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「アニエス」
「アニエス」
「アニエス」
うん?名前を呼ばれている。
目を開けると金竜が心配そうに私をじっと
見つめている。
金竜!?
かばりと起き上がる。
私はどうやら金竜に膝枕されていたようだ。
あれ?グレン様はどこ?
キョロキョロと見回すがグレン様がいない。
グレン様に抱き上げられて『穴』に落ちた
はずなのに……ここどこ?それに誰?
グレン様の代わりに私そっくりな女性が
二人側にいる。
黒い髪に金の瞳の女性に金の髪に金の瞳の
女性……どっちも私にそっくりだ。
二人とも心配そうな顔をしている。
──誰?
「無茶をしたねぇ。危なかった」
金竜が私に話しかける。
あれ?声が聞こえる。今まで金竜の声は
聞こえなかったのに。
初めて聞いたご先祖様の声……優しい声。
「無茶って?」
「数百年、溜まりに溜まった竜石の淀みを
一気に浄化力するなんて……
僕でもやらない。
グレンが来るのがもう少し遅かったら
死んでいたかもしれないよ?」
「やろうと思ってやった訳じゃ。それに
竜石の淀みって?」
あの大きなダイアモンドの黒い色の事
だろうか。私が触れた後、色が抜けて透明
になった。
「竜は大勢で一ヶ所に住んではいけない
生き物なんだ。魔力が多いものが大勢
集まると互いの魔力が影響しあって淀みが
できる。淀みは負のエネルギーで蓄積され
ると心も体もさらには住む土地さえも
病のように蝕んでいくんだ。
金竜はその淀みを浄化できる。
僕が元気な時は淀みが蓄積されると
その都度浄化していたんだけれど
番のフィリスが死んで僕に死期が近づいた。
僕は僕がいなくなった後にも竜達の淀みを
取り除きたかった。
それで僕の代わりに淀みを吸収する竜石を
作り出した。君は竜石に長い間蓄積された
淀みを浄化してくれたんだよ」
「やろうと思ってやった訳じゃないです」
「うん知ってる。それでもありがとう。
これで後、数百年は淀みを浄化できる。
あの竜石はもう限界だったからね」
金竜にお礼を言われるが本当にやろうと
思った事ではないので困る。
それよりも気になるのは……。
「……金竜は亡くなったんですよね?」
「うん。死んでるね」
「何で今ここにいて私と話しをしている
のでしょうか?」
「ここが君の精神世界だからだね。
まあ、夢の中と思ってくれてもいい」
「精神世界?」
「僕は金竜というか金竜の核だよ。
グレンとアニエスに半分ずつ食べてもらっ
た魔力の塊だ。本当なら君達に吸収されて
完全に消滅するはずだった。
グレンに食べられたもう半分の核は
グレンが吸収してすでにグレン自身の核に
なっているのに……アニエスは吸収せずに
取り込んだだけ。なぜかアニエスの中で
僕の自我は保たれている」
「え~と?それはなぜ?」
「なぜなんだろうね?僕にも分からない。
それに僕だけじゃなく黒竜の魔力や
僕とフィリスの子から引き継がれた金竜の
魔力も完全に分離して自我を持っている」
金竜が私そっくりの二人に目をやる。
二人はニッコリと私に笑顔を向ける。
金のアニエスに黒のアニエス……グレン様が
言っていたのは彼女達の事か。
「私が竜石に触れて危なかった時に励まし
てくれたのはあなた?」
私は黒髪の女性に尋ねる。
女性は笑顔と頷く。
「危なかったわよ~本当に無意識で浄化を
始めた時には生きた心地がしなかったわ。
あなたが無事で良かった」
ギュっと抱きしめられる。
震えている。
本当に心配させてしまったみたい。
「あなたは黒竜の魔力なの?」
「そうよ。あの騎士の血に混じってあなたに
与えられた黒竜の血から生まれたの。
あなたを死ぬほど苦しめたのは私よ」
「そして私が目覚めた。本来眠ったままの
はずだったのに」
悲しそうに金の髪の女性が言う。
この人が金竜の魔力なんだろうな。
「さらに今度は僕の魔核を受け取った。
それでも君は竜にはならない。
君は竜として生きる事を拒んでいる。
ごめんね。人として生きたい君に魔核なんて
押し付けて」
金竜がシュンと落ち込んでいる。
「君はすでに金竜だったから番のグレンと
共に僕の魔核を託してもいいと思ったんだ。
誰かに引き継がなきゃいけなかった。
誰かに引き継ぐなら僕は君がいいと思った。
でも君に取り込まれて彼女達に会って
アニエスは竜になる事を望んでいないと
しかられて……本当にごめんね」
ははは……ご先祖。しかられたんだ。
なんだろうね?
