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グレン、『穴』に落ちる
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捕虜の尋問中。指輪が反応した。
アニエスが『穴』に落ちた。
一体なぜ?
どこに飛ばされた?
指輪の位置情報は、帝国の首都。
……拉致。
すぐに事態を悟った。
「アルフォンス、指輪が反応した。
アニエスが『穴』で帝国に飛ばされた」
「は?どこで落ちたの。帝国って、拉致か!
……あ、火事だ。アニエスの奴、町に行きた
がっていたから。それを狙われたな」
「火事があったのは聞いたが、鎮火した
はずだろう」
「だからでしょ。被害の確認に行ったんだ。
さすがに火災中に外には出さないでしょう。
悪い。俺がもっと注意しとけば良かった」
「いや、俺も火事の報告は受けていた。
警戒を怠った俺の責だ。
アルフォンス、計画を前倒しにする。
頼めるか?」
「了解。アニエスは利用価値が高い。
きっと無事だよ。グレン手から血が……」
アルフォンスに言われて気付く。
握りしめた手に爪が食い込んでいた。
アルフォンスは俺に治癒魔法をかけると
帝国へと向かった。
「申し訳ありません。町の火災の騒ぎ
に乗じて、アニエスが拉致されました。
犯人はモニカ・グラガンです。
『穴』を使われました。
どこに転移されたか不明です」
真っ青な顔で報告するマックス。
町で火災があったのは聞いていた。
だが被害にあった住宅にアシェンティ子爵
邸が含まれていた事は報告を受けていない。
アニエスが砦の外に出た事もだ。
捕虜の尋問中の俺に遠慮した訳だ。
気遣いなのは分かっている。
だが、どうしても怒りが湧き上がってくる。
なぜ、報告しなかった?
アニエスのあの性格だ。
町に行くと駄々を捏ねて、あいつに甘い
二人が押しきられたに違いない。
父熊とマックスが一緒にいて拉致された。
十分警戒はしていたはず、
アシェンティの父熊は怒りのあまり血管が
切れそうな真っ赤な顔で俺に頭を下げる。
反対に、マックスは蒼白な顔で俺に頭
を下げる。
自分達が側にいたのに、敵に隙をつかれて
大切な者を拉致された。
父熊にとっては大事な娘。
マックスにとっては……。
自分の不甲斐なさに死にそうな二人を前に
俺から言う事は何もない。
「指輪の位置検索では、すでに帝国だ」
アニエスの指輪は、防御魔法の石は割れた
ままだが、位置情報の検索機能はまだ
生きている。
アニエスは、帝国の首都にいる。
「如何様な処分もお受けします」
お前らを処分してアニエスが戻って来るか?
下らない事を言っていないで、とっと動け。
「マックス、マリオンが帝国に潜入中だな?
帝国に何か動きがないか繋ぎをとれ」
「すぐに!」
ハッとした顔でマックスが立ち上がる。
よし、それでいい。
後は熊だな。
「アシェンティ。お前は休め。
血管が切れそうだ。アニエスが戻って来た
時にお前が卒中で倒れていたら悲しむ」
「こんな時に休んでなど!」
「阿呆。こんな時だからこそ休め。
万全の体制で次の敵襲を迎え討て。
お前に出来るのはそれだけだ。
次の敵襲、一人も生かして帰すなよ?」
「は!」
未だ血管が切れそうな熊。
だが怒りの鉾先は自分から敵に向いたはず。
今はまだ、それでいい。
全てを投げ捨てて、帝国にアニエスを助けに
行きたい。
国軍総大将、自分勝手に動けない立場が
恨めしい。
生きてはいる。
それは何故だか分かる。
だが生きてさえいれば、それでいいとは
思えない。
アニエスは女だ。
どんな扱いをされるか分からない。
嫌な考えを振り払う。俺がここで悶々と
していても何もいい事はない。
今、出来る事に最善を尽くす。
それだけだ。
今回のアニエスの拉致に『穴』が使われた。
アルトリアの北辺境から黒い森を飛び越し
帝国の首都まで繋がる『穴』
アルトリアの王都に出来た『穴』の件もある。
『穴』の専門家に一度話を聞いておいた方が
いいかもしれない。
モニカ・グラガン。
辺境伯アイザックの元婚約者。
アイザックはこの件で責任を感じていて
うざい。
プリシラも自分がモニカの拘束に失敗した
からと落ち込んでいる。
うざい。
悪いのはモニカと帝国だ。
そんなに俺に責めて欲しいのか。
お前らマゾか。
叱って欲しい人達の群れにうんざりする。
「アイザック、しばらく俺は連絡の取れない
場所にいる。長い不在ではないが、
何かあったらお前が対処しろ」
「分かりました。それでどちらに?」
「馬屋だ」
「は?」
間抜け面のアイザックに後を頼み
馬屋へと向かう。
「ヒン、ヒン、ヒヒヒン」
馬屋に繋がれた愛馬のコルトが撫でろと
主張する。
はい、はい。分かった。
ポンポンと首を軽く叩く。
忙しいからまたな。
「ヒヒヒン。ヒヒン!」
もっと撫でろと鳴くコルトをシカトし
『穴』へと、向かう。
黒竜は俺にも、馬屋の『穴』の通行権を
付けたと言っていた。
『穴』の事は竜に聞いた方が早い。
黒竜に話を聞こう。
俺は馬屋の『穴』の前に立つと迷う事なく
飛び込んだ。
アニエスが『穴』に落ちた。
一体なぜ?
