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13/遅い告白
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何を食べようかと協議した結果、お好み焼きということに決まった。口の中が青海苔だらけになるというリスクはあるが、付き合いたてとは言っても、元が幼馴染みだ。その辺りはお互いあまり気にしないタチのようで、とおやもわたしもパクパクとソースたっぷりのお好み焼きを口に運ぶ。
「海鮮、海老たくさん入ってる?」
「うん」
「一口ちょうだい」
「じゃあ俺も豚玉もーらい」
先日の飲み会では話せなかったことを色々と話しながらの食事は、箸が進んだ。ついでに言えば、お酒も進んだ。とおやは運転があるので飲んでいないが、わたしは彼に勧められるがまま、カクテルをグラス四杯は飲んだように思う。
「ところでとおやぁ」
食事と会計を済ませ、車に向かう途中。少し覚束ない足元が見ていられないからと言って、手を引いてくれるとおやの背に、わたしは声をかけた。
「なんだ?」
「わたし、昨日とおやのこと『彼氏でしょ』って言ったけど」
「うん」
「彼氏、なの?」
「……あ?」
助手席のドアを開けてれるので乗り込むと、シートにだらしなく背を預けた。脱いだジャケットは膝に掛け、運転席側のとおやにずいっ、と身を寄せた。
「ちょっと待て、意味がわかんねぇ」
「だって、『彼氏なの?』『そうだな』って会話はしたけど、わたし、とおやに『付き合おう』って言われてない」
好きだと言われて身も重ねた。けれど、わたしはとおやからのきちんとした言葉が欲しかった。曖昧なのは、嫌いだった。
「言ってないっけ?」
「言ってないもんー」
「今更言うのか?」
「嫌なの?」
どうしても言いたくないと、逃げられているように感じた。それがとても不思議で、 わたしは彼の瞳をじっと見つめてしまう。
「……」
「ひょっとして、本当は好きじゃないとか?」
「……いや」
「ただエッチしたかっただけ……なの?」
「違う」
「じゃあ──」
「ああもう!」
身を乗り出したとおやは、助手席に座るわたしの上に覆い被さった。驚き跳ねた肩を掴まれ、穴が空くほど見つめられる。
「つ……」
「つ?」
「付き合って……くれ」
「……」
「おい、ニヤニヤするな! これでいいのか!」
わたしが返事をする前に下りてきた唇は、今までで一番乱暴だった。貪るようなとおやのキスは口の端から唾液が零れ落ちるまで続いた。
「……んッ…………ぅ……ッ」
深いキスにまだ慣れていないとおやの舌は、口の中でちょこまかと逃げ惑う。捕まえ、絡めると、わたしの肩を握る彼の手に力が籠るのがわかった。
互いを吸い合う水音と、徐々に荒くなってゆく呼吸音。時折漏れるとおやの熱い吐息が首を撫で、わたしを小さく唸らせた。
「……なに、誤魔化してるの……」
「別に」
「言いたくなかったの?」
「ちょっと照れくさかっただけだ」
「そう」
油断してイタズラっぽく笑うと、とおやの手がわたしの胸に伸びてきた。ブラウスの上からそろりと触れ、反対側の手はスカートの中を這っている。
「……駄目だよ」
「欲しい」
「……なにが?」
「お前が」
言い終えるや否や、わたしの肩を掴む彼の手に力が込められた。皮膚に食い込む指先の力強さに、顔が歪んでしまう。
「や……ちょっと……痛い」
「ハァッ……ほたる」
「んッ! や……あッ……ぅ、とおや、痛い、だめ……」
べろりと首筋を舐められ、開けられた胸元に手が差し込まれる。胸の先端に触れられたところで、とおやに頭突きを食らわせてやった。
「いってぇ……」
「ばか、ばか! 外だよ?駐車場だよ?何考えてんの?」
「前向きに駐車してっから、見えないかなって」
「ばか! そういう問題じゃないでしょ! ばかっ!」
「悪かったな馬鹿で!」
座席に座り直したとおやはエンジンをかけ、車を発進させる。不機嫌そうな横顔の頬を指でつつくと、信号待ちの時にぱくりと咥えられてしまった。それと同時に、二人して自然と笑みが零れた。
「どこに向かってるの?」
「俺んち」
「なんで?」
「こっからだと、俺んちのほうが近い」
それ以上のことは、何も聞かなかった。聞かずとも、これからどうなるのかわたしにはわかっていたのだから。
*
「ふわふわする……」
とおやの部屋に辿り着く頃には、お酒が全身に回りきっていた。気持ちが悪いとまではいかないが、頭も体もふわふわと心地がよく、そしてこの衣服を脱いでしまいたくなる感覚。
「どこ行くんだよ?」
「口、ソース味で気持ち悪い……歯磨きする~」
「歯磨き?持ってんのか?」
「鞄に入ってるからぁ」
ごそごそと鞄を漁り、歯ブラシセットを取り出す。「ついでに俺も」と、とおやが後ろから着いてくる。
「おいこら、歯磨きしながら寝るな」
「む……う…………」
「ってお前、なんで服脱ぐんだよ」
とおやがおかしなことを言ってる……だって歯磨きをしたら……脱がないと、暑いし……。
「暑いから」
「はあ?」
「ん……しょ、えいっと……」
「ほたる? おーい?」
ふわふわと気持ち良い。ああそっか、これお酒の……。
「酔ってんのか。つーか、お前……脱ぎ上戸だったのか」
「な~に言ってんのお?」
全部脱げたかな。脱いだものを拾って歩いていると、とおやがひょい、とわたしを横抱きにした。下から見上げると、なんだか呆れたような顔をしている。
