王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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閑話 アニエスの置き土産

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夜の白亜宮の廊下を歩く侍女達。
ピイピイ、ペタペタ、ピイピイ。
何かが歩く音と鳴き声のようなものが
聞こえる。
振り返って見ても何もいない。
帝国、白亜宮で噂される怪奇現象。

夜の白亜宮に出る幽霊の噂。
侍女達が噂に興じる。


「夕べ幽霊が出たらしいわよ。
廊下を歩いていると後ろからペタペタと
足音がついて来るんですって。
振り返っても誰もいない。怖いわ」

「やめて!私駄目なのよ。そういうの」

「この間、殺された侍女の部屋の前に一輪の
花が供えてあったらしいの。
ピンクの可愛い花。誰が供えてくれたん
だろうと思って花を手に取ったら、
花に口があったんだって!ギザギザの鋸歯の
生えた口がギチギチと歯を鳴らしてたって!
悲鳴を上げて投げ捨てたら、
消えちゃったらしいの。
きっとこの間、死んだ娘の祟りよ!」

「皇帝陛下に殺された人、沢山いるもの。
きっと殺された人達の祟りよ」

「ば、馬鹿!そんな事言ったらあんたが
殺されるわよ!さ、仕事、仕事!
きっと、みんな疲れているのよ。
幽霊とか祟りなんて、気のせい。気のせい」

侍女達は廊下を歩く。
ペタペタ、ペタペタ。ペタペタ。

「「「……」」」

「ねえ、何か聞こえた?」

「ペタペタ足音が……」

「き、気のせいよ。気のせい!」

ペタペタ、ペタペタ。ペタペタ!!

「ひっ!すぐ後ろで聞こえた~!」

「いや、いや怖い!」

「気のせいだってば!ほら、みんなで一斉に
振り返ってみよう?なんにもいないわよ。
ほら、せーの!」

侍女達は振り返る。
……誰もいない。なんにもいない。

「ほら、何もなかった」

「え?ちょっと待って。あんたの足元に
ピンクの花が落ちてる……嘘でしょ」

「やだ、やだ!怖い!」

「もう、大げさな。ただの花でしょ。
ほら、何でもない…………え?口がある?」

足元に落ちていた花を拾った侍女が固まる。

「ギチギチ、ギチギチ。シャー!!」

鋸歯を鳴らすピンクの花。
恐怖に思わず花を落とす侍女。

「いや~!!お化け~!!」

「キャー!!」

「待って!置いて行かないで!!」

走って逃げる侍女達。

「ピイピイ、ギチギチ、ピイピイ」

魔物の気配を求めて歩くアニエスの豆花。
たった一匹で帝国に取り残され
忘れられた手乗りピイちゃん。

こうして白亜宮の侍女達を怖がらせた。
さらに夜の白亜宮を徘徊する。
魔物の気配を求めて……。

翌朝、アルトリアに送るはずの魔物を
閉じ込めた檻の中、消えた魔物の代わりに
檻いっぱいにピンクの小さな花がぎっしり
詰め込まれていた。

辺りは血の海。魔物の生臭い血の臭いが
強く立ち込めていた。
檻の中の魔物を食い尽くした小さな花達は
ピイピイと大合唱している。
うねうね、にょろにょろ、
ギチギチ、ピイピイ。

発見した兵士が腰を抜かしたのは
また、別の話。

















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