この三人からとても愛を感じるのは。
確かに私は人だと思っている。
でも色々無理があるのも分かっている。
やっぱり私は竜なんだろうな。
「無理はしなくていい。竜化したくなったら
自然に竜化するから。君は君の望むまま
生きて欲しい。間違っても竜王とか
ならなくてもいいからね。ただ……寿命は」
金竜が言いよどむ。うん。分かってる。
「長命なんですよね?」
「うん。ごめんね」
「大丈夫です。私には同じ時を一緒に生き
てくれるグレン様がいますから」
「うん。いい男を番にしたね。アニエス」
ふふふ。そうだろう。そうだろう。
ご先祖様にグレン様を褒められた。
うれしい。
夢の中でもグレン様を褒められるのは
とても気分がいいわ。
夢か……。そうか夢なら覚める。
目が覚めないうちに聞きたい事を聞いて
おこう。
「竜は大勢集まっては生きられないなら。
もしかして竜石が次にダメになる前に
また私が浄化しに来ないとダメですか?」
「君にそんな義理はないでしょう。今回の
竜石の浄化だけで十分だよ。
淀みで弱って困ったら離れて暮らせば解決
するんだから」
え?離れて暮らせば淀みは生まれないの?
じゃあ黒竜が弱っていると感じたのは
気のせい?
黒竜は他の竜は離れて暮らしているもの。
「黒竜は竜石に触れていないから弱い
みたいな事をリョクが言っていたけれど
じゃあ間違いですね」
「竜石は淀みを吸収するだけだからね。
魔力が正常化して一瞬強まるから力を得て
いると誤解してるのかもね。
リョクは思い込みが激しいから。
クロが弱っているのはアニエスに鱗や血を
与え続けたせいだよ。淀みのせいじゃない」
「黒竜はそんなに弱るまで私に魔力を?」
やだ黒竜……大丈夫なの。やっぱり弱って
いるんだ。金竜が私を見て笑う。
「ふふ。心配いらないよ。今はアニエスの
空間収納に入ったお陰で元通りに戻って
いるから大丈夫だよ」
「また、空間収納ですか?本来空間収納は
現状維持で状態保存するだけのはずなのに
何で私の空間収納は竜を癒したり竜殺しの
剣を消したりできるの?」
「君の空間収納は竜石と同じ効果があるね。
君の魔力に溢れた空間。淀みを浄化し
金竜の魔力を高濃度に浴びる。
きっと竜にとってはさぞかし気持ちのいい
空間だろうね。君は外に魔力を出さず内に
溜め込むタイプだね。
一見すると金竜どころか人にしか見えない。
なのに冗談みたいな量の魔力を秘めている。
グレンも意識して魔力を溢れさせなければ
人にしか見えない。君達の心の有り様が
そうさせているんだろう」
確かに白竜は私の中は気持ちがいいと言って
いたわね。成る程。あと聞きたいのは……。
「金竜、私は人から生まれて人として育った
のになぜ竜になったの?
大体竜はなぜ人の姿になるの?」
質問したら頭を撫でられた。
なぜなぜ?と聞きたがる子供をあやすよう。
なんだかなぁ。すっかり祖父にお話を
ねだる孫のような感じになっている。
ひとしきり私の頭をくしゃくしゃと撫でると
金竜は話し始めた。
「アニエス」
「アニエス」
うん?名前を呼ばれている。
目を開けると金竜が心配そうに私をじっと
見つめている。
金竜!?
かばりと起き上がる。
私はどうやら金竜に膝枕されていたようだ。
あれ?グレン様はどこ?
キョロキョロと見回すがグレン様がいない。
グレン様に抱き上げられて『穴』に落ちた
はずなのに……ここどこ?それに誰?
グレン様の代わりに私そっくりな女性が
二人側にいる。
黒い髪に金の瞳の女性に金の髪に金の瞳の
女性……どっちも私にそっくりだ。
二人とも心配そうな顔をしている。
──誰?
「無茶をしたねぇ。危なかった」
金竜が私に話しかける。
あれ?声が聞こえる。今まで金竜の声は
聞こえなかったのに。
初めて聞いたご先祖様の声……優しい声。
「無茶って?」
「数百年、溜まりに溜まった竜石の淀みを
一気に浄化力するなんて……
僕でもやらない。
グレンが来るのがもう少し遅かったら
死んでいたかもしれないよ?」
「やろうと思ってやった訳じゃ。それに
竜石の淀みって?」
あの大きなダイアモンドの黒い色の事
だろうか。私が触れた後、色が抜けて透明
になった。
「竜は大勢で一ヶ所に住んではいけない
生き物なんだ。魔力が多いものが大勢
集まると互いの魔力が影響しあって淀みが
できる。淀みは負のエネルギーで蓄積され
ると心も体もさらには住む土地さえも
病のように蝕んでいくんだ。
金竜はその淀みを浄化できる。
僕が元気な時は淀みが蓄積されると
その都度浄化していたんだけれど
番のフィリスが死んで僕に死期が近づいた。
僕は僕がいなくなった後にも竜達の淀みを
取り除きたかった。
それで僕の代わりに淀みを吸収する竜石を
作り出した。君は竜石に長い間蓄積された
淀みを浄化してくれたんだよ」
「やろうと思ってやった訳じゃないです」
「うん知ってる。それでもありがとう。
これで後、数百年は淀みを浄化できる。
あの竜石はもう限界だったからね」
金竜にお礼を言われるが本当にやろうと
思った事ではないので困る。
それよりも気になるのは……。
「……金竜は亡くなったんですよね?」
「うん。死んでるね」
「何で今ここにいて私と話しをしている
のでしょうか?」
「ここが君の精神世界だからだね。
まあ、夢の中と思ってくれてもいい」
「精神世界?」
「僕は金竜というか金竜の核だよ。
グレンとアニエスに半分ずつ食べてもらっ
た魔力の塊だ。本当なら君達に吸収されて
完全に消滅するはずだった。
グレンに食べられたもう半分の核は
グレンが吸収してすでにグレン自身の核に
なっているのに……アニエスは吸収せずに
取り込んだだけ。なぜかアニエスの中で
僕の自我は保たれている」
「え~と?それはなぜ?」
「なぜなんだろうね?僕にも分からない。
それに僕だけじゃなく黒竜の魔力や
僕とフィリスの子から引き継がれた金竜の
魔力も完全に分離して自我を持っている」
金竜が私そっくりの二人に目をやる。
二人はニッコリと私に笑顔を向ける。
金のアニエスに黒のアニエス……グレン様が
言っていたのは彼女達の事か。
「私が竜石に触れて危なかった時に励まし
てくれたのはあなた?」
私は黒髪の女性に尋ねる。
女性は笑顔と頷く。
「危なかったわよ~本当に無意識で浄化を
始めた時には生きた心地がしなかったわ。
あなたが無事で良かった」
ギュっと抱きしめられる。
震えている。
本当に心配させてしまったみたい。
「あなたは黒竜の魔力なの?」
「そうよ。あの騎士の血に混じってあなたに
与えられた黒竜の血から生まれたの。
あなたを死ぬほど苦しめたのは私よ」
「そして私が目覚めた。本来眠ったままの
はずだったのに」
悲しそうに金の髪の女性が言う。
この人が金竜の魔力なんだろうな。
「さらに今度は僕の魔核を受け取った。
それでも君は竜にはならない。
君は竜として生きる事を拒んでいる。
ごめんね。人として生きたい君に魔核なんて
押し付けて」
金竜がシュンと落ち込んでいる。
「君はすでに金竜だったから番のグレンと
共に僕の魔核を託してもいいと思ったんだ。
誰かに引き継がなきゃいけなかった。
誰かに引き継ぐなら僕は君がいいと思った。
でも君に取り込まれて彼女達に会って
アニエスは竜になる事を望んでいないと
しかられて……本当にごめんね」
ははは……ご先祖。しかられたんだ。
なんだろうね?
この三人からとても愛を感じるのは。
確かに私は人だと思っている。
でも色々無理があるのも分かっている。
やっぱり私は竜なんだろうな。
「無理はしなくていい。竜化したくなったら
自然に竜化するから。君は君の望むまま
生きて欲しい。間違っても竜王とか
ならなくてもいいからね。ただ……寿命は」
金竜が言いよどむ。うん。分かってる。
「長命なんですよね?」
「うん。ごめんね」
「大丈夫です。私には同じ時を一緒に生き
てくれるグレン様がいますから」
「うん。いい男を番にしたね。アニエス」
ふふふ。そうだろう。そうだろう。
ご先祖様にグレン様を褒められた。
うれしい。
夢の中でもグレン様を褒められるのは
とても気分がいいわ。
夢か……。そうか夢なら覚める。
目が覚めないうちに聞きたい事を聞いて
おこう。
「竜は大勢集まっては生きられないなら。
もしかして竜石が次にダメになる前に
また私が浄化しに来ないとダメですか?」
「君にそんな義理はないでしょう。今回の
竜石の浄化だけで十分だよ。
淀みで弱って困ったら離れて暮らせば解決
するんだから」
え?離れて暮らせば淀みは生まれないの?
じゃあ黒竜が弱っていると感じたのは
気のせい?
黒竜は他の竜は離れて暮らしているもの。
「黒竜は竜石に触れていないから弱い
みたいな事をリョクが言っていたけれど
じゃあ間違いですね」
「竜石は淀みを吸収するだけだからね。
魔力が正常化して一瞬強まるから力を得て
いると誤解してるのかもね。
リョクは思い込みが激しいから。
クロが弱っているのはアニエスに鱗や血を
与え続けたせいだよ。淀みのせいじゃない」
「黒竜はそんなに弱るまで私に魔力を?」
やだ黒竜……大丈夫なの。やっぱり弱って
いるんだ。金竜が私を見て笑う。
「ふふ。心配いらないよ。今はアニエスの
空間収納に入ったお陰で元通りに戻って
いるから大丈夫だよ」
「また、空間収納ですか?本来空間収納は
現状維持で状態保存するだけのはずなのに
何で私の空間収納は竜を癒したり竜殺しの
剣を消したりできるの?」
「君の空間収納は竜石と同じ効果があるね。
君の魔力に溢れた空間。淀みを浄化し
金竜の魔力を高濃度に浴びる。
きっと竜にとってはさぞかし気持ちのいい
空間だろうね。君は外に魔力を出さず内に
溜め込むタイプだね。
一見すると金竜どころか人にしか見えない。
なのに冗談みたいな量の魔力を秘めている。
グレンも意識して魔力を溢れさせなければ
人にしか見えない。君達の心の有り様が
そうさせているんだろう」
確かに白竜は私の中は気持ちがいいと言って
いたわね。成る程。あと聞きたいのは……。
「金竜、私は人から生まれて人として育った
のになぜ竜になったの?
大体竜はなぜ人の姿になるの?」
質問したら頭を撫でられた。
なぜなぜ?と聞きたがる子供をあやすよう。
なんだかなぁ。すっかり祖父にお話を
ねだる孫のような感じになっている。
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金竜は話し始めた。
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