「ん~……ッ」
とおやがベッドに下ろしてくれるので、そのまま転がって目を閉じた。とおやが何か言っているけど、聞こえない……聞こえない…………。
「海鮮、海老たくさん入ってる?」
「うん」
「一口ちょうだい」
「じゃあ俺も豚玉もーらい」
先日の飲み会では話せなかったことを色々と話しながらの食事は、箸が進んだ。ついでに言えば、お酒も進んだ。とおやは運転があるので飲んでいないが、わたしは彼に勧められるがまま、カクテルをグラス四杯は飲んだように思う。
「ところでとおやぁ」
食事と会計を済ませ、車に向かう途中。少し覚束ない足元が見ていられないからと言って、手を引いてくれるとおやの背に、わたしは声をかけた。
「なんだ?」
「わたし、昨日とおやのこと『彼氏でしょ』って言ったけど」
「うん」
「彼氏、なの?」
「……あ?」
助手席のドアを開けてれるので乗り込むと、シートにだらしなく背を預けた。脱いだジャケットは膝に掛け、運転席側のとおやにずいっ、と身を寄せた。
「ちょっと待て、意味がわかんねぇ」
「だって、『彼氏なの?』『そうだな』って会話はしたけど、わたし、とおやに『付き合おう』って言われてない」
好きだと言われて身も重ねた。けれど、わたしはとおやからのきちんとした言葉が欲しかった。曖昧なのは、嫌いだった。
「言ってないっけ?」
「言ってないもんー」
「今更言うのか?」
「嫌なの?」
どうしても言いたくないと、逃げられているように感じた。それがとても不思議で、 わたしは彼の瞳をじっと見つめてしまう。
「……」
「ひょっとして、本当は好きじゃないとか?」
「……いや」
「ただエッチしたかっただけ……なの?」
「違う」
「じゃあ──」
「ああもう!」
身を乗り出したとおやは、助手席に座るわたしの上に覆い被さった。驚き跳ねた肩を掴まれ、穴が空くほど見つめられる。
「つ……」
「つ?」
「付き合って……くれ」
「……」
「おい、ニヤニヤするな! これでいいのか!」
わたしが返事をする前に下りてきた唇は、今までで一番乱暴だった。貪るようなとおやのキスは口の端から唾液が零れ落ちるまで続いた。
「……んッ…………ぅ……ッ」
深いキスにまだ慣れていないとおやの舌は、口の中でちょこまかと逃げ惑う。捕まえ、絡めると、わたしの肩を握る彼の手に力が籠るのがわかった。
互いを吸い合う水音と、徐々に荒くなってゆく呼吸音。時折漏れるとおやの熱い吐息が首を撫で、わたしを小さく唸らせた。
「……なに、誤魔化してるの……」
「別に」
「言いたくなかったの?」
「ちょっと照れくさかっただけだ」
「そう」
油断してイタズラっぽく笑うと、とおやの手がわたしの胸に伸びてきた。ブラウスの上からそろりと触れ、反対側の手はスカートの中を這っている。
「……駄目だよ」
「欲しい」
「……なにが?」
「お前が」
言い終えるや否や、わたしの肩を掴む彼の手に力が込められた。皮膚に食い込む指先の力強さに、顔が歪んでしまう。
「や……ちょっと……痛い」
「ハァッ……ほたる」
「んッ! や……あッ……ぅ、とおや、痛い、だめ……」
べろりと首筋を舐められ、開けられた胸元に手が差し込まれる。胸の先端に触れられたところで、とおやに頭突きを食らわせてやった。
「いってぇ……」
「ばか、ばか! 外だよ?駐車場だよ?何考えてんの?」
「前向きに駐車してっから、見えないかなって」
「ばか! そういう問題じゃないでしょ! ばかっ!」
「悪かったな馬鹿で!」
座席に座り直したとおやはエンジンをかけ、車を発進させる。不機嫌そうな横顔の頬を指でつつくと、信号待ちの時にぱくりと咥えられてしまった。それと同時に、二人して自然と笑みが零れた。
「どこに向かってるの?」
「俺んち」
「なんで?」
「こっからだと、俺んちのほうが近い」
それ以上のことは、何も聞かなかった。聞かずとも、これからどうなるのかわたしにはわかっていたのだから。
*
「ふわふわする……」
とおやの部屋に辿り着く頃には、お酒が全身に回りきっていた。気持ちが悪いとまではいかないが、頭も体もふわふわと心地がよく、そしてこの衣服を脱いでしまいたくなる感覚。
「どこ行くんだよ?」
「口、ソース味で気持ち悪い……歯磨きする~」
「歯磨き?持ってんのか?」
「鞄に入ってるからぁ」
ごそごそと鞄を漁り、歯ブラシセットを取り出す。「ついでに俺も」と、とおやが後ろから着いてくる。
「おいこら、歯磨きしながら寝るな」
「む……う…………」
「ってお前、なんで服脱ぐんだよ」
とおやがおかしなことを言ってる……だって歯磨きをしたら……脱がないと、暑いし……。
「暑いから」
「はあ?」
「ん……しょ、えいっと……」
「ほたる? おーい?」
ふわふわと気持ち良い。ああそっか、これお酒の……。
「酔ってんのか。つーか、お前……脱ぎ上戸だったのか」
「な~に言ってんのお?」
全部脱げたかな。脱いだものを拾って歩いていると、とおやがひょい、とわたしを横抱きにした。下から見上げると、なんだか呆れたような顔をしている。
「ん~……ッ」
とおやがベッドに下ろしてくれるので、そのまま転がって目を閉じた。とおやが何か言っているけど、聞こえない……聞こえない…………。
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