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第一部 owner&butler
第六話 【裸の付き合い】
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どうしてこんなことになってしまったのだろう。
お酒の勢いでここまできてしまったが、一気に酔いが冷めていく。
わたしの目の前にはセバスチャンの背──それも剥き出しの、衣服を身に纏っていない背がある。
決して広くはない脱衣場で、わたしは彼が衣服を脱ぐのを黙って見ていた。
(どうしろってんだ……)
互いに背を向けて脱げば恥ずかしくないだろうと言われたものの、いざ背中合わせになると「見られているのでは?」という懐疑心がふつふつと湧いてきて、わたしの心を侵食したのだ。
しかし結果的にはこれだ。
彼はわたしのほうなど気に止めることもなく、淡々と裸体に近づいていく。
(あ、ちょっと待ってちょっと待って!)
すかさずわたしは背を向ける。どうしてかって、それは……えっと……言わせないで。
「ほたるさん?」
「は、はい!」
「私は準備が出来ましたが」
「さ、先に! 先に入っておいて下さい」
「わかりました」
直後、戸が開き閉じ──掛け湯をして湯船に浸かる音。それらの音を聞きながら、わたしは身に付けているものを順番に脱いでゆく。汗でベタベタになった足がスカートの裏地にくっつくのが不快で、スカートを脱いでからストッキングを下げた。下着とは別の洗濯ネットに入れ、洗濯機へ放り込んだ。
「あれ、ちょっと待って……」
うちのお風呂は、入って左手にバスタブがある。セバスチャンが湯船に浸かり、こちらに顔を向けていたら……まずい、全部見えるじゃん!
意を決してそろりと折戸を開くと、幸いにも彼は背を向けて湯に浸かっていた。
「どうぞ?」
「こっち見ないで下さいっ!!」
「すみません……!」
湯船が正面になくてよかった。首を少し捻ってこちらを見られただけなので、何も見えなかった……はずだ。
わたしは浴室に足を踏み入れ、戸を閉じた。
……で。
…………で!
とりあえずは顔を真正面に向けたまま、掛け湯をする。
「あの!」
「はい?」
「壁側を向いてもらえませんか?」
「はい」
なんて従順な執事なんだ。どうして、何故と訊かれないのは大変ありがたかった。
わたしは掛け湯をする姿を人に見られるのに抵抗がある。全身綺麗に流して入りたいから、と言えば伝わるだろうか?
「…………」
全身隈無く湯を掛けて、いよいよ湯船に浸かろうとしたその時。
「やばい」
「どうしました?」
「し……心臓がばくばくなってます……」
「ばくばく?」
「き……緊張して……」
顔を下げて見ると、決して大きいとは言えないわたしの左乳房が、ドッドッと上下に脈打っていた。足が震えて、上手く立つことが出来ない。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です……」
言って湯船の縁を握ると、その手をセバスチャンが掴んでいた。
「はい、立って」
「は……はい」
「はい、いちに、いちに」
「よいしょ」
「はい、上手に立てました」
「ふぅ…………って……ギャアアアアアア!」
「何事ですか!?」
「何事ですか、じゃないです!」
当たり前ではあるが、セバスチャンは真っ直ぐにわたしを見据えていた──わたしの上半身を。
「み……み……見ました、ねっ!!」
「ええ」
「ええ、じゃないですっ!」
ざぶん!と乱暴に、わたしは湯に浸かる。セバスチャンと向き合う形だ。膝を折り、これでもかというほど彼を睨み付ける。
「そんなに怒らなくても」
「怒りますよ!」
「綺麗なおっぱ……」
「言わなくていいですから!」
自分でいうのはアレだけど、わたしの胸は綺麗だ。そんなに大きくはないけれど……片方が片手に収まるかな、程度の大きさだけど。まじまじと見つめたことのある人間ならば、必ず褒める──形も色も申し分ない、と皆口を揃えて言うのだ。
「形も色も申し分ないですね」
「だから言わなくていいですからっ!」
「ふふっ」
セバスチャンはいたずらっぽく笑うと、「さて」と言って湯船の中で正座した。
「わあああああッ!」
「どうしました!?」
「み、み、見えますぅ!」
互いに膝を折っていた為見えていなかった彼の秘部が、正座をしたことにより露になる。
「ああ」
「『ああ』じゃないです! かく……ッ隠して下さい!」
堪らずわたしは顔を横に背ける。男の人のそれを見るのは久しぶりだった為、変に緊張してまたしても心拍数が上がってしまう。
