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私怨
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帝国の次の皇帝としてアルフォンス様が
立たれる。
元々大公家の嫡男で皇位継承権を持って
いたアルフォンス様。
この度の反乱でオズワルドの統治に不満の
あった者達の支持を取りつけた。
またアルトリア、キルバン、カナンからの
力添えもあり、これから荒れ果てた国を
立て直していく。
とても厳しい道のりになるだろう。
今の帝国はぼろぼろだ。
帝国の防衛結界はすでにない。
オズワルドが父である前皇帝を殺した時に
消え失せている。
帝国は皇帝の魔力と金竜の鱗を使って
防衛結界を維持していたようだ。
防衛結界はなくなったけれど魔物を操れる
モニカがいたため魔物を操りアルトリアへと
向かわせていた。
この間の魔物の氾濫の時に大分魔物を退治
したのでしばらくは魔物の数もそう増える
事もないだろう。
それになんとアルフォンス様はピイちゃん
を防衛結界の代替として活用するようだ。
「アニエス、本当にあの魔石を使わせて
もらってもいいのか?俺はものすごく
助かるけど、あれ結構な額の財産だよ?」
アルフォンス様が心配そうに私に尋ねる。
「私が持っていても使い道がありません。
アルフォンス様が有効活用して下さい」
ピイちゃん達……この間、魔物の氾濫で沢山魔物を食べて増えに増えまくった。
しかもペペっと魔石を吐き出した。
ものすごい数の魔石。
食べた魔物の核が結晶化されて魔石になった
ようだ。
魔石は魔道具の動力として需要が高い。
帝国を立て直す資金として使ってもらう事に
なった。
アイリスさんはアルフォンス様について
帝国に行く。
皇后様になられる。
頼りになるお姉様が遠い存在になるようで
少し寂しい。
寂しいと言えばお父上である
カルヴァン団長。
あ、元団長か。今はうちのエリック兄さんが
第二騎士団の団長でした。
う~んと、カルヴァン侯爵?
うん。カルヴァン侯爵はあの二人の結婚に
涙を流して喜んだ。
一人娘が帝国に嫁ぐ。寂しくはないのかな?
噂をすればカルヴァン侯爵とオーウェン義父
様が二人廊下を歩いてやって来る。
「あ!」
アルフォンス様がカルヴァン侯爵の姿を
認めて声を上げる。
そのまま、ちょっとちょっとと男三人で
こそこそと小声で話し始めた。
なーに。内緒話ですか。
仕方がないのでちょっと離れた所で待つ。
アルフォンス様とはピイちゃんの事で
話し合い、そのまま一緒に白竜のお見舞い
に行く所だった。
もう、私もこの後、グレン様との待ち
合わせがあるので手短にお願いしますね。
「カルヴァン侯爵……あの、その、
そのですがね?え~と、あの事件の時に
アイリスを医者にきちんと診せました?」
アルフォンス様がしどろもどろで言う。
小声じゃないよ?
聞こえてるけどいいの?
「なんだ今さら。泣いて嫌がったから診せ
てはいないが……まさか何か後遺症が?!」
「いえ、そうではなく。実はまだ彼女は
処女だったんです」
「「は?」」
「どういう事だ?確かに行為をした形跡が
あったと本人も世話をした侍女も言って
いたし、何よりもあのクソ野郎が自慢気に
語っていたぞ」
「本人は意識がないから、本当の事は
分からないでしょう。クソ野郎は
見栄を張っただけです。
あくまでも形跡だけです。
実は上手く入らなかったか、入れる前に
奴が興奮し過ぎて暴発したんじゃない
でしょうか。未遂だったようです。
まあ彼女が傷ついた事には変わりが
ありませんけれど」
「入れる前に暴発って……早漏か?」
「究極の早漏だな!良かったなゴドフリー」
「ああ!そうか!やった。早漏万歳!」
「「早漏万歳!!」」
……なんだかよく分からないけど
おじ様達がとんでもない事を叫んでいる。
端から見たら変な人達です。
大丈夫なのこの人達。
「あれ?……ところでなんで処女だと
分かったんだ?」
「……」
