6 / 135
アニエス、第一騎士団に行く
しおりを挟む「今日は第一騎士団に行く日よね」
先輩侍女のアイリスさんが
声をかけてくれる。
そう、今日は腕輪を外して初めて
の武術訓練です。
人手のない第二王女宮の侍女は、定期的に
武術訓練を受けることになっているのだ。
最初に聞いた時は驚いたけれど姫様の側に
護衛騎士が一人もいないという異常な環境
なので結局、私達が担うしかないのだろう。
しかも、私達は三人共に元々戦えた。
アイリスさんは、第二騎士団長様のお嬢様で
子供の頃からお父上に手ほどきを受けており
魔力も多くかなりの手練れです。
涼やかなお顔で情け容赦なく相手役の騎士達
を叩き潰してくれます。
「私とアニエスは、子供の頃の夢が騎士に
なることだったのよね?」
そう、私もアイリスさんも夢は、
目指せ騎士様でした。まあ、大人になった
らお互い侍女ですが。
アルマさんは魔力こそあまりないが武器の
扱いに長けている。とんでもない所から
武器が出てきて驚かされる。
そう言えば、なんでアルマさんは武器を
使えるんだろうか。うん。わからない。
今度聞いてみよう。
そして私は辺境育ち。
魔物相手に戦ってきました。
うん、私だけ相手が人じゃないです。
でも、養子になっていた五年間に何もして
いなかったのですっかり弱っていて……。
この二年、グレン様達に鍛えられた。
今日もグレン様にしごかれるのか。
胃が痛い。あの金色の瞳を思いだして
ブルブル身震いする。
「せっかく腕輪が外れたんだから
思い切り暴れてきなさいな。
自由に動けるの久しぶりなんでしょ?
やっちゃえ!アニエス」
アイリスさんは、くしゃくしゃと私の頭を
撫でる。ああ、腕輪外れたんだよね。
前と同じに動けるかな?
ちょっと楽しみになってきた。
まあ、相手がグレン様なのが
嫌なんですけど。
あの人は本当に怖いんです。
なのにいつも絡まれる。
あれだけ避けてるのに……。
どうも気に入られているようなのだ。
あの人の距離感はおかしい。
余計に怖い。
アイリスさんに見送られ、第一騎士団の
訓練場までやって来るとすでに大勢集ま
っている。
第一騎士団の他にも第二、第三騎士団の
騎士達がいる。見物人多すぎでしょう。
「アニエス、久しぶり」
声をかけてくれたのはオ―ウェン様です。
私を王宮に連れて来てくれた方ですが、
今はなんと私の義父です。
私が姫様付きの侍女になって、すぐに
前の養家や元婚約者の家から戻って来いと
色々絡まれまして。
オ―ウェン様が面倒臭いと養子縁組して
完全に縁を切って下さいました。
「腕輪、外れたんだね。良かったねぇ」
オ―ウェン様は人の良さそうなお顔をさらに
ニコニコさせて私の頭を撫でる。
「今日はグレン様と魔力ありの試合だって?
王太子殿下、ア―サ―殿下、第二、第三騎士
団長の二人に魔術師団長。うん。
見物人が豪華だ。」
「……は?」
「まあ、怪我はしない程度に頑張りなさい」
「えっ?ただの武術訓練じゃないんですか」
「違うらしいねぇ。アルフォンスが周りに
被害がでないように結界を張ると言って
いたから。まあ、思いきりやっていいんじゃ
ない?」
いや、いや、いや聞いてませんけど?
「アニエス」
後ろから声をかけられる。
振り向くと端正なお顔のア―サ―殿下が手を
振っている。
もう、本当に美形だわ。
姫様に良く似たお顔。
もう、それだけで親近感爆上がりです。
それにしても同じ金の瞳でも印象が全然
違うなぁ。
凛としていて、それでいて温かい穏やか
な瞳の姫様。
どこまでも澄んだ真っ直ぐな気性を感じさ
せる瞳のア―サ―殿下。
肉食獣系のギラギラした瞳のグレン様。
あ~うん。思い出しただけで悪寒が……。
「調子はどう?腕輪が外れた後、体調を崩し
たと聞いたけど」
「はい。もうなんともないです。今は体が
凄く軽いです」
「それは良かった。グレンも心配してたよ?
今日は思い切り蹴り飛ばして、安心させて
あげてね」
「はい?」
いや、いや、いや。何で安心させるのに蹴り
飛ばすんですか?
「できれば私が蹴り飛ばしたいけど、無理
だからアニエスに託すね」
「はぁ、まあ……頑張ります」
なんだかよくわからない応援をいただき
ました。
「私がグレンと戦ってもまだまだ足元にも
およばないからさ。今後の参考に今日は
勉強させてもらうよ」
はい?やめて下さい。妙な期待と圧力を
かけるのは。私だって無理ですよ。
だってグレン様ですよ。
あの人、実はこの国で一番魔力が強いん
ですよ。そう、アルフォンス様よりも
国王陛下よりも王太子様よりも。
もはや魔王でしょう。
あれ?何かざわめきが。
見回すと……あぁぁぁ~!
出た!!魔王だ。
グレン様がこちらを見ている。
こっちに来る~!!
死んだふりでやり過ごせないよね?
仕方がない。もう、覚悟を決めるしかない。
私は深いため息をついた。
5
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
奪われたものは、もう返さなくていいです
gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる