【完結しました】こんなに好きになるつもりなんて、なかったのに~彼とわたしの愛欲にまみれた日々~

こうしき

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59/暴走

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 葵と会った翌週、久しぶりの土曜日休みを与えられたわたしが目覚めたのはなんとお昼前であった。普段の睡眠不足を補うかのように体は本能の赴くまま惰眠を貪り、朝食とも昼食ともわからぬサンドイッチをペロリと平らげたのは十一時半。こんなに仕事が忙しくなる前の身であれば、休日の朝にサンドイッチ程度なら作っていたというのに。昨今朝わたしが食べたのは昨夜仕事帰りにコンビニで購入したもの。これはこれで美味しいけれど、栄養バランスも心配ではあった。

「……掃除しよ」

 やる気のあるときにしておかなければと、思い腰を持ち上げシーツと枕カバー、それにクッションカバーを洗い、布団を干した。最後に布団を干したのがいつだったか思い出せないのは流石に不味かったと思う。棚の埃を取り、掃除機をかけて中途半端になっていた衣替えもやっと済ませることが出来た。クローゼットもタンスの中も夏服と秋服でごちゃ混ぜだった。入りきらなくなった服はベッドフレームやカーテンレールに引っ掛けていたので、やっと部屋の中をすっきりと片付けることが出来た。

「ん~っ……疲れた……」

 片付け終えた頃には夕方になっていた。小腹が空いたのでスナック菓子の小袋を摘みながら、夕食はどうしようかと冷蔵庫中身をチェックする。

「うーん……」

 わかってはいたけれど大したものは入っていなかった。買い物に行っていないのだから当然のことなんだけれど。冷蔵庫の中に作り置きしていたミートソースがあったので、パスタを茹でて和えてしまえばいいかと調理をしつつお風呂にお湯を溜める。さっさと食べて寝てしまおう──明日は買い物に行ってちゃんとした料理を作ろうと考えながら、のんびりと湯船に浸かった。まだ早い時間なので、遅くなることをを気にせずだらだらと入浴を済ませる。ふかふかの布団に胸を弾ませながら髪を拭いていると、玄関のインターホンが鳴った。


(……宅配便?)


 何も注文した記憶もないし、お風呂上がりのこんな格好ではどっちにしろ出ることは出来ない。致し方なくスルーしようと決めて肌の手入れを始めた瞬間、スマートフォンの着信音が鳴り響いた──桃哉だった。

「……なに?」
『今インターホン鳴らしたの、俺』
「急に来て……こんな時間に何の用?」
『入れてくれよ』
「なに? またなの? もういい加減に……」
『……頼むよ』
「……はぁ、ちょっと待ってくれる?」

 手早く肌の手入れを済ませ、濡れた髪はそのままに、体にタオルを巻き付け玄関の鍵を開ける。わたしの姿に驚いた桃哉は「悪い」と一言だけ。

「髪くらい乾かしていいでしょ?」

 返事も待たずにさっさと脱衣場に向かう。今日こそは──今日こそは桃哉との関係を断ち切らなければ。今までだって何度も何度もそう決めては結局成せず、だらだらと身体の関係だけが続いてきた。本当に、いい加減こんな嫌だった。わたしは桃哉と付き合っていた過去があるだけで、セフレになりたいわけじゃないのだから。

 ドライヤーを使い終えると、わたしの背中に桃哉がぴったりと張り付いた。髪の毛先を弄び、体重をかけて腰に手を回された。

「髪……伸びたな」
「切りに行く暇、ないの。仕事忙しくて」
「長いのも似合ってる」
「……あのさ」

 腰に絡まる桃哉の手に自分のものを添え、強く力をかける。無理矢理引き剥がし彼と向かい合うと、胸の中に溜め込んでいたものを一気に吐露した。

「もう……本当に、何度も言うけど……止めようよ、こんなの、止めてほしい。わたしは嫌なの……こんな関係。桃哉のことはもう好きじゃないし、身体の関係だけが続くのもいい加減、嫌。だからもうここに来ないで。変な連絡もしてこないで」

 眉間に皺を寄せて眉を吊り上げた桃哉は、ぎゅっと拳を握り締めると固く目を閉じた。溜め息を吐き、じわじわと開かれた双眸はわたしを睨み付け、唸るような低い声を出した。

「……なんでだよ」
「えっ……?」
「いいじゃねえか別に……何が嫌なんだよはっきり言えよ。お前……セックス好きなくせに、俺との関係が切れたらどうするつもりなんだよ、言ってみろよ!」
「痛っ……! いい加減にしてよっ!」

 ぎゅうっ──と強い力で手首を掴まれる。わたしの怒鳴り声に怯むことなく桃哉は両手首を無理矢理掴み、首筋を舐め回す。

「いやッ……いや、いやッ!」
「でかい声出すなよ」
「じゃあやめてよ! ちょっと! 桃哉ッ!」

 桃哉は器用に口を使い、わたしの身体に巻き付けてあったバスタオルを引き剥がす。露になった胸の先端に吸い付かれた瞬間、悲鳴のような声が飛び出し、バタバタと足が縺れて転びそうになってしまった。

「いや……やめて、帰って!」
「だからでかい声出すなって。暴れんなよ」
「や……ちょ、んぅッ……」

 唇が重なり、桃哉がカチャカチャとベルトとズボンを下げる気配。長いこと掴まれていた手首はじんじんと痛み、感覚もなく動かせない。少し待てば元通りになりそうだけれど、そんな暇など与えてくれるはずもなく。

「いッた……あ……く、ぅ……」

 キッチンの壁に無理矢理追いやられ、頭をぶつけぐらりと一瞬の目眩。そんな状態で抵抗など出来ず、腰を掴まれぐい、と引き上げられる。

「う……あ、あ……ちょっと……やめッ……てッ……! あッ……!」
「ッ……あぁッ……」

 背面から避妊具もなしに、挿入を果たされてしまった。もうなるようになれと一瞬投げやりになったけれど、ここで抵抗を止めてしまえば桃哉の思うつぼ。なんとかしなければど必死に考えを巡らせても、声を上げて抵抗することしか思い浮かばなかった。




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