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36/肉欲の宴(1)★
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舞踏会で身に付けるような、派手な紫色の仮面を顔に纏い現れたのは、スラッとしたスリムな男だった。檀上はないが、照明が落とされタキシード姿の彼が仰々しく照らし出されると、数名の女性達が黄色い歓声を上げた。
「皆様こんばんは。ようこそお越し下さいました。私、主催者のたっくんと申します」
たっくん、と名乗った仮面男は、その仮面を取り払う。男の俺から見てもなかなかに整った顔立ちだった。
「ドリンク、良いものが揃っていたでしょう? 今夜は思う存分お楽しみ下さい。会場内での撮影、それに連絡先の交換は禁止です、それと──」
(……なんだこいつ)
スタンドマイクですらすらと喋る男は、ジャケットを脱ぎ蝶ネクタイに手を掛け──手早く脱衣を済ませてゆく。下着一枚になったところで、コート姿の美夜川が彼の隣に颯爽と現れた。
「オープニングセックスと銘打って、相手をこの子にお願いしました。ああそこ、文句言わない言わない。後でおいで、ね?」
「……オープニングセックス?」
眉をひそめた俺の指を、瞳美が後ろから絡め取った。照明は落とされたままなので彼女の表情を見てとることは出来なかった。
下着一枚姿のたっくんは、すぐ傍の一段高い所にあるキングサイズのベッドへと美夜川を誘う。檀上は五十センチ近くあるようで、会場の何処に居ても二人の姿がはっきりと見えそうだ。
ベッドの手前で踊るようにコートを脱いだ美夜川が纏っていたのは真っ赤なワンピースタイプのサンタ服。大きな胸は手前に迫り出し、彼女がくるくると回る度に揺れ動く。
「……おい、瞳美。これ……」
「何?」
「なんだよ、これ」
「言ったじゃない、アツアツパーティーって。セックスして身体アツアツ~ってね!」
耳は瞳美の方を向いているが、視線は美夜川から離せなかった。彼女はほたるの友人だ、見るべきではないとわかっているのに、どうしようも出来ない。
たっくんが美夜川の胸元の──赤い布地に手を掛ける。そろりそろりと下にずらしてゆくと、現れたのはピンと立ち上がった小さな乳首。
「おおぉっ……!」
会場内に野太い歓声が上がる。それと同時に檀上の目の前まで数名の男達が引き寄せられた。それでも尚、俺の立ち位置からは美夜川の素肌が丸見えだった。
「でかっ……」
「あれとは一度ヤりてえな……」
そんな欲にまみれた汚い声を浴びながら、たっくんの手により美夜川のサンタ服はどんどん引き下げられてゆく。腰の部分で一気に足元へ落下した赤い服の下に、彼女は下着を身に付けていなかった。全裸になった彼女の唇に、未だ下着姿のたっくんがそっと吸い付く。
『んッ……ん……』
二人を取り囲んでいた男の一人が、スタンドマイクを二人の間に設置する。ベッドに押し倒された美夜川の喘ぐ声を鮮明に拾い上げ、会場内の隅々までその声は反響する。
『うッ……うッ……ああそこッ……! あ、あ……!』
激しく指で犯される彼女の股の隣に、マイクがぴたりと押し当てられる。くちゅくちゅと愛液が絡まる厭らしい音に、我慢できなくなった男数名が自分の股間に手を伸ばす。
(ああ……やべえな、くっそ……)
言わずもがな。俺の下半身もガチガチの臨戦態勢。だって仕方がないだろ。ほたるの友達──それもこんなに巨乳美人が目の前で素っ裸で喘いでいるんだ。興奮しないわけが──……。
(あ……)
『ん、んッぅ……あぁッ……!』