どこに飛ばされた?
指輪の位置情報は、帝国の首都。
……拉致。
すぐに事態を悟った。
「アルフォンス、指輪が反応した。
アニエスが『穴』で帝国に飛ばされた」
「は?どこで落ちたの。帝国って、拉致か!
……あ、火事だ。アニエスの奴、町に行きた
がっていたから。それを狙われたな」
「火事があったのは聞いたが、鎮火した
はずだろう」
「だからでしょ。被害の確認に行ったんだ。
さすがに火災中に外には出さないでしょう。
悪い。俺がもっと注意しとけば良かった」
「いや、俺も火事の報告は受けていた。
警戒を怠った俺の責だ。
アルフォンス、計画を前倒しにする。
頼めるか?」
「了解。アニエスは利用価値が高い。
きっと無事だよ。グレン手から血が……」
アルフォンスに言われて気付く。
握りしめた手に爪が食い込んでいた。
アルフォンスは俺に治癒魔法をかけると
帝国へと向かった。
「申し訳ありません。町の火災の騒ぎ
に乗じて、アニエスが拉致されました。
犯人はモニカ・グラガンです。
『穴』を使われました。
どこに転移されたか不明です」
真っ青な顔で報告するマックス。
町で火災があったのは聞いていた。
だが被害にあった住宅にアシェンティ子爵
邸が含まれていた事は報告を受けていない。
アニエスが砦の外に出た事もだ。
捕虜の尋問中の俺に遠慮した訳だ。
気遣いなのは分かっている。
だが、どうしても怒りが湧き上がってくる。
なぜ、報告しなかった?
アニエスのあの性格だ。
町に行くと駄々を捏ねて、あいつに甘い
二人が押しきられたに違いない。
父熊とマックスが一緒にいて拉致された。
十分警戒はしていたはず、
アシェンティの父熊は怒りのあまり血管が
切れそうな真っ赤な顔で俺に頭を下げる。
反対に、マックスは蒼白な顔で俺に頭
を下げる。
自分達が側にいたのに、敵に隙をつかれて
大切な者を拉致された。
父熊にとっては大事な娘。
マックスにとっては……。
自分の不甲斐なさに死にそうな二人を前に
俺から言う事は何もない。
「指輪の位置検索では、すでに帝国だ」
アニエスの指輪は、防御魔法の石は割れた
ままだが、位置情報の検索機能はまだ
生きている。
アニエスは、帝国の首都にいる。
「如何様な処分もお受けします」
お前らを処分してアニエスが戻って来るか?
下らない事を言っていないで、とっと動け。
「マックス、マリオンが帝国に潜入中だな?
帝国に何か動きがないか繋ぎをとれ」
「すぐに!」
ハッとした顔でマックスが立ち上がる。
よし、それでいい。
後は熊だな。
「アシェンティ。お前は休め。
血管が切れそうだ。アニエスが戻って来た
時にお前が卒中で倒れていたら悲しむ」
「こんな時に休んでなど!」
「阿呆。こんな時だからこそ休め。
万全の体制で次の敵襲を迎え討て。
お前に出来るのはそれだけだ。
次の敵襲、一人も生かして帰すなよ?」
「は!」
未だ血管が切れそうな熊。
だが怒りの鉾先は自分から敵に向いたはず。
今はまだ、それでいい。
全てを投げ捨てて、帝国にアニエスを助けに
行きたい。
国軍総大将、自分勝手に動けない立場が
恨めしい。
生きてはいる。
それは何故だか分かる。
だが生きてさえいれば、それでいいとは
思えない。
アニエスは女だ。
どんな扱いをされるか分からない。
嫌な考えを振り払う。俺がここで悶々と
していても何もいい事はない。
今、出来る事に最善を尽くす。
それだけだ。
今回のアニエスの拉致に『穴』が使われた。
アルトリアの北辺境から黒い森を飛び越し
帝国の首都まで繋がる『穴』
アルトリアの王都に出来た『穴』の件もある。
『穴』の専門家に一度話を聞いておいた方が
いいかもしれない。
モニカ・グラガン。
辺境伯アイザックの元婚約者。
アイザックはこの件で責任を感じていて
うざい。
プリシラも自分がモニカの拘束に失敗した
からと落ち込んでいる。
うざい。
悪いのはモニカと帝国だ。
そんなに俺に責めて欲しいのか。
お前らマゾか。
叱って欲しい人達の群れにうんざりする。
「アイザック、しばらく俺は連絡の取れない
場所にいる。長い不在ではないが、
何かあったらお前が対処しろ」
「分かりました。それでどちらに?」
「馬屋だ」
「は?」
間抜け面のアイザックに後を頼み
馬屋へと向かう。
「ヒン、ヒン、ヒヒヒン」
馬屋に繋がれた愛馬のコルトが撫でろと
主張する。
はい、はい。分かった。
ポンポンと首を軽く叩く。
忙しいからまたな。
「ヒヒヒン。ヒヒン!」
もっと撫でろと鳴くコルトをシカトし
『穴』へと、向かう。
黒竜は俺にも、馬屋の『穴』の通行権を
付けたと言っていた。
『穴』の事は竜に聞いた方が早い。
黒竜に話を聞こう。
俺は馬屋の『穴』の前に立つと迷う事なく
飛び込んだ。
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