれだけ治世に尽力しても騎士団による取り締まりをおこなっても、一定数の悪は消せないのが現状だ。ユウが素晴らしいと褒めたこの王都でさえ、表層には浮かんでこないだけで日陰は存在するのだ。

(まったく・・・)
ジィファはアランのあからさまな発現を静止しながら考える。
双子で外見は似ているが、立場上勇者よりも自由に生きてきたアランは少し配慮に欠ける部分がある。
奥方や子供が何も知らなかった場合、遺族に与えるショックは計り知れないだろう。なのにこの男は・・・

じとっとした目で我が兄を見つめていると、ため息交じりにアランが口を開く。
「悪かったよ。こっちはお前と違って勇者のしがらみなんかと無縁で育ってきたから、取り繕うとか苦手なんだ。今後気を付ける」
「・・・いや悪いな、少し気にし過ぎた。お前も勇者家系初の双子という立場で、色々あったというのに」

そう。勇者家系に双子が生まれたのは、実はジィファとアランが初のことだった。
男女に関わらず勇者に相応しいスキルは発現する。
歳が違う兄弟の場合は年長者が勇者となる。
だが歴史上唯一の双子であるジィファとアランはどちらが勇者を継ぐか、どちらが勇者に相応しいかを幼いころから大人たちに比較されて生きてきた。

その過程で2人は、さまざまな心無い言葉も聞いてきた。
『勇者に選ばれない方』『忌み子』『失敗作』
最終的に勇者として選ばれたジィファは大きな責任と引き換えに、そういった声を聞かなくなったが、アランは逆にその声を一手に引き受けることとなったのだ。

神妙な顔をしていると、アランがそれを察して口を開いた。
「この際言うが俺だってお前には感謝しているんだ。お前が勇者の立場や重圧を背負ってくれたおかげで、こうして自由気ままに生きてこられたんだからな」
「いや俺こそ・・・っと、こんな話は仏様の前でするものではないな。」

今は目の前の事件解決に尽くそう。アランとの昔語りは今まで何度もしたし、建国の式典を成功させれば久々に朝まで飲み明かすことだってできる。
娘とそのパートナーが王都に帰ってくるまでに、犯人を見つけ出さなくては。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

神のマジシャン〜魔法はやはり便利です!〜

重曹ミックス
ファンタジー
最近、VRMMOが発売された。 それは今までは無かった魔法や剣を使って戦闘ができるゲームで老若男女問わず大人気。 俺もそのゲームの虜だった。 そんなある日いつしかそのゲームの公式の魔法を全て使えるようになり《賢者》とまで呼ばれていた。 その後は、魔法を組み合わせて発動してみるという感じの日々を過ごす。 そんなある日、ゲームから出て寝たのだったが起きると知らない森に倒れていた。 これもいつものように、ゲーム付けっぱなしだったから、ということにしたかったが、どうやら来てしまったらしい。 ――異世界に――。 そして、この世界には魔法が存在しないようだった。正確には存在を知られて無かったっといった方がいいだろう。 何故なら、実際に魔法は使えた。さらに空気中に魔力もあるようだ。 俺は異世界で魔法使う生活をすることとなった……。 しばらく過ごしその世界にも慣れ始めるが、自分がここに来た――来ることになった理由を知ることになる。 ­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­-- これを読んでると「主人公の力既にスキルとか必要無くね?」「何が目的で力を付けようとしてんの?」といった疑問が出ると思いますがそれは敢えてそうしています。後にそのことについて詳しいことが書いてある部も書きます。また、神については最初の方ではほとんど関与して来ないです。 ノベルアップ+、なろうにも掲載。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...