ヒメサマノヒメゴト2〜殺し屋の姫、孕むまで終わらぬ臣下との交情〜

こうしき

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 先にシャワーを済ませたアンナは、白いローブを身に纏いベッドの上で正座をしてシナブルを待った。ベッドの隣に立つルヴィスはこちらに背を向け、表情を伺うことは出来ない。

「ルヴィス」
「はい」
「あたしは……どんな気持ちで挑めばいい?」
「嫌、ですか」
「嫌ではない。ただ……シナブルをそんな風に見たことなんてなかったから、この先が怖いのよ」

 自身が生まれたときから傍で仕えてきた男。一人の男として見ることなどなかったはずの男を、これから雄として受け入れなければならないのだ。受け入れたあともこの先数百年と、二人の関係は続いていく。ここで子を授かれば形を変え、授からなければ今までの関係のまま、数百年、死ぬまで、ずっと。

「お言葉ですが、深く考えてはならないと思います。陛下の命令だ、仕方がないと……いつも通り、仕事をこなす感覚で挑むしかないのではないかと」
「そう言われてもな……」
「それと、姫」
「なんだ」
「先程陛下も仰っておりましたが、俺はここで監視を命じられております。お許し下さい」
「嫌な仕事をさせて悪いわね」
「滅相もありません、光栄なことです。一応お伝えしますが、流石に最初から最後まで見ているつもりはありません。射精したかどうかだけは、すみませんが確認させて頂きます」
「あんた……露骨な言い方をするのね」

 呆れたアンナが溜息をつくと、その直後にバスルームの扉がキィ、と開いた。アンナと同じ格好になったシナブルがゆっくりとベッドへと続く螺旋階段を上る。

「お待たせ致しました」
「座れ」

 自分の正面を指差し、アンナはシナブルをベッドへと いざなった。ルヴィスはベッドの足元に立ち、二人に背を向け手を後ろに組んだ。

「しかし」
「いいから」

 逡巡した後、シナブルはおずおずと彼女の前に正座をする。

「今回のこと、本当に申し訳ありません」
「何故あんたが謝るのよ」
「先に……謝っておかないと俺は……今からあなた様に……」

 泳いだ視線がアンナの身体へ投げられ、すぐに逸らされる。

「言うな」
「はい……」
「悪いのはこんな提案をした父上よ。片目が失明したからといって、焦りすぎだ。一刻を争う話でもないでしょうに」
「それは……わかりません。この血眼病で視力を失った後、いつ病が命を奪うのか。明確な事はわかっていないのですから」
「まあ、こうも国民がバタバタ死んでいけば焦る気もわからなくはないけど……」
「今、アンナ様にもしものことがあれば……お世継もいないこの状況。そうなればこの国は終わりです。陛下のお気持ちも──」
「わかってる、説教は御免よ。うだうだ言っていても仕方がない……さっさと始めましょ」 

 膝のぶつかる距離までにじり寄ったアンナは、手を伸ばし彼の頬に触れた。親先で唇をなぞり、ゆっくりと顔を近づけてゆく。

「まっ……お待ち下さい!」
「何よ」
「今の話からの切り替えが出来ておりません、ちょっと待って下さい! 一旦息を整えます」
「待てと言われると、こちらも恥ずかしくなるじゃない……」
「申し訳ありません」
「すぐに謝るな。というか……ベッドの上で謝るのは勘弁して頂戴」
「はい……承知致しました」

 赤く染まった主の顔が、堪らなく愛おしい。早く触れたいと身体は熱を孕むばかり。主に恥をかかせてはならぬ、自分がしっかりせねばとシナブルは固く目を瞑り、覚悟を決めてゆっくりと瞼を上げた。

「姫、俺も腹を括ります」

 スッと、シナブルは己のローブの紐を引く。露わになった鎧のような筋肉質な肉体に、アンナは小さく息を呑んだ。いつも身に纏っているスーツの上からでは想像もつかなかった、雄々しい身体。目を奪われ、咄嗟に言葉が出てこなかった。

「きれい……」
「そんなこと」
「謙遜するな」
「申し訳ありません」

 手を伸ばし、肩──自分と同じ刺青をなぞり、二の腕──大胸筋を指先でなぞる。自分の裸体を晒したことは何度もあったが、思えば彼の身体を見るのは初めてのことであった。どれだけ鍛錬を積めばこれほどの筋肉を保持できるのか、アンナには想像もつかなかった。

