うさぎの耳はロバの耳

斑猫

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愛用の片手鍋

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森の湖のテントまで戻って来た。
村の外れで大泣きした私。
泣き止むまでイルもバルさんもずっと側で
待っていてくれた。

その後、狼になったイルの背に乗せても
らってここまで戻って来た。

朝、干したイルと私の服はすでに乾いていた
ので取り込む。
イルはテントの中にのそりと入って行った。

「出発するには中途半端な時間ねぇ。
仕方ない。今日はまたここに泊まりましょ。
明日の朝の出発ね。二ケちゃん。ハイこれ」

バルさんが大きなリュックからピンク色の
帽子を取り出し私に差し出す。

「アタシので悪いけれどそれを被っていて
くれるかしら。なるべくそのロバ耳を人に
見られないようにしたいの」

……人に見られないように。
バルさんの言葉にヒュッと息を飲む。
やっぱりこの耳は人に見せられないほど
醜いんだ。両手で耳を隠す。

「アタシ達の他にもロバ耳の女の子を探す
冒険者が沢山いるのよ。報酬額が高いから
見つかると拐われるかもしれないの。
安全のためにギルドに報告するまで隠して
おいて」

ああ、そういう。
ちょっとホッとした。
いや待て。
拐われるのは安心案件じゃないわ。

慌ててバルさんから帽子を借りて被る。

「あら、可愛い。その帽子ピンクが可愛いく
て買ったはいいけど私には似合わなくて。
やっぱり女の子が被る方が可愛いわねぇ」

「お!二ケ可愛いな。その帽子」

人の姿に戻ったイルがテントから出てきな
がら私に声をかける。
エヘヘ。可愛いって褒められた。

「可愛い……けど鍋が邪魔ね。もの凄く
違和感が。ねえ、ずっと聞きたかったんだ
けどなんで二ケちゃんはずっと鍋を首から
ぶら下げているのかしら?」

「ああ、これ。御守りなので肌身離さず
持ち歩いてます」

えっへんと胸を張る。ふふふ。

「「御守り?鍋が?」」

イルもバルさんも同じ角度に首を傾げる。
ちょっと面白い。

「じいちゃんにもらった鍋なんです。
小さい頃じいちゃんがよく森に薪拾いや
野草や薬草採りに連れて来てくれて。
お昼を食べたり、お茶を飲んだするのに
使っていた鍋だったの。
それがある日、森で大きな土竜のお化けに
遭遇しちゃって。
怖くて近くにあったこの片手鍋を無我夢中
で振り回したら、なぜか鍋から勢い良く
炎が出て土竜のお化けを追い払ってくれた
んです。凄いでしょう?
きっとこの片手鍋は魔法の鍋なんです」

そう。私の宝物だ。
あれ以来肌身離さず持ち歩いている。
それに今となってはじいちゃんの形見だ。

まあ、炎が出たのはあれ一回きりだけど。
きっと使える回数が決まっていてあれが
最後の魔法だったのかも。
でも、私を守ってくれた大事な宝物だ。

「また、突っ込み所満載な……だから狼の
俺と森で初めて会った時に山犬と間違えて
鍋で攻撃してきたのか。
二ケ、たぶん火炎が出たのは鍋は関係ない。
バル、二ケから魔力を感じるか?」

「本当に突っ込み所満載ね。狼のイルに
鍋で攻撃……無茶な子ねぇ。
でも二ケちゃんには魔力は感じない。
変ねぇ魔力は感じないのに火が出るなんて。
ひょっとして精霊魔法かも。二ケちゃん、
精霊と契約をした覚えがない?」

精霊?何それ知らない。
そんな面白そうな存在、見かけたら絶対に
覚えていると思う。
私はブンブン首を横に振る。

「どっちにしろギルドに戻ったら二ケには
鑑定を受けてもらおう。魔力の事はそこで
はっきりするだろう」

イルの言葉に首を傾げる。
鑑定って何?

「冒険者登録をするのにギルドでは魔力
鑑定を受けるんだよ」

「それ魔力がなかったら冒険者にはなれな
いのかな?」

「いや。魔力なしでも登録はできるし、仕事
はあるよ。ただ高位ランクの冒険者には魔力
持ちが多い」

高位ランク……まあ最初からそんな分不相応
なものは望んでないからいいか。
とにかく生計の道が立てばいい。いつまで
もイルにお世話になる訳にもいかないから
何とか自分の食い扶持ぐらい稼がないと。

……ちゃんと冒険者になれるかな私。
ちょっと不安。

「え?二ケちゃん冒険者登録をするつもり
なの?あなた王女様かもしれないのに」

バルさんが驚く。
そんなに変かな?

「あ~それないです。私は王女様ってガラ
じゃありませんよ」

「俺が二ケに勧めたんだ。あのまま村で虐待
されたままは論外だけど、もし王女待遇が
嫌なら俺達と一緒に冒険者をやらないかと。
もし冒険者の適性がなかったら責任を持って
他の職業を紹介すると約束した」

イルの言葉にバルさんが目を丸くする。

「へ~え!本当にイルは二ケちゃんが気に
入ったのねぇ。まあ、依頼はロバ耳の娘を
探し出せってだけだからギルドに報告した
後は関係ないか。でもきっと揉めるわよ?」

「大丈夫だ。二ケが嫌がる事は絶対にさせ
ない。ただ二ケが王女になりたいなら
そこでお別れだけど」

しゅんと項垂れるイル。
今は狼耳は出ていないけれどなんかペタンと
耳が垂れている幻覚が見えるわ。

「イル、私は冒険者をやってみたいな」

「お!そうか?バル、二ケを仲間にしても
いいかな?」

あ、ピンと狼耳が立った。
尻尾も出てる。ブンブン揺れている。

「アタシはいいわよ。ムサイ男と二人より
可愛い女の子が一緒の方がいいもの」

バルさんのお許しが出た。

良かった。

ペコリとバルさんに頭を下げる。
私に何ができるか分からないけれど仲間に
入れてもらったからには役に立ちたいな。

うん。頑張ろう。


「それにしても土竜のお化けか。
大土竜かしら?二ケちゃんが小さい頃の
話よね?でも村の不自然な渇水を考えると
案外まだ村の近くにいるかもしれないわね」

「え?あれまだいるんですか?それに不自
然な渇水って……渇水は日照りのせいじゃ
ないんですか?」

「もちろん日照りが最大の理由だけれど
アランの家はジャバジャバお風呂を使える
ぐらいなのにその数件先は渇れ井戸だったり
特に西と東で渇水状況が違ったから、あれ?
おかしいなとは思ったのよ。
大土竜が絡んでいるなら納得よ。大土竜の
掘った穴が地下の水脈を分断しているんだ
と思う」

「ああ、大土竜退治の依頼は確かにたまに
あるけど状況は似ているな」

「家の井戸は完全に渇れていて村の共用井戸
まで水汲みにいかないといけない状況です。
今日まで水汲みは私の仕事だったけど、
明日から誰がやるんだろう?」

水瓶一杯水を貯めるのは重労働だ。
母さんやミリアにできるかなぁ。
父さんはいつも仕事でいないし。

いやいやいや。
なんであんな奴らの心配してるの私。
いざとなったらアランが助けるだろう。
心配ない。心配ない。

ブルブルと首を振る。
バルさんがそんな私をチロリと横目で見な
がらため息をつくと肩をすくめながら言う。

「土竜……退治していく?」

え?土竜退治?
バルさんの言葉に思わずイルの顔を見る。

イルは眉根を寄せている。

「二ケが望むなら……俺は別にいいぞ」

え?私が望むなら?
大土竜って退治できるの?
それ危なくないの?大土竜ってデカくて
大きな鋭い爪をしていた。

あんなのを退治?

「心配しなくてもアタシ達、土竜に負けない
ぐらいには強いわよ?どうする二ケちゃん」


あんな奴らが困っていても
放っておけばいい。

でも、口を開いたら言っていた。

「お願いします。木竜を退治して下さい」

私の言葉にイルは憮然と
バルさんは笑顔で頷いてくれた。

こうして大土竜を退治する事になった。








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