血まみれの王妃は冷酷王の愛を乞う

斑猫

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宰相

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なんだかよく分からない理由で王との
関係が改善した。
七つの人面瘡に取り憑かれている王。
やっと話せる仲間が出来たと喜ばれた。
物凄く複雑な心境だ。

あれだけ冷たい態度だったのに
はにかみながらお茶に誘う王。誰これ?
相変わらず美しいお顔だ。
まあ、性格はともかく眺めているだけなら
最高にいい男なので、せっかくだから
遠慮なく観賞させてもらおう。
そう思いお茶の誘いに応じた。
だがさっそく後悔している。

「南方から取り寄せた珍しい茶葉だ。
香りがいい。お前もきっと気に入る」

ええ。お茶はとてもおいしいですとも。
確かに香り高い。
でも……。


天気が良いからとテラスでお茶を飲んで
いるのだけれど、先ほどからイヤなものが
目の端にちらついて仕方がない。

ぶらん。ぶらん。ぶらん。


首をくくった従者らしき男が木にぶら下がり
蓑虫のように風に揺られている。
ぶら下がった男の目線が痛い。
口から血を流しながら
じっと私の方を見ている。

赤い花の毒は解毒されたはず。
だから幻覚ではないだろう。
私は元々は見える人間だったから
仕方がない。
でもゴードルに来てから見えすぎでしょう。
思わず目で追ってしまう。

ぶらん。ぶらん。ぶらん。

「お前もアレが見えているのか?」

「え?」

「そこの木にぶら下がった男だ」

「え、ええ。陛下も見えてらっしゃるの?」

「あれは俺が子供の頃からあそこに
ぶら下がっている。もはや景観の一部だ」

そう言いながら平然とお茶を飲む王。
景観の一部って……。
王にアレが見えているのも驚きだけれど
そんなものが見えるのが分かっていて
何でここでお茶を?
しかも何で私を誘うのですか。

「そうか。お前にも見えるのか。
そうか……」

何でうれしいそう?

「今日はやっと出来た仲間のお前を
あいつに見せようと思ったのだが、まさか
お前にも見えるとは……やはり人面瘡持ちは
一味違うな。そうか見えるか。はは!」

この方大丈夫?
背中に冷たい汗が伝う。

「アレは見た目はアレだが優しい奴でな。
子供の頃、泣くと歌を歌ってくれてな。
子守り歌だ。とても優しい歌で慰められた。
子守り歌なぞ歌ってくれたのはアレだけだ。
俺の癒しだ。辛くなるとここに来る」

首くくりの幽霊が癒し。
子守り歌を歌ってくれたのがアレだけ。
どんな寂しい子供時代ですか。
やっぱり大国の王族は小国の王族と違って
大変なのね。
良かった小国の王族で。

なんだか居たたまれない気持ちで
ご機嫌な王とお茶を飲んでいると侍従が
近づいて来た。

「陛下、宰相閣下がお目通りしたいと
お越しです。王妃様にも是非お目にかかり
たいとの事ですがいかがいたしましょう?」

せっかくご機嫌だったのに王の機嫌が
急下降した。

「チッ。面倒な。仕方がない。ここに通せ。
フェリシアせっかく寛いでいたのに悪いな」

いえ元々寛いでませんからお気になさらず。
それより今、舌打ちしましたね。

「これはこれは……仲がよろしいようで。
安心しましたよ。これでやっとお世継ぎが
望めます」

薄茶色の真っ直ぐな長い髪を後ろで
一つに束ねた優しげな容姿の男。
年の頃は三十路になるかならないかと
いったところか。にこやかに笑っている。
ずいぶん若い宰相だ。そしてとても不躾だ。
開口一番、挨拶もなしでそれか。