「覚悟はよろしいですか」

 アンナが小さく頷くと、シナブルは彼女のローブの紐を解く。肩に触れると、主はごくりと唾を飲みこんだ。そのままゆっくりと手を払うとローブが落下し、陶器のような身体が目の前に突きつけられた。何か言おうとするが、あまりの美しさに言葉は出てこない。そのままゆっくりと押し倒し、二人の身体が重なった。

「…………」

 押し倒したものの、どうしたものかとシナブルは逡巡する。見兼ねたアンナが瞼を伏せるが、応えることができず身を起こしてしまう。完全に逃げ腰の姿勢だ。


(お美しすぎて目眩がする……)


 はらはらとベッドに広がる血色の髪も、豊満なその胸も、透き通るように白い腹も足も。


「なに、どうしたの」
「いえ、あの」
「……ねえ」
「はい、何でしょうか」
「……どうしてまだ何もしてないのに、その、こんなに勃ってるのよ」
「すみませ……いえ、だって、その」

 念願が叶って興奮しているからです、などと口が裂けても言えるわけもなく。シナブルはただ顔を伏せることしか出来ない。それと同時に二人に背を向けて立つ監視役のルヴィスが盛大に吹き出した。「申し訳ありません」と何度も謝ってはいるが、腹を抱え、クツクツと笑いが止まらぬようだ。

「……しかも大き過ぎない?」
「えっ」
「入るのかしら……」
「……あの」
「……いや、何でもないわ、忘れて」
「聞かなかったことに致します」

 そして沈黙。やっと落ち着いたのか、ルヴィスが大きな咳払いをして場を急かす。アンナはハッと身を起こし、シナブルの身体を見つめた。

「この傷……」

 右肩の辺りの、貫かれたような古傷。これは数年前、アンナを庇って飛び出したシナブルが受けたものであった。

「これも、これも、全部」

 大きな傷は全て、アンナの失態で彼が負ったものであった。覚えている、忘れるはずもないのだ。指先でそっと撫でれば、シナブルは恥ずかしそうに顔を伏せた。

「……ありがとう」
「いいんです。気になさらないで下さい」

 肩から顔へと指を這わす。困ったようにアンナが首を傾げると、意を決してシナブルはその唇をそっと塞いだ。ちゅ、と触れるだけの口づけ。一旦離れ、もう一度優しく触れる。アンナの頬を両手で包み込み、何度も何度も、壊さぬようそっと口づけを繰り返す。

「はっ……ん……」

 彼女の口から溢れる吐息に欲情してしまう。 強請ねだるような視線に、耐えられなくなってしまった。

「んぅッ……!」

 触れるだけの口づけから、唇と唇が離れることのない激しい口づけへ。ぴちゃぴちゃと唾液が絡まり、遂には舌で口内を犯す。想像していたよりもずっと甘い、とろけるような彼女の舌に気が振れてしまいそうになる。アンナの腕はシナブルの身体へと回され、密着する互いの身体が熱を孕んでいるのを感じる。

 どのくらい続けていたのだろう、ハァッと大きくアンナが息を吐くので、シナブルは一度身を引いた──が、彼女の雌の顔に釘付けになった瞬間、今度は首筋へと吸い付いてしまう。

「あッ……シナブルッ……」
「何でしょうか」
「駄目、あたし、もう……!」

 求められている、そう思わせる主の視線。もっと触れたい──そして早く犯したいと、彼女の身体に手を伸ばし、触れる直前でぴたりと動きを止めた。

「触れてもよろしいですか?」
「構わないわ」
「……はい」

 豊満な胸へと手を伸ばす。触れると見かけ通りやわやわとしており、指がじんわりと沈んでゆく。撫で回し、揉み回し、顔を上げると恥ずかしげに目を伏せるアンナの顔に釘付けになった。


(なんと愛おしい……)


 触れたくても、触れることなど許されなかった特別な場所。そこに指を伸ばしキュッと摘み上げると、ぴくんとアンナの肩が跳ね上がった。壊さぬようにとそろりと手の中で転がすと、彼女の吐息でじんわりと手が熱くなる。

「んッ……あ、あッ……!」
「すみません、失礼します」
「あッ! んッ、あぁッ……!」

 ちゅ、と吸い付くと甘い声でアンナが喘ぐ。それが堪らなく嬉しくて、シナブルは彼女をようやく押し倒し、跨り、何度も何度も──乳房を揉み回し、乳輪を舐め、乳首を吸い上げた。

「ハッ……ハッ……あ、あ、あッ……や、シナブル……! 髪っ、髪がくすぐったいっ」
「失礼……シャワーを浴びたときに、全て下ろしてしまいました。次回までにはなんとか……致しますので、ご容赦を」
「やッ……ちょ、続行なの!? あッ、あ……ふふッ、やッ……何この髪、サラサラね」
「ありがとうございます」

 シナブルの下ろした後ろ髪は、肩から垂れ下がりアンナの体に触れていた。艷やかな毛先が胸元を刺激し、アンナは思わず笑い声を上げた。

「せめて、後ろは束ねますね」

 髪を後ろでサッとまとめたシナブルは、指を複雑に動かし髪を結いあげる。髪留めを使わずどう纏めたのか気になるアンナであったが、両腕を掲げたシナブルの体躯に、釘付けになってしまった。


(……なんて、艶っぽいの)


 ハッと我に返る。今の自分はどんな顔をしていただろうか。顔を上げるとシナブルと目が合った。


(ああ、しまった──やっぱり、見られてはいけない顔をしていたのね)


 シナブルの表情が変わる。堰を切ったように、アンナの身体を抑えつけ、貪るように唇を吸った。

「んッ……ん、あッ……シナ、ブル……」

 乳房、臍、太腿、膝、脛、爪先と順に唇を押し当ててゆく。太腿を舐めるとびくん、と身体が跳ね上がるのでしつこく舐め回すと、観念したのか、アンナの足がゆっくりと開いていった。そこだけはどうしても見ることが叶わなかった場所──が、目の前に突きつけられる。


(これが、姫の…………俺は今からここを……蹂躙するのか)


 吸い付きたくなる衝動をなんとか抑え込み、右太腿の付け根の内側に見つけた小さな二連のホクロを何度も何度も吸い上げた。赤く染め上げた所で、満を持して親指で陰核をぐいと押し上げた。

「あぁッ!」
「す……すみません。あの……よろしいですか」
「ん……」
「不躾な俺を許して頂けますか」
「うん……」

 くりくりと指で円を描くように触れると、淡い蕾はこりこりと硬さを増し、肥大してゆく。

「あッ……あッ……あぁッ……!」
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫っ……気持いッ……い……!」
「気持いいのですか?」
「馬鹿ッ……」
「光栄です」

 とろりと溢れる愛液を何度も舐め、襞にそろりと触れ、膣に指を一本、二本と差し込み、掻き回す。

「あッ、あぁッ、やッ……ぁ、あッ、やぁッ……だめッシナブル、ッ! んッ!」
「はい、姫……」
「姫っ、て、呼んじゃいやッ……やッ……や、あ、シナブル、だめッそんな、おく、奥、うッ、奥だめッ、だめ、あ、あ、あ、あぁだめッ……激し、いッ……あッ……待っておねがいッ! 待って……イッちゃう、ゔ、い゙ッ……ハァッ……はぁッ……!」
「待ちますか?」
「ごめ……ん、イキそうで、ごめん、あたしっ……あたしは……」

 交わる前とはいえ、己の臣下に指姦され達してしまっていいのかと、アンナは混乱していた。上手く言葉で表現できずに口籠るが、シナブルは待ち続けてくれる様子はない。

「姫?」
「……なんでも、ない」
「俺の前で、達するのが怖いですか?」
「それは……」
「構いません。俺は、姫のどんな姿でも受け入れます」
「あ……」
「続けます」

 挿し込まれたままの指をぐい、と奥まで押し込み、掻き回し、抜き取り、ぐちょぐちょと溢れる愛液がシーツを濡らす。アンナの息は徐々に乱れ、ひくひくと小刻みに跳ねる腰が引き上がってゆく。

「あッ……あッあ゙……あ゙ぁ゙ッ……!」
「アンナ様……」
「やだ、ちがッ……ちが、う……これ、はッ……」
「強がりなお姿も素敵なのですが」
「はぁッ、ぁ゙……シナブル、ぅ、だ、め、イグ、イグ、イッ……イク……イク、や、あッぁ゙ッあッあッああぁ……!」
「今のお姿……大変素敵です……」
「やだっ、ばかッ、ばかぁッ、あんた何言って……、い゙……ちょ、あッ……! や、やッ、あッ、い゙、イッちゃう! イッちゃうから……シナブル、シナブルッ、う、うッ、うッ、あああぁッ……! だめぇッ! イグッ……んッ…………イクッ!!」 

 シナブルの長い指に良いようにされてしまったアンナは、びくん、と跳ね上がりぐったりと動かなくなった。

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……あッ……う……」


(だめ……なに、これ……なんでこんなに気持いいの……? だめよ、こんなんじゃ、あたしは、こいつに溺れてしまう)


 じっとりと身体に纏わりつく快感の余韻に、だらしなく開いたままの足を閉じることさえ出来ない。もっと欲しいと強欲になっている自分を恥じ、両手で顔を覆った。

 そんなアンナを見下ろすと、シナブルはなんとも言えぬ幸福感を得てしまった。自身のこの手で──この指で主を犯し、絶頂に押し上げたのだと興奮し、身体が震えてしまっている。震えを抑えようと己の手首を握ると、開いた指と指の間でまとわりついた愛液がねっとりと糸を引いた。

「……ッ!」

 耐えられない、と思ったときには、その指を鼻に近づけ香りを嗅いでいた。深く吸い、吐き出すのが勿体ない──吸い続け溜め込んでしまいたい衝動を抑え、その指をぺろりと舐める。これだけでは足りぬと、指を咥え全てを舐め取ると、雷に打たれたようにビリビリと下半身が震えた。


(早くなかに出してしまいたい──……!)


 膨張し、溢れんばかりの欲望を無理矢理に抑えつけてアンナを見つめる。

「ハァッ……シナブル……」
「は、はい」
「……いいか……今だけでいい、ここまできたらもう主と臣下という関係は忘れなさい。やり辛いだろうが、お互いに」
「そう言われましても」
「姫、と呼ぶことを禁じる。アンナ様も駄目。アンナ、と呼ぶことを許可する」
「え…………」
「わかったわね?」
「いえ……あの、それは……!」
「許可すると、言っているのよ」
「でも」
「命令だ」
「はい……」
「わかったのなら、挿れて構わない」

 顔を真っ赤にして下唇を噛み締めたアンナは、閉じていた足をじりじりと開く。シナブルの顔を見ることが出来ない。視線を床に投げ、何ともないような素振りで構えるが、羞恥が限界に達し、顔から火が出そうであった。

「加減が出来ないかもしれません」
「そんなもの、気にしなくてもいいわよ」

 大きな身体が覆い被さり、腰のあたりに跨った。右の手首を掴まれ、膣口にシナブルの亀頭が触れた。

「……どうか、お許しを」

  言うと、一気に膣に押し込まれるシナブルの陰茎。同時にどくん、と跳ね上がるアンナのふくよかな胸。

「はッ……あッ、あ、あぁッ……!」

 アンナの大きな嬌声が部屋に響く。その直後掴まれる左の手首。逃さないと言わんばかりに指先まで絡め取られ、激しく、激しく、何度も狂ったように最奥まで突かれる。

「あッ、あッあッあッあぁッ! やッ……シナブルッ……」
「アンナ様……」
「あッ……あッ……あッ……! んッ、あッ……やっぱり、大きッ……!」
「ハァッ……ハァッ……アンナさま……っ、アンナさ……アンナ……アンナ……」
「なによ……出来るじゃない……」
「だいぶ……無理をしております」
「すまないわね……」
「謝らない約束です」
「ごめん……。わかった、ちょっと、あ、んッ……ちょっと待っ……て……体位、変えてもいいかしら」

 起き上がり、無理矢理に押し倒し、跨った。こんな体勢は戦闘訓練の中でも体験したことがないなと、アンナは鼻で笑ってしまった。

「上っ……!」
「これで勘弁して頂戴。……あ、駄目?」
「いえっ……そんな、まさか、ありがとうございます」
「馬鹿」

 がちがちなままの陰茎の根元を掴み、アンナは入口に押しあて、ゆっくりと腰を下ろした。

「あッ、あッ、ああッ……待って、動いちゃ嫌よ、自分で動くから……はぁッ……あ、だめ、待って、あんた、大きいって言ってるでしょ」
「痛いですか?」
「だいじょう、ぶ……! ッぁ、あッあッあッ、ゆっくりして、お願いッ、待って、だめっ、やッあああッあああッ……!」
「ッあ……この光景、刺激が強すぎます」
「なにがよ……」

