【完結しました】こんなに好きになるつもりなんて、なかったのに~彼とわたしの愛欲にまみれた日々~

こうしき

文字の大きさ
上 下
33 / 61

33/見てはいけないもの(2)

しおりを挟む
 ソファに座ったとおやはイヤホンをつけ、スマートフォンをセンターテーブルに置いていた。その画面に映し出されるのは色白で小柄な女性。肩の上の黒髪が乱雑に乱れているのは、上に覆い被さった男が彼女を激しく犯しているせいだった。わたしの倍近くありそうな大きな胸が、突かれる度にふるふると揺れている。嫌がるように顔を横に振る女性の顎を、男が無理矢理に掴む──。

「あッ……あ、あ、うぅ……!」

 セックスをしている時とはまた別の、見たこともないとおやの表情に釘付けになってしまう。陰茎を掴んだ手を一定の速度で忙しなく上下に這わせ、視線は画面から離れない。


(とおや、すごく……エッチな顔……)


 見ているこちらまでもが欲情してしまうほどの、厭らしい顔。半開きの唇に噛みつきたくなってしまう。


(わたしとセックスをする時、こんな顔を──しないのに。画面の中の女性に対してはこんな──こんな──!)


「え、ほた……る?」

「あっ……ごめんっ……!」

 間もなく達しそうなところであったとおやの手がぴたりと止まり、彼はわたしの視線に気が付いた。どうすればいいのかわからず、くるりと背を向け顔を伏せる。彼氏の自慰オナニーなんて今まで見たことがないので、ばくばくと心臓が駆け足のまま止まらない。

「……おかえり」
「ごめんね……邪魔して……」
「いや……」
「あっちにいるから続き……して?」

 とおやが溜まっているのも無理もない。一昨日セックスをしようと唇を重ねていた最中、違和を感じトイレへ逃げ込むと来ていたのだ、生理が。変なところで中断してしまったし、かといって続きは出来ないし。申し訳なくて何度も謝ったのだけれど、とおやは優しく頭を撫でて「大丈夫だから」と言うだけで。

 そそくさと一人寝室へ向かう。ちらりとソファを見ると、既に使用済みの丸められたティッシュがそのままになっていた。


(全然大丈夫じゃないじゃない……!)


 既に二回目で、これのどこが大丈夫だというのか。わたしも帰りが遅くなるとは連絡したけれど、だからといって今から帰ると連絡したあとに普通こんなこと……するのだろうか。

「ほたる」
「……なに? あ……いいよ、遠慮しないで、ドア閉めてるから」
「違う……こっち来てくれ」

 手招きをされ、隣に腰を下ろす。わたしはボタン全開のブラウス──中にインナーは着ているけれど──にショーツ姿。とおやは部屋着を着ているが、下半身には何もかも身に付けていない、おかしな光景だ。

「体調、どうだ?」
「今日はだいぶ良い方かな。頭痛もないし」
「そっか、よかった」

 こんな格好でわたしの体調の心配をするなんてどうかしてる。陰茎はまだ勃ち上がったままの状態で、見るからにがちがちで固そうで──つやつやで美味しそうで──思わず喉がごくりと鳴った。

