59 / 61
59/暴走
しおりを挟む
59/
葵と会った翌週、久しぶりの土曜日休みを与えられたわたしが目覚めたのはなんとお昼前であった。普段の睡眠不足を補うかのように体は本能の赴くまま惰眠を貪り、朝食とも昼食ともわからぬサンドイッチをペロリと平らげたのは十一時半。こんなに仕事が忙しくなる前の身であれば、休日の朝にサンドイッチ程度なら作っていたというのに。昨今朝わたしが食べたのは昨夜仕事帰りにコンビニで購入したもの。これはこれで美味しいけれど、栄養バランスも心配ではあった。
「……掃除しよ」
やる気のあるときにしておかなければと、思い腰を持ち上げシーツと枕カバー、それにクッションカバーを洗い、布団を干した。最後に布団を干したのがいつだったか思い出せないのは流石に不味かったと思う。棚の埃を取り、掃除機をかけて中途半端になっていた衣替えもやっと済ませることが出来た。クローゼットもタンスの中も夏服と秋服でごちゃ混ぜだった。入りきらなくなった服はベッドフレームやカーテンレールに引っ掛けていたので、やっと部屋の中をすっきりと片付けることが出来た。
「ん~っ……疲れた……」
片付け終えた頃には夕方になっていた。小腹が空いたのでスナック菓子の小袋を摘みながら、夕食はどうしようかと冷蔵庫中身をチェックする。
「うーん……」
わかってはいたけれど大したものは入っていなかった。買い物に行っていないのだから当然のことなんだけれど。冷蔵庫の中に作り置きしていたミートソースがあったので、パスタを茹でて和えてしまえばいいかと調理をしつつお風呂にお湯を溜める。さっさと食べて寝てしまおう──明日は買い物に行ってちゃんとした料理を作ろうと考えながら、のんびりと湯船に浸かった。まだ早い時間なので、遅くなることをを気にせずだらだらと入浴を済ませる。ふかふかの布団に胸を弾ませながら髪を拭いていると、玄関のインターホンが鳴った。
(……宅配便?)
何も注文した記憶もないし、お風呂上がりのこんな格好ではどっちにしろ出ることは出来ない。致し方なくスルーしようと決めて肌の手入れを始めた瞬間、スマートフォンの着信音が鳴り響いた──桃哉だった。
「……なに?」
『今インターホン鳴らしたの、俺』
「急に来て……こんな時間に何の用?」
『入れてくれよ』
「なに? またなの? もういい加減に……」
『……頼むよ』
「……はぁ、ちょっと待ってくれる?」
手早く肌の手入れを済ませ、濡れた髪はそのままに、体にタオルを巻き付け玄関の鍵を開ける。わたしの姿に驚いた桃哉は「悪い」と一言だけ。
「髪くらい乾かしていいでしょ?」
返事も待たずにさっさと脱衣場に向かう。今日こそは──今日こそは桃哉との関係を断ち切らなければ。今までだって何度も何度もそう決めては結局成せず、だらだらと身体の関係だけが続いてきた。本当に、いい加減こんな嫌だった。わたしは桃哉と付き合っていた過去があるだけで、セフレになりたいわけじゃないのだから。
ドライヤーを使い終えると、わたしの背中に桃哉がぴったりと張り付いた。髪の毛先を弄び、体重をかけて腰に手を回された。
「髪……伸びたな」
「切りに行く暇、ないの。仕事忙しくて」
「長いのも似合ってる」
「……あのさ」
腰に絡まる桃哉の手に自分のものを添え、強く力をかける。無理矢理引き剥がし彼と向かい合うと、胸の中に溜め込んでいたものを一気に吐露した。
「もう……本当に、何度も言うけど……止めようよ、こんなの、止めてほしい。わたしは嫌なの……こんな関係。桃哉のことはもう好きじゃないし、身体の関係だけが続くのもいい加減、嫌。だからもうここに来ないで。変な連絡もしてこないで」