「私もほたるさんのおっぱ……失礼、胸部を見ていますので、おあいこ、ということで」
「見てしまったから見てもいいですよ、と!?」
「はい」
「そこは恥じらいを持って下さいよ!」
「まあまあ。とりあえず……さあ、体を洗ってしまいましょう」
ざぶっ、と立ちあがり湯船の縁に腰掛けるセバスチャン。その体勢のまま、わたしを立ち上がらせるために手を差し伸べてくれる。カラーコンタクトを外した彼の、少し茶色を混ぜたような色の瞳に吸い込まれそうになる。
「さあ」
「よいしょ…………ってわあああああッ!」
あろうことか彼は湯船の縁に、外向きではなく内向きに腰掛けていた。膝から下は湯に浸かっているが、そこから上は湯の上だ。
「…………!!」
立ち上がったわたしの視界には全てが映り込んだ。湯に濡れて腕と背に張り付いた艶やかな黒髪。その髪の隙間から覗く筋肉質な肉体──それに。
「やッ…………ぁ……の、すみません」
「謝ることではありません。現にほら、私もほたるさんの全身をしっかり見ています」
セバスチャンの言葉にわたしは顔を下げ自分の体を見下ろす。立ち上がったことにより、全てが──彼の目の前に晒されていたのだ。
「やあああああんッ!」
「危ない!」
膝を折り勢いよく湯に浸かろうとした──刹那、ぐらりと揺れる視界、それに足裏の滑るような感覚。この時ほど入浴前にお酒を飲み過ぎたことを後悔したことはない────
「っつぅ……………ん………? あ…………あぁ……あぅ……」
「ぅ…………あッ、の………………ッ」
これは事故だ。
愚かなわたしが入浴前に飲酒をしてしまったことが原因で、起きてしまった事故なのだ。
熱い湯の中で立ち上がった直後、急に屈み込み頭がぐらついた。そしてバランスを崩して湯船の中で足を滑らせた、その結果。
わたしは前のめりに倒れ、彼の両太股に手を着き、転倒を逃れていた──が、ここで手が滑り肘を着いてしまった。
「あわわわわわ……」
「うっ……うぅ…………」
転倒を免れたのは良かったと思う。よかったとは思うが結果的に私は、彼のセバスチャン両太股に肘を着き、眼前には彼の────
──眼前。本当に申し訳ないくらい目の前に、それはあった。私の吐き出す息がかかってしまうのではないだろうかというほどの近さに。
なんだこれ、エッチな少年漫画にあるようなこの展開はなんだ。
即座に顔を上げたわたしが見上げたセバスチャンの表情は、信じられないものだった。
お酒の勢いでここまできてしまったが、一気に酔いが冷めていく。
わたしの目の前にはセバスチャンの背──それも剥き出しの、衣服を身に纏っていない背がある。
決して広くはない脱衣場で、わたしは彼が衣服を脱ぐのを黙って見ていた。
(どうしろってんだ……)
互いに背を向けて脱げば恥ずかしくないだろうと言われたものの、いざ背中合わせになると「見られているのでは?」という懐疑心がふつふつと湧いてきて、わたしの心を侵食したのだ。
しかし結果的にはこれだ。
彼はわたしのほうなど気に止めることもなく、淡々と裸体に近づいていく。
(あ、ちょっと待ってちょっと待って!)
すかさずわたしは背を向ける。どうしてかって、それは……えっと……言わせないで。
「ほたるさん?」
「は、はい!」
「私は準備が出来ましたが」
「さ、先に! 先に入っておいて下さい」
「わかりました」
直後、戸が開き閉じ──掛け湯をして湯船に浸かる音。それらの音を聞きながら、わたしは身に付けているものを順番に脱いでゆく。汗でベタベタになった足がスカートの裏地にくっつくのが不快で、スカートを脱いでからストッキングを下げた。下着とは別の洗濯ネットに入れ、洗濯機へ放り込んだ。
「あれ、ちょっと待って……」
うちのお風呂は、入って左手にバスタブがある。セバスチャンが湯船に浸かり、こちらに顔を向けていたら……まずい、全部見えるじゃん!
意を決してそろりと折戸を開くと、幸いにも彼は背を向けて湯に浸かっていた。
「どうぞ?」
「こっち見ないで下さいっ!!」
「すみません……!」
湯船が正面になくてよかった。首を少し捻ってこちらを見られただけなので、何も見えなかった……はずだ。
わたしは浴室に足を踏み入れ、戸を閉じた。
……で。
…………で!
とりあえずは顔を真正面に向けたまま、掛け湯をする。
「あの!」
「はい?」
「壁側を向いてもらえませんか?」
「はい」
なんて従順な執事なんだ。どうして、何故と訊かれないのは大変ありがたかった。
わたしは掛け湯をする姿を人に見られるのに抵抗がある。全身綺麗に流して入りたいから、と言えば伝わるだろうか?