「お前達、婚前交渉か?……グレン様といい
アルフォンスといい。まったくけしからん」
オーウェン義父様が怒る。
「まあアイリスが結婚してくれる気に
なっただけでよしとしよう。
もう俺は何も言わんよ。
二人ともすでにいい大人だ。
しかし皇后か。あの荒れた国の。
大変だろうな……。
お前、ちゃんと幸せにしろよ?」
「勿論です。……ただ苦労はかけてしまうと
思います。すみません」
「いやあれは強い子だ。二人力を合わせて
いけば、何も怖いものはないだろう。
俺にもできる事があったら言え。
何でもしてやる」
カルヴァン侯爵が力強く頷く。
「では早速、お願いが。帝国軍の再編成に
ついてご相談があります。俺は軍の組織に
馴染みがありません。どう、再配置して
いいのやら。少し話を聞いていただけ
ますか義父上?」
「お、おう。じゃあ、これから家に来い。
アイリスが夕食に来る事になっている。
お前も一緒にどうだ?」
アルフォンス様が私をチラリと見る。
ハイハイ。行ってらっしゃい。
私が手を振るとカルヴァン侯爵と仲良く
去って行った。
仕方がない。白竜のお見舞いには
一人で行こう。
「ところでアニエスはどこに行くつもり
かな?なんでお供がグレン様でなく
アルフォンスだったんだい?」
オーウェン義父様が私に尋ねる。
「ああ、グレン様なら陛下に呼ばれて
執務室の方に。私はアルフォンス様と豆花の
事で少し打ち合わせがあったので今日は
別行動です。後で待ち合わせをしています。
今からアルフォンス様と白竜の所に
お見舞いに行こうと思っていたんですけど。
ふふ。一人で行ってきますね」
アルフォンス様とカルヴァン侯爵が仲良く
しているのを見て、なんだかうれしく
なっちゃった。
アイリスさんはきっと幸せになる。
うふふ。
「一人はいけないね?私がお供をしよう。
さあ、お嬢様お手をどうぞ?」
「ふふ。いいのですか?お義父様。
お忙しいのではないですか?」
「義娘を送る暇はいくらでもあるとも。
他の用事など些末な事だ。さあアニエス?」
オーウェン義父様にエスコートされて
白竜のお見舞いに向かう。
「よう、チビすけ。相変わらずアホ面だな」
「そう言う黒竜は相変わらず口が悪いね!」
顔を見せると黒竜がニヤニヤと笑いながら
手を振ってくる。
もう。アホ面とは失礼な。
「どう?白竜は」
「相変わらずだな。でも身動ぎしたり、
寝返りを打つようになって来たんだ。
すごいだろ?ちょっと前までピクリとも
動かなかったのに。眠りが浅くなって
きているんだ」
「ほんと?もうすぐ目が覚めるかな?」
「ああ、きっとな」
黒竜がうれしそうに笑う。
良かった。
黒竜がうれしいそうなので私もうれしい。
ふふ。
そんな時、赤竜が顔を出した。
「クロ、ちょっと。国王の執務室まで
来てくれる?アオが呼んでいる。
北大陸のやつらの件だ」
「んん?ああ面倒臭いなぁ。もうあいつら
の事なんてどうでもいいんだけどな」
「まあそう言うなよ。一応仲間だろ」
「困った時に何もしてくれなかったな?」
「ははは……まあね」
赤竜が困った顔をになる。
こら黒竜。赤竜を困らせてどうする。
「行って来なよ黒竜。赤竜が困ってるよ?」
「はあ~しょうがない。チビすけ、白竜を
見ててくれ。ちょっくら行って来るわ」
かったるそうに黒竜が立ち上がる。
赤竜がほっとした顔になる。
大丈夫かな。
何か大きな問題でも起きた?
ちょっと心配しながら黒竜を見送る。
部屋には私とオーウェン義父様。
それに眠り続ける白竜が残された。
あどけなさの残る可愛い顔。
何百年も生きている竜とは思えない容姿。
あ、目蓋がピクピク動いている。
「う、ううん……」
声を出しながら身動ぎする白竜。
本当だ。眠りが浅い。
これはきっともうすぐ目覚めるわ。
パチリと白竜の目が開いた。
「あれ?御馳走だ……美味しそう」
私を見るとニッコリ笑ってまた、くーくーと
眠りに落ちた。何?今の。
「え?今、一瞬目が覚めましたよね?」
「覚めたねぇ。一瞬だけだけど」
うわっ!黒竜に教えてあげたい!
そわそわしていたらオーウェン義父様が
ニッコリ笑う。
「行って来たら?黒竜を呼びに行きたいん
でしょ?アニエスは本当に分かりやすいな」
「えへへ。すみません。ちょっと行って
来ますね?すぐ戻ります」
早く黒竜に教えてあげなきゃ。
私は白竜をオーウェン義父様にお願い
するといそいそと部屋を出た。
陛下の執務室へと急ぎ、
バタバタと廊下を走る。
すると途中でグレン様とばったり出会う。
「グレン様!白竜が一瞬だけど目覚め
ましたよ。黒竜に伝えたいんですけど
……グレン様?」
グレン様の表情は固い。
え?何。なんなの?何があったの?
グレン様が無言で走り出す。
え?何?
慌ててグレン様を追いかける。
グレン様は白竜の部屋まで来るとドアを
蹴破る。
パリンっと結界の割れる音。
え?何で結界が張られているの!
白竜の部屋に飛び込むグレン様に続き
私も部屋に入る。
うそでしょう?
目に映る光景に頭が追いつかない。
オーウェン義父様が白竜に剣を振り
下ろしている。
カキンと弾かれる剣。
「襲われると発動する防衛結界か。
張ったのはグレン様、あなたか」
うっすら笑みを浮かべる
オーウェン義父様。
「オーウェン。この阿呆が」
「はは、阿呆で結構。この結界、解いては
くれないでしょうね」
「当たり前だ」
「では力づくで解かせるか」
ゆっくりグレン様に近寄る
オーウェン義父様。
何で?何でこんな事。
「……私怨か。耄碌したなジジイ」
「うるさいぞ。小僧。どうしてもこいつは
殺したい。邪魔をするな」
──私怨。ああ、そうか。
生贄として白竜に食べられた
エルドバルド公の仇。
私はなんて迂闊だったのだろう。
隙を見せてオーウェン義父様にこんな事を。
思わずグレン様を見る。
グレン様が無言で頷く。
お願いグレン様。
オーウェン義父様を止めて。
私は成り行きを見守る事しかできなかった。
立たれる。
元々大公家の嫡男で皇位継承権を持って
いたアルフォンス様。
この度の反乱でオズワルドの統治に不満の
あった者達の支持を取りつけた。
またアルトリア、キルバン、カナンからの
力添えもあり、これから荒れ果てた国を
立て直していく。
とても厳しい道のりになるだろう。
今の帝国はぼろぼろだ。
帝国の防衛結界はすでにない。
オズワルドが父である前皇帝を殺した時に
消え失せている。
帝国は皇帝の魔力と金竜の鱗を使って
防衛結界を維持していたようだ。
防衛結界はなくなったけれど魔物を操れる
モニカがいたため魔物を操りアルトリアへと
向かわせていた。
この間の魔物の氾濫の時に大分魔物を退治
したのでしばらくは魔物の数もそう増える
事もないだろう。
それになんとアルフォンス様はピイちゃん
を防衛結界の代替として活用するようだ。
「アニエス、本当にあの魔石を使わせて
もらってもいいのか?俺はものすごく
助かるけど、あれ結構な額の財産だよ?」
アルフォンス様が心配そうに私に尋ねる。
「私が持っていても使い道がありません。
アルフォンス様が有効活用して下さい」
ピイちゃん達……この間、魔物の氾濫で沢山魔物を食べて増えに増えまくった。
しかもペペっと魔石を吐き出した。
ものすごい数の魔石。
食べた魔物の核が結晶化されて魔石になった
ようだ。
魔石は魔道具の動力として需要が高い。
帝国を立て直す資金として使ってもらう事に
なった。
アイリスさんはアルフォンス様について
帝国に行く。
皇后様になられる。
頼りになるお姉様が遠い存在になるようで
少し寂しい。
寂しいと言えばお父上である
カルヴァン団長。
あ、元団長か。今はうちのエリック兄さんが
第二騎士団の団長でした。
う~んと、カルヴァン侯爵?
うん。カルヴァン侯爵はあの二人の結婚に
涙を流して喜んだ。
一人娘が帝国に嫁ぐ。寂しくはないのかな?