 シナブルが下から突き上げると、それにつられてアンナの豊満な胸がふるふると揺れるのだ。下から触れて乳首を刺激すると、びくびくとアンナの肩が震えるのが堪らない。

「だめ、だめえッ……あたしが、動くからッ……ばかっ、シナブル、無言で動くな、お前ッ……ちょ、だめッ……!」
「お手を煩わせる訳には」
「ばかっ! 何言って……あッあッあッあッあッ! や、や、イッちゃう、う、うッ、イッちゃう、う、待って、だめッシナブル、待っ……なんでッ、もう、ばかっ……! あああッだめもう、シナブル……イクッ……イクッ……イクッ……ああぁッ!! ああんッ!!」

 自分の方が優位な体勢のまま、主に罵られることが、これ以上ないほどに快感であった。

「はぁッ……待てって……言ってるのに……」
「大変可愛らしくて、つい」
「馬鹿野郎がっ……」

 身を起こし、対面する形をとったシナブルは、アンナの髪を指で梳き、香りを嗅ぐと毛先に口づけた。彼女の鎖骨、首筋、唇に吸い付くと、そのままゆっくりと腰を揺らし始める。

「あッ……あッ……あッ……あッ……んッ……んッ……ん゙ッ!」

 溶け合って混ざり合うほど、濃厚な口づを交わし、彼女の頭を乱暴に頭を抱え込む。突き上げるように激しく腰を揺らすと、途中でアンナが絶頂に達したのか、何度かびくんと跳ね上がった。唇を重ねたままなので、声にならない彼女の声がずっと耳に纏わりついていた。

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 うっすらと涙目になり、焦点の定まらぬアンナと、いつもの厳しい眼差しのアンナを重ねる。とても同一人物とは思えぬほど、乱れ、濡れ、朱に染まった頬。戦場では固く結ばれ、不機嫌なときにはへの字に曲がる唇は半開きになり、唾液が滴っている。いつも返り血で紅く染まる体はしっとりと汗ばみ、互いの体液でベタつき、同じ香りを放つ。

「愛しています」
「……ありがとう」

 流れるように唇を重ね、繋がったままの体制でシナブルはアンナを押し倒す。そっと頬に触れ、上半身を起こすと、彼女の腰を抑え込み激しく腰を打ち付ける。

「あッ……姫、ひめ……アンナ……アンナッ……あ……あ……!」
「ハァッ……ん……ハァッ……あッ……シナブルッ……」
「ッ……! 出しますよ……!」

 シナブルの言葉に、ルヴィスは無言で振り返る。正面から少し横に回り込み、肝心な部分が見える所にまで移動をするが目を覆いたくて仕方がない。国の存亡がかかっているとはいえ、この国の姫君と自身の弟の性行為を監視しろなどと──今までこなしてきた仕事の中で、一番クソであることは間違いなかった。

「あ……あ……あッあッ……う……イクッ……あぁッ……!!」

 がくん、とシナブルの肘が折れる。反応から、射精したことは明らかであったが、それを確認、目視するのがルヴィスの役目であった。

「シナブル」
「……ハァッ…………ハァッ……わかっている、待ってくれ……」

 アンナの膣から陰茎を抜き取ると、シナブルはルヴィスによく見えるよう、アンナの腟口をぐい、と押し広げる。ぴくん、と跳ねた後とろりと零れ落ちる真っ白な粘液。

「これで満足か」
「ああ。アンナ様、申し訳ありません。御役目、然と確認させて頂きました」
「うッ……あ……ルヴィス……これ、毎回出す度に確認するの……?」
「申し訳ありませんが」
「見苦しいものを見せて悪いわね」
「何を仰いますか。大変名誉なことでございます。では俺はこれで……陛下に報告をして参ります。次は……十四時に参ります」
「あぁ」
「では、失礼致します」

 何故か駆け足で部屋を後にするルヴィス。バタンとドアが閉まると同時に、アンナはシナブルの頬を平手で打った。パチン、と乾いた音が濃厚な部屋の空気を叩き割った。

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