「シドウェル、何を言っている。
フェリシアはやっと見つけた大切な仲間だ。
繁殖用のメスじゃない」

「「繁殖用のメス……」」

私と宰相が固まる。

「それは側室をよこせと言う意味ですか?」

「他にどんな意味がある。家柄がどうの
血筋がどうのとうるさいのはお前達だ。
適当に見繕え。そうすれば種をつける」

「いや適当に見繕った結果がそこの王妃様
なんですけどね?」

「フェリシアとはしない。して嫌われたく
ない。世継ぎが欲しいなら別の繁殖用の
メスをよこせ。
ああ、そう言えばイレーネとかいう
性欲処理用のメスがいなくなったな。
あれの代わりもいるな。あれは礼儀が
なっていなかった。
もう少しましな奴にしろ」

「リチャード!王妃様の前で何を
言い始めるんだ!あ、いや失礼。
王妃様はお世継ぎ誕生のために輿入れ
されたんですよ?それはあなたも承知して
いたじゃないですか。大体、婚姻したての
王妃様の前で初夜も済ませぬうちに
もう側室をよこせ?
果ては性欲処理のメスって……」

「あれはお前や議会の年寄りどもがうるさく
言うから仕方なしに承知したまでの事。
貴重な仲間と分かったからには
そんなもったいない使い方はしない。
もっともっと大切に扱う」

「いや、大切にするなら初夜をすっぽかす
のはまずいでしょう。
女性としたら屈辱ですよ。ねえ、王妃様?」

なんなのこの会話。
ついて行けない。
宰相は、王を呼び捨てにした。
きっとそれが許される関係にあるのだろう。

「ええ。あれは大変失礼でした」

とりあえず確かに初夜を済ませないのは
まずいので言ってみる。
私にも立場というものがある。

「ああ、すまなかった。あの日はイレーネ
とかいう奴にフェリシアに秘密をばらすと
脅されて仕方なくあっちと一夜を共にする
羽目になっただけだ。
気づかれないようにしていたのに
いつ俺の人面瘡に気づかれたのだろう?」

本気で首を傾げる王に呆れる。
宰相は片手で顔を覆ってげんなりいている。

「閨を共にする仲ならそれは当然気づき
ますよ。だって、その……。
裸になりますでしょう?」

あ、それとも晒しを巻いたままなのかしら。
王はシャツの下に晒しを巻いている。
いつも閨で晒しを巻いていたらそれは
気になるし疑うわ。

「いや、最初の王妃に閨を拒まれて以来。
俺は服を着たまま後ろからしかしない。
何で気づかれたのだろう?」

「服を着たまま……後ろから?」

え~と。それは一体どういう事?
思わず宰相を見る。

世にも情けない顔をした宰相がぷるぷると
首を振っている。
何?俺に聞くな?
あなたに聞かなきゃ誰に聞くの。

「その、後ろからと言うと?」

宰相がぷるぷる首を降り続けるので
仕方がないから王に聞く。

「なんだ。フェリシアは動物の交尾は
見たことがないのか?」

王がそれはそれは美しいお顔で
ニッコリ笑う。
交尾って……。
今、とんでもない事を聞いた気がする。
う、後ろからってあんな感じ?

馬の種付けを思い出し青くなる私。
イレーネさんが脅してでも我が儘を言って
初夜を流してくれて良かった。

あのまま初夜を迎えていたら何も知らずに
後ろから……致される羽目になっていたかも
しれない。
初めての夜に後ろから?
……無理!私には荷が重いわ!

「わ、私は後ろからはちょっと遠慮させて
いただきたいかも……」

「フェリシアの嫌がる事はしない。
ほらみろ。やはり俺と閨を共にするのは
嫌なんだ。嫌われたくないからしない」

宰相にそう宣言する王。

いえそういう事ではないのですが。
話が通じる気がしない。

宰相と目が合うとお互いため息を吐いた。
どうやら私は繁殖用のメスから仲間に昇格
したために致す気はないという事らしい。

宰相がゆっくり首を振り話はそこまでと
なった。

その場はそのままお茶会を続けた。
あまりの衝撃に飲んだお茶も食べた
お菓子もまるで味などしなかった。












 
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