噂をすればカルヴァン侯爵とオーウェン義父
様が二人廊下を歩いてやって来る。
「あ!」
アルフォンス様がカルヴァン侯爵の姿を
認めて声を上げる。
そのまま、ちょっとちょっとと男三人で
こそこそと小声で話し始めた。
なーに。内緒話ですか。
仕方がないのでちょっと離れた所で待つ。
アルフォンス様とはピイちゃんの事で
話し合い、そのまま一緒に白竜のお見舞い
に行く所だった。
もう、私もこの後、グレン様との待ち
合わせがあるので手短にお願いしますね。
「カルヴァン侯爵……あの、その、
そのですがね?え~と、あの事件の時に
アイリスを医者にきちんと診せました?」
アルフォンス様がしどろもどろで言う。
小声じゃないよ?
聞こえてるけどいいの?
「なんだ今さら。泣いて嫌がったから診せ
てはいないが……まさか何か後遺症が?!」
「いえ、そうではなく。実はまだ彼女は
処女だったんです」
「「は?」」
「どういう事だ?確かに行為をした形跡が
あったと本人も世話をした侍女も言って
いたし、何よりもあのクソ野郎が自慢気に
語っていたぞ」
「本人は意識がないから、本当の事は
分からないでしょう。クソ野郎は
見栄を張っただけです。
あくまでも形跡だけです。
実は上手く入らなかったか、入れる前に
奴が興奮し過ぎて暴発したんじゃない
でしょうか。未遂だったようです。
まあ彼女が傷ついた事には変わりが
ありませんけれど」
「入れる前に暴発って……早漏か?」
「究極の早漏だな!良かったなゴドフリー」
「ああ!そうか!やった。早漏万歳!」
「「早漏万歳!!」」
……なんだかよく分からないけど
おじ様達がとんでもない事を叫んでいる。
端から見たら変な人達です。
大丈夫なのこの人達。
「あれ?……ところでなんで処女だと
分かったんだ?」
「……」
「お前達、婚前交渉か?……グレン様といい
アルフォンスといい。まったくけしからん」
オーウェン義父様が怒る。
「まあアイリスが結婚してくれる気に
なっただけでよしとしよう。
もう俺は何も言わんよ。
二人ともすでにいい大人だ。
しかし皇后か。あの荒れた国の。
大変だろうな……。
お前、ちゃんと幸せにしろよ?」
「勿論です。……ただ苦労はかけてしまうと
思います。すみません」
「いやあれは強い子だ。二人力を合わせて
いけば、何も怖いものはないだろう。
俺にもできる事があったら言え。
何でもしてやる」
カルヴァン侯爵が力強く頷く。
「では早速、お願いが。帝国軍の再編成に
ついてご相談があります。俺は軍の組織に
馴染みがありません。どう、再配置して
いいのやら。少し話を聞いていただけ
ますか義父上?」
「お、おう。じゃあ、これから家に来い。
アイリスが夕食に来る事になっている。
お前も一緒にどうだ?」
アルフォンス様が私をチラリと見る。
ハイハイ。行ってらっしゃい。
私が手を振るとカルヴァン侯爵と仲良く
去って行った。
仕方がない。白竜のお見舞いには
一人で行こう。
「ところでアニエスはどこに行くつもり
かな?なんでお供がグレン様でなく
アルフォンスだったんだい?」
オーウェン義父様が私に尋ねる。
「ああ、グレン様なら陛下に呼ばれて
執務室の方に。私はアルフォンス様と豆花の
事で少し打ち合わせがあったので今日は
別行動です。後で待ち合わせをしています。
今からアルフォンス様と白竜の所に
お見舞いに行こうと思っていたんですけど。
ふふ。一人で行ってきますね」
アルフォンス様とカルヴァン侯爵が仲良く
しているのを見て、なんだかうれしく
なっちゃった。
アイリスさんはきっと幸せになる。
うふふ。
「一人はいけないね?私がお供をしよう。
さあ、お嬢様お手をどうぞ?」
「ふふ。いいのですか?お義父様。
お忙しいのではないですか?」
「義娘を送る暇はいくらでもあるとも。
他の用事など些末な事だ。さあアニエス?」
オーウェン義父様にエスコートされて
白竜のお見舞いに向かう。
「よう、チビすけ。相変わらずアホ面だな」
「そう言う黒竜は相変わらず口が悪いね!」
顔を見せると黒竜がニヤニヤと笑いながら
手を振ってくる。
もう。アホ面とは失礼な。
「どう?白竜は」
「相変わらずだな。でも身動ぎしたり、
寝返りを打つようになって来たんだ。
すごいだろ?ちょっと前までピクリとも
動かなかったのに。眠りが浅くなって
きているんだ」
「ほんと?もうすぐ目が覚めるかな?」
「ああ、きっとな」
黒竜がうれしそうに笑う。
良かった。
黒竜がうれしいそうなので私もうれしい。
ふふ。
そんな時、赤竜が顔を出した。
「クロ、ちょっと。国王の執務室まで
来てくれる?アオが呼んでいる。
北大陸のやつらの件だ」
「んん?ああ面倒臭いなぁ。もうあいつら
の事なんてどうでもいいんだけどな」
「まあそう言うなよ。一応仲間だろ」
「困った時に何もしてくれなかったな?」
「ははは……まあね」
赤竜が困った顔をになる。
こら黒竜。赤竜を困らせてどうする。
「行って来なよ黒竜。赤竜が困ってるよ?」
「はあ~しょうがない。チビすけ、白竜を
見ててくれ。ちょっくら行って来るわ」
かったるそうに黒竜が立ち上がる。
赤竜がほっとした顔になる。
大丈夫かな。
何か大きな問題でも起きた?
ちょっと心配しながら黒竜を見送る。
部屋には私とオーウェン義父様。
それに眠り続ける白竜が残された。
あどけなさの残る可愛い顔。
何百年も生きている竜とは思えない容姿。
あ、目蓋がピクピク動いている。
「う、ううん……」
声を出しながら身動ぎする白竜。
本当だ。眠りが浅い。
これはきっともうすぐ目覚めるわ。
パチリと白竜の目が開いた。
「あれ?御馳走だ……美味しそう」
私を見るとニッコリ笑ってまた、くーくーと
眠りに落ちた。何?今の。
「え?今、一瞬目が覚めましたよね?」
「覚めたねぇ。一瞬だけだけど」
うわっ!黒竜に教えてあげたい!
そわそわしていたらオーウェン義父様が
ニッコリ笑う。
「行って来たら?黒竜を呼びに行きたいん
でしょ?アニエスは本当に分かりやすいな」
「えへへ。すみません。ちょっと行って
来ますね?すぐ戻ります」
早く黒竜に教えてあげなきゃ。
私は白竜をオーウェン義父様にお願い
するといそいそと部屋を出た。
陛下の執務室へと急ぎ、
バタバタと廊下を走る。
すると途中でグレン様とばったり出会う。
「グレン様!白竜が一瞬だけど目覚め
ましたよ。黒竜に伝えたいんですけど
……グレン様?」
グレン様の表情は固い。
え?何。なんなの?何があったの?
グレン様が無言で走り出す。
え?何?
慌ててグレン様を追いかける。
グレン様は白竜の部屋まで来るとドアを
蹴破る。
パリンっと結界の割れる音。
え?何で結界が張られているの!
白竜の部屋に飛び込むグレン様に続き
私も部屋に入る。
うそでしょう?
目に映る光景に頭が追いつかない。
オーウェン義父様が白竜に剣を振り
下ろしている。
カキンと弾かれる剣。
「襲われると発動する防衛結界か。
張ったのはグレン様、あなたか」
うっすら笑みを浮かべる
オーウェン義父様。
「オーウェン。この阿呆が」
「はは、阿呆で結構。この結界、解いては
くれないでしょうね」
「当たり前だ」
「では力づくで解かせるか」
ゆっくりグレン様に近寄る
オーウェン義父様。
何で?何でこんな事。
「……私怨か。耄碌したなジジイ」
「うるさいぞ。小僧。どうしてもこいつは
殺したい。邪魔をするな」
──私怨。ああ、そうか。
生贄として白竜に食べられた
エルドバルド公の仇。
私はなんて迂闊だったのだろう。
隙を見せてオーウェン義父様にこんな事を。
思わずグレン様を見る。
グレン様が無言で頷く。
お願いグレン様。
オーウェン義父様を止めて。
私は成り行きを見守る事しかできなかった。
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