王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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断罪 1

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「帝国でモニカが捕まった?え~あの子
生きてたんですか?てっきりオズワルドに
殺されているかと思っていました」

「アニエス……なんて事を言うんだ」

お館様が眉を下げて情けない顔をする。
まあ元婚約者としては複雑ですよね。
私は幼馴染みですけれど何とも思って
いないです。すでに帝国で心の中で別れを
告げたもの。

帝国でモニカが捕まったらしい。
こちらに護送されてくる。

今度は一体何をやらかしたのかと思えば
今回の魔物の氾濫スタンピードは実はモニカの
仕業だった。
オズワルドから事前に指示された通り
黒い森の瘴気の沼に保管されていた
金竜の血を投げ込んだ。

金竜の血の魔力で活性化した沼から
ぞろぞろと魔物が現れ魔物の氾濫スタンピードが発生。
金竜は死んでも血液一滴、鱗一枚でも
残っていれば利用されてしまうのね。
可哀想に。

光の粒子となって消えた金竜を思い出す。
ご先祖様。
今度こそ安らかに眠って下さい。
心の中で祈った。



モニカが砦に到着した。
皆のモニカを見る目は冷たい。
モニカのせいで死んだ者が結構いるし、
なによりも氾濫で街は壊滅状態。
農地も荒れ果てしばらくは作物の収穫は
見込めない。

モニカの罪は重い。

皆、お館様の婚約者としてモニカを
慕っていた分、反動で憎しみが強い。

「アニエス!あんたさえいなければ
私はアイザック様と幸せになれたのに!」

「はい?」

砦の牢獄に面会に行ったらなじられた。
意味が分からない。
何で私のせい?

「アイザック様はあんたの事が好きなのよ!
本当は私とじゃなくて、あんたと婚約した
かったの。いつもいつもあんたは邪魔なの」

「「………?」」

思わずお館様と目を合わせる。
一体何でそんな勘違いを?
私にとってお館様は気のいい近所の
お兄さんだ。確かに仲はいいけれど……
ひえっ冷たい!!
足元が凍っている。
グレン様が冷たい視線を私とお館様に
向けている。魔力駄々漏れ。
いやいや、誤解です!冤罪ですって!
ぷるぷると私もお館様も首を振る。


「アニエスとアイザック?ないない~」

エリック兄さんが笑う。
だよね~。

「だっていつもいつも、二人で楽しそうに
私を除け者にしてよく話し込んで
いたじゃない。
私が来ると途端に話題をわざとらしく
変えたりして!あれが辛くて辛くて。
それにアニエスが婚約した後は
あんなにがっかりして!
せっかくアニエスが侯爵令息に一目惚れ
したって嘘までついて遠ざけたのに!」

「「はい?」」

私とエリック兄さんが固まる。

「え?アニエスがロベルトに一目惚れって
あれ嘘だったの?」

エリック兄さんが混乱している。
うん。一目惚れではないかな。
王都で優しくされるうちに好きになった
けれど一目惚れではないな。
だから婚約するのに養子に行くのが
嫌だったんだもん。

「ええ~~!!一目惚れなら仕方がないと
モニカの話でアニエスの婚約を父上は
許したのに……嘘?」

「まあまあ。今さらだよ。エリック兄さん。
それより私はお館様の事は頼れるお兄さん
ぐらいの気持ちしかなかったわよ?」

「俺だって危なっかしいお転婆な妹ぐらい
の気持ちしかなかったぞ?
王命で婚約解消になるまで俺はモニカ一筋
だった。何でそんな勘違いを……。
プリシラと婚姻した後もモニカへの思いが
断ち切れなくてプリシラにひどい事を言って
しまったぐらいだ。
大体俺とアニエスの話題って珍しい薬草の
生える場所を教えあったり、
毒ガエルの安全な毒腺の取り除き方だの
大星グモの捌き方だのどこの川の大鯰が
旨いだの……結構グロい話しがほとんどだ。
モニカは女の子だから嫌がると思って
気を使っただけなんだけど。
それがまさかそんな勘違いをさせていた
なんて……ごめん」

「はあ?何よそれ!」

モニカが愕然としている。

う~ん。まさかの勘違い。
それは勘違いさせたこちらが悪い?
私も空気の読めない女だから。
でもあれ、私は十二になるかならないかの
子供だったし……私のせいでモニカが
悪の道に走った?私が悪い?

──いやないな。婚約中からオズワルドと
不義の仲になるのはモニカが悪いでしょう。

「どのみち今の俺にはプリシラがいる。
モニカ、誤解させて……不安な気持ちに
させてすまなかった。
幸せにできなくてごめんな。
もう二度と会う事はない。
王都できちんと罪を償ってくれ」

お館様の言葉にポロポロと涙を流すモニカ。
二度とモニカは故郷である北辺境には
帰って来れない。
これが最後の帰郷となる。

地下の牢獄から地上へと上がって来た。
お館様はやっと意識が戻って療養中の
プリシラ様の所へと向かう。

私とグレン様は何となく物見台に来て
外の景色を眺めている。
あ~ずいぶん荒れちゃったなぁ。
魔物に荒らされた土地が眼下に広がる。
これからが大変だな。
風に吹かれ乱れた髪を直しながらグレン様
を見るとまだ不機嫌そうにしている。
ふふ。やだなもう。笑ってしまう。

「グレン様。私はお館様の事は兄として
しか思ってませんからね?本当ですよ。
もう足元を凍らせないで下さいね?」

グレン様の腕に抱きつきながら言う。
すると頬をビニョンと掴み伸ばされる。
痛いって!

「誤解だなんだと言ってもああいう話題が
出る事事態が不愉快だ」

あれ?まだご機嫌斜めだ。
どうしよう?

「う、う~ん。グレン様、私に何かして
欲しい事とかありません?今ならなんでも
一つ私のできる事ならして差し上げます!」

えっへん!これでどうだ。機嫌治して?

「……何でも?ふうん。そうか」

あれ?何だか深刻な顔になったぞ。
思っていた反応と違う。
私に向き直るとグレン様が口を開いた。

「アニエス、実は叶えて欲しいお願いが
あるのだが。結婚したら三ヶ月ほど
俺と巣籠もりしないか?」

「巣籠もり?」

「竜は婚姻すると三ヶ月。巣籠もりして
蜜月を過ごすらしい。聞いた時に密かに
いいなと憧れた。
二人きりで巣籠もり。どうだ?」

……え?いいんじゃない?
そんな事でいいの?憧れるって……
グレン様ったら面白いなぁ。

「え~と。グレン様のお仕事のご都合さえ
良ければ私はぜんぜん構いません。
むしろ三ヶ月も蜜月なんて楽しそう」

「そうか!ありがとう。……楽しみだな」

ちょっとグレン様の笑みが邪悪な気が
するのは気のせいかしら。
でもとても喜んでくれたし、ご機嫌も
治ったからまあいいか。


そのままグレン様に引き寄せられて
口付けられる。

この時、その蜜月がとてもハードな
エロ月になる事を私はまだ知らない。



翌日、モニカは王都へと護送されて行った。
見送る人は誰もいなかった。














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