王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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厄日だよ。全員集合

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「グ、グレン様。ごめんなさい?」

怒って魔王顔になっているグレン様にビビり
ながらもとりあえず謝ってみるけれど……。
無言で静かな視線を私に向けるグレン様。
……怖い。

「そんな顔色で何をしようとしていた?」

うっ!……そんなに顔色、悪いかな?
まあ確かにフラフラ、クラクラするけれど。
ところで何で無茶な事をしようとしてたのが
バレたのだろう?

「お前……何でバレたんだろうとか不思議
がっているだろう?」

「え?!」

え、うそ!それも分かるの?
何で!

「……お前は考えている事が顔に駄々漏れ
なんだよ。顔に書いてある!」


顔に書いてある?グレン様に言われて
思わず両手で顔を隠す。


「そこの牢獄の結界を壊そうとしたんです。
私でも何とかなるかと思って……想定外に
腹が立つ事があったので暴走しました。
呼ばなくてごめんなさい」

「想定外に腹の立つ事?」

あ、良かった。ギロリと私を睨みながらも
私の話しに聞く耳を持ってもらえたみたい。

「長老達が人の若い女性を拐ってきて
閉じ込めているんです。その……それで」

「分かった」

「え?」

「男ばかりの里だ。大体分かる。
お前が後先考えずに無茶をしようとする
状況だ。予測はつく。
だがな?どんな状況でも絶対に一人で無茶を
するな!…… 何で俺を呼べないんだ。
そんなに俺は頼りないか?」

あ~う~グレン様、怒りというよりは
悲しそうな顔になった。その顔は辛い。
ごめんなさい。
そんな顔をさせたい訳じゃなかったの。

私の欠点だな。
何でも一人でしようとするの。
私が消えて心配してくれた大切な人に
さらに心配をかけてしまった。

「グレン様は物凄く頼りになります!
ただ、私が危険を感じてなかっただけです。
アカネは危ないって止めてくれたのに
つい何とかできると思ってしまって……。
心配させてしまってごめんなさい」

「アカネ?」

「え~とそこの赤い髪の彼です」

ギロリとアカネを睨むグレン様。
アカネが顔面蒼白でプルプルと首と両手
を振る。


「こいつらが誘拐犯か。それで何で仲良く
なっている?」

あ~また機嫌悪くなっちゃった。
あ~ん。どうしたらいいの~!

「人間違いで私を拐ったみたいですし
目的が人助けだったので」

「ふん……アニエスらしいな」

グレン様がため息をつきながら前髪を
かき上げる。
あ、怒っていてもその仕草素敵。
……いけない見惚れている場合じゃないわ。

「まったく!大体、何でお前はいつも
『穴』に落ちるんだ。
俺は何度こんな思いをすればいいんだ?」

いや、それを責める?そんな事を言われても
『穴』に落ちるのは不可抗力です。
落ちたくて落ちてるんじゃないもん。

「え~とそれに関してはそんな事を言われ
ましても……ごめんなさいとしか。う~ん」

「『穴』がなければ落ちないな?」

「え?」

グレン様?今何て言ったの?
いや、目が据わってません?

「お前が俺の目の前で消える事にもう
どうにも我慢がならない。
『穴』がなければ落ちないだろう?」

「『穴』って竜達の生活道路でしょう?
なくなったら竜達が困るんじゃ……」

「困ればいい。丁度いいペナルティーだ。
しばらく不便な生活をしていろ!
遥々南大陸から北大陸くんだりまで来て
みれば人の都合も考えずペラペラと
好き勝手言いやがって……皆殺しにしない
だけでもありがたいと思え!」

い、や~~!!まさかのマジギレだ!
ど、どうしよう!

「グレン様~ちょっと待って!」

グレン様が左手を上げると閃光が走る。
眩しい!

沢山のガラスが割れるような音が鳴り響く。

「「「きゃ~~!!」」」

急な騒音と光の渦に牢獄の女性達が
悲鳴を上げる。
洞窟がサラサラと砂のように崩れていく。
キラキラと金色の粒子となって消える。

金色の亡骸が崩れて消えた時と同じだ。

パリン、バリン、バリバリバリン!!

やだ!どうなっちゃうの!?

まるで砂嵐のように金色の砂が舞い上がり
目の前が金色に染まる。

「おい!どうなっているんだ!」

アカネ達の慌ててふためく声がする。

目の前が金色で何も見えない!

「グレン様~!!」

もう!魔王!!どこよ~~!

グレン様をありったけの声で呼ぶ。
するとお腹に手をまわされぐいっと
抱き寄せられる。
ふわりと甘いグレンの匂いに包まれる。

「どこにも行くな」

後ろから強く抱きしめられて切なそうに
耳元で囁かれる。
ひえっ!
ゾクゾクする。その声、反則です。

「どこにも行きませんよ」

私はお腹にまわされたグレン様の腕を
そっと撫でる。
参ったな。
どうしたら安心してくれるんだろう?

悩んでいるうちに口付けられた。
触れるだけのキスを角度を変えて何度も。

物足りなくて私からグレン様の口に
舌を入れた。

グレン様がピクリとして固まる。
あれ?
どうしたんだろう。

まあいいか。
私は気が済むまでグレン様の口腔に
舌を這わせた。
唾液から流れ込むグレン様の魔力が
心地いい。
息が苦しくなってきたのでグレン様の
唇から自分の唇を離した。
グレン様は私にされるがままだ。

息継ぎ、息継ぎ!

何で私はキスの時、鼻で息ができない
んだろう?

思い切り空気を吸いながらグレン様を見ると
金色の粒子が薄くなってきたのか
お顔がはっきり見える。

あれ?顔が赤い。耳まで真っ赤だ。

「……アニエス、お前から舌を入れてきた
のは初めてだな……悪くない。いや、良い」

自分の口に手をあて頬を染めるグレン様。
すっかりご満悦だ。

うそ、こんなので機嫌直るなんて。
あ~もっと早くにキスしとけば良かった!
もう、遅いよね?

私は途方に暮れる。
金色の粒子は消え続け視界が晴れてきた。
鉛色の空が見える。

ざわざわと大勢の人の気配と声が聞こえる。
これ……どういう状況?

すっかり金色の粒子は消え失せた。
私達は洞窟にいたはずなのに今は
草原にいる。

アカネ達が地面にへたりこんで呆然として
いる。牢獄にいた女性達も身を寄せあって
地面に座っている。
中には気絶したのか意識のない人もいる。

ここまではいい。
最初から側にいた人達だ。


でも、草原には沢山の竜達がガタガタ震え
ながら私達を遠巻きに見ている。

それにリョクや長老達が蔦蔓に逆さ吊りに
されたままでいるし。

黒竜や青竜にキハダもいる!

何か全員集合しているみたい。

それに大きなダイヤモンドがキラキラと
宙に浮きながら回転しているのが見える。
竜石まで同じ場所にあるよ。

黒竜と青竜が私達の方へ首を振りながら
ゆっくり歩いて来る。その後ろをキハダが
真っ青な顔でついてくる。


「派手にやったなぁ……死人がでてないだけ
マシだけど、まさか道と巣穴と竜の里に
張られた結界まで破壊するとは……
さすがだ小僧。本当に容赦がないな」

黒竜が飽きれ果てた顔でグレン様に声を
かける。

え?『穴』と巣穴を壊しちゃったんだ。
だから草原に全員集合しているのね。

──しまった。
私のうっかり行動でグレン様を怒らして
竜の里を破壊しちゃったよ。

でも、拐われたのは私のせいじゃないよね。
それにその前に長老達が勝手な事を言って
グレン様をイライラさせるから……。

「自業自得な気もするが道はともかく
巣穴がなくなるのはちょっと気の毒だな」

青竜が額に手をあてながらぼやく。

──自業自得か。

そうね。うん。半分以上は竜達が悪い。
でも……ちょっと気の毒。
竜達にはとんだ厄日になっちゃった。

私は後ろから私を抱きしめるグレン様の
顔をちらりと見る。


「「穴』がなければアニエスは消えない。
俺達が北大陸にいる間は『穴』は作るのも
使うのも禁止だ」

目が笑っていない怖いキラキラしい笑顔で
大真面目にグレン様が宣う。
あ~うん。学習しました。

魔王様を怒らせると大変。


もう一人で無茶をするのは絶対にやめよう。
私は密かに心に誓った。











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