血まみれの王妃は冷酷王の愛を乞う

斑猫

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御使い

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暗い通路をランプの明かりを頼りに進む。
もうそろそろ外に出るはず。
突き当たりにまたタイル画がある。
何この絵。

人魚?……というより半魚人?
どちらにしてもグロテスクな絵だ。

やはりこれは……御使いなのでは。


タイルを教えられたように動かしていく。
ガガガっと音をたてて天井が動き
階段がせり上がってくる。

生臭い臭いがムッと鼻をつく。
新月が空に見える。
外に出た。

城近くの墓場だ。
墓碑銘に
マイケル・スミスここに眠るとある。
墓石にもタイル画がある。
マイケル・スミスさんの肖像画かしら。
厳つい顔の老人の絵。
タイルを動かして通路を閉じた。

月神殿のある丘を目指し走る。

だが走り出してすぐに地面を埋め尽くす
モノに立ち止まる。

いた!……海神の御使いだ。
猫ぐらいの大きさの人魚の群れ。
毛髪のない頭はいびつに歪み、
肌はテラテラとぬるついていてを青黒い。
血走った大きな目玉をギョロつかせ
短い手を使い地面を這いまわっている。
耳まで裂けた口には鋭い歯が並ぶ。

私に気づいたやつらが一斉にこちらに
向かって来る。

私はランプを投げつける。

「「ギョゲエエエ~!!」」

割れたランプから油が漏れて燃え上がる。
海神の御使いは火が嫌いだ。
叫び声をあげて皆、火を避ける。

私はその間に短剣を引き抜いた。
ぽうっと青白く光る短剣。

「え?嘘でしょう。なんで国宝がこんな
所にあるの!?」

エミリから渡された短剣。
鞘から引き抜いてびっくりした。
母国の国宝だ。

月神の剣。
普段は神殿の奥深くに祀られているはずの
剣がここにある。

ああ~お姉様だ!
神殿長である姉の仕業ね。
この短剣を持っていたのだから
エミリは……お姉様の配下の者だ。

私、一人ではなかったのね。
最初から配下の者を側に付けていてくれた。
お姉様はゴードルに海神の御使いが
来る事を知っていたの?
だから月神の剣をエミリに持たせた?
もう、だったら最初から教えておいて
くれてもいいのに……。

──深く息を吐く。

気を取り直し私は月神の剣を構える。
青白い光が強まり短剣であった月神の剣が
長剣へと姿を変える。

御使いの群れが私めがけて押し寄せる。
私は上段から剣を振り下ろし、
小さな人魚達をなぎ払う。
青黒い肌から飛び散る血の色は赤。

なんでこんな異形のモノなのに
血は赤くて生暖かいの。
こみ上げてくる吐き気に堪える。

生臭い返り血を浴びながら次々に襲って
くる奴らを斬り捨てながら前へと進む。
死に物狂いで人魚を斬りまくる。

絶命した人魚は青白く光り月神の剣へと
吸い込まれていく。
段々と月神の剣が輝きを増していく。

月神殿まではまだ距離がある。

私がここで暴れているせいで御使い達が
ぞろぞろと集まって来る。
なかなか近寄る事が出来ない。
もう、私はすでに息が上がってきている。

この国に来てから一年近く鍛練を
していない。
体が鈍っている。
今夜を生き延びたら鍛えよう。

深く息を吸う。

「たああああ!!」

月神の剣を新月に掲げる。

暗いはずの新月から目映い光が
月神の剣に降り注ぐ。

月神の剣を勢い良く地面に突き刺すと
青白く輝く道ができる。

青白く輝く光の道は御使い達を焼き払い
ながら月神殿へとどんどん延びていく。
そこかしこで人魚の断末魔があがる。

御使いは青白い光に触れると青白い炎に
包まれ燃え尽きる。

出来上がった光の道から御使い達が
離れていく。
これで月神殿に行ける。

地面に刺さった剣を抜きとり抜き身のまま
握りしめ光の道を駆け出した。

長く緩やかな上り坂。

足が重い。息がきれる。
汗と返り血でベトベトして気持ちが悪い。
途中、何度か立ち止まり呼吸を調え汗を
拭う。月神殿が近づいて来た。

月神殿のすぐ脇に小山が見える。
……小山なんてなかったはず。
よく見ると青黒い小山はうねうねと
動いている。
びっしりと蛸の足のような触手で
覆われた小山がこちらに振り向く。
ギョロりとした大きな目玉が一つ。
こちらを睨んでいる。


胸がドキドキと早鐘を打つ。

あれも海神の御使いだ。

あんなに大きな御使いは
見たことがない。

──怖い。

足がすくんでその場に立ち尽くした。

すると左足首に鋭い痛みがはしる。

『ト~マルナ~!!』

人面瘡が叫ぶ。
私はその声で金縛りが解けたように
再び走り出した。

丘を駆け登り、巨大な海神の御使いと
相対した。

そこで再び呆然と立ち止まる。

「ひっ!!」

思わず叫びそうになり口を押さえる。

月神殿の円柱よりも大きな御使い。
月神殿の中には入れず、円柱の間から
青黒く細長い触手を無数に差し入れ
中央に置かれた巨石に鎖で繋がれた
男に絡みついていた。

目から鼻にかけて金色の仮面を被った男。
一糸纏わぬ裸体。

鎖に繋がれた男が呻き続ける。
ヌチャヌチャと嫌な音をたてて触手が
男を苛む。

無数の触手が絡みつき無遠慮に男を
撫で回し孔と言う孔から侵入し犯す。

口にも耳にも……そして後孔にも。
男の体が弓なりに反る。

ヌチャヌチャと孔を出入りする触手の
動きが速く激しくなる。

男が痙攣する。
獣のように唸る。
ジャラジャラと鎖の音と水音。
男のぐもった呻き声。

男は口に押し込まれた触手のせいで
叫ぶ事はおろか呼吸すらままならない。
時折鼻から触手が離れ呼吸を促す。

新月の浮かぶ空。
普段よりも輝く星の下。

あまりにもおぞましい光景に
私の体は動かない。

「お願い……嘘だと言って」


金色の仮面を被った男。
夜目にも美しい銀の髪。
腹から胸にかけて七つの人面瘡がある。

人面瘡達は必死で触手を噛みちぎり
宿主を守ろうとしているが触手の数の多さに
圧倒されていた。

どうしてこんな目に遇わされるの。
なぜ、鎖で繋がれているの。

一国の王だと言うのに。

視界がぼやける。
私は流れる涙を拭う事もできず
だだ呆けたように立ちすくんだ。











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