うさぎの耳はロバの耳

斑猫

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うさぎ村 5

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「もういい加減にしてくれないか?夫婦
ゲンカなら後で思う存分やってくれ。
それより、ニケがこの村に来た経緯を話して
くれないか?」

イルが両親のケンカに割り込む。

「ニケが村に来た経緯?」

母さんは真っ青な顔をしている。
そんな母さんを父さんが戸惑った顔で見る。

「もうさっさと話しなさいよ。アナタ下手
すると誘拐罪で捕まるわよ?」

バルさんがイライラしながら母さんに言う。

「違うわ!私は誘拐なんてしてない!
拾ったのよ!」

うわ。やっぱり私は拾い子だった。そうか。
私は誰とも血が繋がっていないんだ。

「拾った?……どういう事だ!お前は妊娠
したから責任をとれと俺に結婚を迫った。
そして生まれたのがニケだったじゃないか」

「あれは……嘘だったの。あなたが私じゃな
くてリタと結婚すると聞いたから!
リタを連れて隣国に移住するって言うから
何とか引き留めたくて……」

もしもし?リタって誰よ。何この修羅場。

「リタと移住?なんだその与太話は。
リタはただの同僚だ。何の関係もない。
いや、確かに関係を迫られた事はあったが
ちゃんと断った。ただ仕入れのために
商会長からの命令でリタを含め五人で
隣国に長期滞在しただけだ!
どこからそんな話が出たんだ?」

「リタよ!あなたと結婚の約束をしたって。
だからあなたと別れて欲しいと言われて……
悔しくて!だからとっさにお腹にあなたの
子供いるって嘘を言ってしまったの。
リタはそれを聞いて怒り狂ったわ。
あなたは結局私と結婚の約束をしてくれた。
でも、私を置いてリタを連れて隣国へ行っ
てしまったでしょう?
仕事だって言ってたけど他の人が二ヶ月で
村に帰ってきたのにあなたとリタだけ戻って
こなかった……」

「あれは!……リタに仕入れの資金を持ち
逃げされたんだ。お陰で現地で資金調達に
走り回って後始末が片付くまで結局一年
隣国から戻れなかったんだ!」

「え?!リタにお金を持ち逃げされたの?」

「あの時は商会が潰れる瀬戸際だった。
商会長にはすべて片付くまで戻って来るな
と言われて……身籠った君が心配で手紙を
何度も出しただろう?」

「嘘よ!手紙なんて届いてないわ!」

夫婦ゲンカは続く。ミリアとアランは呆然と
それを見ているけど、イルとバルさんは
大分イライラしている。

「あ~!だから夫婦ゲンカは後にしてくれ!
それで?ニケをどこで拾ったって?」

とうとうイルが我慢出来なくて無理矢理話
を戻す。母さんの話はとりとめもなくて
必要な事を聞き出すのに時間がかかった。
イルとバルさんが根気よく尋ねてくれた。

要約すれば母さんはお腹に子供がいると
言う嘘が村中に広がってしまい今さら嘘で
したとは言いづらくて、そのまま妊婦の
フリを続けた。

父さんは疑惑の女と隣国に行ってしまい
なかなか戻って来ない。

ある日、我慢出来なくなった母さんは
父親であるじいちゃんに頼んで一緒に隣国に
父さんを追いかけてやって来た。
その際、教会近くの路地裏で血を流して
倒れている女性を助けた。
女性はすぐに事切れたが女性から赤子を
託された。それが私らしい。
母さんは私の白い耳を見て自分の生んだ
子供にしようと思いついた。

「ニケの名前はあんたが付けたのか?」

イルが母さんに尋ねる。

「死んだ女の人がその子の名前を言って
いたけど聞き取れなくて。最後に二ケだか
ニーケだか言っていたからニケにしたの」

イルとバルさんが頷き合う。

「フェアリ二ーケ。二ケ、これが君の本当
の名前だよ。やっぱりニケが俺達の探し人
で間違いない」

フェアリニーケ。
なんか御大層な名前だ。

私はさっきまで家族だった人達を見る。
母さんの浮気の結果の子だと思っていたら
実は拾い子だった。
いらない子どころか完全に余所の子だった。

しかも私、王女様だって!

──胃が痛い。誰か嘘だと言って。

乾いた風が髪を揺らす。
私は住み慣れた小屋の柳がゆらゆらと
枝を揺らすのをじっと見つめた。

















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