眉間に皺を寄せて眉を吊り上げた桃哉は、ぎゅっと拳を握り締めると固く目を閉じた。溜め息を吐き、じわじわと開かれた双眸はわたしを睨み付け、唸るような低い声を出した。
「……なんでだよ」
「えっ……?」
「いいじゃねえか別に……何が嫌なんだよはっきり言えよ。お前……セックス好きなくせに、俺との関係が切れたらどうするつもりなんだよ、言ってみろよ!」
「痛っ……! いい加減にしてよっ!」
ぎゅうっ──と強い力で手首を掴まれる。わたしの怒鳴り声に怯むことなく桃哉は両手首を無理矢理掴み、首筋を舐め回す。
「いやッ……いや、いやッ!」
「でかい声出すなよ」
「じゃあやめてよ! ちょっと! 桃哉ッ!」
桃哉は器用に口を使い、わたしの身体に巻き付けてあったバスタオルを引き剥がす。露になった胸の先端に吸い付かれた瞬間、悲鳴のような声が飛び出し、バタバタと足が縺れて転びそうになってしまった。
「いや……やめて、帰って!」
「だからでかい声出すなって。暴れんなよ」
「や……ちょ、んぅッ……」
唇が重なり、桃哉がカチャカチャとベルトとズボンを下げる気配。長いこと掴まれていた手首はじんじんと痛み、感覚もなく動かせない。少し待てば元通りになりそうだけれど、そんな暇など与えてくれるはずもなく。
「いッた……あ……く、ぅ……」
キッチンの壁に無理矢理追いやられ、頭をぶつけぐらりと一瞬の目眩。そんな状態で抵抗など出来ず、腰を掴まれぐい、と引き上げられる。
「う……あ、あ……ちょっと……やめッ……てッ……! あッ……!」
「ッ……あぁッ……」
背面から避妊具もなしに、挿入を果たされてしまった。もうなるようになれと一瞬投げやりになったけれど、ここで抵抗を止めてしまえば桃哉の思うつぼ。なんとかしなければど必死に考えを巡らせても、声を上げて抵抗することしか思い浮かばなかった。
葵と会った翌週、久しぶりの土曜日休みを与えられたわたしが目覚めたのはなんとお昼前であった。普段の睡眠不足を補うかのように体は本能の赴くまま惰眠を貪り、朝食とも昼食ともわからぬサンドイッチをペロリと平らげたのは十一時半。こんなに仕事が忙しくなる前の身であれば、休日の朝にサンドイッチ程度なら作っていたというのに。昨今朝わたしが食べたのは昨夜仕事帰りにコンビニで購入したもの。これはこれで美味しいけれど、栄養バランスも心配ではあった。
「……掃除しよ」
やる気のあるときにしておかなければと、思い腰を持ち上げシーツと枕カバー、それにクッションカバーを洗い、布団を干した。最後に布団を干したのがいつだったか思い出せないのは流石に不味かったと思う。棚の埃を取り、掃除機をかけて中途半端になっていた衣替えもやっと済ませることが出来た。クローゼットもタンスの中も夏服と秋服でごちゃ混ぜだった。入りきらなくなった服はベッドフレームやカーテンレールに引っ掛けていたので、やっと部屋の中をすっきりと片付けることが出来た。
「ん~っ……疲れた……」
片付け終えた頃には夕方になっていた。小腹が空いたのでスナック菓子の小袋を摘みながら、夕食はどうしようかと冷蔵庫中身をチェックする。
「うーん……」
わかってはいたけれど大したものは入っていなかった。買い物に行っていないのだから当然のことなんだけれど。冷蔵庫の中に作り置きしていたミートソースがあったので、パスタを茹でて和えてしまえばいいかと調理をしつつお風呂にお湯を溜める。さっさと食べて寝てしまおう──明日は買い物に行ってちゃんとした料理を作ろうと考えながら、のんびりと湯船に浸かった。まだ早い時間なので、遅くなることをを気にせずだらだらと入浴を済ませる。ふかふかの布団に胸を弾ませながら髪を拭いていると、玄関のインターホンが鳴った。
(……宅配便?)
何も注文した記憶もないし、お風呂上がりのこんな格好ではどっちにしろ出ることは出来ない。致し方なくスルーしようと決めて肌の手入れを始めた瞬間、スマートフォンの着信音が鳴り響いた──桃哉だった。
「……なに?」
『今インターホン鳴らしたの、俺』
「急に来て……こんな時間に何の用?」
『入れてくれよ』
「なに? またなの? もういい加減に……」
『……頼むよ』
「……はぁ、ちょっと待ってくれる?」
手早く肌の手入れを済ませ、濡れた髪はそのままに、体にタオルを巻き付け玄関の鍵を開ける。わたしの姿に驚いた桃哉は「悪い」と一言だけ。
「髪くらい乾かしていいでしょ?」
返事も待たずにさっさと脱衣場に向かう。今日こそは──今日こそは桃哉との関係を断ち切らなければ。今までだって何度も何度もそう決めては結局成せず、だらだらと身体の関係だけが続いてきた。本当に、いい加減こんな嫌だった。わたしは桃哉と付き合っていた過去があるだけで、セフレになりたいわけじゃないのだから。
ドライヤーを使い終えると、わたしの背中に桃哉がぴったりと張り付いた。髪の毛先を弄び、体重をかけて腰に手を回された。
「髪……伸びたな」
「切りに行く暇、ないの。仕事忙しくて」
「長いのも似合ってる」
「……あのさ」
腰に絡まる桃哉の手に自分のものを添え、強く力をかける。無理矢理引き剥がし彼と向かい合うと、胸の中に溜め込んでいたものを一気に吐露した。
「もう……本当に、何度も言うけど……止めようよ、こんなの、止めてほしい。わたしは嫌なの……こんな関係。桃哉のことはもう好きじゃないし、身体の関係だけが続くのもいい加減、嫌。だからもうここに来ないで。変な連絡もしてこないで」
眉間に皺を寄せて眉を吊り上げた桃哉は、ぎゅっと拳を握り締めると固く目を閉じた。溜め息を吐き、じわじわと開かれた双眸はわたしを睨み付け、唸るような低い声を出した。
「……なんでだよ」
「えっ……?」
「いいじゃねえか別に……何が嫌なんだよはっきり言えよ。お前……セックス好きなくせに、俺との関係が切れたらどうするつもりなんだよ、言ってみろよ!」
「痛っ……! いい加減にしてよっ!」
ぎゅうっ──と強い力で手首を掴まれる。わたしの怒鳴り声に怯むことなく桃哉は両手首を無理矢理掴み、首筋を舐め回す。
「いやッ……いや、いやッ!」
「でかい声出すなよ」
「じゃあやめてよ! ちょっと! 桃哉ッ!」
桃哉は器用に口を使い、わたしの身体に巻き付けてあったバスタオルを引き剥がす。露になった胸の先端に吸い付かれた瞬間、悲鳴のような声が飛び出し、バタバタと足が縺れて転びそうになってしまった。
「いや……やめて、帰って!」
「だからでかい声出すなって。暴れんなよ」
「や……ちょ、んぅッ……」
唇が重なり、桃哉がカチャカチャとベルトとズボンを下げる気配。長いこと掴まれていた手首はじんじんと痛み、感覚もなく動かせない。少し待てば元通りになりそうだけれど、そんな暇など与えてくれるはずもなく。
「いッた……あ……く、ぅ……」
キッチンの壁に無理矢理追いやられ、頭をぶつけぐらりと一瞬の目眩。そんな状態で抵抗など出来ず、腰を掴まれぐい、と引き上げられる。
「う……あ、あ……ちょっと……やめッ……てッ……! あッ……!」
「ッ……あぁッ……」
背面から避妊具もなしに、挿入を果たされてしまった。もうなるようになれと一瞬投げやりになったけれど、ここで抵抗を止めてしまえば桃哉の思うつぼ。なんとかしなければど必死に考えを巡らせても、声を上げて抵抗することしか思い浮かばなかった。
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる