うさぎの耳はロバの耳

斑猫

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そして地上

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うわっ、眩し~い。
空が青い。空気がおいしい!
地上だ~~!!
イルの背に乗って穴から這い出る。

ドスドスと足音が近づいてきてイルの背から
ひょいと抱き上げられる。
──バルさんだ。


「二ケちゃ~ん無事だった!!」

ニワトリではなくゴリマッチョゴージャス
なお姉姿のバルさんに抱きしめられる。
ぐえっ!力強いよ……。

あの後、イルの背に乗せてもらい地上へと
戻って来た。
村に電流を流し終えて私達と合流しようと
したバルさんは穴だらけの地面と戦闘の跡
を残し、いなくなった私達をとても心配し
たみたい。

──ごめんなさい。

地上で再会した途端これだ。

「イル!てめぇ!可愛い女の子の安全すら
守れない無能野郎!大土竜ごときに遅れを
とるなんて!アタシはあんたをそんな子に
育てた覚えはないわよゴラァ!!」

「バルさん、イルは悪くないって!地下
まで助けに来てくれたし!」

「いや、俺が悪い。油断していたのは確か
だからな。二ケ、すまない」

怒るバルさん。
謝るイル。

怒れるお姉様に
しゅんと耳と尻尾を垂れる銀狼。
う~ん。
ビジュアル的に銀狼に哀れを感じる。

いや、どっちもちょっと待った!
悪いのはあっさり大土竜に拐われた私だ。
二人とも落ち着け。

ドラゴンを治療した後、大土竜達はペコリ
と私に頭を下げると一斉にどこかへ消えた。
残されたのは私と狼のイルと怪我が治った
青い子供のドラゴン。

怪我を治したせいか懐かれた。
ドラゴンはどういうつもりか手乗りサイズ
に変化して私の肩にちょこんと乗っている。

「キュイ!」

「ところでどうしたの?このトカゲ」

「トカゲではなくドラゴンです。怪我をし
ていたので治してあげたら懐かれちゃって」

「目の前で小さく変化した時は驚いたな。
それに大土竜達は二ケにペコペコ頭を下げ
て消えて行ったし、一体何があった?」

イルはブルブルと体に付いた泥を振るい落と
すと私に尋ねてくる。

「どうやら大土竜達は怪我をしたドラゴンの
お世話をしていたみたい。私にドラゴンの
怪我を治して欲しくて拐ったみたいだった
から、試しに怪我が治るおまじないをして
みたの。そしたらきれいに治っちやった。
大土竜達、小躍りするぐらい喜んでたわ」

「「怪我が治るおまじない?」」

イルとバルさんの声が揃う。

「うん。チチンプイプイ怪我よ治れって
唱えてみたらドラゴンの傷が光って治った」

「いや、チチンプイプイって何よそれ?」

「さあ?昔、じいちゃんに教えてもらった
おまじないです。スゴいでしょ!」

「スゴい……わね?うん。スゴい突っ込み
所満載だわ」

バルさんため息をつくと空を仰ぐ。
イルは逆に地面をじっと見ている。

「治癒魔法か……それにドラゴンが懐いて
離れない。以前には火炎も使っている……」

「あ~うん。早くギルドに行って鑑定して
もらったほうが良さそうね」

二人ともむずかしい顔になっちゃった。

「大土竜……どこかへ消えたけれど村の渇水
は大丈夫かな?大土竜が掘った穴で水脈が
分断されているんでしょ?」

「ああ、分断というよりたぶんそのドラゴン
のために水を引いていたんじゃないか?
色からいってそれ、水竜だろ。
水がないと生きられない奴だ。大土竜は
地下に水溜まりを作って水が絶えないように
していたんだろう」

イルの言葉に成る程と思う。
結構大きな水溜まりというか池だった。
あれ、この子のためのものだったんだ。
助かってよかったけれど……。

でもお陰で村は水不足だ。分断された水脈
はどうすればいいの?
これ以上は分断されないかもしれないけれ
ど、すでに枯渇した井戸は元には戻らない。

空を見上げればギラギラと太陽が。
まだしばらく雨は期待できそうにもない。
当分、村の水不足は続く。

「西側と村の共用井戸が枯れていないだけ
マシだけど……雨、降らないかなぁ」

思わずぼやいてしまう。

「キュイ!」

肩の上のドラゴンが鳴き声をあげる。

「ん?どしたの?ドラゴン」

「キュイ~!」

ひょいと私の肩から飛び降りるとパタパタと
小さな羽で飛びながらクルクルと私の周りを
回る。ポワンと光を纏いながら。

「え?ちょっと、空が……」

バルさんが驚いた声をあげ、空を見上げる。
あれ?モクモクと黒い雲がどこからともな
く湧いてくる。

え?雨雲?

あっという間に真っ暗だ。

稲光が走る。

ポツポツと冷たいものが頬に当たる。

「雨……だ。嘘でしょう?」

いや、さっきまで青空だったのに。

「キュイ!!」

ドラゴンが私の肩に戻って来た。
心なしかドヤ顔だ。

「え?もしかしてこの雨、あなたが?」

「キュイ!!」

大きく頷くドラゴン。

「す、スゴ~い!ありがとうドラゴン!」

や、スゴい。雨を降らせる事ができるなんて
ドラゴンってスゴい!

両手でドラゴンを抱えて思わず浮かれて
クルクルと回る。

「ドラゴンちゃんスゴい!」

「キュイ、キュイ~!」

ドラゴンを撫で回す。ドラゴンは目を細め
て気持ち良さそうに撫でられている。
ふふ!
私は浮かれてまくっていたけれど
イルとバルさんは無言で目を合わせて
ため息をついた。

どしたの?二人とも。

水不足解消だよ?

「本格的に降って来たな。とにかくテント
まで一旦戻ろう」

イルがまた私を背に乗せる。

「二ケちゃん、これ被って」

バルさんが自分の上着を脱いで私に掛けて
くれる。

「バルさん、ありがとう」

「どういたしまして」

降りしきる雨の中、私達はまた湖の畔の
テントまで戻る事にした。











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