「……キス、したいんだ」
「うん……」
「いい?」
「うん……んッ……」

 唇が重なった刹那、すぐに差し込まれる熱い舌。その合間にとおやの口からは甘い声が漏れていた。うっすらと目を開けると、わたしと唇を重ねながら己の性器に触れていた。

「ほたる……」
「駄目……だよ」
「わかってる」
「んッ……駄目、胸は駄目、痛いから、やめて」
「ごめん」

 こっちは出来ないというのに。そこは仕方がないと目を瞑り、丸見えなショーツをブラウスの裾で隠した。

「なあほたる」
「……ん?」
「なんでそんな格好?」
「これは……ええと」

 とおやが寝ていると思って面倒だから……と説明をすれば、「いつもそうすればいいのに」と頬を膨らます。そんな恥ずかしいこと、毎日出来っこない。

「とおや、いいの? その……早く済ませて? キスくらいなら、大丈夫だから」
「あ……のさあ」
「なに?」
「ずっとしてみたかったことがあって」

 首を傾げれば、わたしの足首にそろりと触れるとおやの長い指。驚いて後ずさるが、その手が離れることはない。

「俺、いつもセックスする時、目の前のお前の身体に夢中で……だけど」
「だけど?」
「……足、舐めてみたいんだ」
「足?」

 剥き出しの脹ら脛に視線を落とす。手入れをしたばかりだから近距離で見られても大丈夫ではある。けれど、これを舐めたいだなんて──とおやは足フェチだったのだろうか。

「下は自分でするから」
「それならわたしが……」
「駄目だ」
「どうして?」
「生理中のお前にそんなこと……させたくない。セックスできないから口で、だなんて、お前をそんな風に扱いたくない」

 そんな格好をして、何を真面目なことを言っているのかと笑ってしまいそうになるのをなんとか堪える。なかなかお目にかかれないとおやの真剣な眼差しだというのに、下半身は裸で、おまけに勃ち上がったものは健在だというのに。

「わたしはそんなこと、気にしないよ?」
「駄目だ。いいから早く足出せ」
「わかった……これでいいの?」

 わたしがソファに座り足を差し出すと、とおやは床に腰を下ろす。脱ぎ捨てられた彼のスウェットで太股を覆い寒さをしのぐ。

「や……だ、ちょっと、汚いよ?」
「汚くねえって」
「くすぐった……ねえ、本当にッ……んッ……まだ洗ってないから……」

 わたしの足の指を一本ずつ咥え、ちゅうちゅうと吸い上げる。すべての指を吸い終わると今度は足の甲──それに足首に舌を這わせ脹ら脛を撫で回してゆく。その間にもとおやの反対側の手は己の性器をしっかりと掴み、早い速度でしごいてゆく。

「あッ……あ、あッ! ッ!ッ!く……ぅ、あッ……!!」

「イキそう?」

「うん、うんッ…………あッ……イクッ……う、ッ!!」

 ぐったりとソファに倒れ込むとおやの唇を何度も吸う。その身体にもたれ掛かり頭を優しく撫で付けると、物欲しそうな瞳に吸い込まれそうになってしまった。

「とおや……」
「何だ?」
「ごめんね……こんなこと、させて」
「……はあ? 謝ることじゃねえだろ。お前、大丈夫って言ったけど貧血辛いんじゃねえのか、顔色微妙だし」
「……そうかな」

 誤魔化したけれどどうやらそれは無駄に終わってしまったようで、とおやは自分のものを手早く片付けると、寝室へわたしの部屋着を取りに向かった。

「変なことさせて悪かったな……足、冷えてねえか? 先に風呂入るか?」
「ううん、大丈夫」
「さっき飯作ったんだ。食おう」
「うん」
「身体、温めたほうがいいかと思っておでん作ったんだ。明日も食えるし、作んなくて済むから楽だろ?」
「うん、ありがとう」

 とおやは優しい。ぶっきらぼうな風だけれど、これが彼の通常運転で。もっと言葉にして欲しいこともたくさん……たくさんあったけれど、わたしが催促しないと口にしてくれないのは相変わらずで。それが物足りないとか、とっても不安だというわたしの気も知らず──彼が良い方向に変わってくれることはなかった。

 

 翌日。結局とおやはまたしても飲み会で帰りが遅く、わたしは残ったおでんを一人で食べることとなった。 こういう時──わたしがセックス出来ないのを理由に、ひょっとしたら浮気でもしてるんじゃないかという考えが浮かび、否定してもそれは消えなかった。彼の最近の行動に疑わしいものが多すぎたせいだと思う。そのせいなのだろう、とおやなら絶対に大丈夫、そんなことをする筈がないと言い切ることが出来なかった。

 その日からとおやの帰りが遅くなる度に、彼のことをそういう目で見るようになってしまった。本当のことを聞くのも恐ろしかったし、何よりも──わたしの妄想が全て事実で、それを肯定されてしまうのが一番怖かった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...