【完結しました】こんなに好きになるつもりなんて、なかったのに~彼とわたしの愛欲にまみれた日々~

こうしき

文字の大きさ
上 下
25 / 61

25/ギフト

しおりを挟む
 無事自宅へと辿り着き、のろのろと外階段を上る。折角明日は一緒に映画を観に行こうと約束をしていたのに、台無しにしてしまった。


(あのくらい、許すべきだったのかな……)


 仕事の飲み会で、女性と密着することが普通なのか。例えそういう店の人だとしても、とおや自身に悪気があるのなら、きちんと謝って欲しかった。


(とおやがちゃんと謝ってくれれば……わたしだって怒鳴ったりしなかったのに)


 考えれば考えるほど、自分が悪かったのかもしれないという考えに寄っていく。家に着いたらもう考えるのはやめにして、早めに寝てしまおう。

 自室のある三階へと続く階段を上り終える。後ろからせかせかとした足音が迫ってくるので、樹李さんの隣室の畔木くろきさんかもしれないなと、振り返り道を開けた。

「……なんで」
「待てって……言っただろうが……!」

 少し息の上がったとおやは、先程の仕事着ままだ。タクシーでここまで追ってきたと言った彼は、わたしの腕を引き部屋の前まで無理矢理引っ張って行く。

「いや……やめてよ! 帰ってよ!」
「いいから来い!」
「いい加減にしてよ!とおやが悪いんでしょ!ちゃんと謝ってよ!」
「謝っただろうが!」
「謝ってないわよ!」

 屋外であることを忘れて、ギャンギャンと怒鳴り合う。何の騒ぎかと開いた三◯三号室の扉の隙間から、日焼けした体格の良い青年が姿を現した。

「どうしたんですか?」
「く……畔木さん、すみませんうるさくしてしまって……」

 彼の後ろからこちらの様子を伺うように、ほっそりとした女性が顔を覗かせている。あれは畔木さんの恋人だ。名前は知らないけれど。

「大丈夫ですか?その人……変な人じゃないですよね?」
「大丈夫……です、彼氏なので……。すみません、もう終わりますから」

 そう言ってとおやに帰るようきつく言うが、逆効果だったのか、部屋の鍵を開けて中に引きずり込まれて行く。

「やめてよ、もう帰って!」
「ちょっと、あんた!真戸乃さん嫌がってるだろ!」
「うるさいな、他人はすっこんでろ!」

 部屋を飛び出してきた畔木さんが、とおやに掴みかかる。取っ組み合いになったところで畔木さんの彼女が高い声を上げ、満を持して三◯二号室の扉が開いた。

「なーにやってんの?」
「樹李さん!」

 サンダルを引っかけ、いつも通りラフな格好で現れた樹李さんは、とおやと畔木さんの間に割り込むと二人を引き剥がした。

「はいおしまい。みんな部屋に帰ろ」
「でも、樹李さん……あの」

 わたしがとおやに視線を投げると、樹李さんは納得したように溜め息を吐き、畔木さんだけに帰るよう促す。「すみませんでした」と彼に謝り、廊下にはわたしととおや、それに樹李さんの三人だけとなった。

「で、なに喧嘩してんの」

 おかしな出会い方をしてしまったが、この一年で樹李さんとはそれなりの信頼関係を築くことが出来ていた。困ったことがあれば相談するし、食事を一緒にすることだって何度かあった。だから──とおやの顔色を伺いながら、事情を説明した。

「ほたるもほたるで怒りすぎだけど……桃哉君、ちゃんとほたるに謝りなさいよ?」
「はい……。悪かった、ほたる……ごめん。悪気はなかったんだ」
「わたしのほうこそ……ごめん、言い過ぎた」

 互いに謝罪を済ませ、廊下がシンと静まり返る。「はい、仲直りね!」と樹李さんが手を叩くのでわたしは彼女に頭を下げて謝罪をし、玄関の鍵を開けた。

「桃哉君、お泊まりか?」
「え……」

 とおやがチラリとわたしに視線を投げてくる。仲直りはしたのだ──タクシーまで使ってここまで来てくれた相手を帰すのは正直憚られた。

「……泊まってく?」
「お前がいいなら……それで」

 樹李さんが嬉しそうに口笛を吹く。彼女が言わんとすることはわかっていたので、急いで部屋に入ろうとする──が。

「女絡みで喧嘩して、仲直りしたあとはセックスだろ? 自分の方が良い女だって、身体にわからせてやるんだ」

 ドアノブを引いた瞬間に浴びせられた謎の持論に転げそうになってしまう。そんなことなどお構いなしに彼女は「ちょっと待ってろ」と言って自室へと駆け込んだ。嫌な予感しかしない。

「これ、良かったら使ってくれ。資料に買ったんだけどアタシは使わないからさ」

 またそのパターンかと受け取った、両手に治まる程度の箱。開けるよう促されるので開けると、見たことのないピンク色の、キュウリのようなスティックがケースに閉じ込められていた。

「これ……は……?」
「俗に言うバイブレーター」
「ばっ……」
「ラブホにあるだろ? それより良いやつだから。これ水洗いも出来るし、なかにも入れれるから良いと思うんだけど」

 慌てて蓋を閉め、とおやに手渡す。初めて見る形状のそれに興味を持ったのか、彼はまじまじと真剣な面持ちでそれを見つめている。

「後で使ってみよーぜ」
「ばっ……ばか! 喧嘩したあとでエッチするわけないでしょ!」

 頬が火照るのが恥ずかしくて、二人から顔を背けたまま扉を引いて室内に逃げ込む。樹李さんと少しだけ会話をし終えたとおやがわたしの名を呼んでいるが、振り返る気にもなれなかった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...