「…………」
全身隈無く湯を掛けて、いよいよ湯船に浸かろうとしたその時。
「やばい」
「どうしました?」
「し……心臓がばくばくなってます……」
「ばくばく?」
「き……緊張して……」
顔を下げて見ると、決して大きいとは言えないわたしの左乳房が、ドッドッと上下に脈打っていた。足が震えて、上手く立つことが出来ない。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です……」
言って湯船の縁を握ると、その手をセバスチャンが掴んでいた。
「はい、立って」
「は……はい」
「はい、いちに、いちに」
「よいしょ」
「はい、上手に立てました」
「ふぅ…………って……ギャアアアアアア!」
「何事ですか!?」
「何事ですか、じゃないです!」
当たり前ではあるが、セバスチャンは真っ直ぐにわたしを見据えていた──わたしの上半身を。
「み……み……見ました、ねっ!!」
「ええ」
「ええ、じゃないですっ!」
ざぶん!と乱暴に、わたしは湯に浸かる。セバスチャンと向き合う形だ。膝を折り、これでもかというほど彼を睨み付ける。
「そんなに怒らなくても」
「怒りますよ!」
「綺麗なおっぱ……」
「言わなくていいですから!」
自分でいうのはアレだけど、わたしの胸は綺麗だ。そんなに大きくはないけれど……片方が片手に収まるかな、程度の大きさだけど。まじまじと見つめたことのある人間ならば、必ず褒める──形も色も申し分ない、と皆口を揃えて言うのだ。
「形も色も申し分ないですね」
「だから言わなくていいですからっ!」
「ふふっ」
セバスチャンはいたずらっぽく笑うと、「さて」と言って湯船の中で正座した。
「わあああああッ!」
「どうしました!?」
「み、み、見えますぅ!」
互いに膝を折っていた為見えていなかった彼の秘部が、正座をしたことにより露になる。
「ああ」
「『ああ』じゃないです! かく……ッ隠して下さい!」
堪らずわたしは顔を横に背ける。男の人のそれを見るのは久しぶりだった為、変に緊張してまたしても心拍数が上がってしまう。
「私もほたるさんのおっぱ……失礼、胸部を見ていますので、おあいこ、ということで」
「見てしまったから見てもいいですよ、と!?」
「はい」
「そこは恥じらいを持って下さいよ!」
「まあまあ。とりあえず……さあ、体を洗ってしまいましょう」
ざぶっ、と立ちあがり湯船の縁に腰掛けるセバスチャン。その体勢のまま、わたしを立ち上がらせるために手を差し伸べてくれる。カラーコンタクトを外した彼の、少し茶色を混ぜたような色の瞳に吸い込まれそうになる。
「さあ」
「よいしょ…………ってわあああああッ!」
あろうことか彼は湯船の縁に、外向きではなく内向きに腰掛けていた。膝から下は湯に浸かっているが、そこから上は湯の上だ。
「…………!!」
立ち上がったわたしの視界には全てが映り込んだ。湯に濡れて腕と背に張り付いた艶やかな黒髪。その髪の隙間から覗く筋肉質な肉体──それに。
「やッ…………ぁ……の、すみません」
「謝ることではありません。現にほら、私もほたるさんの全身をしっかり見ています」
セバスチャンの言葉にわたしは顔を下げ自分の体を見下ろす。立ち上がったことにより、全てが──彼の目の前に晒されていたのだ。
「やあああああんッ!」
「危ない!」
膝を折り勢いよく湯に浸かろうとした──刹那、ぐらりと揺れる視界、それに足裏の滑るような感覚。この時ほど入浴前にお酒を飲み過ぎたことを後悔したことはない────
「っつぅ……………ん………? あ…………あぁ……あぅ……」
「ぅ…………あッ、の………………ッ」
これは事故だ。
愚かなわたしが入浴前に飲酒をしてしまったことが原因で、起きてしまった事故なのだ。
熱い湯の中で立ち上がった直後、急に屈み込み頭がぐらついた。そしてバランスを崩して湯船の中で足を滑らせた、その結果。
わたしは前のめりに倒れ、彼の両太股に手を着き、転倒を逃れていた──が、ここで手が滑り肘を着いてしまった。
「あわわわわわ……」
「うっ……うぅ…………」
転倒を免れたのは良かったと思う。よかったとは思うが結果的に私は、彼のセバスチャン両太股に肘を着き、眼前には彼の────
──眼前。本当に申し訳ないくらい目の前に、それはあった。私の吐き出す息がかかってしまうのではないだろうかというほどの近さに。
なんだこれ、エッチな少年漫画にあるようなこの展開はなんだ。
即座に顔を上げたわたしが見上げたセバスチャンの表情は、信じられないものだった。
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