挿入を果たし、獣のように美夜川を犯すたっくんの荒い息──それに彼女の悦ぶ声をマイクは鮮明に拾い上げる。短いその行為が終わるおよそ十分程度の間に脱衣を開始する者、多数有り。目の前に裸の男女がどんどん増えてゆく。
『うッ……うッ……あぁ……イクッ……!!』
『俺も……出すよ?』
『うんッ……うんッ……』
『ッ……あぁッイクッ……!!』
互いに達した二人を包み込むのは割れんばかりの大喝采。起き上がれない美夜川をそのままに、立ち上がったたっくんはマイクを手に隣のベッドへと移動する。
「はぁっ……それでは皆様、存分にお楽しみ下さい……!」
彼が言い放った刹那、仰向けに倒れたままの美夜川に四人の男が飛びかかった。そのうち彼女に覆い被さったのは一人で、早々に彼女の足を広げ腰を振り始める。
『んぐぅッ……む、んッんぃッ……ひッぅ……』
捨てられたマイクが美夜川のか細い嬌声を拾い上げ、またしても会場には大音量の嬌声が響き渡る。残った男三人のうち一人は彼女の頭側へ腰を下ろし、己の性器を彼女の口に押込み、後の二人は別の女を捕まえ、無理矢理に身体を絡ませ始めた。
たっくん側はどうかと目をやれば、こちらも四人の女と取り込み中。ベッドに腰掛け二人の女とキスを交わしながら、足元には前のめりになって彼の性器を舐め回す女が二人。尻を突き出した彼女達の後ろには、本人達が気付いてないのを良いことに、不意を突き覆い被る男達の姿。
「ひっ……瞳美っ……お前どういうつもりで……!」
「だって桃哉君、クリスマスイブに一人で寂しかったんじゃないの? 色んな女の子とセックスし放題なんだよ? 嬉しいでしょ乱交パーティー!」
「嬉しくねえよ胸糞悪い!」
こんな、誰が誰ともわからぬ肉欲の場で女を抱くなんて想像するだけで吐き気がする。俺にはほたるが────……いや、フラれたんだったか…………けれど。
「えぇ~。せっかく桃哉君とエッチ出来ると思ってたのに」
言いながら瞳美は脱衣を済ませてしまった。ただの飲み友達だと思っていた彼女の裸は、想像以上に美しかった。
「ヤろうよ、ねえ~! エッチしたい~っ!」
「ふざけんな!俺は帰るぞ!」
「なんでよつまんないっ! 私、綺麗でしょ?」
「身体はな! 顔は好みじゃねえよ!」
「ひっどおい!」
会場全体が熱気に包まれていた。話し声などほとんど聞こえない。目が合った瞬間、その場で抱き合いキスを交わし床に身を倒す者ばかりだ。
「あぁッあんッ!あッ……あぁ~ッ!」
絨毯の上で喘ぐ女の横を通り過ぎ、出口へと向かう。ここは気持ちが悪い。多くの女の喘ぐ声に身体は興奮しているというのに、心は冷々と凍えるようだ。この会場には愛がない。欲だらけで気持ちの悪い──掃き溜めのような場所だ。
──俺が会場を突っ切ったその時だった。
「いやっ!離して!帰してよ!」
左方約三メートル先に、二人の男に無理矢理脱がされる女が悲鳴を上げていた。どうやら俺と同様、事情を知らずにここへ来た奴らしい。俺が足を止めている間にも彼女のシャツは破かれ、白い肌が露出してゆく。
「お兄さん、お兄さん」
そんな俺の背後に、二人の女が張りつく。やはりというか既に全裸の二人は、遠慮なしに俺の股間に手を伸ばしズボンの上から撫で回す。
「二対一、どーう?」
「美味しいと思うけど?」
「……悪い」
女二人を振り払うと、俺は泣き喚く女へと足を向ける。駆け寄ると上半身をひん剥かれた彼女は、男二人に胸を舐め回され諦めたように目を閉じていた。
「お前ら、あっちにいいのが二人いるぞ」
俺が今来た方向を指差すと、顔を上げた男二人はくるりと首を後方に捻る。その隙に半裸の女を抱き寄せて横抱きにし、出入り口を目指して全力で駆け出した。
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