【完結済】26歳OL、玄関先でイケメン執事を拾う〜アルファポリス版〜

こうしき

文字の大きさ
上 下
11 / 101
第一部 owner&butler

第十話 【夢の淵】

しおりを挟む
「それにしても、本当にいいんですか?」
「何がです?」
「家事ですよ」

 全ての家事を行うと宣言したセバスチャン。料理に洗濯、それに掃除に買い出しに至るまで全てだ。

「だって私、その為にここにいるんですもん」
「まあ……確かに」

 今日からわたしの執事になるといって現れたセバスチャン。

(あれ、でも待って)

「執事って家事とかする人のことを指すんですかね?」

 家事を全部するというならば、家政婦(夫)やお手伝いさんなのではないだろうか。執事と言えば聞こえはいいが、その役職はお金持ちの家の雑務とかをする人のことを指すんじゃないのか。

「まあまあ、細かいことはよいではありませんか。執事と言ったほうが聞こえがいいでしょう?」
「そうですけど……」

 どうも引っ掛かる。わたしが不満げに睨んでいると、セバスチャンは首を傾げて不思議な顔をしていた。

「お、お手伝いと言うよりも執事と言って登場したほうが格好良いでしょう!」
「登場? なるほど、です……」

 ただ格好をつけたかっただけらしかった。そんなことで必死になる理由がイマイチわからないままだったが、まあいいとしよう。

「そうだほたるさん、一人きりのプライベートな時間が欲しいときは遠慮なく仰って下さいね。席を外しますので」
「プライベートな時間?」
「例えば……その、ねえ?」
「何故に疑問形?」

 セバスチャンは顔を真っ赤にして俯く。何故?

「顔赤いですよ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です! それよりも他にも決めねばなないことがあるとは思いますが細部については共に生活をしながら決めていくほうが効率がいいかと思うのですが如何でしょうか!?」

 早口で一気に言ったセバスチャン。顔が物凄く必死だ。何故?

「構いませんが……大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
「なんかキャラ変わってますが、本当に大丈夫ですか?」
「問題ありません。それよりももう一つしなければならないことを済ませましょう!」

 ベッドから立ち上がるセバスチャン。咳払いをすると、床に置かれていたわたしの洗濯物を差し出した。これがまたびっくりするくらい綺麗に畳まれているのだ。

「キッチンの戸棚は開けてもよいと……好きに使ってよいと言われましたが、その……流石に洋服箪笥を勝手に開けるわけにはいかないだろうと思いまして」

 うむ、確かに。そこを勝手に開けられては流石に恥ずかしい。しかし、だ。いちいち許可を求められていては、一緒に生活をする上で不便極まりないのではないだろうか。

「開けて、いいです」
「承知しました。えっと……どれをどこにしまえば?」
「ああ……えっと……」

 白く塗装された木製の洋服箪笥を下から開けていく。これはここ、それはこちらと説明を済ませ最後に残った二列に並ぶ一番上の引き出し。

「あの……」

 説明しながら服をしまっていったので、最後に残されたのはベージュのストッキング。それにインディゴブルーの生地に金色の刺繍の入ったブラジャーとショーツだった。

「右側の引き出しがこれ、左側の引き出しがこれです……」
「…………」

 わたしの隣で正座をするセバスチャンは、膝の上で拳を握り締めて顔を伏せ、ふるふると小刻みに震えていた。

「……セバスさん?」
「…………」
「あのあの! これだけは流石に……自分で、自分でしまいます!」
「っ! いいえっ! 駄目です! やると決めたからには最後までやり遂げるのが執事!」

 そう言って残されたストッキングと下着を両手に鷲掴みにすると、物凄い速さで引き出しを開ける。

「手前から使用されますよね!?」
「え、あ、はい」
「では最奥に直しますね!」
「お気遣いどうも……」


 スッ──ぱたん。


「ふぅ……」
「お疲れ様でした……?」

 溜め息をつきながら額の汗を拭うセバスチャン。その姿にわたしはどぎまぎすることはなく──冷静な心持ちで彼を見つめていた。

(思ったよりも大丈夫なのかな……?)

 彼に対して抱いていた恐怖心が、若干薄らいだように感じた。

「セバスさん」
「はい」
「生活をする上で必要な場合は、どの引き出しも勝手に開けてもらって構いません。いちいち聞いていたら不便でしょう?」
「いいのですか?」
「信用してますので」
「しん、よう……」

 ぼんやりと宙を眺めるセバスチャンを置き去りにし、わたしは一人トイレに入る。出てくると時刻は二十三時三十分。

「そろそろ寝ませんか?」

 わたしは目を擦りながらベッドに座りそのまま身を倒した。背を向けていたセバスチャンは立ち上がると、大きく咳払いをしてわたしの眼前に立った。

「どうぞ」

 と、体を転がしわたしは壁側に寄る。

「……失礼します」

 ベッドの淵に腰掛け、そのまま身を倒すセバスチャン。

(本当に同じベッドで寝るんだ……)

 シングルベッドなので、体を少しでも動かすとお互いの背と背がぶつかる。すみません、なんて謝っているうちに睡魔が押し寄せ、わたしを眠りの世界へと引摺り込もうとする。

「そうだほたるさん。忘れていたのですが……」
「なんですー……?」

 眠い。

「洗濯物は外に干しましたが、よろしかったでしょうか?」
「ふぇ……せんたく、もの……うん、そとでいいです……」
「……ほたるさん?」

 駄目だ、ね……む……ぃ。

「……ほたるさん?」

「ス──」

「えぇっ……早っ」





















 睡魔に連れていかれたほたるは、小さく唸りながら寝返りを打った。壁側に向けていた顔と腹が百八十度回転し、セバスチャンの方を向く。

 一方、背ではなく腹をほたるの方へ向けていたセバスチャンは一人、動揺して体を跳ね上がらせたのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...