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第一章
プロローグ
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──風が強い。
百メートルは優に越えようかという崖の上に、一人の女が立っていた。彼女の眼下に広がるのは砂埃の舞う戦場。血生臭い風が彼女の鼻に届き、肩の上で乱雑に切られた血色の髪を揺らした。
「……」
女は、闇のように黒いオールインワンのライダースーツを身に付けている。顔には目元を完全に覆い隠すほどの、派手なルビー色のゴーグル状のサングラス。それを額の上にちらりと上げて眉間に皺を寄せた彼女の顔は、女──というよりも寧ろ少女と呼んだ方が相応しいであろう顔立ちだった。
人を殺し過ぎたことで罹患する血眼病という病のために瞳は真っ赤で、鋭い。形の良い唇は真一文字に結ばれていた。
「さっさと済ますか」
ぼそりと呟くと彼女は──その崖から飛び降りた。背中に差していた刀を抜刀し、鳥のように空を飛ぶ。
一方、その頃地上では──。
「な……なんだ、あれは!」
数万と戦場にいる内、一人の兵士が空を飛ぶ彼女の存在に気が付いた。彼の声に相手国の兵士も思わず顔を向ける。
「なんだ!? どうやって空を飛んでいる!?」
「飛行盤だ! あいつ神力を使ってやがる! 人間じゃねえぞ、ティリスだ!」
ティリスというのは、エルフと人間のハーフの種族である。その戦闘力はエルフには多少劣るが、彼等はエルフと同じく火の神力を使いこなすことが出来る。
彼女の足首の外側で高速回転する、手のひらほどの大きさの円盤。これこそが飛行盤であり、神力を帯びることにより、高速で地を駆け、空を舞うことが出来るのだ。
「ティリスだって?」
「そんな、どうしてここに!」
「あれは緋鬼だ!」
「終わりだ、何もかも!」
彼等の発言に戦場がざわめき、空気が変わった。殺し合いをしていた戦士達が皆、一様に彼女の姿に視線を捕らわれる。
「ぐあああああっ!」
刹那、一人の男の断末魔の叫び。それを皮切りに、火が広がるようにあちらこちらで同じような声が上がった。
「なんだ!? 緋鬼の仕業か!?」
「皆殺しにされる!」
「嫌だ! 死にたくない!」
その声の間を猛スピードで通り抜けながら、彼女は刀を振るった。
「弱い。弱すぎる」
静かに呟きながら彼女は戦場を駆ける。真っ赤な閃光が死体の間をするり、するりと通り過ぎる様は、さながら熱を帯びた突風のようであった。
「全く、くだらない。本当にしょうもない仕事だな」
呟く彼女の足下に転がるのは鮮血を帯びた肉塊の山。その中に息をしている者は誰一人としていなかった。
「ここはもういいか。さて──街へ向かうか」
刀に着いた血を払い、鞘に収める。サングラスの奥の真っ赤な瞳を細めると、彼女は飛び上がり街へと向かった。
百メートルは優に越えようかという崖の上に、一人の女が立っていた。彼女の眼下に広がるのは砂埃の舞う戦場。血生臭い風が彼女の鼻に届き、肩の上で乱雑に切られた血色の髪を揺らした。
「……」
女は、闇のように黒いオールインワンのライダースーツを身に付けている。顔には目元を完全に覆い隠すほどの、派手なルビー色のゴーグル状のサングラス。それを額の上にちらりと上げて眉間に皺を寄せた彼女の顔は、女──というよりも寧ろ少女と呼んだ方が相応しいであろう顔立ちだった。
人を殺し過ぎたことで罹患する血眼病という病のために瞳は真っ赤で、鋭い。形の良い唇は真一文字に結ばれていた。
「さっさと済ますか」
ぼそりと呟くと彼女は──その崖から飛び降りた。背中に差していた刀を抜刀し、鳥のように空を飛ぶ。
一方、その頃地上では──。
「な……なんだ、あれは!」
数万と戦場にいる内、一人の兵士が空を飛ぶ彼女の存在に気が付いた。彼の声に相手国の兵士も思わず顔を向ける。
「なんだ!? どうやって空を飛んでいる!?」
「飛行盤だ! あいつ神力を使ってやがる! 人間じゃねえぞ、ティリスだ!」
ティリスというのは、エルフと人間のハーフの種族である。その戦闘力はエルフには多少劣るが、彼等はエルフと同じく火の神力を使いこなすことが出来る。
彼女の足首の外側で高速回転する、手のひらほどの大きさの円盤。これこそが飛行盤であり、神力を帯びることにより、高速で地を駆け、空を舞うことが出来るのだ。
「ティリスだって?」
「そんな、どうしてここに!」
「あれは緋鬼だ!」
「終わりだ、何もかも!」
彼等の発言に戦場がざわめき、空気が変わった。殺し合いをしていた戦士達が皆、一様に彼女の姿に視線を捕らわれる。
「ぐあああああっ!」
刹那、一人の男の断末魔の叫び。それを皮切りに、火が広がるようにあちらこちらで同じような声が上がった。
「なんだ!? 緋鬼の仕業か!?」
「皆殺しにされる!」
「嫌だ! 死にたくない!」
その声の間を猛スピードで通り抜けながら、彼女は刀を振るった。
「弱い。弱すぎる」
静かに呟きながら彼女は戦場を駆ける。真っ赤な閃光が死体の間をするり、するりと通り過ぎる様は、さながら熱を帯びた突風のようであった。
「全く、くだらない。本当にしょうもない仕事だな」
呟く彼女の足下に転がるのは鮮血を帯びた肉塊の山。その中に息をしている者は誰一人としていなかった。
「ここはもういいか。さて──街へ向かうか」
刀に着いた血を払い、鞘に収める。サングラスの奥の真っ赤な瞳を細めると、彼女は飛び上がり街へと向かった。
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